ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔波紋疾走-9

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「…で、君達はなぜあのような時間に出歩いていたのだね?」
コルベールの質問にルイズは床を見つめ、キュルケは天井を仰ぎ見る。

事の始まりはジョナサンに武器を持たせようというルイズの思い付きにあった。
「武器も持ってない衛士を連れて歩くなんて貴族の恥よ!」
という理由で虚無の曜日に武器屋に行ってみたものの、足元を見た店主と軽い財布という
二つの難題をどうにもできずに、結局デルフリンガーとか名乗るボロ剣を厄介払いの形で
押し付けられた。
店主曰く
「そもインテリジェンス・ソードと言えば古くは名高き『嵐の運び手』に始まり
 『エクスカリバーの子』や『魂の秤手』、近くは『陽光』『混沌』の対に至るまで
 すべからくその知性と魔力でよく魔を払い勇者を導き世界に光をもたらしたもので、
 滅多にお目に掛かれない珍品中の珍品」
らしいが、鞘から抜けば刃先どころか刃身まで赤錆だらけ、しかも益体も無い事を
ああだこうだと喋り散らす剣が何の役に立つとも思えなかった。

事をややこしくしたのはルイズにちょっかいを出そうというキュルケの思い付きにあった。
ルイズとジョナサンが武器を買いに出たと知るやタバサに頼み倒して使い魔の風竜・
シルフィードを出して貰い、馬で先行していたルイズ達が渋々ながら買い物を済ませた
そのタイミングで武器屋に入り、店主にちょっと涼しげな格好をしてみせて、
店一番の業物と店主が豪語する長剣を二束三文で買い叩き、またも先回りして学園に戻った上で
帰ってきたジョナサンに手渡した。
店主曰く
「そもメイジが鍛えた剣とは即ち今日只今のように魔法万能の時代の遥か昔
 始祖ブリミルがおわした神代の息吹を今に伝える伝統と歴史の品、またこれを鍛えし
 シュペー卿はかの伝説のダマスカス卿やクルップ卿と名を並べる練金の名手」
らしいが、単に光り物沢山の拵えがキュルケの好みに合っただけで他はどうでも良かった。

キュルケにとってジョナサンはルイズの使い魔であり、それを誘惑して奪う事には
ルイズをからかって遊ぶ以上の意味は無かった。
ところがジョナサンは今まで「遊んで」きた貴族のボンボンどもとは異なり、誘いに乗るどころか
「既婚者である僕の前で淫らがましい真似をするのならば、それは僕に対する侮辱と見なす」
とまるで鼻に掛ける素振りも見せない。
障害があるほどに恋は燃え上がる。例えそれが遊びに過ぎないとしても。
他に理由があるとすれば
(既婚ッ!官能的な不倫劇!これを攻めずして何とするッ!)
という登山家にも似た情熱もあるだろうが。

理由はどうあれ自分の使い魔にちょっかいを出すキュルケをルイズが許すはずも無く、
「あんたは主人のあたしが渡した剣を使いなさい!あたしの使い魔なんだから当然よね?」
「あぁら、自分が使う剣なんですもの、自分で選ぶわよねぇジョジョ?」
「なにがジョジョよ馴れ馴れしい、貴族に飽き足らず平民にまで手を出すのかしら?
 さすがに腰軽で名を馳せるツェルプストーだけはあるわね」
「あらまあ、自分の従者に満足な武器を整えてやれない貴族に言われたくないわねぇ。
 ま、そんな貧乏ったらしさがヴァリエールらしいちゃあヴァリエールらしいんだけど」
と当のジョナサン(と巻き込まれたタバサ)を置いたまま毎度のようにいがみ合い、
だったら魔法で勝負よ、とばかりに裏庭に出たところで宝物庫襲撃の現場に出くわしたのだった。

(さすがにそのまんま答えるってのはナシよねぇ…馬鹿馬鹿しいし)
(魔法の練習とでも言っとくか…でも言えばキュルケに何言われるか…)
キュルケとルイズは同時にタバサに目を向けるがいつもの無表情で取り付く島も無い。
「まあこの際それは不問としようじゃないか」
オールド・オスマンが助け舟を出す。
「それよりも状況を報告してくれたまえ、ミスタ…あー…」
「コルベールです。
 破壊された壁面は『土』系統の教師を中心として現在修復中、但しまだ崩された外壁を元に戻した程度です。
 盗難された品は『破壊の杖』、これは宝物庫の壁に残っていた書付の通りでした。
 あと昨夜の当直だったミス・ロングビルはまだ発見されておりませんが、瓦礫を撤去しても死傷者は
 発見されなかったため、フーケに誘拐された可能性があります」
「ご苦労。引き続き修復と捜索を続けてくれ」
「はい」
一礼してコルベールは学長室から退出するが、すぐさま
「オールド・オスマン!ミス・ロングビルが戻ってきました!自力でッ!」
消耗した様子のミス・ロングビルに肩を貸しつつ戻ってくる。

ミス・ロングビルの報告は次の通りだった。
 ・夜間巡回中に突然中央塔の外壁が破壊され、そのショックで気絶した。
 ・気付いた時に巨大な土ゴーレムが中央塔から去る光景を目撃し、
 更に宝物庫の壁に穴が開いており、書付を読んで何が起きたのかを察し、
 犯人を見失う前に追跡を開始した。
 ・犯人とおぼしき黒ずくめのローブ姿の男は学園から離れた森の中にある廃屋に
 身を潜め、朝になるまで出てこなかった。

「…恐らく昼のうちはその場に潜んで追っ手を撒き、その後夜に乗じて逃亡するつもりでしょう。
 私は夜明けになるのを待ってすぐに戻りましたが、追跡中に感じた以上に距離があり、
 魔力の消耗も激しく途中から徒歩で戻ったため…遅くなってしまいました」 
ソファに横になったまま報告を進めるミス・ロングビル。
「その廃屋の場所は?」
「学園から徒歩で半日、馬なら四時間程の場所です。もし馬をご用意いただければご案内します」
「それなんじゃがな…」
溜息をつくオスマン。
「現在教師の大半が中央塔と宝物庫の修復に当たっていますが、今日一杯は作業が続くという報告がありました。
 また生徒に動揺が広がるのを懸念して学内外への緘口令をしいていますので、王室衛士隊へ連絡した上で
 討伐隊を派遣してもらう訳にも行きません」
コルベールの表情も硬い。
「昼のうちに捕らえんと逃げられそうだが…さて誰が行くか…」

学長室内が重い沈黙に包まれる中、
「私が参ります」
杖を掲げてルイズが名乗りを上げる。
「…私も参りますわ」
次いで杖を掲げるキュルケ。
「ミス・ヴァリエール!ミス・ツェルプストー!君達は生徒だ!危険な目にあわせる訳には…」
仰天して声を荒げるコルベールを制し、
「なるほど、諸君らは事件の目撃者ゆえに緘口令からは外れると、こう言いたいのかね?」
オスマンが問いかけると、
「いいえ、このような盗賊をのさらばせてはおけません!このまま『土くれのフーケ』を放っておくのは
 トリステイン魔法学園の名誉を傷つけるのみならずメイジの名折れです!」
舌足らずな、しかし凛とした声でルイズは答を返す。
「私は…えー…その、ミス・ヴァリエールと同意見ですわ」
気圧されたキュルケの回答に、傍らのタバサも
「心配」
とだけ答えて同じく杖を掲げる。
「よろしい!諸君らに『土くれのフーケ』捕縛の任を命じる!貴族の義務を果たすように!」
「杖にかけて!」
オスマンの号令に一礼する三人を見て、自分の予想通りに事が運んだ、とミス・ロングビルは内心ほくそ笑む。
だがこの時、オスマンとコルベールも同様の笑みを浮かべていたことを、彼女は知る由も無かった。


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