ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第十一話『ルイズVSキュルケ』

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第十一話『ルイズVSキュルケ』

「ねえ、その本どうしたの?」
ここはルイズの部屋――夜も更けた頃、リンゴォが一冊の本を読んでいた。
「これか? 借り物だ」
勿論本人には無断で借りている。
「ひょっとして図書室から勝手に持ち出したんじゃないでしょうね?
 そういう規則には厳しいんだから、ばれない内に返しときなさいよ?」
「それもそうだな…。それに、どうやら本を読むのはまだ難しいようだ」
リンゴォは立ち上がるとドアの方に歩いていく。
「え、今から行くの?」
「ああ。忘れ物も思い出したしな」

「っていうかアイツ…字が読めないんじゃなかったの?」
ルイズ一人の部屋を二つの月が照らしている。
(それにしても――)
(アイツ、プライドっつーモンがあるのかしら?)
戻るつもりは無い、だとか言っておいて、リンゴォは何事もなかったように帰ってきた。
自分なら、あんな啖呵を切った手前、どんな顔をしていいのかさえわからない。
(いえ…逆ね……)
彼にとっては、同じなのだ。自分など、いても、いなくても。
何事もなかった『ように』ではない、本当に『何事でもなかった』のだ。
(つくづく人のプライドを…壊してくれる使い魔ね……)

「ねえアンタ…わたしが『強くなれる』って言ったの……本当?」
誰もその言葉に答えるものはいない。
(ああ…鞘を抜かなきゃ喋れないんだっけ…)
ルイズはその『剣』を引き抜く。
「おうよ! このデルフリンガーに二言はねぇぜ!」

「いいか嬢ちゃん、真剣ってのは案外重いモンでやたらめったら振り回しても――」
「あのね! 別にわたしがアンタを使うわけじゃないのよ!
 見てわからない? こんなか弱い、うら若き乙女が…」
「じゃああの時強くなるって言ったのはウソかよ! そうは思えねぇぞ!」
「それとこれとは別よ! アンタは別の男が使うの! …多分だけど」
「何ィ、聞いてねえぞ! それに多分ってのは――」
ルイズはデルフリンガーを鞘にしまった。
この剣を買ったはいいのだが、その後の出来事に呆気にとられ、リンゴォには渡しそびれていた。
それに、キュルケとの賭けもある。あまり対等と呼べるものではないが、それでも賭けは賭けだ。

(それにしても…失礼な剣ね! 強くなるっていったら、普通は魔法じゃないのよ!
 そんなにわたしがメイジに見えないっていうの? メイジの強さは、魔法の強さよ!)
――ならば、自分の強さは?
考えるまでもない。だから強くなると誓ったのだ。
魔法の使えぬメイジなど、他の誰が許しても、己の心が許さない。
(だけど…魔法が使えるようになって、なったとしてそれで―――
 アイツに、リンゴォに何の関係があるのよ?)
ルイズが求めるのがメイジとしての強さなら、リンゴォにそれを誓う必要は無かったはずだ。
(ギーシュは何が強くなったの?)
『強くなる』というのは、剣だとか魔法だとか、そういったレベルの話ではないような気がする。
(じゃあ、何だっていうのよ!)
それが、わからなかった。
考えてもわからないなら、動かすのは体だ。
「魔法を使えるようになることには、とりあえず何の不都合もないのよ!」
ルイズはこっそりと外に抜け出た。

ルイズは割りとくよくよ悩むタチだ。
だがルイズはくよくよと悩んでいる自分が好きではないし、悩むだけでは終わらないタチだ。
夜の広場。爆音を気にするような人は近くにはいない。
爆風が悩みを吹き飛ばしていく。
唱えては爆風。振り下ろしては爆音。無心に、それを繰り返す。
要するに、全然成功していないという事だ。
「ハァ…ハァ…! ……何なのよ…!」
結局何の進歩もないことにルイズは毒づく。
「わたしの…何が悪いのよ…!」
吹き飛ばした悩みが、おまけをつけて戻ってくる。
全て完璧だったはずだ。なのになぜ失敗する?

サモン・サーヴァントはルイズにわずかな希望を与えた。
成功した! そう思った。
少しだけ希望で喜ばせておいて…結局そんなものは無価値だ、と断じられる。
悩みは吹き飛ばしたってあっという間に帰ってくる。
いっそ、爆発も無い静寂であれば、もっと穏やかに生きられたかも知れぬ。
一心同体であるはずの使い魔の目…余計に自分を沈ませる。己を『ゼロ』だと断じている。

――お前は、無価値だと――

なぜ自分は貴族なんかに生まれてしまったのか?
なぜ強くなるなんて誓った?
魔法も使えず、どう強くなる?
悩みを忘れるためにここへ来て、結局再びそこに囚われている。
何かわからないものへのどうしようもない怒りが、ルイズに杖を振らせた。

「何をしているんです?」

後ろから、声がかけられる。
「ミ…ミス・ロングビル……」
人に気付かれぬようにこっそりと練習していたはずが、ルイズは随分と大きな爆発を起こしていた。
「何をしているんです? こんな夜更けに一人で出歩いて」
よりにもよって、オスマンの秘書に見つかってしまった――マズイ、とルイズは思いながらも、
正直ありがたいと思った。
あのまま一人でいては、色んなものに押しつぶされそうだった。
とはいえ、夜中に抜け出しているところを見つかったのは問題だ。
「…あの~、この事はどうか、ご内密に――」
「聞こえませんでしたか? こんな夜中にこんな所で何をしているんです?」
こういう性格だから、オスマンの秘書が務まるのだろうな、とルイズは観念した。
「……その…魔法の、練習を……」

ロングビルは一瞬呆けたような顔を見せたが、すぐにいつもの冷静な表情に戻った。
「…練習ですか……ああ、あなたは――」
そこでロングビルの言葉が途切れる。
『ゼロのルイズ』――最後まで言われなくても彼女が何を言いたいかぐらいルイズもわかる。
「誰でしたっけ?」
「へ?」
予想外の答えに、ルイズは素っ頓狂な声を上げた。
「授業にも障りが出るというのに淑女の卵がこんな時間に出歩いている……本来であれば、
 上に報告しなければならないところですが、名前がわからなくてはどうしようもありませんね…」
名前なんて今聞けばわかる。ルイズは理解した。この場は見逃してくれる、という事だ。
厳しそうな人だとばかり思っていたが、案外それだけでもないのかもしれない。
「魔法の練習も結構ですが、それはレディの格好ではありませんよ。
 一人前のレディになりたければ、早く部屋に帰って、明日に備えて寝ることです」
言われてみれば、ルイズの服(ルイズ自身も)は随分と汚れている。
見逃してくれた事への感謝の意味も込め、ルイズは一礼してその場を去ろうとする。
が、頭にこびり付いた『ある疑問』がルイズをその場にとどめた。

「あの…『強い』って何なんでしょうか……?」
ルイズはなぜ自分がこんな質問をしているかわからなかった。
ロングビルも不思議そうな顔をしている。が、すぐにもとに、いや少しだけ表情を緩ませた。

「…『強い』とは…そうですね、『土』でしょう」
「いえ、属性とかそういう話じゃなくて――」
「大地は――土は常に我々を支えています。土は流した血も涙も屍も、拒む事はありません。
 どんな人も、大地なしには生きられません。そして土へと還っていきます。
 大地にはこれまでの歴史の全てが埋まっているのです。これを強いと言わずしてなんとしましょう?」

「なぜ落ち込んだとき人は下を向くかわかりますか?」
「…いいえ……」
「土は我々に力を与えてくれるからです。大地を見れば勇気がわいてくる。
 『勇気』とは『強さ』です。大地があるから人は立ち上がれるのです」

「…話が過ぎましたね。さ、これ以上遅くならないうちに部屋に帰りなさい。
 こんな夜中をうろつくのは、今日が最後ですよ? そうでなくても、最近は物騒なのですから」
ロングビルが歩き出す。ルイズも今度こそ部屋に帰ろうと歩き出した。

「ミス・ヴァリエール!」
その背中を、今度はロングビルが呼び止める。

「強くなりたければ、根を張りなさい。
 一度も空を飛んだ事の無いあなたなら、誰よりもそれがわかるはずです」
返事はしなかった。
ロングビルの姿が見えなくなる。

(やっぱり、名前、わかってたんじゃない――)

――翌日、ルイズは何事もなく授業を終えた。
なんだかタバサの具合が悪そうに見えたが、それはどうでもよかった。
デルフリンガーを携え、キュルケの元へ向かう。そう、『賭け』のためだ。
キュルケの自室には、キュルケと、もう一人タバサがいた。
頬がこけて見えるし目の回りにはクマも浮かんでいる。本当に大丈夫だろうか?
「なんでも、昨日の晩の爆発音が気になって寝不足だったらしいわよ。
 わたしはそんな音全然聞こえなかったんだけどね。ルイズ、アンタは聞こえた?」
「全然聞コエナカッタワヨ? 幻聴ジャナイ?」
そんなことはどうでもよろしい。
「で、諦める覚悟は出来たの? ルイズ」
「何を諦めるって言うのォ? ミス・ツェルプストォォオ」
「決まってるじゃないの、マイ・ダーリンよ。アンタとダーリンじゃ不釣合いなんだから、
 さっさと引越しさせてあげなさいよ。そしてここは! 二人の愛の巣となるのよ!」
いつの間にかベッドに仰向けになったタバサが、露骨に嫌そうな顔でキュルケを見ている。
「バカ言ってんじゃないわよ! 勝つのは――」
「何の話?」
タバサが話に割り込んでくる。人の話を邪魔しないでほしい。具合悪いなら帰ったら?

結局、キュルケが事情を一から説明する。
それを聞き終えたタバサが一言。
「公正じゃない」
風向きが変わる。チャンスだ、ルイズはそう思った。
「ちょっとタバサ、何言ってんのよ! ルイズは自分でこの『賭け』を受けたのよ?」
「その通りよタバサ、残念だけど、キュルケはこのぐらいハンディがなきゃ勝てないのよ」
さあどう出るキュルケ!
「聞き捨てならないわね! いいでしょう! 『公正』に! 『決闘』といこうじゃないの!」
かかったァ――ッ! サンキュー、タバサ!

「時は今夜! 所は中庭ッ!」
落ち着きなさい、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。冷静にイニシアチブをとるのよ…。
「待ちなさいよ、方法はどうするの? リンゴォの時のようにはいかなくてよ?
 貴族同士の決闘は禁止されている」
「フフ…貴族同士の決闘ってのは、要するに魔法を使った決闘って事でしょ?
 魔法を使わなきゃ、ただの悪ふざけ、決闘でもなんでもない……そこでよ!
 決闘方法は『剣』ッ! わかりやすいでしょう?」
耳を疑った。何を言ってるのだこいつは? 二人とも剣なんてド素人のはずだ。
命のサジ加減がつかない! 下手をすれば二人とも死ぬッ!
「…正気?」
「恋は狂気よ。それとも怖いの? ヴァリエール」
今度はルイズに火がついた!
「上等じゃない! 受けて立つわッ! 首を洗って待ってなさい!」
啖呵を切って部屋を出るルイズ。

「…本気?」
タバサが尋ねる。
「安心しなさいよ。何も命の遣り取りをしようってんじゃないわ。
 あのナマクラ刀をへし折って……それで終いよ」

「ねぇ、アンタの事、わたしが使う破目になったわ」
「オオッ、うれしいこと言ってくれるじゃないの、それじゃ、トコトンやってやるからな」
「勘違いしないでよね! 今回だけなんだから!」
そう、今回で終わるかもしれない。人生も。
ルイズはデルフリンガーを構えてみる。
「どう?」
「何が?」
「何がって、わたしの構えよ! それぐらいは教えてくれてもいいんじゃないの!?」
「そーだなァ、もうちょっと腰を落として……」
夜は更けゆく。

――深夜、中庭――三人の少女の影。そのなかに、一頭の竜が舞い降りる。
「立会人はタバサよ。いいわね?」
「危なくなったら、シルフィードが止める」
万が一の起こる直前に、風韻竜の超高速の一撃で全てを終わらせる腹積もりだ。
ルイズは無言で頷く。
四、五歩ほどの距離に二人は立つ。
「構え」
ゆっくりと剣を引き抜く。
ルイズの構えは、デルフリンガーのアドバイスでマシになったにせよ、素人丸出しである。
対するキュルケも剣は素人であるが、天性のものか、なかなか堂に入って見える。

――これほどか――――
キュルケは今初めて、己が相手の命を握っているのを知った。同時に相手も、己の命を握っている。
ルイズは大上段に、キュルケは脇構え。
二人ともでまかせの剣技である。それ故、対手の命がか細く見えた。
「始め」
タバサの声。
キュルケは恐怖した。ルイズにではない、己自身にである。
果たして、ルイズを生かせるか?

――甘い。
タバサはそう感じた。
命を張り合った事に、ここまできて初めて気付いた。それで、どうするというのだ。
もっとも、そんなキュルケをわかっていたからこそ、タバサは友を止めなかった。
ルイズのほうは、予想以上に肝が据わって見えるが、それでもためらいが見て取れる。
結局、両者に大した違いは無い。

キュルケが動いた。

不安と焦りからか、一気に距離を詰めるキュルケ。
一方のルイズは、まだ動かない。
「マダだッ、まだ動くなよッ、嬢ちゃんッ!」
キュルケが剣を振る。ルイズに当てるわけにはいかない。剣は虚空を斬る。
「今ッ!!」
地を踏みしめ、腹の力で一気に振り下ろす。
キュルケの剣は、あっさりと折れた。

勝者も敗者も、何も言わなかった。
心の底から安堵した。相手が生きていた事に。
心の底から恐怖した。友の命を握った自分に。

勝負の行方は、タバサの予想通りに収まった。ただ、どちらが先に動くかの違いだ。
(なんだかんだで、仲がいい……)
タバサは二人の関係を、少しうらやましくも思った。

わずかな振動にタバサは気付く。
直後、大気ごと地面が震えた。
『それ』を見た瞬間、タバサはシルフィードに二人を乗せ上空へと退避する。

「デカいッ! ゴーレムよ!」
その巨大なゴーレムを目にした二人が慌てふためく。
「どっ、どうすんのよ!」
「どうするって、敵でしょ、敵! どー見ても!」
「だったら! 攻撃あるのみよ!!」
先走ったルイズが放った魔法は、30メイルもあるゴーレムにかすりもせず、
地面と壁を爆破するだけに終わった。
「……すみませんでした…調子コキ過ぎました……」

こうして、『土くれのフーケ』との戦いが始まることとなる。


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