ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

巫女! 空白なる始祖の祈祷書

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
巫女! 空白なる始祖の祈祷書

ある日オールド・オスマンに呼び出されたルイズは、自分が何かやらかしてしまったのだろうかと緊張しながら学院長室にやってきた。
そしたら本を渡された。
「これは?
「始祖の祈祷書じゃ」
始祖の祈祷書。王家に伝わる伝説の書物であり国宝だ。
といっても、この手の伝説の品によくあるように偽者もいっぱいある。
そして偽者を持つ貴族やら司祭やら王室関係者は誰もが「私のが本物だ!」と主張。
そんなこんなでトリステイン王国に伝わる始祖の祈祷書も本物かどうか怪しい。
が、それでも国宝である事に代わりはなく、とても大切な物である。
で、何でそんなものをルイズに渡すのか。オスマンは説明を始めた。
「トリステイン王家の伝統で、王家の結婚式には貴族から巫女を選ばねばならん。
 巫女はこの始祖の祈祷書を手に式の詔(みことのり)を詠み上げるのじゃ」
「そ、それはつまり、まさか、私が巫女に?」
無理無理、絶対無理。ルイズは断ろうと思った。が。
「うむ。姫がミス・ヴァルエールを巫女にと指名してきたのでな。ホッホッホッ」
「ひ、姫様が!?」
無理無理、絶対無理。姫様の頼みを断るなんて絶対無理!
ルイズは観念した。
「でじゃ。巫女は始祖の祈祷書を肌身離さず持ち歩き、詔を考えねばならぬ」
「わた、私が考えるんですか!?」
「もちろん草案は宮中の連中が推敲するから安心せい。
 伝統とは面倒なものじゃが、姫はミス・ヴァリエールを指名したのじゃ。
 これはとても名誉な事じゃぞ? 詔を詠み上げるなど一生に一度あったら僥倖じゃ」
「……解りました。謹んで拝命いたします」
詔を考えて詠むなんて無理無理、絶対無理。
でも姫様のお願いを断るなんてもっと無理。
ルイズの無理を実行という選択肢しかなかった。


何度入っても好きになれないサウナ風呂から出てきた承太郎は、気分転換にと学院内を散歩していた。
平民の風呂は焼いた石が詰められた暖炉の横で身体を温め汗をかき、外に出て水を浴びるという現代人にはつらいものだった。
一応貴族用の風呂もあるのだが、ギーシュの部屋に居座っていた時、夜中にこっそり見に行って入る気を無くしている。
ローマ風呂のような造りでプールのように大きいのはともかく、香水が混じった湯船というのはサウナ風呂以上に馴染めなかった。
贅沢な事ではあろうが、承太郎は香水より温泉の元を入れた風呂の方が好きだった。
なぜならば! 彼は日本人だからである。
日本に帰れたらまずひとっ風呂浴びて、湯上りにビールを飲んで、そして母の作った手料理か、もしくはうまい和食でも食べにいくかしたい。
などと考えていると、月明かりの中、誰かがやって来た。
「……シエスタか?」
「あ、ジョータローさん。探してたんですよ。
 実は珍しい品が手に入ったので、ご馳走しようと思って!
 ですから、厨房に来ませんか? 今なら、その、誰もいませんし」
「……ああ、いいぜ」
珍しい品、というものがはしばみ草のような類のものでない事を願いつつ、この世界での珍しい品とはいったい何だという好奇心に駆られる承太郎。
さっそく厨房に行くと、シエスタがいそいそとティーポットに何かを入れる。
「シエスタ、珍しい品ってのは飲み物なのか?」
「ええ。東方のロバ・アル・カリイエから運ばれた『お茶』っていう……」
「お茶?」
この世界に来てお茶と言えば、間違いなく紅茶だ。
珍しい紅茶の葉でも手に入ったのだろうと承太郎は判断する。
だがシエスタが持ってきたティーポットからカップに注がれたお茶は、馴染み深い緑色をしていた。

「…………」
まさか、と思い承太郎はお茶を飲む。すると渋い苦味が口内に広がった。
はしばみ草の苦味と違い、何と心地いい苦味か。
味も香りもまさに日本茶そのものだった。
承太郎はじっくりとその味と香りをたしなんでからお茶を飲み込む。
「どうですか? 普通のお茶と違って苦いんですけど、それがまたおいしいんです」
「ああ……うまい。故郷を思い出させる味だ」
承太郎は『苦いのも好きなんだ』と思い、シエスタは今度どんな料理を作ろうかと考えた。
が、故郷という言葉で、以前聞いた話を思い出す。
「ジョータローさんの故郷には、ひこうきみたいなすごい道具だけじゃなく、東方のお茶とか、見た事もないような食べ物とかあるんですか?」
「ハルケギニアにどんな食べ物があるか把握した訳じゃねーが……。  そうだな、和食や中華は無さそうだ。俺も詳しくはないがな」
「もしかしてジョータローさんの故郷ってロバ・アル・カリイエですか?」
承太郎が異世界から来た事を知っているのは、ルイズ、オスマン、コルベールのみ。
他の人間には『故郷』という単語しか使っていない。地球や日本といった言葉もだ。
承太郎はしばし考え――「そうだ」と答えればうまく誤魔化せると思った。
「いや、違う」
「それじゃあどこなんですか?」
「……遠い所だ。帰る手段が解らないほどにな」
シエスタに嘘はつきたくないという思いから、承太郎は言葉を濁した。
正直に伝えて、それを吹聴するような相手ではないと理解しているが、ガンダールヴである自分の情報を知る者として、余計なトラブルに巻き込まれる可能性もある。
「秘密……なんですか?」
「……まあな」
シエスタはさみしそうに、上目遣いで恐る恐る訪ねてきた。
「ミス・ヴァリエールは知ってるんですか?」
「……ああ」
「……そう……ですか」
そう言って微笑んだシエスタの表情は、はしばみ草よりずっと苦かく感じた。

承太郎が部屋に戻ると、ルイズがベッドに寝そべって本とにらめっこしていた。
そして巫女に選ばれ始祖の祈祷書を持ち詔を考えてる事を聞かされた。
「その始祖の祈祷書ってのには何が書いてあるんだ?」
「何も。始祖の祈祷書には偽者が多いけど、これはその中でも劣悪ね。 だってまったくの白紙なんだもの。どうしてこんなのが国宝なのかしら」
「……それで、詔は思いついたのか?」
「うー、い、一応。……あの、変じゃないか、聞いてくれる?」
「異世界人の素人意見でよけりゃな」
承太郎はソファーにドカッと座り、ルイズが詔を読み上げるのを聞いた。
「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 畏れ多くも祝福の詔を詠み上げ奉る……」
「ほう、なかなか立派じゃねーか。続きはまだ考えてないのか?」
「これから、火に対する感謝、水に対する感謝、順に四大系統に対する感謝の辞を詩的な言葉で韻を踏みつつ詠み上げるんだけど、詩的なんて言われても全然思いつかなくて、どうしよう……」
「やれやれ……とりあえず思いついた事は何でもいいから言ってみな」
「じゃ、じゃあ言うわね。コホン」
ルイズは緊張に震える声で言った。
「ひ、火は暑くて鬱陶しく出番は控え目がいい」
(……アヴドゥル?)
「み、水は静かにレロレロレロ」
(……花京院…………)
「か、風になった友に友情で敬礼」
(じじいの昔話でそんなのがあったな……風の戦士と戦って友情を感じたとか。
 幼い頃はホラだと思ってたが、波紋やらスタンドの存在を知った今は信じてるが)
「つ、土は変幻自在で人を騙すので注意しましょう」
(イギーじゃねーか)
「ど、どうかな?」
「てめー、ほんとは俺の世界の事を知ってんじゃねーだろーな」
「えっ、何で?」


火は何となくキュルケに対する悪いイメージで浮かんだものを、水は幼い頃アンリエッタ姫(水系統)がチェリーを舌の上で転がして遊んでいた時の事を、風はこないだのアルビオンの承太郎とウェールズ皇太子の友情を、土は土くれのフーケに騙された事を思い出しての詔だった。
が、どっちにしろこんなもん全然詩的じゃないから却下確定である。
(そういえばポルナレフのネタだけ出てこなかったな……)
などとのん気に承太郎は窓を開けてタバコを吸った。
一方ルイズは承太郎に呆れられて恥ずかしくなって、この場から逃げ出したい気持ちに駆られた。
そこで出た言葉が、これだ。

「ちょ、ちょっとトイレ行ってくる」

その瞬間、承太郎は鮮明にポルナレフの引きつった笑顔を思い出した。
回想の中のポルナレフは咳き込みながら「ベンキ」と言っている。
なぜ急にそんな事を思い出すのだろうか?
虫の知らせ?
だが、ルイズがまさか便器を舐めるような事態になるとは思えないし、無視していいだろうと承太郎は思った。

「な、無い」
一方ルイズはトイレの個室の中で動けなくなっていた。
なぜならば、無いのだ、紙が。
こういう時、普通の生徒なら魔法で外にある紙を浮かばせて個室に入れる。
だがルイズはレビテーションすら使えない成功率ゼロのメイジである。
選択肢はふたつ。
誰かが来るのを待って紙を取ってもらうか?
(とても屈辱的! 却下!)
もしくは拭いてないまま個室を出て紙を取って戻ってくるか?
(そそそ、そんな下品な真似、できる訳ないじゃない!)


こうしてルイズはトイレから出られなくなり、心配して探しに来た承太郎が、廊下で偶然会ったキュルケとタバサに頼んで女子トイレの中を探してもらい、キュルケとタバサの活躍によって何とかトイレから出てくる事ができた。
ちなみにルイズがトイレから出られなくなった理由は、承太郎にはこう説明された。
「か、鍵が壊れてたのよ! それで開かなくなっただけよ!」
「だったら俺が声をかけた時に返事をすりゃあよかったじゃねーか。
 何でキュルケ達が女子トイレに入っていくまで返事をしなかったんだ?」
「そそそ、そんな事どうでもいいでしょう!?」
ルイズは精いっぱい誤魔化した。
すると承太郎もこれ以上突っ込まない方がいいと判断して質問をやめた。
ルイズはホッと胸を撫で下ろす。
(よかった。まさか紙が無くて出られなかったなんて知られたら……。 ああ! もう、恥ずかしくて死んじゃうところだったわ)
そして承太郎もやれやれと帽子のつばを下ろす。
(まさか便器を……いや、ルイズはそういうキャラクターじゃあない。
 ……だが………………万が一、ポルナレフのように……という事も……?
 もし寝る前の歯磨きを念入りにしていたとしても、知らんプリしてやるか)
正直に話した方がマシな推理を展開させていた。
そしてどうでもいい事だが、その晩ルイズは歯磨きをしながら、水に関する詔で何かいいのはないかなーと考え、すでに磨き終えた歯をぼんやりと磨き続けていた。
それを見て承太郎がどう思ったのかは、ここでは伏せさせていただこう。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー