ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

Start Ball Run-9

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
「……モグッ……いや本当に、……ムグッ……どうも、……ンガグッグ。 ……ぷはっ。 ありがとう」
「いいえー。こんなことでしかお礼できませんし」
才人とジャイロは、シエスタを助けたお礼に、質素ながら食事の提供を受けていた。
才人は育ち盛りで、いつもの三食では少々足りないと思っていたし、ジャイロはレース中の野宿で食わずに眠ることも多かったから、飯抜きの罰は苦ではなかったが。
それでも食いだめできるうちはしておこうと、それはものすごい食欲を見せつける。
「いやー! ウメェ! ウメェぜチキショー! もっとくれ!」
久々に食う食事の、なんと旨いことか。ジャイロはのどをつまらせて必死に胸を叩く才人の隙をついて、才人の目の前にあった料理の皿にまで手を伸ばす。
「なにすんだジャイロ!」
「オメー俺より一食多く食ってんだろーが。このぐれーよこせ」
「何言ってんだ! 返せよおまえ!」
小皿に乗ったサンドイッチ一つでもめる大人気ない男と少年。
そんな光景を見て。シエスタはくすくすと笑うのであった。

「……本当にありがとよ、お嬢ちゃん。おかげで助かったぜ」
出された皿を二人で全部空にして、一息ついたころ、ジャイロがシエスタに感謝を述べる。
「いえ、私も助かりましたし、この子も」
そう言って、彼女は足元を見る。子猫がまだ美味しそうに、皿に注がれたミルクを舐めていた。
「これでしばらくは飯抜きにされても耐えられそうだな、ジャイロ」
「ああ。つーか最近飯抜きになってんの、オレだけなんだがよ。オメーもやられてみろよ」
「ことあるごとに反抗するジャイロが悪いんじゃないか。少しは妥協しろよ」
「嫌だね。オレは納得できねーもんに従う理由はねえ」
まったく……と苦笑いを浮かべる才人。それにつられてまたくすくす笑うシエスタ。
「もしまたご飯抜きになったら、声を掛けてください。簡単な食事なら、ご用意しますから」
「ニョホ。ありがたいねぇー。やっぱ持つべきものは友! だよなぁー才人。あんなわけのわからんご主人様よりよっぽどいいぜ!」
「たしかに、そうかもな」
でも――、才人は思う。……ルイズだって、そんなに悪いやつじゃないんだぜ、ジャイロ。と。
「それじゃ、俺たちこれで」
「はい。それでは、お気をつけて。今日は本当に、ありがとうございました。」
深々と礼をするシエスタに軽く手を振り、二人は帰る。主の下へ。
「いやー。それにしてもいい子だよなぁ。なんつーかこう、とげとげしいとこ、ねーもんなぁ」
「ルイズとは大違いって言うんだろ。ジャイロ」
「そーなんだよォ。チビにも少しは爪の垢煎じて飲ましてやりてえよ」
満腹になったからか、上機嫌で会話する二人。
そしていつの間にか。
「「ピザ・モッツァレラ♪ ピザ・モッツァレラ♪ レラレラレラレラ レラレラレラレラ レラレラレラレラ ピザ・モッツァレラ♪」」
才人が、さっきのジャイロの鼻歌、なんかイィ! とか言い出したものだから。
二人でユニゾンしつつ唄いながら、帰るのであった。
……途中、誰かとすれ違った気もしたが、それは無視した。

――ところ変わって、ここは学院のとある場所。
魔法を学問とし、多大な知識を蓄えるための施設にしては、随分場違いな――水が一面に張り詰めた場所。
ここは、水の属性を持つ魔法使い達がその力を発揮するための修練場であった。
本来、水面の上に立ち、詠唱をもって水を支配するために、この場は使われるのだが。
それだけ神聖な場所を、場違いなまでに別の方法で使っている者がいた。
いや、正確には――、泳いでいた。
泳いで、端から端を何遍も往復している男と、それを水際で椅子に腰掛けて眺める女。
もう何時間も――、彼はこうしている。
「いい加減にしたら。いくらリハビリだっていっても」
やりすぎて体を痛めれば、本末転倒だから。
そんな彼女の呼びかけに応じず、男は戻ってきたところをさらに反転し、向こうに泳いでいく。
溜息を吐きながら、また戻ってくるのを待とうと、彼女は思った。
そして何度目かの帰還をし、男の手が、水面から出る。這い上がるように、水から抜け出した。
「やあ……。待っていてくれたのかい? すまないことをしたね。……モンモランシー」
「そんな元気があるなら、授業に復帰すればよかったじゃない」
椅子の隣にあるテーブルに頬杖をつきながら、彼女――モンモランシーが、彼に悪態を吐く。
「水泳は病み上がりにはいいんだ……。自分のペースで泳いでいたから、気持ちよくてね。……でも、君を待たせているとは、気がつかなかった」
ごめんよ、と男は言う。
その彼の表情を見て。
何か――違う。
そう、彼女は思った。
普段、いや、以前の彼なら――キザで格好付けの言葉を好んで使ってはいたが――こんな印象を持たせる言葉は言わなかったと思う。
姿が変わったわけじゃない。体つきだって一日運動したぐらいで変わるわけがない。
だが――確かに、彼は以前とは、違う。
よく言えば、引絞られた。というべき、変化。
以前までの、負の部分が、こそげ落ちている。
そして何か――別の、存在というべきものが、彼を大きく見せている。
そんな、気がした。

「ねえ……、貴方?」
「……どうした?」
「貴方――、本当にギーシュ。……よね?」
疑うわけではなかったが。
尋ねずには――、いられなかった。
「僕は僕さ……。他の誰でもない」
「そう。……そうよね。ごめんなさい。私、どうかしているわ」
忘れて、と彼女は伏せ目がちに言う。
今の彼から――拒絶されるのは、辛いと思った。
「気にする必要はないよ……。君は以前の僕と、今の僕は違うと思ったのかい?」
「……そ、そんなわけじゃ」
口では、否定するが。……本心を見抜いたかのように、彼は自分から、彼女の目線をはずす。
「……そうだね。僕は変わったわけじゃない。だが違うといえば、――気付いたからさ」
「き、ず……く?」
「僕が男であるということさ」
「……それって……?」
「本当の意味で……真の意味で……。自分が男であると理解したのさ」
そして、男には。
「世界がある」
そう、ギーシュは言った。
「世界?」
モンモランシーは尋ねずにはいられない。
彼の言葉は、彼女には理解できない次元のものだから。
「男の世界さ。男には誰でも、克服しなくちゃならない試練があり――、世界が、ある」
それに気付いただけさ、と。
ギーシュはうっすらと笑って、言った。

「あーん。もぅ! ルイズのおバカが連れてきてくれないから、愛しのダーリンに逢えなーい!」
キュルケがタバサの部屋に来て、ベッドの枕を抱きしめながら、そんなことを言う。
愛しのダーリンとは、この場合、ルイズの使い魔のことだ。
「ねえタバサぁー。どーにかしてダーリンに逢えないかしら」
助言を求める口調ではない。キュルケはそのあたりの話になれば、一人でなんとかすることを、タバサは知っている。
「……努力次第」
「あーんタバサのいけずぅー。ほんとに逢いたいのにぃー」
頬をふくらまして、キュルケがすねる。
「本当に格好いいのよ……彼。だってあたしになびかないんだもの……あたしの視線、あたしの仕草。惑わされない男はいなかったわ。でも……」
唇をなぞったあの時。彼の目は、あたしに向いていなかった。
あたし以外の何かを、しっかりと見つめている――そんな、目だった。
「ああいう男にそそられるのよ……。屈服させたら……、最高じゃない」
キュルケが、自身の二つ名“微熱”のとおり、静かに燃えていた。
「……有言実行」
タバサが激を送る。
「……そっか。そうよね! わかったわタバサ! あたし頑張る!」
ベッドから跳ね起き、枕を放る。タバサの脇に落ちた枕に目もくれず、キュルケは部屋を出る。
そしてドアを閉める前に、振り向いて。
「じゃあね。結果報告楽しみにしてて」
ウィンクしながらタバサに、そう言った。
タバサの返事は無い。いつものことで読んでいる本から目を離さない。
だけど――、何か、呟いていた。それはキュルケに対する応援でもなければ、警告でもない。
いや、呟く、というよりは――唄を、口ずさんでいる。
珍しい。と、キュルケは思った。
だけど。
「なによ、……ピザ・モッツァレラって?」
首をかしげながらドアを閉め、これからのキュルケは自分の本能に忠実に――行動しようと決めたのだった。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー