ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-18

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匿名ユーザー

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血相を変えて飛び込んで来たコルベールに急かされて、適当な上着を引っ掛けただけの状態で出てきたルイズは、今制服に着替えるために自室に戻っていた。
「何なのよもう・・・ついでに剣を持ってこいなんて 近くにいるんだから自分で取りに来ればいいじゃないのよ」
着替えて来るならと、デルフリンガーを集合場所に持って来るようギアッチョに言われたルイズだった。
その原因もまた自分の着替えにあることにルイズは気付かない。文句を言いつつも、これ以上自分の評価を下げられたくないルイズは二つ返事で了承していた。
カシン、と音がしてデルフリンガーの柄が持ち上げられる。
「・・・あのー・・・お嬢様 で、出来れば自分は置いていって欲しいんですがね・・・メイジが5人に使い魔が4匹 ダンナも使い魔になったからにゃあ何かの能力があるんでしょ?
お、俺を無理に連れて行く必要は・・・ないんじゃーないでしょうかねぇ~・・・なーんて・・・」
自分にまで怯える錆びた長剣に眼を向けると、ルイズはゆるゆると首を振った。
「確かにギアッチョは剣なんて持ってないほうが強いけど・・・でも剣が同行を拒否したなんてあいつが知ったらまたブチ切れるわよ」
ルイズは心底哀れそうな声で答えた。
「・・・で、ですよね・・・ ハハハハハ・・・ハァ・・・」
全てを諦めたような声を出すデルフリンガーを、ルイズは困ったような顔で数秒見つめ、
「・・・あんた、わたしにまで敬語使わなくてもいいわよ」
喋る魔剣は、ありもしない自分の耳を疑った。
「・・・貴族が?俺みてーな剣に敬語を使わなくていい・・・?失礼ですが・・・正気で? お嬢様」
「本当に失礼ね・・・」
ルイズはちょっと不機嫌そうな顔をしてみせる。
「わたしだってよく分からないわよ ・・・だけどなんか 流石に哀れすぎるというか・・・」

言い終えてから、ルイズはハッと気付く。哀れすぎる?哀れだなんて・・・貴族である自分が、今本当に言ったのだろうか。
一昔前の自分なら、そんなことは絶対に言わないし考えもしない自信がある。
召喚したのがあんな凄い奴じゃなくて普通の平民だったら、掃除に洗濯にと使えるだけ使い倒していたと思う。だってそれが貴族なんだから。貴族は戦を担い、発明を担い、外交を担い、経済を担う。それによって国体を維持し、文明を発展させてゆく。
貴族は国の分解、崩落を防ぎ、そして繁栄させてゆく。貴族がいるからこそ、国は国として成立する。そんな我々のために、平民が滅私の心で奉公するのは当たり前ではないか。我々は国を支えている。
平民が少しばかり辛かろうが苦しかろうが、そんなものは我々貴族の重大な責務に比べれば真綿の如く軽い。貴族はだから、平民に心を向ける必要も理由も全くありはしない。
それが常識であり、そしてまたルールでもあった。そして貴族として生まれた己も、それに疑問を抱いたことなど一度もなかった。だけど、今はそんな考え方に嫌悪すら抱く。何故か?ルイズは今、その答えに気付いた。それはどこから見ても――貴族の論理だからである。



ギアッチョを召喚して、平民と深く関わることで気付いた。この論理には、平民側の視点などカケラも入っていない。全て貴族の貴族による貴族の為の論理に他ならない。
貴族はこうする。だから平民はこうしなければならない。貴族はこうしてやっている。
だから平民はこうあるべきである。つまるところそういうことである。まず貴族ありき。
そしてそこから貴族に出来ないこと、やりたくないこと――そういうものの穴を埋める形で、平民の役割が勝手に配置されている。
最低だ、とルイズは思った。この論理を裏返しにすればこうなる。我々平民は生産の維持、拡張を担っている。市場の形成、維持、食料の供給を担っている。そして貴族の身の回りの世話まで担ってやっている。ならば魔法しか取り得の無い諸君ら貴族は、せめてその命を賭けて働くべきである。
馬鹿馬鹿しい。ルイズはそう思う。こう考えれば、貴族と平民の間に優劣など何もないではないか。命を賭ける仕事だから偉いのか?頭を使う仕事だから偉いのか?
下らないことこの上ない。平民達だって命を賭けている。馬車馬のように働かされて、ロクに食べ物も与えられずに死んでゆく者もいるのだ――・・・。

「――お嬢様!おーい!お嬢様よ!」
デルフリンガーの呼び声に、ルイズはハッと我に返る。
「大丈夫ですかい? いきなりボーッとされちまって」
「・・・ああ、大丈夫 何でもないわ・・・それより言ったでしょ 敬語なんていらないわ それとわたしはルイズと呼びなさい」
「・・・そりゃ・・・マジで言ってんのかい・・・」
呆けたような声で呟く剣に、ルイズは「当たり前よ」と返した。もしインテリジェンスソードに眼があったなら、このデルフリンガーは今漢泣きに泣いていたことだろう。
「おでれーた・・・今まで幾人もの所持者の手を渡って来たが・・・あんたみてーな貴族は初めてだ!おめーは・・・おめーはなんていい奴なんだルイズ・・・ッ!」
実のところ数千年の時を生きているデルフリンガーが未だ保持している記憶の
中で、貴族にこんな扱いを受けたことは初めてだった。最も、元々ギアッチョの存在さえ無ければ敬語を使えと言っても聞く耳持たぬ図々しさを持っている剣なのだが、ギアッチョに口では到底言えない様な目に合わされてすっかり萎縮した彼の心には、ルイズの言葉はまるで地獄の仏、砂漠のオアシスのような感動を与えたのだった。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」
人語を解する魔剣はひときわ大きな声で言い放つ。
「たとえ天が落ちてこようが、この身が砕け散ろうが!デルフリンガーの名に賭けて、おめーだけは守りきると今ここに誓うぜ!」
あっけにとられるルイズの前で、デルフリンガーはそう誓約した。
「・・・な、何格好つけてるのよ!自力じゃ動けもしないくせに」
軽口を叩くルイズだったが、その内心は喜びに満ちていた。何故ってまた味方が出来たのだから。隠しても嬉しさが滲み出ているルイズの仕草を満足げに眺めながら、
「ま、そいつはちげーねぇな」
久しぶりに心から笑ったデルフリンガーだった。

タバサと共に早々に学院前に待機している馬車に乗り込んでいたキュルケは、学院の外壁に背を預けて腕組みしているギアッチョを見る。
「ねぇ・・・ どうしてルイズを止めなかったのよ」
閉じていた眼を開いて、ギアッチョはギロリとキュルケを睨む。
「言っても解らねーもんはよォォ~~ 実戦で覚えこませるしかねーだろーが」
「実戦で・・・って、危なくなったらちゃんと助けに入るんでしょうね?」
ギアッチョはそれに答えず、馬車に乗り込むとまた眼を閉じた。キュルケは文句を言おうとして、当のルイズがやってきたことに気付く。
「す、すいませんミス・ロングビル・・・遅れてしまいました」
そう言って謝るルイズに問題ないと笑いかけて、緑髪の秘書は手綱を握る。
錆びた剣をギアッチョに渡して馬車に乗り込むルイズを確認して、ミス・ロングビルは発車の合図をする。
「それでは出発しましょう」
その時、「待ってくれェェェェ」という声と共に悪趣味な服の男が走って来た。
「「「あ」」」
ルイズとキュルケ、そしてミス・ロングビルが同時に声を上げる。この場の誰もが、彼の存在を忘れていた。誰あろう青銅のギーシュである。



――ここは、違う
馬車に揺られながら、ギアッチョは考える。ここは自分が思っているより、ずっと甘くて怠惰な場所――ギーシュに止めを刺そうとした時ルイズに言われた言葉を、ギアッチョは反芻していた。この世界に来てからずっと感じている違和感。
自分がまるで世界の毒であるかのような気分の悪さと、ゆりかごの中で祝福されているような安心感と居心地の良さ。オレに相反する感情をもたらすこの世界は、一体何なんだ?長い沈黙の末に、ギアッチョはようやく気付いた。
ここは、カタギの世界なのだと。ここにいるガキ共は、恐らくその殆どが何不自由なく親元で暮らし、そして正式な手続きに則って正式な教育を受けている。
そしてまた、学院自体にも後ろ暗い所などありはしないだろうし、教師達も正式に認められている者達なのだろう。つまり。ここはギャングの世界ではないのだ。
生涯の殆どをマフィアとして過ごしてきたギアッチョは、様々な事情からカタギの仕事に身をやつしはしても、彼らの生活やルール・・・つまるところ、カタギの世界というものとは全く無縁だった。
それ故に、この世界を正しく認識する為にいささかの時間を要したが――つまるところ、それが彼の感じていた居心地の悪さの理由であり、そして居心地の良さの理由であった。そしてそれを理解した今、彼は戸惑っていた。この世界では自分は異物に過ぎない。異教徒である自分は、一体どうすればいいのか。異国の民である己は、この世界で生きることを許されてはいるのだろうか――


くいっと服の裾を引っ張られて、ギアッチョは我に返って隣に眼を遣った。彼の横で本を読んでいるタバサが、活字に眼を落としたまま小さな声で呟く。
「前」
前?なんだそりゃと思いながら、ギアッチョは前方に眼を向ける。自分の対面でうつむいている少女が、すがるような眼で自分を見つめていた。ギアッチョと眼が合うと、ルイズはハッと眼を逸らす。眼を閉じるフリをすると、ルイズはまた自分をこっそりと見つめる。眼を開ける。逸らす。閉じる。見つめる。開ける。逸らす――
なんだかよく分からないが、ルイズは自分を気にしているらしい。身に覚えはないが、こんな視線を無視し続けるのはのは気分のいいことじゃあない。
とりあえず声をかけようと口を開きかけた時、

「えぇぇぇーーーーーーッ!!?」

ヘタレボイスが大音量で鳴り響いた。


「うるせーぞマンモーニ!」
「ヒィィすいません!!」
キュルケに宝物庫を襲った巨大なゴーレムの話を聞いて縮み上がったギーシュの心臓に、ギアッチョの悪鬼の如き――彼にはそう聴こえた――声が、更に追い討ちをかける。馬車の隅でいっそ感嘆出来るほどガタブルと震えるギーシュにてめーは携帯電話かとツッこみたかったが、誰も理解出来ないのでギアッチョは黙っておくことにした。
「ギーシュあなたねぇ・・・本当にどうにかならないわけ?そのビビり癖」
キュルケが心底呆れた顔でギーシュを見ている。隣のタバサはいつものことだと言わんばかりに読書を続けていた。ミス・ロングビルも微妙な顔で馬を御している。
「だ、だってフーケはトライアングルクラスだって言うじゃないか 君もトライアングルなんだろう?タバサもシュヴァリエだって聞いたし そんなに力の差があるとは・・・」
モンモランシーが見れば3回は幻滅しそうな顔をこちらに向けるギーシュ。
「トライアングルだってピンキリなのは知ってるでしょう? それに岩山に炎や風をぶつけたところでダメージなんてそうそう与えられはしないって昨日嫌ってほど学習したわ」
キュルケはやれやれといった感じで首を振る。なるほどな、とギアッチョは思った。
確か、生前読んだ東洋魔術の五行相剋という理論によれば、土に勝つものは木であるらしい。ギアッチョも伊達に眼鏡をかけているわけではないのだ。
それなりに読書はするほうなのである。もっとも、借りた本を片っ端から破っていくのでイタリア中の図書館から出禁を食らっていたが。
――そもそもこの世界にゃ木なんて属性は存在しねーらしいからな・・・
つまるところ戦略次第だな。と結論したところに、
「戦略次第」
タバサがいいタイミングで代弁する。一応話を聞いてはいるようだ。
「ま、いざとなれば破壊の杖だけ奪い返して逃げればいいことだしね 名目は討伐だけど、学院としては杖さえ戻ってこればなんとでもなることでしょうし」
こっちにはシルフィードがいるのだ。鈍重なゴーレムから逃げることなど容易い。
キュルケは――いや、その場の殆どの者がそう考えていた。


それでは困る、と考えたのはルイズである。勇猛果敢に真正面から戦いを挑み、そして自分の力でフーケを打ち倒す。そうすればきっとギアッチョは自分を見直してくれるし、そうでなくてはきっと完全に見放される。なんとしても自分の手で土くれのフーケを倒さなくてはならない。ルイズの胸中は、もはやその考えで一杯だった。ひょっとしたら幻滅だなんて自分の考えすぎだろうかと一度は思ったルイズだったが、馬車の中ではずっと眼をつむっていて、たまに隣のタバサと短い会話は交わしても自分には一度も話しかけてくれないギアッチョを見て、もう彼は完全に怒っていると思い込んでしまっていた。

そんなこんなで、一部の思惑をよそに馬車は鬱蒼と茂る森の入り口へと滞りなく到着し、馬車を降りたルイズ達はあっさりと――実にあっさりと――フーケが潜入していると目される小屋を発見した。、

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