ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第十話『タバサVSリンゴォ』

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第十話『タバサVSリンゴォ』

「…してやられたというわけか?」
「そうでもない。出来ればもう二度と戦いたくない」
目覚めたリンゴォがタバサに尋ねた。
シルフィードは、動けないリンゴォを落とさないように飛んでいるとはいえ、
結構なスピードだった。だがリンゴォはそれを恐れるような様子は無い。

戦いたくない、というのはタバサの本心だ。
別に卑怯とは思わないが、後ろからの不意打ちで無理矢理『決着』としたのもそのためだ。
「…ゴメンなさい」
「何がだ?」
「頭を踏みつけた」
「覚えていないな…」
そのときすでにリンゴォは昏倒している。
タバサの謝罪はリンゴォよりもむしろ、彼の主ルイズに向けてのものだった。
なにせ、使い魔の頭を踏みつけられたのだ。自分なら相手を殺してもおかしくは無い。
学院の上空に辿り着いた。虚無の曜日はまだまだ長い。もう邪魔は入らない。
残りの時間はたっぷり本を読もう。タバサはそう思った。

「ねぇキュルケ…あれ…何だったの………?」
「…さあ……。わたしにもさっぱり…」
日も沈みかけた頃、阿呆二人が轡を並べていた。
あれからリンゴォの乗ってきた馬を見つけるのに手間取ってしまい、
二人の虚無の曜日はほとんどそれに費やされた。
「タバサってばそういう趣味があるようには見えないんだけど…」
「わかんないわよ、ああいうおとなしそうな子に限って…」
日もとっぷりと暮れた頃、二人は学院へと帰りついた。

タバサは心底不機嫌だった。
結局、彼女の好きな一人の時間はほとんど潰れてしまったからだ。
捕えたリンゴォを学院長室へと連れて行き、馬泥棒を捕まえた旨を報告する。
馬を盗んだ件についてはリンゴォは特例的に不問とされた。
そこまではよい。リンゴォがどうなろうと、タバサの知った事ではない。

――だが――――――
「え? ミス・ヴァリエールはまだ帰っとらんのか。じゃあしょーがないの。
 ミス・タバサ、また逃げられるのもなんじゃから、彼女が帰ってくるまで、
 その…リンゴォ君? ――を見てあげといてくれたまえ」
なんで自分がなのだろう?
少々の反論はしたが、あいにくタバサは多弁ではない。隣の何考えてるかわからない男は、
もっと無口だった。年季も言葉の量も違う。結局タバサは『お守り』を押し付けられてしまった。
こんな事なら、キュルケを置き去りにするんじゃあなかった、とタバサは思う。
虚無の曜日に叩き起こしてくれたことに対する意趣返しのつもりだったが、裏目に出てしまった。
(過ぎた事は仕方ない)
とりあえずリンゴォは自分に危害を加えはしない事はもう理解できた。
しかし、何が悲しくてこんな決闘マニアの面倒を見なくてはならないのだろう?
(本を読む時というのは一人で静かで豊かで…何というか救われていなきゃあだめなのに……)
馬とはいえルイズたちもすぐに帰ってくるだろう、とタバサは我慢した。
幸いにもリンゴォは無口だ。本を読む邪魔はしないだろう。
リンゴォを部屋に連れ込むと、
「そこらの本は読んでもいいから」
――とだけ告げて自分は自分で読みかけの本を読み始めた。


タバサの見通しは甘かった。
リンゴォはいくつかの本を手にとって開いていたが、興味がないのか飽きたのか、
しばらくすると床に座り込んで静かになった。最初から静かだったが。
静かな時間が二人だけの部屋を流れる。
ここで初めてタバサは気がついた。
この男、異様に存在感がある。ハッキリ言って、うっとうしい位に。
重苦しい空気には耐性のあるタバサだが、この男には別種の圧迫感がある。
気が散って本に集中できない。顔をあげてリンゴォのほうを見てみる。
ヒゲが真っ先に目に付く。あの口ひげを毟り取ってやりたい。力いっぱい。
視線を感じたのかリンゴォが顔を上げる。目が合ってしまった。見るな。
タバサは視線を下げるが、その時、『ヒゲどくろ』と目が合った。
結構カワイイ。アレは残しておいてやろう。

タバサの見通しは甘かった。
すぐに帰ってくると思われたルイズたちは、昼食の時間になってもいっこうに戻ってこない。
どの道このままでは読書に集中できないし、お腹も減ってきたので、
タバサはリンゴォと一緒に食堂へ行くことにする。
「あら? リンゴォさん、出て行ったんじゃなかったんですか?」
食堂に入る直前、メイドが話しかけてきた。
「戻ってきた」
「まあ! マルトーさんが聞いたら喜びますよ!」
その後二人は二言三言交わし、それを聞くとどうやらリンゴォは厨房で食べるようである。
タバサはついていこうとして、やめた。昼食の間だけでも、あの顔を見ないで済むからだ。
食堂のテーブルに着くと、タバサはほんの少しだけムッとした表情を見せた。
自分の好物のサラダがないのだ。
普段ならこんな事で動じはしないが、今日は特別イラついていた。
ハイペースで食事を済ませる。
厨房の外でリンゴォを待つが、自分が速すぎたのかなかなか出てこない。
なぜ自分が待たなければいけないのだろう?


しばらく待って、ようやくリンゴォが出てきた。さっきのメイドも一緒だ。
「でも、リンゴォさんったら、すごいですねぇ」
「何がだ?」
「だってあんなにたくさん食べられるとは思いませんよ! マルトーさんも驚いてました」
人を待たせる時はもう少し速く食べて欲しい、タバサはそう思った。
「だってあれって、ものすごく苦いんですよ~?」
なんだか嫌な予感がする。
「はしばみ草っていって、普通の人は一口でギブアップですよ!」
胃が痛くなってきた。
「まさか、一人で全部食べるなんて今でも信じられませんからね」
頭痛までしてきた。
「アレで全部だったのか…。全部食べて良かったのか?」
「全然構いませんよ! どうせ食卓に出してもほとんどの方は残されますから!
 マルトーさんも言ってましたよ、『アレを食べて平気なのは、よほどの大物かバカだ』って」
本人を目の前にして言う事だろうか? 追い討ちをかけるのはやめて欲しい。

食後タバサは図書室へ向かうことにした。部屋で二人っきりになるのは懲りたからだ。
その足取りはどことなく重い。
それにしても、ルイズはまだ帰ってこない。早く帰ってきて欲しい、心からそう思った。
図書室には結構な人数がいたが、それでも室内は静かだった。
別に立ったままでも本を読むくらいたやすいが、リンゴォのこともあるため本棚の近くの席に陣取る。
リンゴォはあまり本に興味はないようで、他に見るものもないのか、おとなしくしている。
図書室の広さのせいか、リンゴォの気配はあまり感じない。
やっと静かに本が読めるようになった。
だが、本を読み進めていくうちに再び背後が気にかかりだした。
ふと周りを見渡すと、室内はガランとしていた。よく見ると司書もいない。
見ていると、一人、また一人と退室していき、その度に空気の濃度が濃くなっていく。
遂に室内がリンゴォとタバサ二人きりになった時、タバサは色々と諦めた。

とにかく、この男も何か本にでも集中していれば、こんな無駄な圧迫感は出さないのではないか。
そう仮説を立てたタバサは観念してリンゴォに声をかける。
「…何か本でも読んだら?」
「字が読めん」
「そう……」
何か自分は悪い事でもしたのだろうか?
リンゴォのヒゲを見て、タバサは彼が自分の後ろに立ちっぱなしだった事に気がついた。
成程、真後ろにずっと立たれていては、本に集中できるはずが無い。
「座ったら?」

――なぜ、ましょうめんにすわる――――

本を読むことを完璧に諦めたタバサは、リンゴォに字を教えてやることにした。
もう、ヤケクソだった。

日も完璧に沈んだ頃、ようやくルイズたちが帰ってきた。
タバサにとって幸いだったのは、リンゴォが物覚えのいい生徒だったことである。
ただの文盲かと思っていたが、こちらの文字を知らないだけのようだった。
初心者にしては、一日でかなり理解が進んだほうだろう。
「感謝する。これで新聞くらいは読めそうだ」
新聞とは何かわからなかったが、その一言だけでも報われた気がする。
リンゴォがルイズとともに去って、タバサはようやく一人の時間を手にする。
虚無の日とはこんなにも長い一日だったのか、あらためて思い直した。
とはいえやっと一人で本が読める。
安堵の表情を浮かべたタバサだが、自分の読みかけの本がないことに気付く。
「ちょっとタバサ! 聞いたわよ、あなた一日ずっとダーリンといたんですってね!」
キュルケが何か言ってくるが無視。代われるものなら代わってほしかった。

自室に辿り着いたタバサは、部屋の隅に目を留める。
少し大きめの袋だ。タバサには覚えが無い。多分、リンゴォの忘れ物だろう。
本来ならば無礼な行為だが、彼に気を遣うのもバカらしく思ったタバサは、袋の中を覗いてみる。
中には、小銭の入った袋と、何かの包み。それと、奥のほうに白くてわかりにくかったが、
女物のパンティ。
返すのは明日でいいだろう。今日はもう疲れた。
タバサは包みの中身も気になった。
包みを解くと、それはただの弁当だった。いや、ただの弁当ではない。
タバサの目に、『あるもの』が留まる。
「はしばみ…草……」

夜中になって、リンゴォがタバサの部屋を訪ねてきた。忘れ物のついでに本を返しに来たらしい。
タバサは、ほんの少しだけ軽くなった袋をリンゴォに返したが、当然気付く事は無い。
今日はこれだけ付き合ってやったのだ。その『代金』――タバサはそう思った。

翌日、腹を壊した。


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