++第九話 使い魔の決闘③++
花京院はゆっくりと身体を起こした。
身体の節々が痛む。特に右腕の痛みが酷い。
しかし、立つことはできた。
それを阻止するはずのゴーレムは立ちすくんでいる。
主からの命令が来ず、どうすることもできないのだ。
ギーシュは自分の喉を押さえ、目を白黒させていた。
「どんな気分だ? 自分の中に何かが入っているっていうのは」
「……!」
目を見開き、ギーシュは必死に訴えるが、その声は出ない。
花京院はギーシュからバラを取り上げた。
バラの造花が魔法の杖だったようで、ゴーレムたちは次々と土に戻り、土の山だけが残った。
「さて、僕は考える。これから『お前をどうするか』をな」
「……」
「今、お前の中には僕のスタンドが入っている。僕の意のままに動き、お前を殺すことができる力だ」
花京院の言葉に、ギーシュの顔が青くなる。
「このままお前を操って自分の首を締めさせようか。それとも内側から風穴を空けようか。いっそこのまま内側から破裂させるという考えもある。……しかし、このまま殺すのを決闘とは呼べないな」
スタンドを操作し、ギーシュの右手を差し出させた。
その手のひらにバラを置き、握らせる。
ギーシュは理解不能というように、花京院を見た。
「剣を二本作れ。それ以外に何かしたら殺す」
花京院の本気を感じ取ったようで、ギーシュは身震いした。
恐怖に震えながらも、バラを振る。
すぐ側の地面が盛り上がり、二本の剣が現れた。
ギーシュに剣を握らせてから、距離を取らせた。
互いの距離は三歩ほど。一歩踏み込めば剣が届く程度の距離だ。
「お前は剣を握ったことがないだろうし、戦いの経験も浅いだろう。一方、僕は戦いには慣れているが、身体がもう限界に近い。今の僕とお前なら対等だと思わないか?」
「……」
ギーシュは無言のまま握った剣と花京院の顔を見比べた。
彼の顔には今までの余裕の笑みも、からかいもなかった。真剣勝負への恐怖と、もう一つ別な感情がそこにはあった。
エジプトでDIOの館に乗り込むとき、全員が持っていたもの。
DIOとの最後の戦いのとき、花京院が持っていたものと同じものだ。
力量の差がはっきりしていても、それがあれば戦える。
絶望的な状況でも、それさえあれば希望が見出せる。
それを言葉にするのならば――“勇気”。恐怖を克服する力だ。
……なかなか、いい顔になってきたじゃないか。
ギーシュは敵であり、ルイズを侮辱した相手に違いはない。しかし、花京院は少しだけ敬意を払うことにした。
目の前に突き刺さった剣の柄頭に手を置き、花京院は高らかに宣言した。
「我が名は花京院典明。我が主、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの誇りのため、そして、傷つけられた二人の少女のため。ギーシュ・ド・グラモン、お前に敗北を味わわせてやる」
ギーシュは震える手で剣を握り、構える。
花京院も左手で剣を掴んだ。
その瞬間、左手に刻まれたルーン文字が輝き出した。
花京院とケンカし、部屋に戻ったルイズは落ち込んでいた。
ベッドの上に仰向けになり、天井を眺めながら呟く。
「なんであんなこと言ったんだろ……」
あの時、魔法について質問され、怒ってしまった。
自分をゼロのルイズだと馬鹿にしているんだと思った。
前の授業でも失敗していたから余計に傷ついてしまった。
でも、あいつは知らなかったんだろう。魔法のことも、たぶん今日始めて知ったはずだ。
自分の知らないことを質問する、そんな当たり前のことを怒ってしまった。
「……はぁ」
ため息ばかりが口から漏れる。
謝りに行こうかとも考えたが、自分のプライドが許してくれない。
使い魔に頭を下げるメイジがどこにいる。使い魔はメイジの下僕。向こうが謝るのが道理というものだろう。
ルイズは起き上がり、腕を組んで考えた。
謝るべきか、謝らないべきか。
悩んだ結果――ルイズは立ち上がった。
「よ、様子を見るだけ。ただ、様子を見に行くだけよ。使い魔の管理はメイジの仕事だからね。それを怠るのはメイジとしてどうかと思うし」
誰に言うでもなく言い訳をして、ルイズは部屋を出た。
その時、目の前を二人の生徒が横切った。
「あのギーシュが決闘? 本当かよ。相手は誰?」
「平民だって聞いたぜ。あのゼロのルイズが召喚した使い魔だって」
「ちょっと待ちなさい!」
思わず、ルイズは呼び止めた。
怪訝な顔で二人は振り返り、ルイズの顔を見て目を見開いた。
そんなことには一切構わずに、ルイズは尋ねる。
「私の使い魔が……なんだって?」
「い、いや、今のは別にお前を馬鹿にしてたわけじゃ……」
ルイズの勢いに気圧され、一人が慌てて弁解しようとする。
「そうじゃない。私の使い魔が、ギーシュと、何をするって?」
「あ、ああ。聞いただけなんだが、どうも決闘するらしいぜ。お前の使い魔とギーシュが」
「……場所は?」
「ヴェストリの広場。ひょっとしたらもう始まってるかも……」
終わりまで待たず、ルイズは走り出していた。
こんなことなら、離れるんじゃなかった。
失態を悔やみ、自分を責める。
メイジと平民では勝負にすらならないだろう。
いくら相手がドットのギーシュだとしても、それは変わらない。
それだけの力の差がメイジと平民にはあるのだ。
初撃で、諦めてくれるならいい。
負けを認めて、すぐに引き下がるならいい。
それなら少しの怪我だけで済む。
でも、あいつはきっとそうしない。
ボロボロになっても、負けを認めないだろう。
たとえ絶対に敵わなくても、戦いを続けるだろう。
きっと、死ぬまでそうするつもりだ。
あの使い魔はそういう奴なのだ。
短い付き合いでも、ルイズにはそれがわかっていた。
だからこそ、急がなければならない。
生意気で、物分りがよさそうなくせに、ここぞというところで意地になる。
主人に従順であるべき使い魔としては失格だが、それでも生きていて欲しい。
……無事でいなさいよ。
祈りながらルイズはひたすら走った。
To be continued→
花京院はゆっくりと身体を起こした。
身体の節々が痛む。特に右腕の痛みが酷い。
しかし、立つことはできた。
それを阻止するはずのゴーレムは立ちすくんでいる。
主からの命令が来ず、どうすることもできないのだ。
ギーシュは自分の喉を押さえ、目を白黒させていた。
「どんな気分だ? 自分の中に何かが入っているっていうのは」
「……!」
目を見開き、ギーシュは必死に訴えるが、その声は出ない。
花京院はギーシュからバラを取り上げた。
バラの造花が魔法の杖だったようで、ゴーレムたちは次々と土に戻り、土の山だけが残った。
「さて、僕は考える。これから『お前をどうするか』をな」
「……」
「今、お前の中には僕のスタンドが入っている。僕の意のままに動き、お前を殺すことができる力だ」
花京院の言葉に、ギーシュの顔が青くなる。
「このままお前を操って自分の首を締めさせようか。それとも内側から風穴を空けようか。いっそこのまま内側から破裂させるという考えもある。……しかし、このまま殺すのを決闘とは呼べないな」
スタンドを操作し、ギーシュの右手を差し出させた。
その手のひらにバラを置き、握らせる。
ギーシュは理解不能というように、花京院を見た。
「剣を二本作れ。それ以外に何かしたら殺す」
花京院の本気を感じ取ったようで、ギーシュは身震いした。
恐怖に震えながらも、バラを振る。
すぐ側の地面が盛り上がり、二本の剣が現れた。
ギーシュに剣を握らせてから、距離を取らせた。
互いの距離は三歩ほど。一歩踏み込めば剣が届く程度の距離だ。
「お前は剣を握ったことがないだろうし、戦いの経験も浅いだろう。一方、僕は戦いには慣れているが、身体がもう限界に近い。今の僕とお前なら対等だと思わないか?」
「……」
ギーシュは無言のまま握った剣と花京院の顔を見比べた。
彼の顔には今までの余裕の笑みも、からかいもなかった。真剣勝負への恐怖と、もう一つ別な感情がそこにはあった。
エジプトでDIOの館に乗り込むとき、全員が持っていたもの。
DIOとの最後の戦いのとき、花京院が持っていたものと同じものだ。
力量の差がはっきりしていても、それがあれば戦える。
絶望的な状況でも、それさえあれば希望が見出せる。
それを言葉にするのならば――“勇気”。恐怖を克服する力だ。
……なかなか、いい顔になってきたじゃないか。
ギーシュは敵であり、ルイズを侮辱した相手に違いはない。しかし、花京院は少しだけ敬意を払うことにした。
目の前に突き刺さった剣の柄頭に手を置き、花京院は高らかに宣言した。
「我が名は花京院典明。我が主、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの誇りのため、そして、傷つけられた二人の少女のため。ギーシュ・ド・グラモン、お前に敗北を味わわせてやる」
ギーシュは震える手で剣を握り、構える。
花京院も左手で剣を掴んだ。
その瞬間、左手に刻まれたルーン文字が輝き出した。
花京院とケンカし、部屋に戻ったルイズは落ち込んでいた。
ベッドの上に仰向けになり、天井を眺めながら呟く。
「なんであんなこと言ったんだろ……」
あの時、魔法について質問され、怒ってしまった。
自分をゼロのルイズだと馬鹿にしているんだと思った。
前の授業でも失敗していたから余計に傷ついてしまった。
でも、あいつは知らなかったんだろう。魔法のことも、たぶん今日始めて知ったはずだ。
自分の知らないことを質問する、そんな当たり前のことを怒ってしまった。
「……はぁ」
ため息ばかりが口から漏れる。
謝りに行こうかとも考えたが、自分のプライドが許してくれない。
使い魔に頭を下げるメイジがどこにいる。使い魔はメイジの下僕。向こうが謝るのが道理というものだろう。
ルイズは起き上がり、腕を組んで考えた。
謝るべきか、謝らないべきか。
悩んだ結果――ルイズは立ち上がった。
「よ、様子を見るだけ。ただ、様子を見に行くだけよ。使い魔の管理はメイジの仕事だからね。それを怠るのはメイジとしてどうかと思うし」
誰に言うでもなく言い訳をして、ルイズは部屋を出た。
その時、目の前を二人の生徒が横切った。
「あのギーシュが決闘? 本当かよ。相手は誰?」
「平民だって聞いたぜ。あのゼロのルイズが召喚した使い魔だって」
「ちょっと待ちなさい!」
思わず、ルイズは呼び止めた。
怪訝な顔で二人は振り返り、ルイズの顔を見て目を見開いた。
そんなことには一切構わずに、ルイズは尋ねる。
「私の使い魔が……なんだって?」
「い、いや、今のは別にお前を馬鹿にしてたわけじゃ……」
ルイズの勢いに気圧され、一人が慌てて弁解しようとする。
「そうじゃない。私の使い魔が、ギーシュと、何をするって?」
「あ、ああ。聞いただけなんだが、どうも決闘するらしいぜ。お前の使い魔とギーシュが」
「……場所は?」
「ヴェストリの広場。ひょっとしたらもう始まってるかも……」
終わりまで待たず、ルイズは走り出していた。
こんなことなら、離れるんじゃなかった。
失態を悔やみ、自分を責める。
メイジと平民では勝負にすらならないだろう。
いくら相手がドットのギーシュだとしても、それは変わらない。
それだけの力の差がメイジと平民にはあるのだ。
初撃で、諦めてくれるならいい。
負けを認めて、すぐに引き下がるならいい。
それなら少しの怪我だけで済む。
でも、あいつはきっとそうしない。
ボロボロになっても、負けを認めないだろう。
たとえ絶対に敵わなくても、戦いを続けるだろう。
きっと、死ぬまでそうするつもりだ。
あの使い魔はそういう奴なのだ。
短い付き合いでも、ルイズにはそれがわかっていた。
だからこそ、急がなければならない。
生意気で、物分りがよさそうなくせに、ここぞというところで意地になる。
主人に従順であるべき使い魔としては失格だが、それでも生きていて欲しい。
……無事でいなさいよ。
祈りながらルイズはひたすら走った。
To be continued→