ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-17

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匿名ユーザー

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ガシャン!とデルフリンガーを地面に投げ捨てる。そうしておいてギアッチョは
キュルケとルイズを交互に睨んだ。
「勝てる相手かどうかも考えずによォォ~~・・・ただ条件反射で突っ込んで、挙句
仲間の命まで危険にさらす・・・今てめーがやったのはそれだキュルケ」
ギアッチョはキュルケの顔を覗き込んで続ける。
「そんなのは『義務』でも『覚悟』でもねぇ・・・ただの無謀だ てめーは根拠もなく
まぁなんとかなるだろうと考えたな え? 最も忌むべきもの・・・無知と驕りから
来る過信だ」
一切の容赦無く、ギアッチョは冷厳として事実を述べる。曲がりなりにも貴族である
キュルケは何とか言い返したかったが、彼がいなければ親友は死んでいた――
自分が殺していたと思うと、己には何を言う資格もないと理解した。
「ルイズ、てめーもだ」
キュルケが悄然としてうつむいているのを意外そうに見ていたルイズは、ハッと
我に返って姿勢を正す。
「こいつが走り出した時、おめーは爆発でフッ飛ばしてでもキュルケを止めるべき
だった 二人一緒なら勝てると思ったか?それとも倒せる自信があったってワケか?」
どうなんだ、と凄むギアッチョに、ルイズもまた言葉を返せなかった。いざとなれば
ギアッチョが助けてくれる。彼女は無意識のうちにそう考えていてしまっていた。だが
現実はどうだ。タバサがいなければ、ギアッチョが辿り着く前に自分達は死んでいた
だろう。周囲の状況も、自分の実力も鑑みず、安易に自分の使い魔に頼って
しまっていた。ルイズは自分がとても情けなくなったが――それと同時に、彼女の
心にはとてつもない不安の波が押し寄せた。

ギアッチョは自分に幻滅した・・・?

ふと浮かんだその言葉は、一瞬でルイズの心に波紋となって爆発的に広がった。

――そんなのいやだ・・・!

ギアッチョ。私の唯一成功した魔法の結果。私の唯一の使い魔。私の唯一の味方。
私の唯一の、私の――・・・!

ルイズの頭をさまざまな言葉が駆け巡る。
幻滅、失望、諦観、厭離、侮蔑、嘲笑、忌避、放逐・・・。

――いやだ嫌だ、そんなの嫌・・・!!

ギアッチョに見放される恐怖で心が埋め尽くされてしまったルイズには、彼が何故
怒っているのか、何が言いたいのか・・・その真意を汲み取ることなど出来なかった。
「てめーに出来ることをしろ」と言うギアッチョの言葉も、ルイズの耳に届くことは
なかった。そしてそれが故に――ルイズは重大な錯誤をすることになる。

説教を終えてデルフリンガーを拾い上げるギアッチョに、キュルケがおずおずと
声をかける。

「・・・あの ギアッチョ」
「ああ?」
まだ何かあるのかといった顔をキュルケに向けるギアッチョに、
「――ごめんなさい」
キュルケがストレートな謝罪を発した。ギアッチョは怪訝な顔でキュルケを眺める。
「あなたのこと誤解してたわ・・・本当にごめんなさい」
ギアッチョは自分の親友を助けた。それも、一歩遅ければ当のタバサとシルフィード
共々潰される危険を冒してまで。今までの行動がどうあろうが、その事実だけで
キュルケが彼を信じるには十分にすぎた。
ギアッチョはトンと肩にデルフリンガーを担ぐ。
「疑われたり監視されたり命を狙われたり・・・そんな事は日常茶飯事だ 気にしちゃ
いねー」
ギアッチョはそう言うとキュルケ達に背を向けた。
「しかしよォォ こんな役割はプロシュートかリゾットにやらせるもんだ オレのキャラ
じゃあねー・・・もう同じことを言わせるんじゃあねーぞ」
ひょっとして、意外と面倒見は悪くないのかしら。そう思ったキュルケは、
「・・・分かったわ」
そう答えて少し相好を崩した。

翌朝。オールド・オスマンは学院中の教師を一室に集めた。集まった教師達は、
口々に誰が悪いだの自分は悪くないだのと責任を押し付けあっている。
目撃者としてタバサと共にコルベールに呼ばれたキュルケは、そんな状況に
嘆息しつつ同じく召致されたルイズに眼を遣る。心なしか気分が沈んでいるように
見えるが大丈夫だろうか。「昨日の説教がそんなに効いたのかしら」などと考えて
いると、騒ぎ続ける教師達を制止してオスマンが話を始めた。
宝物庫が破られたのは教師全体の責任であること、奪われたのは破壊の杖で
あること、犯人は目撃者達によるとトライアングルクラスの土のメイジ、恐らくは
土くれのフーケであること、そしてオールド・オスマンの秘書であるミス・ロングビルが
徹夜の調査でフーケが隠れていると思しき場所を発見したこと。
以上のことを述べてから、学院長は教師達を見渡してフーケ討伐の志願者を募った。
ところが、手を上げる者はなかなか現れない。もしも失敗すれば、自分の名は地に
落ちる。或いは殺されてしまう可能性すらあるのだ。教師達がしりごみするのも、
分からなくはない。
不甲斐ない教師共の代わりに思わず杖を掲げそうになったキュルケだが、
ギアッチョに「出来ることをしろ」と言われたことを思い出して気持ちを抑えた。
誰も手を挙げないからと言っても、自分はただの生徒なのである。放っておけば
志願しなくとも教師の誰かは行かされる。トライアングルが数人がかりなら、
いくら土くれのフーケと言えども逃げ切れはしないだろう。わざわざ自分から
死地に赴くような真似をする必要はない。そう思っていると――

スッと杖を掲げた者がいた。杖の持ち主を確認して、キュルケは眼を見張る。
得体の知れない平民を使い魔に持つ少女、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールだった。

ギアッチョの信頼を取り戻すべく彼女が取った方法、それは土くれのフーケを
倒し、自分も役に立つのだと証明することだった。
「ちょっ・・・!あなた何やってるのよ!」
キュルケは慌てて止めに入る。
「うるさいわねキュルケ 見なさいよ、誰も手を挙げないじゃない!」
ルイズの言葉に教師陣はうぐっと息を詰まらせるが、彼女が言いたいのは
そんなことではない。キュルケはちらりとルイズの後方に控える男、ギアッチョを
見た。ギアッチョは冷徹な眼でルイズの後頭部を見ているが、特に何も言う気配は
ない。「ちょっといいのそれで!?」とキュルケはギアッチョを小声で問い詰める。
「あなたが言ったんじゃない!出来ることをしろって!」
しかしギアッチョは何も答えず、ただルイズを見つめている。
ダメだ、このままではルイズが一人で――正確には二人でだが――行かされて
しまう。キュルケは迷った末に、覚悟を決めた。
「あぁあもう!微熱のキュルケ、志願させていただきますわ!」
出来ることをしろと言うのなら――出来る限りでルイズを守ってやらなくては。
そんなキュルケを、ルイズは不審そうに見つめている。
――どこまで鈍感なのよこのバカはッ!
キュルケは出来ることなら怒鳴りつけてやりたい気分だった。
そんな二人を横目で見て、タバサは観念したように杖を掲げる。思い思いの
感情で彼女を見る二人に、タバサは一言、
「心配」
と呟いた。その言葉にルイズとキュルケが感動していると、教師達から次第に
批判の声が上がり始めた。曰く、「子供が何を言っているんだ!」「生徒を危険に
さらすわけにはいかないでしょう!」などなど。しかしオールド・オスマンがそれでは
誰か志願する者はいるのかと問うと、彼らは途端に静まり返る。

「やれやれ・・・ よいか、彼女らはただの生徒ではあるが、敵の姿を見ているのだ
その上、ミス・タバサは若年にして既に『シュヴァリエ』の称号を持つ騎士であると
聞くぞ」
周囲にざわっと驚きの声が起こる。キュルケやルイズも驚いた顔でタバサを見て
いた。老練のメイジはそのまま言葉を継ぐ。
「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの高名な軍人家系の出で、彼女自身なかなかの
使い手であると聞く」
そして、と言いながらオスマンはルイズを見る。
「そして・・・あー・・・」
学院長はわずか言いよどんだが、すぐに威厳を取り戻した。
「ミス・ヴァリエールはかのヴァリエール公爵家の息女であり、将来有望なメイジで
あると聞いている そして彼女の後ろに控えておる使い魔は、平民の身で
ありながらあのグラモン元帥の息子を打ち負かしたそうではないか」
彼女らを派遣することに文句のある者は前に出よ、と言って締めるオスマンに、
意見を唱えるものなど一人も居りはしなかった。

ガラッ!

――いや、一人だけいた。その男は扉を開けて入ってくると、あっけに取られて
いる教師達への挨拶と立ち聞きの謝罪もそこそこに、本題を言い放つ。
「この僕、ギーシュ・ド・グラモンを討伐隊に加えてはいただけないでしょうか!」
豊かな金髪とセンスの悪い服の持ち主、ギーシュであった。

「ちょっ・・・いきなり入ってきて何言ってんのよあんたは!」
最初にツッこんだのはルイズである。それにキュルケが続く。
「あなた病み上がりでしょう?何考えてるか知らないけどやめておきなさいよ」
しかしオールド・オスマンは彼女らを片手で制して言う。
「理由を聞こう、ミスタ・ギーシュよ」
「はい! 僕は先の決闘で、ミス・ヴァリエールの使い魔・・・このギアッチョに
敗北しました」
ギーシュは語りだす。周りの人間達は――ルイズやキュルケでさえ、ギーシュの
奇行に困惑していたが、ギーシュは全く意に介さず先を続ける。
「彼は決闘の前、僕に『覚悟』はあるのかと尋ねました それに対して僕は
そんなものは必要ないと嘯き―― 結果は皆さん御存知の通り、完膚なきまでに
敗れ去りました」
そう言って彼はギアッチョに眼を向ける。その眼に迷いはなかった。ただし、彼の
膝は相変わらずガクガクと震えてはいたが。
「僕はその時から、『覚悟』という言葉に取り憑かれているんです 彼の言う『覚悟』
とは一体何なのか 彼と僕を・・・いえ、我々殆どのメイジを隔てている何か強大な
壁・・・僕はそれが『覚悟』なのだと思ってます そして、ならばその正体は一体
何なのか? 僕はそれが知りたい 理由はそれだけです・・・オールド・オスマン」

部屋中を沈黙が支配した。殆どの者はギーシュの言ったことの意味を量りかねて
いるようだったが、オールド・オスマンはそれを理解したようだった。
「・・・なるほど それでは直接本人に聞こうではないか どうだねギアッチョ君
彼・・・ギーシュ・ド・グラモンの同行を許可するかね?」
決断を任されたギアッチョは、ふぅっと一つ溜息をついてから、魔物じみた双眸で
ギーシュの眼を覗き込む。ギーシュはそのあまりの気迫に今すぐ謝って逃げ出し
たくなったが、全身の力を集中させて――冷や汗をダラダラ流しながらも、
何とかギアッチョの視線を受けきった。
「・・・やれやれ 勝手にするんだな・・・ただしよォォーー てめーのケツはてめーで
拭け 間違っても仲間がいるからなんとかなるなんて思うんじゃあねーぞ」
「・・・あ、ああ!約束しよう!」
交渉は成功した。喜ぶギーシュを見てやれやれと言わんばかりに首を振る
ギアッチョだったが、直ぐにオスマンに向き直ると、
「爺さんよォォ~~ ついでに聞いておくが」
一つ確認しておくことにした。「貴様、オールド・オスマンになんということを!」等と
言う声が聞こえるが全く気にしない。
「そのフーケとやらよォォーー・・・殺してもいいんだろうなァァ」
殺す。あまりにも淡々と吐き出されたその単語に、教師達はまたも固まった。
そして誰にも気付かれなかったが、ミス・ロングビルもその耳を疑っていた。
オスマンはピクリと眉を上げたが、直ぐにいつもの好々爺然とした顔に戻る。
「それは遠慮してもらいたいのう 処理が色々と面倒じゃからの」
その返答に、ギアッチョは面倒臭そうな顔をしたものの特に文句は言わなかった。


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