ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

見えない使い魔-8

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「まんまとやられちゃったわね。まあトライアングルクラスのメイジだった
んだから仕方ないって言えばそうなんだけど」
キュルケは塀に体重を預けてそう言った。隣に座っているタバサは、いつも
のとおり黙々と本を読んでいる。
時は夕暮れ、盗賊のフーケが起こした騒動も終結を見たが被害は甚大だった。
人的なものといえばンドゥールが土に埋もれただけだったが門に塀、宝物庫
が壊され、さらには破壊の杖と呼ばれるものを盗難されたことが問題だった。それは国から預けられているものであり、厳重に保管しておかなければならなかったのだ。
「責任は、誰がとるのかしらね」
キュルケがそう言うと、タバサが答えた。
「一番偉い人」
「学院長、じゃなくて、」
「姫殿下」
「そうよねえ」
ため息をつくと同時に王女と話をしていたルイズとンドゥールが戻ってきた。
キュルケは二人を見てすぐさま事情を察したが、尋ねてみた。
「ねえルイズ、結局どうなるの?」
「……姫様、責任取らされなくちゃいけないかもって」
明らかにルイズは落ち込んでいた。
キュルケは腕を組んで考える。ここトリステインは彼女となんら関係のない
国だ。だから別に王女がどうなろうと知ったことではない。災難だったわね
と、一時的に思うだけで次の瞬間には頭の中からきれいさっぱりと消えてし
まっている。
しかし、それが自分の尻拭いとなれば話は別だ。
癪である。
「ルイズ、ちょっと話があるんだけど」

その夜、学院長室にほとんどの教師が集められた。『土くれ』のフーケから
破壊の杖をどうやって奪還するかを話し合うためだ。運がよかったのかこれ
まで情報が皆無だったその人物のアジトが、村民に目撃されていた。
ならばすぐにでも部隊を編成して向かわせるべきなのだが誰も立候補しなかった。
彼ら彼女らの脳ではこんな算段がされている。どうせほんの数日で王宮にこ
の件は報告される。だったらそちらに任せればいい。責任は自分たちにない
のだから。
オスマンは厳しい目で一瞥する。なんと情けないことだろう。生徒たちは体
を張っていたというのに。
「やれやれ……」
思わずため息をつく。こうなれば全員を向かわせるべきかもしれない。彼が
そんなことを模索し始めたとき、けたたましく扉が開かれた。
「失礼します!」
数名の人物が了承も得ずに踏み込んできた。ルイズ、キュルケ、タバサ、
そしてンドゥール。
「いまは会議中だぞ! 即刻出て行きなさい!」
教師の一人がそう命じるが、ルイズはぐっと一歩奥に進んだ。
「出て行きません! オスマン学院長!」
「なんじゃ?」
「フーケ討伐の役目、私たちにお任せください!」
なんといったか、それを理解するのに何秒かかかった。
「何を言っている!」
「君たちは生徒じゃないか!」
やいのやいのと葬式のように静かだった場が騒然となる。しかしルイズたち
はそんな声を無視してただ一人、決定権を持つものを見つめていた。
オスマンは、またやれやれとため息をついた。

「四名に『土くれ』のフーケの討伐を命じる」
当然そんなことを周りの教師は許容できなかった。一丸となって反対するの
だが、一睨みで口をつぐんでしまう。
「会議は終わりじゃ。それではミス・ロングビル、彼女らを案内してやって
おくれ。そうそう、これが破壊の杖じゃ」
「わかりました」
オスマンは紙に描かれた絵を渡すと、さっさと行けとばかりに五人を学院長室
から出していった。この場を収拾するためだ。
五人はすぐさま外に出て、馬車に乗り込んだ。御者はロングビル、彼女がそ
の場所を知っているから自然の流れだ。中では四人が陣を組み、対抗策を相
談していた。
「一番現実的なのは、杖を奪ってタバサのシルフィードで逃げる。こんなと
ころかしら。問題はどうやって杖を奪うかってところね」
まずはキュルケの案。お手本のようなものだが、ルイズがそれに噛み付いた。
「何言ってるのよ。私たちは討伐を命じられたの。大体敵に尻尾を向けるな
んて貴族じゃないわ」
「あのねえ、私だって勝てるのならそうしたいわよ。でも実力の差は歴然、
それに杖を持ち帰っただけでも誰も文句は言わないわよ。私、あんたに付き
合って死ぬのはごめんよ」
「なによ! 持ち掛けてきたのはそっちのくせに!」
「ええ。貴族のプライドがあるんだもの」

キュルケは夕暮れ、落ち込んでいるルイズに自分たちで取り返したらどうか
と問いかけた。そうして元通り保管してからアンリエッタに報告、そうすれ
ば事件は王宮に報告する必要はない。口を合わせて、そんな事件はなかった
ということにしたらいいのだ。
ルイズは悩んだ。憎きツェルプストーの女が持ち出してきたひどく魅力的な
提案、いつもなら跳ね除けるのだが敬愛する主君のためという名目がある。
彼女はそれに応じることにした。
そしてンドゥールの聴力で会議を盗み聞き、居場所までわかっているという
ことを知った。しかし、はっきりとそこのことを口にしなかったので我慢で
きず、部屋に乗り込んで立候補したのだ。
「タバサ、あなたはどう思うの?」
ルイズと口論していたキュルケが尋ねた。タバサ本人は我関せずといいたい
のか本を読んでいた。が、顔を上げ、こんなことを言った。
「ンドゥールに任せる」
「なぜだ?」
いきなり名前を呼ばれた彼はそう訊きかえす。
「一番経験がありそう」
「ふむ」
ンドゥールはしばし考え込み、こう言った。
「臨機応変だ」

馬車を途中の山道で止め、しばらく歩いていくと小さな炭焼き小屋を発見し
た。ロングビルによるとそここそがフーケの隠れ家であるらしい。
「どう?」
ルイズがンドゥールに尋ねた。彼はいま、杖を地面に突き刺し柄を自分の耳
に当てている。こうすることで音がより鮮明に届くとのことだった。
「物音はしない」
「じゃあガセなの?」
ルイズはちらりとロングビルを見た。
「さあな。ともかく、入って確かめるしかない」
ロングビル、その後ろにンドゥール、ルイズたち三人と続き、小屋に近づい
ていった。罠などはまったく用意されておらず、足場が悪いぐらいなものだった。
小屋に着き、さっそくンドゥールが壁に耳を当てる。
「……無人だ。呼吸音すらないので眠っているわけでもない」
「あ~あ、ガセだったのね」
キュルケが愚痴を言う。
「それでも一応調べてみるべきです。見張りと探索、二手に分かれましょう」

ルイズとタバサ、ンドゥールの三人が小屋に入る。中は簡素でほとんど寝泊
りぐらいしかされていなかったようである。ンドゥールは杖を床にたたき、
地下がないかを調べ、ほかの二人は手当たり次第にそこらじゅうをひっくり
返していった。
「あった」
「なにがよ」
「破壊の杖」
「はあ!?」
ルイズがタバサを見ると、確かに彼女はフーケに奪われていった箱を持って
いた。いくらなんでもあっけなさすぎる。
「これ本物なの?」
「わからない」
「なら開けてみればいい」
ンドゥールがそう提案する。ルイズとタバサはわずかな間だけ視線を交差さ
せるが、結局それに乗ることにした。留め金をはずし、ふたを開ける。
「……一応、学院長の絵の通りね。でもこれが杖?」
杖、というわりには妙に胴が太い。
「おいお二人さんよ」
ンドゥールの背中にいたデルフリンガーが声をかける。
「いきなりなによ」
「いやな、ちょっとそれを相棒に触らせてみてくれや。もしかしたらなにか
わかるかもしれねえしよ」
「そうとは思えんが、まあいい」
ンドゥールが手を出し、ルイズがそこに破壊の杖を乗せる。と、彼は急によ
ろけてしまった。なんとか倒れずにすんだものの、全身に汗がびっしょりと
浮かんでいる。
「……なるほど、どこかで繋がっているということなのか」
「なに? ンドゥール、なにかわかったの?」
ルイズが問いかける。
その返答をさえぎり、キュルケの悲鳴が聞こえてきた。


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