ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

8 青銅の少年、黒檀の男

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8 青銅の少年、黒檀の男

決闘が一対一だというのなら、未知数の使い魔に攻撃をくらう恐れもない。魔法は使うだろう。二股がばれてワインを頭から被る男に相応しい魔法を。
だが、ルイズは言う。怪我ですんだら運がいい。メイドの顔を思い出す。ルイズの言を裏付けていたかのような、恐怖に青ざめた顔を。
メイジが自分の能力を過大に感じることはあるだろう。しかし平民の、貴族の世話をしているメイドの態度はどうだ。念のためだ。デーボは厨房に入り、無断で調理用のナイフを取る。パンツのポケットにしまう。木で出来た柄がはみ出す。
無言で出て行く。その後姿に声を掛けるものはいない。これから死ぬ人間に、なんと呼びかければいいのか。

食堂でデーボを見張る生徒に先導され、決闘の場へと歩く。大股で進むデーボに後れを取るまいと、生徒も早足で歩く。後ろから彼の主人がついて来る。更にせわしない足音。苦々しい顔をしているだろう。前をゆくデーボには見えない。
歩きながら考える。あの少年は同性の取り巻きを従えていた。容姿以外のなにかが周りを引きつけるのだ。それがなにかは判らない。
先ほどの光景を思い出す。なにかは判らないが、少年自身が持つものだとは考えにくい。彼の家が持つ金か、はたまた権力か。是非ともお近づきになりたいものだ。低く笑う。

ヴェストリの広場は、学院の敷地内、「風」と「火」の塔の間にある、中庭である。西側にあるので、昼でもあまり日が差さない。
食堂での噂を聞きつけた生徒達がひしめく。広場は溢れかえるようだ。デーボは無言のまま中庭に入る。多数の目がその姿を捉える。ざわめきと囁き声の混じる人垣が細く割れる。デーボはその隙間を進む。ルイズは人ごみに遮られて、後ろのほうでわめいている。

抜けて、広場の中央に進む。少年が待っていた。腕を組み、口に薔薇の花を横咥えにしている。その格好のままこちらを睨んでいる。
咥えていた薔薇を口から取り、掲げる。造花のようだ。
「諸君! 決闘だ!」 少年は高らかに言う。歓声が巻き起こり、広場が震える。
「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」 誰かが叫ぶ。再び歓声。少年――どうやらギーシュというらしい――は、腕を振ってそれに応える。
デーボは無表情に立っている。左手はポケットに入れ、ナイフを握っている。歓声が収まる。ギーシュがこちらに向き直り、歌うように言う。
「とりあえず、逃げずに来たことは誉めてやろうじゃないか」 手は薔薇の造花をいじくっている。ようやく最前列に来たらしいルイズが、何か怒鳴る。
「さてと、では始めるか」 振り向こうとすると、ギーシュが言う。視線を戻し、飛び出す。

まただ。体が軽い。ポケットからナイフごと左手を抜く。手の甲に刻まれた文様が光っている。跳ねるように相手に近づく。ギーシュは余裕の表情。優雅に薔薇の花を振る。
花びらが舞い、変化する。甲冑を着た女戦士、そんな風体の人形になった。着ている物も肌も青緑。陽光を受けてきらめく。デーボの前に立ちふさがる。
実に「らしい」じゃないか。ナイフを振り上げながら思う。女たらしは魔法まで女がらみか。女戦士の胸甲をナイフは易々と切り裂く。なんだ、この切れ味は?思わずナイフを見る。普通の鉄に見える。
意に介さず、人形は腕を振るう。デーボの左脇腹に沈む。重い。苦痛に顔を歪めながら体勢を直す。後ろに跳びすさる。

「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」 心もち顔を上向きにしながらギーシュは言う。
デーボはナイフを持ち替え、左手で脇腹を押さえる。骨はどうだ?押しつぶされた筋肉の痛みと混交して、よくわからない。
「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」 言うが早いか、ギーシュは造花をこちらに指す。それを引き金としたように、ワルキューレが突進する。
重いはずだ。金棒で殴られるようなもんだ。ゴーレムが向かってくる。デーボは体の軸を傾け、肩からぶつかっていく。ガシンと音がし、ゴーレムがぐらりと揺れる。倒れ掛かりながらも腕を突き出す。それをデーボは払う。装甲の薄そうな腹めがけ、ナイフを深々と差し込む。
効いていない。内臓など持っていないか。倒れたゴーレムに馬乗りになる。首を切り取る。動かなくなる。歓声が上がる。

起き上がり、ギーシュを見る。未だ余裕の表情。花びらが、今度は二枚舞い散る。ギーシュは造花を目の前にかざし、何かを呟いている。二体のゴーレムが起き上がる。格好は今足元で転がっているものと同じだ。性能も同じだろう。

何かが触れたように感じ、右手を見る。土が付いていた。鉄を錬金したらしい土が。ナイフは柄だけになっていた。
スピードが違う。速い。自分が遅くなったのか?同時にかかってくる。緻密な連携は取れないのか、それとも取らずに十分だと考えているのか。
後者かもしれない。木の柄を投げつけ、デーボは独自の構えを取る。両腕をだらりと垂らし、膝と背を曲げる。
ゴーレムが殴りかかる。瞬間、しゃがみこむ。四肢をトカゲのように開く。地面に這いつくばり、そのまま両腕を前に。一体の足を払う。
ひっくり返るワルキューレ。蹴りを食らわそうと立ち上がる。もう一体の青銅のストレートが顔に飛ぶ。防いだ左の二の腕に一撃をくらい、骨が折れた。痛い。

片腕が使用不能、大いに不利になる。いや、不利どころか――
攻撃がデーボの顎に入る。焦点がぶれ、膝をつく。痛い。二体のワルキューレは次々に拳を繰り出す。折れたほうの腕を掠める。痛い。鳩尾にめり込む。痛い。顔にぶち当たる。痛い。
デーボは地面にうずくまる。歓声。ゴーレムは容赦なく攻撃を加える。痛い。ギーシュはもう一体、ゴーレムを作り出す。攻撃が激しさを増す。痛い。
骨はヒビだらけだ。痛え。まぶたが青黒く腫れあがって目が見えん。痛い。内臓にもダメージがあるだろう。痛い。
痛い。痛い。とっても痛い。やりやがったな。よくもやりやがったな。よくも。こんなに、こんなにしやがって。痛え。おのれ、よくもやりやがったな。こんなに。こんなに痛い苦しみは晴らさなくっちゃなあ。これで思いっきり――


悲鳴のような叫びを耳にした。
静かになる。デーボは顔をあげる。ルイズが立っていた。使い魔をゴーレムから庇うように、間に入っている。
ルイズとギーシュが何かを言い合っている。耳が遠い。鼓膜も破れたか。ルイズが振り向く。顔を真っ赤にしている。目には、涙。
デーボはゆっくりと立ち上がる。
「寝てなさいよ! バカ! どうして立つのよ!」 肩をつかんでルイズが言う。デーボの顔を見て、息を飲む。笑っている。
「どけ」 折れた腕を顔の前で交差させる。

「エボニーデビル」 自らの半身たる、悪魔の名を呼ぶ。ワルキューレの一体がバランスを崩す。


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