ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-16

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ルイズは今夜も夢を見ていた。古ぼけた部屋の中の、かすみがかった人物達の夢。
ルイズはまた自分ではない誰かになっていて、かすみがかった部屋でかすんだ姿の
まま、かすんだ男達と音の擦り切れた会話を交わしていた。
あの使い魔、ギアッチョを召喚した時から――いや、正確にはギーシュとの決闘を
終えた日から、ルイズはこの不思議な夢ばかりを見るようになっている。
使い魔となった者は、主人の目となり耳となる能力や人語を解する能力などを手に
入れる。ギアッチョにはそんな力はなかったが、ひょっとするとそれが夢の共有と
いう形で発現しているのかもしれないとルイズは考えた。もしそうだとすると、この
夢を決闘の翌日から見るようになったということは――あの決闘を通して、
ギアッチョが自分を少し認めてくれたということなのかもしれない。ならば、と
ルイズは思う。日々霧が晴れるように鮮明さを増してゆくこの夢は、彼が徐々に
心を開いていってくれているということなのだろうか。勿論、霧が全て消えれば
信頼度MAXなどというわけではないのだろうが、興味なんてさらさら無いように
見えるギアッチョが日々内心自分に心を開きつつあると思うと、ルイズはなんだか
無性に嬉しかった。

「どこに行くのよ」
ドアに向かって立ち上がったギアッチョにルイズが問いかける。外はもう双月が
煌々と輝いている時間である。
「剣の練習だ」
ギアッチョはそう言って喋る魔剣デルフリンガーを掴む。
「ちょっと待って わたしも行くわ」
そう言ってベッドから跳ね起きるルイズをギアッチョは物珍しげな眼で見る。
「ああ?何しに行くんだよ」
「何しにって・・・こっ、このわたしが見てあげるって言ってるのよ!ありがたく
思いなさい!」
ルイズはそう言うとギアッチョより先にドアを開けて行ってしまった。ギアッチョは
その後姿を眺めながら、
「全くコロコロと機嫌の変わるヤローだなァァ あれが女心と秋の空ってヤツか?
え?オンボロよォォ~~」
デルフリンガーの柄を鞘からわずか引き抜いて言う。話を振られた魔剣は、
「えっ!?あ、ハ、ハイ そのようでダンナ・・・」
先日ギアッチョにタンカを切った時の威勢のよさは微塵も無くなっていた。

ギアッチョが中庭へ出ると、先に到着していたルイズがキュルケと喧嘩をしていた。
その後ろには心配そうに主人を見守るフレイム。二人をサイドから眺めるような
位置でタバサが本を読んでいる。
「何でてめーらがここにいる?」
ギアッチョが当然の疑問を発すると、
「ちょっと食べすぎちゃったのよ で、運動しようと思ったらこのおチビちゃんが
やって来たワケ」
返答にもルイズへの罵倒を織り交ぜるキュルケだった。
「だ、誰がチビよ!このストーカー!」
「ストッ・・・!?」

「ストッ・・・!?」
ルイズの一撃はキュルケの心を見事に刺し貫いた。別に感謝されたくてやって
いたわけではないが、それにしたってキュルケの行動は――無論本人は肯定など
しないだろうが――ひとえにルイズを心配するが故なのである。そこに気付いて
いないとはいえ、ルイズのこの一言は相当なダメージだった。
「・・・ストーカーね・・・ フフフ・・・ストーカーですって・・・」
がっくりと肩を落としてブツブツと呟くキュルケに流石のルイズも異変を感じたのか、
「えっ!?ちょっとわたし何かした!?」とタバサに助けを求めている。
タバサが「どっちもどっち」と呟いたのを合図に、ギアッチョは彼女達から魔剣へと
視線を移す。
「で? どーすりゃあいいんだオンボロ」
「ど、どうするって?」
「剣なんざ扱ったこともねーって言わなかったか?喋れんなら剣の指南ぐれー
出来るだろ 前の持ち主の剣術とかよォォー」
完全に人まかせ、否剣まかせのギアッチョである。
「あっ、あーあーなるほど!だからダンナはわざわざこの俺をお買いになられた
わけッスねェー!さすがはギアッチョのダンナ!」
デルフリンガーはなんとかギアッチョの機嫌を損ねまいと頑張っている。
「てめーそのダンナってのはどうにかならねーのか?」
「え・・・いや、相棒ってのもなんか違うし兄貴はもう取られてるし・・・」
よく分からないことを言い出すデル公だった。
「まぁいい で、結局どーすんだ」
「どうするって言われても・・・え、えーと じゃあとりあえず剣を抜いて・・・」
ギアッチョは言われるままに柄に手をかけ、剣を引き抜き――

バッグォォオオン!!

突如として中庭に轟音が鳴り響いた!

「何・・・だァァ~~~?」
ギアッチョが音のしたほうを振り向くと、岩が集まったような巨大な化け物が
本塔の壁を殴りつけているところだった。
「あれも使い魔だってェのか?」
抜きかけた剣を収めてルイズ達と合流したギアッチョが問う。
「あれはゴーレムよ それもとんでもなく大きい・・・!あんなものを練成する
なんて・・・少なくともトライアングルクラスのメイジだわ」
どうやらあれは魔法によって作られるものらしい。彼女達の反応を見るに、
相当高度な魔法のようだ。
「なんにしても・・・見過ごすわけにはいかないわね!」
言うが早いかキュルケが走り出し、
「ちょっ、何やってんのよ!」
ルイズがそれを追いかける。タバサはギアッチョにちらりと眼を向けると、
「危険」
一言告げて先の二人を追いかける。ギアッチョは一つ大げさに溜息をつくと、
仕方なく彼女達のあとに続いた。

ゴーレムの肩の上に、黒衣に身を包んだ女性が立っている。彼女――土くれの
フーケは、今まさに「仕事」の只中であった。大怪盗の名を持つ彼女の今宵の
目的は、トリステイン魔法学院本塔の宝物庫に秘蔵されている「破壊の杖」で
ある。幾重にも封印が施された扉からの侵入を諦めた彼女は、魔法の薄い
外壁のほうを狙っていた。しかし内側よりは防御が甘いとは言え、高レベルの
メイジがかけた固定化の魔法はそう簡単に破れるものではない。ゴーレムの
拳に、本塔の外壁は全くこたえた様子を見せなかった。しかしフーケは
慌てない。ぶつぶつと何事か呟くと、ゴーレムの両腕は鋼鉄の塊へと変じた。
フーケのゴーレムはそのまま壁へと突きのラッシュを放ち――何度目かの
突きで、固定されていた壁は見事に爆砕した。
フーケはちらと地面を見下ろす。学院の生徒達が何名かこちらに向かって
いるが、彼女はクスリと笑うとそのまま宝物庫へと侵入した。

キュルケは走りながら魔法を唱え、ルイズとタバサがそれに続く。三者三様の
魔法が激突するが、多少の破損が認められるだけでゴーレムは問題なく
動き続ける。小うるさいアリ共を潰すべく、動く岩塊が右腕を打ち下ろし、
「きゃああっ!?」
間一髪逃れた三人に容赦なく左腕が振り下ろされる!
殺られる――!!ルイズは死を覚悟した。
しかし鉄の拳が彼女達を押しつぶす寸前、タバサが魔法を発動させる!

バシィィィンッ!!

タバサが打ち込んだ風がゴーレムの拳を刹那弾き返し、
「逃げて」
言うや否や二人に杖の先を向ける。
「なッ・・・タバサ!!」
タバサの風に二人はゴーレムの射程外まで吹っ飛び、そして再び呪文を
唱える間も、ましてや逃げる間も少女達の悲鳴が届く間もなく、タバサを
鋼鉄の拳が――

ズンッ!!

圧死の痛みの代わりに誰かに抱きかかえられる感触を感じて、タバサは
閉じていた眼を開いた。少女の眼に最初に飛び込んできたものは、
幾度も眼にしたことのあるボタンの多い服。そして彼女の頭上で、幾度も
耳にした声が響いた。
「てめー・・・シルフィードだったか?なかなかガッツがあるじゃあねーか」

ギアッチョが飛び乗ったシルフィードは、彼が何かを言う前に主人目掛けて
亜音速で飛来し、ゴーレムの拳が地面に激突する一瞬の間隙を縫って
主人を救い、空へと上昇した。タバサを捕まえたのはギアッチョである。
ギアッチョとシルフィード、それぞれが一瞬ですべきことを把握しなければ
出来ない芸当だった。使い魔同士の信じられないコンビネーションに、
破壊の杖を抱えて出てきたフーケを含む誰もが呆然と空を見上げていた。

一瞬あっけに取られていたフーケだったが、目的を果たしたことを思い出すと
さっさとこの場から逃げることに決めた。地響きを立てて去ってゆくゴーレムを
見送って、
「大丈夫」
とタバサは一言口にする。それを合図にギアッチョが抱えていた手を離し、
タバサの命で風竜はゆるゆると地上へ向かった。
「――ありがとう」
シルフィードが地面に降り立つ直前、タバサは小さな声で言う。ギアッチョは
一瞬だけタバサに眼を遣ると、フン、と鼻を鳴らした。

「タバサ!!大丈夫!?タバサ!!」
「無事なのあんた達!?」
地上に戻った2人と1匹に、キュルケとルイズが駆け寄る。その顔は今にも
泣き出しそうだった。ギアッチョは3人を見渡して、誰にも怪我がないことを
確認すると、
「てめーらそこに並びな」
彼女達を一列に整列させる。
そしてルイズ達に待っていたのは。

「このッ・・・バカ野郎共がッ!!!」

鬼も裸足で逃げ出さんばかりのギアッチョの怒鳴り声だった。


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