ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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透き透るほど青い空。高く浮かぶ白い雲の下。
気持ちよく晴れわたる午前の陽気の中で。
一人の少年が、しゃがみ込んでなにやらタライに張った水と格闘している。
平賀才人は、この世界――魔法という文明が根幹を成す彼の常識が全く通用しない世界――で、今日も元気に主の下着を洗濯していた。
主人がまるで嫌がらせとしか思えないほど何回も着替えし、結果として毎日大量の洗濯物が出る。
それにさっきまで独りで文句を言いながら、鬱憤を毒吐きしつつ洗濯をしていた。
面と向かって文句を言えば、倍以上になって返ってくるのは、わかりきっているからだ。
「……っと、こうじゃ、ないんだよなぁ……」
今日の分の洗濯が終わり、一休みしていた彼は手に持った石を一つ、空中に放り投げ、戻ってはまた放る動作を繰り返す。
「イメージは……あるんだよな。……なんとなく」
水の張ったタライの中心に、再び才人は石を浸す。
それを、勢いをつけて回した。が、石はすぐに勢いを失い、水は掻き混ざったときの僅かな泡を残し、波紋一つ無く、凪一つなく水面は沈黙する。
「あー、わっかんねえなあ」
才人は悔しがる。これができれば――、少なくとも洗濯は、大分楽になるのに。
そう、思った。

才人達がこの世界にきて、すでに四日が過ぎた。
余りにも違いすぎる環境に、戸惑うどころか、頭を抱えたくなったこともあったが、いまはそれなりに馴染んで、毎日を過ごしていた。
すでに彼の首には首輪こそあったが、鎖は、繋がれていない。
比較的、まだ従順だと判断されているからだ。
つまり、もう一人のほうはどうかというと――あいも変わらず、雁字搦めの生活である。
ジャイロの拘束が解けたのは、才人の一日あとであったが、それは「壁から鎖を離された」ということであり、首、両手、両足には、今もしっかりと鎖がついていた。
初日の大逃走劇が今も尾を引いていて、「自由にすると何されるかわからない」と認識されているからだ。
使い魔を呼び出した翌日の授業には、才人だけが連れていかれた。
周りの連中が、「ルイズ! もう一人はどうしたんだよ!? まさかまた逃げられたのか!?」 と、囃し立てたので、
「調教中よ!!」
と一喝し、教室を引かせたのは記憶に新しい。
その日は当然というか、食事ができたのは才人一人。
彼が余りにも不憫なので、才人は自分のパンの五分の四を食べたところで、残りは隠して部屋に持っていった。
そして今、才人は 「あんたができるのはこのぐらいでしょ」 と、洗濯の仕事を皮切りに、雑用全般を押し付けられている。
そしてジャイロも――、いまは一見大人しく、ルイズの我がままを、彼なりに聞いていた。
「ただ逃げるだけじゃねぇ……。どうやって“この世界”から逃げるか、だぜ」
ニョホ、と、隣でまた我を通して腫れた唇で笑った男に、才人は尋ね返す。
「ここから逃げるだけじゃ駄目なのかよ」
「オレ達がこの世界に呼び出されたってんなら。……向こうに行く方法だってねえとは限らねえ。なんか方法はあるはずだ。……まず、そいつを探さなきゃよォ」
「じゃあ、しばらくはここに留まるのか?」
「聞く限りじゃ、ここは学校なんだろ。文献だってごまんとありそうだしな。探してみりゃなんか載ってるかもしれねえなぁ」
「……だけど、俺もあんたも、この世界の文字なんて読めないぞ?」
「文字ってのは法則があんだよ……心配すんな。なんとか憶えてみるからよ」
再び、笑った男の顔が、どことなく頼もしく、才人には見えた。

「……にしても、オメー。洗濯遅せーなぁ」
「なっ……? もう終わったのか!? 早すぎだろそれ! 量だって俺の倍あっただろ!」
「オレのは早えーんだぜ。なんたって全自動だからなぁー」
ニョホホ、と笑い、ジャイロは絞り終わった洗濯物を張ったロープにかけていく。
才人が、ジャイロの使っていたタライを見る。
その水は、勢いよく渦を巻いていた。
その中心で――、拳ほどの石が、勢いよく回転していたのだった。
「ピザ・モッツァレラ♪ ピザ・モッツァレラ♪ レラレラレラレラ レラレラレラレラ レラレラレラレラ ピザ・モッツァレラ♪」
ンッン~、と鼻歌を歌いながらジャイロは洗濯物を干していく。
「ちょ、ちょっと! おい! ジャイロ!」
才人が彼を呼ぶ。
「何だぁ? 言っとくが手伝いはしねーぞ。あのチビ、オレに多めによこしやがったんだからよぉー。あ、それともこの歌か? 作詞作曲オレだ。パクんなよ」
「そうじゃなくて! 石! 石が回ってる!」
すでに勢いを失い、水は平静を取り戻そうとしていたが……まだその潮流は、残っている。
「あー、それか。オレが回した」
「まわしたぁ?!」
「回転させたんだ……。だが石は駄目だ、脆くてよォ」
すぐに壊れんだよ、と彼は言う。
覗いてみると……、確かに、石は水の中で、粉々になっていた。
「やっぱ鉄だな。それも削りだしたやつ。鉄でも木っ端寄せ集めたヤツも、すぐ壊れるからよ」
まあ一度くらいなら投げられるがよ、と、彼は独り言のように、言った。

「な、なぁ。例えば、これって……。俺にも、できるかな?」
「はあ? おたくもやりてーってか。まあ技術だからな。できねーことはねーと思うぜ。オレほど使いこなせねーとは思うがな」
うっし、終わり。とジャイロは自分の仕事を終え、その場を離れる。
「ま、待てって! 俺ももうすぐ終わるから!」
「終わったんなら戻って来いよー。おチビちゃん、うるせえからよォ」
バイバイ、と手を振りながら、ジャイロはニョホホホホと去っていく。
「あ、あんにゃろぅ……」
乱暴に絞った洗濯物を担いで、ロープにかけようとするが、近くの木に空きは無かった。
仕方なく、壁向こうにあった木にロープがあったな、と思い出し、足を向ける。
壁を通り過ぎ、木を見る。
そこのロープは、空いていたが。
「あ、あの! すいません!」
誰かに、声をかけられた。
自分の前には、誰もいない。
首をかしげた才人に、
「あの! こっちです! こっち!」
上から、声がする。
見上げる。
高いところにある幹に腰掛けた、メイド服の少女がひとり、なんだか焦ったような、困ったような顔をして、そこにいる。
「何してんの、君?」
「あ、あの、大変申し訳ないんですけど! 助けてください!」
要するに、――高すぎて降りれない、ということらしい。
「降りれないのに登っちゃったの?」
「うぅー。……まあそうなんですけど」
ますます困った顔をした少女を、少年は助けてあげようとは思ったのだけど。
「……高いよね」
「……はい。……だいぶ、高いです」
「たとえば――、飛び降りたり、できない?」
「たぶん……、足とか折れちゃいます」
「……だろうね」
これは自分一人では、どうしようもないな、と才人は思った。

増援を呼ぼうと考えつく。
「ちょっと待ってて。いま人呼んでくるから」
そう言って反対を向いた才人の、正面に。
「なにしてんだ?」
よく知る男が、いた。
「ジャイロ?! 戻ったんじゃないのか!?」
「一人で戻っておチビちゃんの相手なんかしてーと思わねーよ。それに、……探しものしてるからよ」
「探しもの?」
「鉄球だ鉄球。一個失くしてんだよ。ほれ、オメーも暇なら探せ」
「いや、こっちも忙しいんだ。むしろ手伝ってほしい」
「何だ?」
指をさす。――借りてきた猫のように大人しくなった黒髪の少女が、大分高いところで縮んでいた。
「ほー。そんで降りれねーから助けてくれと。……しかし、梯子もねーのにどーやって登ったんだか」
ジャイロが見上げたまま、少女と会話する。
「どーするジャイロ……? 梯子とか持ってくるしかないんじゃないか?」
「まー、そうするしかねーだろ。まさかお嬢ちゃんに飛び降りろとは言えねーだろ。受け止めそこなったら大変だからよォ」
責任とらされるかもな、とジャイロは言う。
鉄球があれば、木を湾曲させて幹を低くすることもできたのだが。
仕方なく、才人に梯子をもって来てもらう案で、決定する。
「よーしお嬢ちゃん、もーすぐ助けるから、少しそこで待ってな」
ジャイロが声をかける。
「あ、ありがとうございますー」
上から、感謝の言葉が聞こえた。
「あ、あのー。お二人は貴族の方ではないんですよねー?」
「ああー? まーそーだなー。そんな大したもんじゃねーなぁ」
「い、いや、魔法をお使いにならないみたいでしたからー」
魔法を使わないから、貴族じゃない。
そういうことらしい。

「あ、あのー。もしかしてー。この前、召還された使い魔の平民って、あなた達のことですかー?」
「まー、そーみてーだなー」
そして、才人が梯子を持って、駆け戻ってくる。
少女がそれを見て、ほっとした表情を見せた、そのとき。
風が、吹いた。
それは陽気なそよ風にも似て、気持ちよくも感じたものではあったが。
少女の、スカートが。――ぺろり、と、舞い上がる。
それは正面の才人から、とても、よく見え。
真下にいた、ジャイロには、なんのことかわからず。
才人が思わず、「白」と言ったことに。
「――えっ? えっ!? えええっ!?」
あわてて前を押さえつける。だが、腰掛けているものがあまりにも不安定なものだったから。
ずるっ。と、滑り落ちた。
どんっ!! と大きな音が響く。
少女がいて、その下には――ジャイロがいて。
彼がクッションになったおかげで、少女は傷一つ無い。
「だ、大丈夫かよ!?」
才人が駆け寄る。
「あ、はい私は。――あと、この子も」
少女が胸を開けてなにか取り出す。
にゃあ、と泣き声がして――、子猫が一匹、顔を覗かせた。
「もしかして――こいつを、助けるために?」
「ええ。まあ」
てへっ、と少女が舌をだす。
「あの、助けてくださって、本当にありがとうございました。私、シエスタっていいます。あの――あなた、達の」
「俺は才人。平賀才人。……で、君の下で気絶してるのが、ジャイロ」
陽気な日差しの中、才人とシエスタは、お互いに笑いあった。


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