ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

7 働く悪魔、働くメイド

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
7 働く悪魔、働くメイド

こんなに不味い食事は初めてかもしれない。隣に置いてある薄いスープの味がうつったのかと思えるほどだ。
ルイズはのろのろと食事を摂る。食堂の入り口をチラチラと見る。生徒が出入りする。教師が出入りする。
メイドが出入りする。彼女の使い魔を伴って。ナイフとフォークを置き、思わずそちらに首を向ける。
使い魔とメイドは楽しそうに――メイドが笑っているだけで、男はいつもどおりの無表情――話しているのが見て取れる。
呼びかけようとして気づいた。まだ男の名前も知らない。最初に自己紹介の一つもしなさいよ!使い魔なんだから!理不尽な怒りに駆られる。
男がこちらを向く。ルイズも男を睨む。男は目を逸らし、窓の外を見ながら歩いてゆく。メイドと使い魔は厨房に入っていった。
不味い食事が更にまずくなった。

厨房でまかない料理でも食べているのだろう。男はなかなか出てこない。食事を抜けば、度々ああやってメイドの世話になるつもりだろうか?
情けない使い魔だ。そう、情けない。情けない使い魔はメイジの恥であり、これは矯正しなくてはならないだろう。だがどうやって?
第一に、食事を(ちょっとは)マシなものにすること。これは却下。結局のところ、厨房に指示して、そのとおり作らせる事になる。
これでは感謝の気持ちが厨房に向くだけだ。そもそもあの男に、感謝の気持ちがあるのだろうか?
第二。質素な食事でもありがたがるまで、調教して調教して調教しまくる。これも却下だろう。あの図体と全身の傷。ここに来るまでに何をしていたのか。
乗馬用の鞭で叩いたところで、こたえそうにない。魔法を使うか?それこそ却下だ。使えない爆発を見せれば見せるほど、尊厳は右肩下がりだ。
第三は…魔法の実力をつけ、使い魔に崇められ、尊敬される様なメイジになる。確実なはずだが、出来るのかと言われれば答えに詰まる。

ルイズは様々な可能性を頭の中で転がす。最終的なビジョンが無いために、転がすだけに留まっている。使い魔を屈服させたいのか、信頼されたいのか、さもなければ――なんだろう?
とりあえず名前を聞こう。何をするにも、そこから始めなければ。結論を出して気が楽になる。ロクに手をつけていないメインディッシュに取り掛かる。
周りはもうほとんどが食事を終えて、歓談に興じている。ルイズはひときわ盛り上がっている食堂手前、入り口側を見る。数人の二年男子がかたまっている。
フリルつきのシャツを着た、金髪巻き毛の美男子が輪の中心のようだ。ギーシュ・ド・グラモンとその取り巻きだ。

「なあ、ギーシュ!お前、今は誰と付き合ってるんだよ!」 油で固めて三叉に尖らせた髪形の生徒が、同じくらいに尖らせた口で聞く。
「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」 隣国アルビオンの有名な、赤い軍艦の名を胸に刺繍している固太りの男子が重ねて聞く。
中央でゆったりと足を組むギーシュは、目を閉じて答える
「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 スッと唇の前に指を立てる。

気恥ずかしさに追い立てられるように目を逸らす。反対側を向く。厨房の扉が目に入る。何かが扉の下をくぐって、食堂に来る。なんだ?ナイフとフォークを置き、凝視する。
匍匐によって扉をくぐり抜けたそれは、全長10サント程の、赤土で出来たゴーレムだった。胴部分に何重にも紐を巻いているようだ。
ミセス・シュヴルーズが使役しているのか?
周りを見る。自分以外に気づいている者はいない。食事が終わった後に厨房に目を向ける人などいない。中階を見る。教師陣に混じって彼女の姿が見える。気づいていない。
再びゴーレムを見る。巻いていた紐を解き、クルクルと縦に回している。壁に作りつけられている燭台に向かって投げ上げる。
なにかがチカリと光った。紐の先端に小さな石がくくられている。それが光源だろうか。ゴーレムは燭台に絡みついた紐――どうやら、その辺にあった布を裂いた物――をスルスルと登ってゆく。
登りきったゴーレムは、油皿に立ち、食堂を見回しているようだ。そんな姿をルイズは微笑ましく思う。
あれは誰かの使い魔なのだろうか?誰かを探しているのだろうか?どうやら見つからなかったらしく、がっくりと肩を落とす。

肩を落とす?さっきまでの微笑ましさが消える。なんだあれは。まるで生物のようだ。それも人間のような動作を……。
そんなルイズの視線に気づいているのかいないのか、ゴーレムは引っかかった紐をまとめている。石を外して折りたたみ、厚くする。
燭台の上から真下に向かって落とし、その上にゴーレム自体も飛び降りる。ますますあやしい。怪我を恐れているような行動。
布をわきに追いやり、大テーブルに近づいてくるゴーレム。何を探しているんだ?
ルイズはテーブルの下を覗き込む。ゴーレムは左右に首を振りながら小走りで端から端まで駆け抜け、次は隣の3年のテーブルへ走ってゆこうとした。

そのとき、ゴーレムが何かに反応したように180度首をねじる。向かう先には多数の足のほかに、床をゆっくり転がるビンがある。たった今落ちたようだ。
顔をあげてみると、そこはギーシュとその取り巻きのグループだった。話は更に盛り上がっているようだ。ギーシュが何か言うたびに、周囲から嘆息の声があがる。落ちたビンに気づくものはいない。
もう一度机の下を覗き込むルイズ。ギーシュの足まわりをみたが、それしか見えない。あいつはどこに行った?
すぐ後ろからゴロゴロと小さく音が聞こえる。ルイズは(机の下で)あわてて向きを変える。
ゴーレムがビンを転がして、今しも遠ざかって行くところだった。手を伸ばすが掴まえられない。せめて目で追う。
ビンを強く突き飛ばし、その後を追うゴーレム。厨房の扉の下に、両者とも消えてゆく。

なんだったんだろう?ルイズは立ち上がる。食堂の隅に行き、残された紐を手に取る。使い魔が纏っていたボロ布と同じもののようだが……。

厨房の扉が普通に開き、さっき使い魔をつれて厨房に入っていったメイドがあわてた様子で歩く。手にはさっき厨房へ入っていったビンを持っている。ゴーレムは?見当たらない。
ギーシュのもとへたどり着いたメイドは、恐縮した様子でビンを返す。それを見た友人が騒ぎ始める。
「おお? その香水は、もしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」 尖った少年が目ざとく言う。
「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」 固太りの少年が補うようにわめく。
「そいつが、ギーシュ、お前のポケットからさっき落ちたってことは、つまりお前は今、モンモランシーとつきあっている。そうだな?」 メガネを掛けたさえない顔の少年が、女のような声で止めを刺す。
ギーシュはなにか反論(弁解?)を行っている。しかし、回りの少年達に声量で押し切られる。
彼の後ろの席に座っていた、茶色いマントの少女がたちあがる。ギーシュに向き直り、泣き、頬を張り、去ってゆく。
ギーシュは頬をさすっている。今度は同じ学年の女子が立ち上がる。口論にもならない口論が始まり、終わる。テーブルの上のワインが、女子によって掴み取られる。中身がギーシュの頭にそそがれる。
女子――モンモランシー――は怒鳴り、去ってゆく。

ギーシュは顔を拭き、メイドに向き直る。足を組みなおし、高圧的な態度で語りかける。メイドの顔色が変わる。地面にうずくまるようにして謝罪するが、許されないようだ。
救いを求めるような目でこちらを見るメイド。ルイズに心当たりはない。今日の昼食中に初めて顔を覚えたのだ。
メイドが見ているのは自分ではなかった。背後に立つ気配に振り向く。使い魔が立っていた。
「紐、返してくれ」 使い魔が手を出す。紐を渡す。
「なんなのよ」 とりあえず反発してしまう。
無言で左手に持った人形に紐を通す男。さっきのゴーレムだ。生命力の片鱗も見られない。紐を通し終わると、男は首飾りのようにそれを下げた。

使い魔がギーシュの所へ行く。謝るのだろう。一緒について行くべきかとも思ったが。あのキザな仕草でバカにされるのも腹が立つ。
そうこうしているうちに使い魔がギーシュの前に立つ。メイドを立たせる。二言三言会話すると、周りの少年達が笑う。
ギーシュの顔に赤みが差す。立ち上がり、何事か告げる。マントを翻し、立ち去る。取り巻きの少年達以外にも、多数の生徒が後を追う。一人がテーブルに残る。見張っているようだ。何故?
男とメイドが話す。メイドが走って逃げる。何故?
使い魔のもとに駆け寄る。
「なんの騒ぎよ?」 睨み付ける。答えは無い。一人残った生徒が言う。
「ヴェストリの広場で決闘だよ」 ルイズは何を言っているのか、その瞬間理解できなかった。料理は完全に冷めている。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー