ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

砕けない使い魔-12

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匿名ユーザー

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「…フンッ なんか知らないが!
 知恵をつけたサルのように自信を持ったものだなァ――使い魔君ッ」
血だらけなのにひるむ様子を見せない仗助にすこしたじろいだギーシュだったが
自らの勝ちは揺らぐまい! その確信は変わらなかった
「…やってみろよぉ――『レビテーション』をよ…グラモンさんよ…」
「そうか反省したいか! ならばくらえ『レビテーション』ッ」
ギーシュは杖を振り上げて自ら編み出した必勝パターンに再びハメようとした
…はずだった!
たしかに奴に魔法はかけた 浮き上がるレビテーションの魔法をだ
そしてたしかに浮かび上がっていった… 事実だけ見ればその通りだった
一瞬、浮かび上がったのをギーシュも確かに目撃した
だが次の瞬間 仗助はそこにいなかった
何があったか、すぐに検討のついたギーシュだったが!
「…バカなッ」
キュルケとの戦いであれだけ何度もやっていたのだ
あの対策も含めてのレビテーション殺法である
やつのアレは精密性には欠けていたのではなかったか?
だから身体を不安定に浮かせてやれば無力化できるはずではないのか?
それが…なんだ? なんだ、あの『ゴーレム』は?

ドドッ ギュンッ ギュンッ

飛び始めたが一直線! モノスゴイ速さで遠ざかっていく 壁に向かって!
そして壁を蹴り地面を蹴り ジグザグ走行で迫ってくるッ 土煙をまきちらしながら!
今ようやくわかった 『見えない拳』はあの『ゴーレム』だ
やつが身体の中に飼っているアレが第二の手足のように殴ったり蹴ったりしていたのだ
どうして今いきなり見えるようになったかは知らないが そんなことはどうでもいいッ
右ッ! 左ッ!
やつは視界を外れながら接近してくる
いくら魔法でも「見ていない」ものを飛ばすことなんぞできない
仮に見えても速すぎる なんてこと 対策されてしまったッ
「だが決定打をぶち込むにはッ 近づいてくるしかないよなぁ――ッ!!
 ぼくのワルキューレの獲物はランス…」
「ドラァ!」

ドゴワ メココォ ベキッ

「ふぐげぇ――ッ」

ドシャアッ

側面から軽快なステップで飛んできた仗助から飛び出す『ゴーレム』の拳は
ワルキューレの顔面と右腕と脇をしたたかにえぐり ギーシュもろとも殴り飛ばした
鼻血噴出! 鼻(ハガ)の骨(フニ)が折れた
(…そっかぁー ぼくはバカかァ―――?
 ぼくにまっすぐ向かってくるしかなかったからこそのランスだったわけでぇ――)
必死で魔法を繰り、ワルキューレを立ち上がらせ
武器を構えさせたギーシュは絶望する
「取り回しが悪すぎるッ どうにもならない!」
「ドラドラァ」

メシ ビキビシッ グシァ

みっともなく尻で後じさっている目前でワルキューレがクズ鉄と化してゆく
一撃でバラバラにぶっ飛ばしてしまうほどのパワーはないようだが なんという数を打ち込んでくるのだ
全身へこみヒビ割れだらけの青銅人形にもはや戦闘能力は無いッ
だがギーシュはこれに頼るしかない なぜなら…
(こんなブザマをさらすとは思わなかったが!
 必殺のカードは未だ! ぼくの背後に伏せられている―――
 カウントダウンして待ちかまえてやろう そうだ、そのまま…来い)

あまりの逆転劇にボーゼンとしているのはルイズ
使い魔から現れたゴーレム(?)がギーシュのワルキューレをぶちのめしていく
自分のゲンコツにもピリピリひびいてくるようだ 青銅を殴る音響と反動が…
「いたたっ…」
はずれた右腕の間接にもさわって、つらい
わたしでこうなら、あんな血まみれで戦ってるあいつは…
旗色がよくなったのは喜んでやってもいいけど、このままじゃ死んでしまうわ
もーまったく! どこまで手間かけさせる気なのよッ こんなの絶対おかしいわよ
どーして呼び出した使い魔にここまで困らされなきゃいけないの? 理不尽じゃないッ
野次馬こいてるクラスメートたちの方へヨタヨタと駆け出すルイズはこの瞬間 内職倍増が決定していた
そこに目ざとくやってきたのはキュルケ…なによそのウレシそうな顔は?
「あら、なかなか絵になるカッコじゃない」
「っるさいわね! イヤミなんか聞いてるヒマないのよッ」
「またお金貸しなさいって? フフフ」
「このままじゃ、そのっ…元も子もなくなっちゃうじゃない あんたも、わたしもッ」
「いいけど… ちゃんと返しなさいね、でないと」
「くどいのよ!」
期日までに返せなければ わたしの使い魔はツェルプストーにとられる
そういう約束でお金を貸されたのだ ハイと言うしかなかった
使い魔が起こした騒ぎの賠償金でわたしの財布はスッカラカンになり
治療に使えるお金が残らなかったのだ 屈辱だわ ムカツクわッ
そう 治療にはお金がいるのよ だからまた借りるのよ
考えてみればプライドなんかとっくの昔に売り飛ばしてたわね ああまったく!

さっさと他のみんなに終わった後の治療を頼んで回らなきゃ わたしじゃどうにもならないってわかりきってるもの
あああ くやしい くやしい くやしい 痛いけど泣いてやらない バカにされたくないものッ
「…どこ行くの? タバサ」
キュルケの声に振り返ってみた
一番いそうにない野次馬がいたことに今、気がついた
タバサ…何を考えているかワカンナイやつ
聞いた話だとシュヴァリエ…騎士の称号を持っているらしいけど
めったに口をきかないから、わたし自身は全然知らない
でも、そのあとの言葉は軽く扱えなかった
「決闘が汚されている」
「え?」
「だまし討ちで殺すつもりなら、これは決闘じゃない」
タバサは杖を引き抜いた





「…クッ、ハハハ、見事だね使い魔君 実力を隠していたか」
「知らねぇーよ テメーにゃプッツンしてるッスからなぁー
 それだけか? 自慢のワルキューレさんはよォォ――」
「さあね、フフフ…右かな? 左かな?
 まだまだ土の中に隠れているかもしれないぜ?」

「そーっすかァ― だったら今すぐテメーを秒殺すりゃー問題ねーって話だなぁ――」
「やれるものならきたまえよ! きたない鳥の巣頭君!」

プププッチ――ン

「クレイジー・ダイヤモンド!」
「ワルキュゥゥーレッ!」
仗助の身体からクレイジー・ダイヤモンドが飛び出す
天の平たい兜 筋骨隆々の肢体にハート状のプレート装甲!
全身の姿がギーシュに襲いかかっていく
そこへ割り込む半壊したワルキューレに向かって十数発の鉄拳がめり込んだ
「ドララァァ―――ッ」

バキ ワシャ メコ グラシャア!

今度は耐えきれなかった バラバラに砕け散るワルキューレ
その後ろをギーシュは魔法で滑空していく
むろん仗助はすかさず追いかけた クレイジー・ダイヤモンドの脚力で真正面へダッシュ!
ぶちキレたなら細かいことは考えない 胸ぐらつかみ上げてレビテーション封じてやる
そのはずだったがヤツの目前! ふみこんだ瞬間足が沈む!
「こ こいつはッ」
「ハハハッハァ――― キミという男は進歩がないィィィ―――ッ!!
 すでにヴェルダンデに掘らせておいたのだッ」

浅く掘った落とし穴! あのときと同じでハマッたものの足首をあっさりへし折る!
「そして死ね!! ワルキューレはぼくの背後、六体いたッ!!」

ズボボ ガシャ シャ ギシャ

土から顔を出した六体のワルキューレが頭上に思い思いの武器を突きだし槍ブスマを形成!
ギーシュが横にチョイとかわせば つんのめった仗助はメッタ刺し!
だがすぐにわかること…考えが甘かったのは
そう、真に考えが甘かったのは!
「ドラァ!!」

バギ メシャア

仗助にはギーシュの顔面をぶん殴ることしか頭になかった 最初から!
クレイジー・ダイヤモンドで四、五発殴って 結果的に反動で前のめりを回避!
そして、脱出しかけたところをぶっ飛ばされたギーシュは
「ふん、が、ぐっぐ…おげぇ」
自分で用意した槍ブスマに背中から突っ込んでいた
左肩、右胸、下腹を剣や槍が貫通! あわれ右足に至っては切断されて向こう側に飛んでいっていた
勝負ありだったが野次馬もわくどころではない
誰も、こんなものを見に来たわけではないのだから…
「なんつー、えげつねぇものを…まじに殺す気だったのか? てめぇ…」

またも折れた足首を引きずって 仗助はずりずりとギーシュに向かう
警官である祖父に聞いたことがあった ひどいケガをした人間は死ぬ間際、全身が痙攣(けいれん)すると…
すでに、それが始まろうとしているのだ
一歩間違えば、今ああなっていたのはオレだった
こいつはそういうことをやらかした 自業自得ってやつだ
「…でも、オレはイヤだね」
クレイジー・ダイヤモンドは壊れたものをなおす能力
さわるだけでこいつを助けることができる…
這いずって、やっと、さわれた
身体から槍や剣が抜け落ちて、ふっ飛んだ足も血溜まりも元の通り、何ごともない
これでよし 仗助はその場にばったりと倒れ伏した
なんか、今までみなぎってた力が一気にぬけてくみてぇだ
…だれか、駆け寄ってくるな?
「お、おまえ…使えるんじゃない、治癒の魔法!」
「ああ、おめーかよ」
「バカじゃないの? どうして自分に使わないのよ、死ぬわよ、おまえッ」
イテテテッ、ムリヤリ頭を起こすな 身体ひっくり返すな
そんでもって耳元で怒鳴るな! キズにひびくじゃねーか…
腹の中で不平をタレまくりながらも仗助はちゃんと答えてやる
「…オレの力は、自分自身には使えない
 よくわかんねーけど、そういうルールらしい」

「っ…だったら、だったで!
 どうしてこんなヤツを助けるのに使うのよ!
 おまえをだまし討ちで殺そうとしたサイテーのヤツじゃない」
「オレは人殺しはイヤだね! …それによ」
ギーシュの方へガンバって首を向けてみる仗助
「死んだら反省できねーだろーがよ、こいつ」
…あ、いつの間にか これっていわゆるヒザマクラ?
ルイズに首を向け直す最中 ふと仗助は気づいてしまった
そういやこいつ さっき片腕壊してたっけ オレをかばってよ…
まあいいや 役得、役得 ザマミロ! ヤワラケー! タマンネー!

ゴスン

なにか伝わってしまったらしい
一気にムスッとしたルイズは仗助の頭を地面に落っことし
今度は左腕を肩に回そうとしてきた
「このドスケベ使い魔」
「イテテ…ンだよ、オレは使い魔じゃねぇーぞ」
「黙んなさい、これからおまえを治療しなきゃいけないのよ
 …重い~ 自分でも立ちなさいよッ」
「ムチャ言うな、折れてんだよ…」
文句は言うがよ、今はこいつの肩でも借りるしかないな…
仗助の右腕もまた、ルイズの背にかかっていた

:東方仗助
この後ルイズのクラスメート達からの集中治療で応急手当完了
翌日、騒ぎを聞きつけた教員から全員そろって怒られた上でちゃんとした治療を受けた
全身包帯まみれに逆戻り

:ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール
仗助とともに治療を受け、翌日一緒に怒られる
かなり不本意だったが、ここはご主人様の情け深さを示してやることに

:ルイズのクラスメートたち
治療代を請求したものは誰もいなかった

:キュルケ・フォン・ツェルプストー
ルイズの借金が増えなかったことに苦笑混じりの舌打ち
怒られる最中も終始楽しそうだった

:ギーシュ・ド・グラモン
翌日の昼食時にはすでにひとりだった
彼のまわりには誰一人近寄らなかった

:タバサ

「………」
出る幕はなかった 杖をしまって引き返す
ドット以下とはいえ 治療する人数があれだけいるのだ
自分があえて出て行って目立つ必要もない…
目立ちたくもないのに助太刀などしようと思ったのは
なんのことはない 相手を下に見て虐げるやり口に吐き気を感じただけだった
「あの女」の趣味とまるで一緒のこぎたない企みをにぎりつぶしてやるのに
大してリスクを感じなかったからである
そう…ギーシュの用意した、あの槍ブスマ
あれはルイズの使い魔に『拳と槍の勝負』を持ちかけたときに使うはずだったものだ
だました上で冷静さを奪い、バカ正直に突っ込んできたところを串刺し!
それが悪いとは言わないが、何が名誉をかけた決闘だ
単におまえは相手の生命をオモチャにして遊んでいるだけだろうがッ
そんなやつが勝利する高笑いを想像したらムカついた
自力でそれをひっくり返してみせた、あのルイズの使い魔は
ずいぶん久しぶりに『痛快』な気分というのを思い出させてくれたが…問題はその後だ
「癒しの…力…あれほどの
 死人さえも生き返しかねない…」
「…?」
物陰から見ていたコルベールに、たった今気がつく
はからずも自分の考え事と同じようだった

「…あなたもいたのですか、こんな時間に…
 はやく寝なさい… 叱るのは明日にしますから」
ぶつくさ言いながら去っていくコルベールに背を向け
タバサはむやみに歩調を強めた
おぼれる者のつかむ藁を得たのだ!

(あの力だったら…もしかしたら)




青銅のギーシュの巻(完)


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