ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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「ド・ロレーヌ! そっちに平民はいたかい?」
「いや、こっちにはいないよマリコルヌ。今度はあっちを探してみよう」
「そうだね。……それにしても、どこ行っちゃったのかなあ、ギーシュのやつ」
少年達がそう言いながら、まだ見ていない場所を捜索するために駆け出す。
彼らが去った場所には、誰もいなかった、はずだが。
耳を澄ませば、彼らにも。僅かに風を巻きこみ、回転する――、鉄球の音を、聞き取れたかもしれない。
ジャイロは、まさにこの場所にいた。
人が隠れることなどできそうに無い細い木があっただけの場所――そんなところで、どうやって隠れていたのだろう。
“回転”は無限の可能性を秘めている――そう、信じるに足るだけの、事実が、そこで起きていた。
細い木に回転の力を与え、自分のまわりに巻きつかせた。さながら、宿り木が幹に、蔦をからませるように。
やがて誰もいなくなったことを確認し……ジャイロは、鉄球を木から離す。
力を失った木は、ゆっくりとほどけるように、元の真っ直ぐな形へと……戻っていった。
とりあえずはこの場は凌いだ。……しかし。
「やっべえ~……。すっかり囲まれてんじゃねえのかぁオイ」
最悪の事態である。逃げようとしているのに、逃すまいと追われている。
しかも、全方向から。
このままうろちょろしていては、即座に見つかるだろう。
だが、まごまごとしていても、やはり同じことだ。
突破口を切り開かねばならない。……だが、どうやって。
そしてここから脱出できたとしても。
何処に――、行けばいいというのか。
考えなければならないことは山ほどあるが。その全てに正面から取り掛かるには、時間が圧倒的に足りない。
まあとにかく――、まずは、逃げるか。
あれこれ小難しく考えるのは性に合わない、彼らしい結論ではあったが。
少々、遅かった。
「――みぃつけたぁ♪」
嬉しそうに、降りかかる声。それは自分の――真上から。
彼は見上げる。
赤く、長い髪の女が、彼を見て微笑む。
その後ろには、青く短い髪の少女が、無表情で、彼を見下ろしていた。
そして、その二人ともが。……宙に浮いていた。

「こんにちは、平民。こうやって直に話すのは初めてね。あたしはキュルケ。キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。よろしくね」
ジャイロの前方にそう、名乗った女が降りてくる。
そして彼の後ろに、もう一人が、降り立った。
「そっちの無口の子はタバサっていうの。無愛想だけど、読書の邪魔さえしなければ何もしないいい子よ」
タバサ、と紹介された少女は、それでもやはり――無言でジャイロを見つめている。
「ほー。なーるほど、オメーさん方の名前はよっくわかった。……ついでに、さっきの能力も解説してくれると助かるんだがよォ」
すでに、ホルダーから両手に、鉄球は握っていた。
そして自分に近い距離にいたキュルケに対し――、いつでも、動ける用意をする。
「能力? なんのハナシ?」
キュルケがきょとんとする。言われている意味が、わからない。
「とぼけんなよオメー。さっき空中に浮いてただろーが。それがオメーさんか、それとも後ろのヤツの能力かって聞いてんだよ」
「ああアレ? あんなの、初歩の“浮遊”の魔法に決まってるじゃない。そっか、見たこと無いのねー。さっすがルイズの呼び出した平民」
もの知らずねーとキュルケは笑う。
「魔法ォだあ? チチンプイプイでもアブラカタブラでも構わねえが、そりゃ説明する気はねえってことで判断していいんだな」
「もう。本当にわからず屋ねえ。だから浮遊の魔法って言ってるじゃない」
「……キュルケ」
タバサが声をかける。
それと同時だった。
キュルケの腹部めがけて――ジャイロが、鉄球を放ったのは。
鉄球は、相手が女――しかも、若年ということで手加減はしてあったが、鳩尾に入れば昏倒させることは可能な威力だった。――届けば、だが。
「フレイム!」
キュルケが叫ぶ。その声に応えるように、背後から、大きなトカゲが顔を覗かせた。
そして――、業火とも呼べる大炎の息を吐く。
鉄球が燃やされる。高熱にさらされ、焦げて焼け付き、溶けていく。
それは、キュルケに触れることなく、遥か手前で、尽きて消えた。

「んなぁっ!?」
ジャイロがげっ、と息を吐く。
スタンド攻撃にしちゃ、ずいぶん直接的な攻撃をする女じゃねえか、と思った。
「ありがとうフレイム。うーん、もう大好きぃ」
よーちよちよちよちよちよちよちよちよちよちよちよちよち と、キュルケは自らの使い魔を抱きしめて撫で回す。
「おい! なんだあそのトカゲはよォー。どこの怪獣だよオイ」
「失礼ねー。怪獣じゃなくて使い魔。あたしの使い魔よ。とっても優秀なの」
フレイムを抱きしめたまま、キュルケが答える。
「使い魔、だぁ?」
「そーよ。あなたと同じね」
「オレはそんな趣味悪い芸なんて持っちゃいねえ」
「あらそう……。でも、あたしは貴方に興味を持ったわ」
そう言って、フレイムから離れると、キュルケはジャイロに近づいていく。
「あたしの二つ名は“微熱”……もうさっきから疼いて仕方ないわ。だって貴方……。とっても素敵なんですもの。……ワイルドで」
なぜか身をよじらせて接近するキュルケ。
「野性味がある男って……、とっても、そそられるわ。ルイズが呼び出したってところが、減点だけど」
……助力するつもりじゃなかったのね。
と、真昼の奥様貴族御用達のメロドラマ小説の一コマのような風景に、そんな感想を、タバサは持った。
「ねえ……貴方。これからあたしと……燃えるような一時を、楽しんで……みない?」
つい、と人差し指で彼の唇をなぞるキュルケ。もうその瞳は潤んでいる。
「あのおチビちゃんと違って腫れてるとこはしっかり腫れてるがな……。男と女ってーのは、そんな安っぽいもんでもねえだろ、お譲ちゃん」
キュルケは過信していた。
自分は魔法使い。相手は平民。たとえこんな至近距離でも。力づくなら、どうとでも対処できる、と。
確かに左手の鉄球は燃え尽きたが。
キュルケから死角にある右の手には――、まだ勢い衰えぬ鉄球が、静かに、渦巻いていることを。彼女は――知らない。
それを彼女の腹部に押し当てさえすれば――彼女を気絶させることも、容易にできる。
そう、彼は確信している。
自らが持つ技術を、絶対に――信頼できる。
右手が動く。刹那の瞬間で、彼女を昏倒させるために。

その一撃は――、空を切った。
後方で顛末を見ていたタバサが、キュルケを助けるために、魔法を放ったからだ。
風の魔法でジャイロをふっ飛ばし――、壁に叩きつける。
風とは、大気の圧力に他ならない。
ならばいま、彼は、台風の牢獄の中にいるのと――同じことではないか。
「う、うおおっ!? こ、こいつは?!」
腕も足も、五体全てが自由に動かせず、タバサに対して振り上げた右手が恐るべき圧力でそのままの形で固定される。
「ひゅう、やるじゃんタバサ」
キュルケが口笛を吹く。ジャイロもまた、見誤った。
ここで一番注意すべきだったのは、この少女だったことに。
――じゃり、と土と草を、乱暴に踏みしめる音がした。
息も絶え絶えに、相当走ってきただろうと思わせるような肌色。
そして、疲れに反比例して、蓄積された怒りに、一同が気付く。
「……はぁ、はぁ。……はぁ。……や、やっと、追いついたわよこの大バカ使い魔ああぁぁっ!!」
怒りに身を染めた、ルイズがそこにいた。
「……よ、よぉ、元気そうだなおチビちゃん」
絶体絶命とは、このことだろうな、とジャイロは思った。
色仕掛けの女、無口なメガネ少女、それと――、ヒステリー女。
男が勝てない種類の女が3人そろい踏みである。
オレはもう駄目かもな。……すまない、ジョニィ、マルコ。 と、一時は覚悟を決めた彼ではあったが。
「タバサ……魔法解いて」
ルイズが荒い呼吸のまま、そう言うと、タバサは小さく頷いて、構えた杖を下ろし、なにやら呟く。
それと同時に、彼の束縛が解け、さらに同時に、ルイズに乗りかかられた。
「はぁ、はぁ……や、やっと捕まえたわよ! もう、逃がさないんだから! あと誰がチビよ!」
「よぉ。まあ落ち着けって。息ぐらい整えろ」
「あんたと契約してからそうさせてもらうわ」
そう言って、有無を言わさずルイズが顔を近づける。

「なあ、ちょいとばっかし確認すんだがよ」
「あとにして」
「その――、まあ、ちゅーすると、契約ってのができるんだって?」
「だからいまやるってば!」
「いや、だからよ。もうその必要は――、ねえと思ってな」
「どういう意味?」
「こういうことだぜ、ニョホ」
そう言うと、ジャイロは自分の右手に嵌めていた布地の手甲を剥ぐ。
そこにあったのは――、奇妙な形の、紋章だった。
「え? え? ええっ!?」
「だからよぉー。さっきオメー、もう一人と契約しただろ。そんときにな……出てきた、みたいなんだがよ」
これは、彼のハッタリである。
彼がいま見せた“紋章らしきもの”は、彼自身が浮かび上がらせていた。
彼の右肩の付け根。その後ろで、しゅるしゅると回転している、鉄球によって。
そこまでして、使い魔を拒絶しようとしたのは。
彼が何としてでも、元の世界に戻るという、決意をしていたからに他ならない。
その甲斐あって……ルイズは彼と、本来の契約を破棄する。
そしてそのせいで。
「……ぷっ。くく……。じゃ、じゃあなに? ルイズ、もう契約している使い魔に、に、逃げられ……」
あーはっはっは。とキュルケがお腹を抱えて大爆笑する。
それを背後から聞いて。涙目で唇を噛み締め、顔を真っ赤にしたルイズが。
「な、な、な……なんなのよそれぇーーーーーーっ!!」
倒れたジャイロの鳩尾を思いっ切りストンピングし、ジャイロもまた、意識を失うのであった。


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