ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

5 光る石、飛ぶ石

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
5 光る石、飛ぶ石

朝食を上機嫌で済ませた男を不振の横目で見やりつつ、ルイズは午前の授業に向かう。
隣を歩く使い魔は、いまだ相好を崩したままだ。何を考えている?あの質素極まりない食事が、それでも喜ばしいものだったのだろうか?
そうかもしれない。男の格好に裏づけが取れたような気分になる。
ロクに洗ってなさそうな髪を三つ編みにしている。上半身はさっき拾ってきたボロ布に馴染んでいる。
下半身は――なんだろう、青黒く染めたパンツをベルトもせずに穿いている。
材質はよくわからないが、穴だらけの硬そうな布だ。足の筋肉に張り付いている。動きづらそうだ。
ルイズはこう結論する。こいつは平民の中でも最下層、物乞いの類なのだろう。今朝の殺気は単なる錯覚に過ぎない。
男の穿いているパンツの縫い目、その偏執的な細かさと規則正しさに目がいっていれば、また違ったことになったかもしれない。
だが、それに気づかず教室へ入るルイズであった。

教室のドアを開けルイズと使い魔が中へ入る。先に来ていた生徒が一斉に振り向く。クスクス笑いがあちこちから漏れる。
ルイズはムッとした顔を隠しもせずに、席の一つに腰掛けた。その後ろに使い魔が座ろうとする。
「ここはね、メイジの席。使い魔は座っちゃダメ」 睨みながら言う。
使い魔は大人しく椅子をどけて床に座ろうとするが、無駄に大きい体がジャマになったらしく、窮屈そうに身じろぎした挙句に結局椅子に

座る。
先に来ていたキュルケがこっちを見て笑うのが見える。まったく、これだから平民は。ルイズは頭を振った。これなら犬でも召喚したほう

がマシだった。
皆が様々な使い魔を連れていた。キュルケのサラマンダーは、椅子の下で眠り込んでいる。
真っ白に彩られた羽毛を持つ鳥を、ちょこんと肩に止まらせている女子生徒もいる。
窓の外から赤青二本の杖を持ったクラゲがこちらを覗いている。男子の一人が口笛を吹くと、そのクラゲは頭を隠した。
しめ縄をされた木柱に取りすがるウナギのような生き物もいた。刃を持つ戦車に乗った目の潰れた蛇もいた。

ルイズが彼らの使い魔と自分のそれと比較して鬱々としていると、扉が開き、教師が入ってきた。
中年の太った女性。紫のローブに身を包み、帽子を被っている。表情は柔らかであり、やさしい雰囲気を漂わせる。
「あいつも魔法使いか」 後ろから声が掛かる。
ルイズはあきれる。椅子に体を深く掛け、若干胸を反らせて後ろに言う。
「当たり前じゃない。それから、魔法使いじゃなくってメイジね」
使い魔は分かったような顔をして頷いている。

教師は教室を時間を掛けて見回すと、満足そうに微笑して言う。
「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって新学期に様々な使い魔たちを見るのが、とても楽し

みなのですよ」
邪気のない言葉にルイズは俯く。
シュヴルーズは俯く少女と、その後ろでシュヴルーズに無感情な視線を送る男を見る。とぼけた声で言う。
「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」
教室中が笑いに包まれる。一人の男子生徒が尻馬に乗り、悪口を浴びせる。ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺の平民をつれて

くるなよ!
ルイズは立ち上がりそれに言い返す。しばしの言い合い――相手の欠点を指摘しあう――の後、男子もまた立ち上がる。
暴力的な空気が流れだした所で、シュヴルーズが杖を振る。二人はすとんと椅子に落ちる。
「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおやめなさい」
みっともないと言われ、ルイズはうなだれる。シュヴルーズが説教を続ける。
「お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。わかりましたか?」
マリコルヌと呼ばれた男子生徒は更に言い返す。僕のかぜっぴきは中傷ですが、ルイズのゼロは事実です。
クスクス笑いが教室に響く。シュヴルーズは厳しい顔で教室を見渡し、杖を振る。笑っていた生徒の口に、赤土の粘土が張り付く。
「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 喋れなくなった生徒に向かってシュヴルーズは言う。
最初かそうしてくれればいいのにと、情けない気もちでルイズは思う。使い魔はなんの反応も示さない。授業が始まる。

授業の内容自体は簡単なものだった。去年のおさらいである。土水風火と虚無の五大魔法系統、その『土』の系統についての基礎知識。
ルイズはぼんやりと授業の内容を聞き流し、ときおり後ろへチラチラ目をやる。
使い魔は頬杖を突き、若干斜めになりながらも授業に聞き入っている。

「それでは、今から皆さんに『土』系統の魔法である、『錬金』の魔法を覚えてもらいます。
一年生の時にできるようになった人もいるでしょうが、基本は大事です。もう一度おさらいすることに致します」
シュヴルーズは机に石を乗せ、手に持った小ぶりな杖を振り上げる。短く、しかしはっきりとルーンを唱える。石が光りだす。
光が収まった。石は、同じ大きさ、同じ形の金属へと変化していた。
ルイズの後ろから唸り声が聞こえてくる。後ろを振り向く。使い魔が前に乗り出している。ルイズに気づく。
「金か?」 教壇へ人差し指を向け聞く。
「指をさすんじゃないの!違うわよ、真鍮よ。ミス・シュヴルーズはトライアングルクラスのメイジだから……」
伸ばした指をはたきつつ、律儀に答える。
「トライアングル?」 オウム返しに使い魔が聞く。
「魔法の系統を足せる数なことよ。それでマイジのレベルが……」
ルイズが懇切丁寧にメイジのランクについてを教える。もちろん顔は後ろを向いている。
シュヴルーズは教師として、当然それを見逃さない。
「ミス・ヴァリエール!おしゃべりをする暇があるのなら、あなたにやってもらいましょう」

罰として、ルイズが錬金をやらされる羽目になった。クラス中が反対する。それがルイズの気持ちを意固地にさせる。
「やります」 緊張した面持ちで立ち上がり、つかつかと教師の元へ歩いてゆく。
「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 シュヴルーズはやさしく言う。ルイズはこっくりとうなづく。
悲鳴と非難が渦巻く。新たに置かれた石を目の前にルイズは精神を集中させる。窓から差し込む光に照らされたその姿は
神々しくまた、愛らしいといっていいものであった。
だが、その姿を見るものはいない。シュヴルーズは目の前の石を見る。ルイズは目を閉じ、ルーンを呟いている。
クラスメートは全員が机と椅子の下に退避する。ルイズの使い魔は、そんな生徒を不思議そうに見る。
杖が振り下ろされ、爆発が石と教壇と生徒と教師を吹き飛ばす。石の破片が飛礫となり、爆風に乗って教室中に突き刺さる。
窓ガラスが割れる。石の机にヒビが入る。
生徒と、彼らの使い魔たちが騒ぎ出す。シュブルーズは失神している。ルイズの使い魔は傷を負い、混乱している。
ルイズ自身は――
「ちょっと失敗したみたいね」 顔についた煤をハンカチで拭き、淡々と言い放った。衣服が破れているが、意に介していない。
クラス中の反発を食らう。ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!
ルイズの視界の端で使い魔が身じろぎするのが見える。何か納得しているような表情だった。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー