ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第七章 双月の輝く夜に-2

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匿名ユーザー

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『フリッグの舞踏会』が開催された夜、酔った人々が寝静まった頃。
リゾットは中庭に一人、佇んでいた。
右手でナイフを抜くと、左手のルーンが輝きを発する。その状態でメタリカを発現してみた。
磁力で地中の鉄分を操作すると、地中から無数のメスが出現した。そのうち一つを自分の手前まで引き寄せると、今度は磁力の反発でメスを飛ばす。
メスは弾かれたように飛び去り、石の壁に深々と刺さった。その状態でさらに磁力を使い、メスを鉄分に戻す。
「………メタリカは身体の一部として扱われているらしいな」
スタンド使いがこのルーンを宿せばみなそうなるのか、それともメタリカが普段、リゾットの肉体に潜んでいるからか、
他にガンダールヴのスタンド使いがいないため不明だが、ルーンによる能力向上はメタリカとそれが発する磁力にも及ぶことが分かった。
肉体ほど飛躍的なパワーアップではないが、それでもリゾットは今後の戦術の幅が大幅に広がったことに満足した。
「……試してみるか」
そう呟くと、リゾットはナイフを握ったまま本塔の壁に手を置き、メタリカを発現した。

ミス・ロングビルこと土くれのフーケは冷たいベッドに横たわっていた。
ここは魔法学院の一室。禁固を目的に作られたわけではないが、手には手枷をはめられ、杖はない。
窓はあるものの、高さから言って魔法を使わなければ届かない。
届いたとしてもオールド・オスマン自らが『固定化』した鉄格子が嵌っている。杖もない以上、脱出はまず不可能だ。
左腕がかゆくなったが、そこらにすりつけて掻くのは我慢する。左腕は既についていた。
オスマン曰く「退職金の代わり」らしい。有難くて涙が出る。
どうせ明日、監獄に送られれば裁判を通して極刑にされることはまず間違いない。
今更左腕の一本あったところでなんだというのだ。だがそれでも掻くのは我慢する。
膿んだら辛い。気を紛らわすために考え事をしてみた。
「大したもんじゃないか…。あいつらは」

考えるのは今日、自分を捕まえた連中のこと。特にあのリゾットという男は只者ではなかった。
途中は優勢だったものの、後は最初から最後まで負けっぱなしだった。
正体を見破られ、途中、追い詰めたときも、あのまま学生たちに逃げられていたらいずれは追い詰められたはずだ。
加えてフーケのゴーレムと剣一本で渡り合う技量、ルイズの魔法をいち早く利用する機転。
どれをとっても卒がなかった。
「何だったのかね…結局」
まあ、どうせもう二度と会わないだろうし、あまり考えても分からないだろう、と結論した。
考えることがなくなると、自分が死ぬことで残される人々のことが浮かんできた。
彼女たちは元気でやっていけるだろうか。

そんなことを考えていると、窓の外から声がした。
「フーケか?」
声に聞き覚えがあった。昼間、散々戦い、さっきまで考えていた男だ。窓に眼をやると、鉄格子の向こうにリゾットが居た。
「何かしら? 女性の部屋に夜更けに来るなんて無粋な男だね」
からかい半分にいってやるが、リゾットは取り合わない。
「お前に聞きたいことがあって来た」
「内容によるけど、言ってみれば? 聞いてあげないこともないよ。茶は出せないけどね」
ふと、フーケは気が付いた。ここは塔の十階で、足場もないはず。
なのに平民のこの男はどうやって窓の外にいるのだろうか。
「お前は……マジックアイテムを集めているそうだが……『破壊の杖』のような雰囲気の用途不明のマジックアイテムを…他にも……持っているのか?」
「いや、見たことないね…」
「そうか……」
声に落胆したような様子はなかった。

「……次の質問だ。フーケ、ここから逃げたくはないか?」
「はぁ?」
予想外の質問に思わず聞き返してしまう。誰が捕まえた人間が逃がしてくれると思うだろうか。
「そりゃあ、できることなら逃げたいけどね。このままだと死刑なんだから。何だい? 逃がしてくれるのかい?」
「条件次第では……な…」
「変な奴だね。今更逃がしてくれるんなら、あの小屋で逃がしてくれりゃ良かったんじゃないか」
「あの時は捕まえる任務があったからな…」
「……ふ~ん…」
今だ目的を計りかね、フーケはリゾットを値踏みするようにみた。
「………まあ、逃がすことになっても、…任務の趣旨は守られる。
 条件の一つは……『逃がす代わりに二度とトリステインで盗みを働かないこと』だ」
「……それを約束したとして、私が守るって保証はあるの?」
「いや、ない……。だが……この条件を反故にするなら『覚悟』を以って破ることだ。俺はお前が盗みを働いたと知った瞬間、自分の責任において、お前を地の果てまででも追いかけて始末する」
フーケはその言葉にやるといったらやる『凄み』を感じた。基本的にフーケのやり方は目立つ。貴族が慌てふためく様を見るのは、趣味でもあるからだ。
目立たない方法でやることもできなくはないが、いずれは土くれのフーケの犯行と広まるだろう。
そして、フーケは二度リゾットと渡り合って勝てる自信はまったくなかった。今のリゾットは昼間のときよりさらに強くなったように見えたのだ。
「……他の条件は?」
「こっちは任意だが…雇われないか?」
「ごめんだね。ヴァリエール家の我侭三女なんぞに使われるのは真っ平だ」
貴族は嫌いだし、『ゼロ』なんて二つ名をもらう無能に使われるのはもっとごめんだった。
まあ、その無能の魔法に負けたのだからあまり大口はたたけないが。
「いや……雇い主はルイズじゃない……。俺個人だ」

「アンタに? …ふざけないで欲しいね。私にこんな風にしたあんたを私は許さない…。
 この土くれのフーケのプライドが、アンタに協力するとでも思ってるの!?」
実のところ、二人とも仕事のために戦っただけなので、お互い、そんなに恨みはない。腕を拾ってきてもらったことに関しては感謝すらしている。
だが、即答すると自分を安売りしてるみたいで嫌なので、フーケは渋って見せた。
「やはり…ノーか。無駄だとは思っていたがな…。仕方ない」
なので、あっさりとリゾットは引き下がり、窓枠から姿を消したので、フーケは焦った。
「えっ、あれ!? そうあっさり引き下がるの? ま、待ってよ。……ねえ! もうちょっと駆け引きしてよ…。
 わかったわよ。前向きに考えるからもうちょっと話を聞かせてよ!」
慌てて引き止める。リゾットが再び姿を現すのを確認し、フーケは溜息をついた。
「立場ないわね…。まあ、いいわ…。人を雇おうって言うんだから、金はあるんだろうね?」
「ある」
窓枠に金貨の袋が置かれた。音からすると悪くない金額が入っているようだ。
「それに雇うといっても仕事は情報収集だ。お前自身の稼ぎの傍らでやってくれればいい」
「自分でやらないのかい? アンタだって裏社会の水には慣れてるだろ?」
「俺はルイズに恩を返すために学院にいるからな……。情報収集する暇はない」
「なるほどね…」
「それに……」
「?」
「『人脈』は一朝一夕では作れないからな」
「ははん、確かにね」
フーケはリゾットの抜け目のなさに舌を巻いた。
情報を得るための人間関係というのはすぐには形成できない。確かなものにするにはそれぞれの信頼が必要なのだ。

フーケを雇い、それを丸ごと使用できるようにするというのは、悪くない手だった。特に嘘を見抜くことができるリゾットならば。
「ま、その辺りの事情は理解したよ。で、どんな情報を集めればいいんだい?」
「一つ目は、『破壊の杖』のような使用法や出所が不明なアイテムに関する情報だ…」
「ふぅん。あれと同じようなアイテムね…。一応、理由を聞いていい?」
「あれは、こことは別の世界……俺が居た世界で作られた品物だ」
言った途端、フーケは胡散臭そうにリゾットを見た。
「はぁ? 別の世界? 頭、大丈夫?」
「……信じようと信じまいと…お前の勝手だ。だが、あれらのアイテムに俺が元の世界に帰るための手がかりがあるかもしれない」
リゾットはこれまでと変わらない、淡々とした調子で告げる。嘘なのか本当なのか判断しかねた。
「ふぅん…。まあ、この場でアンタが嘘をつくメリットはないわね…。真偽はさておき、ああいうアイテムの情報ね。任せといて。職業柄、そういう胡散臭い情報を集めるのは得意よ。で、他には?」
「市井の情報なら何でもいい…。この学院は情報が遅れているし、雰囲気を肌で感じることが出来ない。例えば、近々戦争がありそうな雰囲気だが、それが俺たちに関係あるかどうかも分からない……」
「戦争? ああ、アルビオンの内乱のことだね。…貴族が王に対して反乱を起こしたのさ」
フーケの表情に影のようなものがよぎったが、リゾットはあえて追求しなかった。
「………ところでアルビオンというのは国だったな?」
「そうだよ。大陸でもある。それくらい常識だと思うんだけど……異世界じゃなくても遠くから来たんだね、あんたは」
「異世界から来た。そう言っている」
「じゃ、そういうことにしておくよ。その程度なら本当に片手間で集められるよ」
「……で…返事は?」
この瞬間、フーケの頭の中では損益計算が始まった。

メリット
・命が助かる。
 →これは何事にも変え難い魅力の一つ。
・雇用契約さえ終われば自由の身
 →トリステインでの盗みは控えるにしても、後は勝手にやれる。
・金が手に入る。
 →当座の資金は魅力的。とりあえずの金づるにはなりそうだ。
・リゾットには好奇心が湧く。身近で調べることができるのはそこそこ面白い。
 →人は、どの生命よりも、好奇心が強いから進化したのだッ!(byチョコラータ)
デメリット
・今後、トリステインで盗みの仕事ができない。
 →正体を知られた以上、逃げてもしばらくほとぼりを冷まさなきゃならないし、仕事をするならゲルマニアでもガリアでも行けばいい。
・雇い主に報告を入れるため、行動範囲が制限される
 →おそらくお尋ね者になるだろうが、変装にはそれなりに自信があるし、遠方に逃げたふりをすれば、お膝元にいた方が見付からないかも知れない。
・面倒くさい
 →生活のついででいいと言ってるし、適当にまた酒場のウェイトレスでもすれば勝手に情報は集まるだろう。

…計算完了。
「…悪くない話ね……。引き受けるわ」
「そうか……」
話がまとまったところで、フーケが身を乗り出した。
「それで、どうやって逃がしてくれるんだい?」

そして翌朝…朝もやの中を檻車が通る。その車を遠くに見ながらフーケとリゾットは木立のなかに立っていた。
「簡単なもんだね」
「お前が魔法が使えないと思って油断していたからな……。一応……外からの奇襲には神経を張っていたようだが…、中に入り込まれると弱い…」
実際、計画はあっさりと成功した。メタリカで姿を消して檻車の来る道の脇で待機し、通って来たところで接近する。
そして磁力を使って鍵を物理的に開けたのだ。後はフーケがタイミングを見計らって外に出た。
フーケからみると突然、鍵が開いたのだ。わけが分からなかっただろう。
「ところで、これもはずしてくれると有難いんだけど」
フーケが手枷のはまった両手を掲げた。リゾットは手枷に手を当て、メタリカを使って手枷を鉄分に分解した。
(流石に既存の鉄を解体するのは時間がかかるな……。戦闘ではあまり当にできない…か)
「さっきのといい……。どうやったんだい、アンタ、平民だろ?」
「さあな…」
「やれやれ……。仕方ないね。もっと仲良くなるまで我慢か…。前金はもらうよ」
「ああ……」
リゾットから幾らか金貨を受け取ると、フーケは突然、妙なシナを作った。
「では、これからよろしくお願いしますね、ご主人様」
「その呼び方は止めろ。リゾットでいい」
リゾットがそっけなく返すと、途端にフーケは素に戻った。
「詰まんない奴。少しは機嫌をとってやろうと思ってたのに」
「機嫌を取ろうが取るまいが……、結果さえ出せば文句はいわない…」
「ま、自由でいいけどね。何もなくても週一くらいで定期報告入れに来るから」
さらりというと、フーケは霧の中に消えていった。
「……役に立てばいいんだがな…」
呟いて、リゾットも学院へと歩いていった。
暗殺者と盗賊、二人の結託が何を生むか、あるいは何も生まないのか。この時点では誰もわからない…。

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