ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

3 見えない悪魔、読めない表情

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3 見えない悪魔、読めない表情

なにやら爽快な目覚めだった。なんだろう?風が吹いているからかな?
窓が開いている。その下に半裸の男が――平民で、使い魔だ――座っている。俯いていて表情はわからない。
寝起きに合わせて窓を開けてくれたのだろうか?なかなか気が利く奴だ。名前はなんだっけ…。
いや、まだ名前も聞いていない。朝の第一声が「あんた誰?」はマヌケっぽいけど、まあいいや。

「ねえ」
声を掛けても反応は無い。寝ているのだろうか?
「ねえったら」
ようやくこちらを向く。何か思いつめたような顔をしている。「あのさ、あんた
「ここはどこだ」
発言をさえぎられてルイズは不愉快になる。せっかくの使い魔に対する評価もすぐ地に落ちた。
切羽詰っているのが声から分かる。
どうせ教養の無い平民だ。この建物を見ても自分がどこにいるか分からず、不安で眠れぬ一夜を過ごしたのだろう。
「平民が、貴族にそんな口利いていいと思ってるの?」
そうだ、昨夜寝る前に言ったはずだ。「色々教え込む」と。まずは互いの立場というものをたっぷりと――

「ここは、どこだ」
低く濁った声が部屋に響く。にわかに部屋が薄暗くなったような。雲一つない青空だというのに。
生まれて初めて本能で危険を感じる。目に見えない何物かに首筋に短剣を押しあてられているような感覚。
目の前の男は座ったままだ。何もしていない…ように見える。自分を試すような目つき。明確な敵意は無い、多分。
どうする。折れるべきか、平民相手に。自らの勘のみを頼りに?

「トリステイン魔法学院よ」
結局ルイズは折れた。自らのふがいなさに憤りを覚える。しかし使い魔を見れば、彼もまたルイズの言葉に打ちのめされているようだ。
貴族の学舎へ迷いこんだ、わが身の運命に衝撃を受けているのか?いつの間にかさっきまでの違和感も消えている。
機制を先することができそうだ。なんといっても自分は貴族でありメイジなのだから、使い魔の一匹も使いこなせなくてどうする。
「服」
できるだけ自然に、何気なく命じる。男は一秒ほど経ってから自分に言われた言葉であると理解したようだ。頭の回転は速くはないようだ


椅子に掛かっていた制服を取り、自らの主人に手渡した。
「下着、一番下の引き出しに入ってる」
のろのろとクローゼットに向かい、適当に掴んでよこす。
「服」
男がこっちを見る。
「着せて」
溜息をつきながら、男はしぶしぶブラウスを手に取った。

使い魔と共に部屋を出ると同時に、斜向かいにあるドアが開き、中から赤毛の少女が出てきた。
「おはよう。ルイズ」
無闇に豊満な胸の下に腕を組み、にやにや笑いながら挨拶する少女。対するルイズは顔をしかめる。
「おはよう。キュルケ」
男は無表情のままだった。視線はキュルケと呼ばれた少女に向けられていたが、すぐに興味を失ったかのように逸らされる。
「あなたの使い魔って、それ? 生きてたのね」
キュルケは男を指差し、バカにした口調で言った。男はなおも無表情のまま、辺りを見回している。

ルイズとキュルケは小競り合いを始める。
キュルケは己が使い魔を自慢するように、室内に向かって呼びかける。重い足音と熱気を伴い、虎ほどもある巨大なトカゲが現れた。
男は眉根を寄せた。その燃え盛る尻尾を嫌悪と諦めの入り混じった表情で眺める。
と、場の雰囲気がまた変わる。嫌なイメージが(殺気?)廊下に充満する。
変化に気づいたルイズは男の方を。気づかなかったキュルケは、使い魔のトカゲに向かって振りむく。
燃える火トカゲ――種族名はサラマンダー、固体名はフレイム――は、男の背後の空間に向かい、しきりと威嚇の動作を繰り返していた。
ルイズの使い魔は鼻を鳴らす。何事もなかったかのように朝の光が廊下に差し込む。いや、最初から差し込んでいたはずなのだが。

大人しくなりキュルキュルと鳴くフレイムに手を添えて、キュルケは使い魔と己の自慢を続ける。
召喚呪文が一度で成功したこと、このフレイムは命令に忠実なこと、この鮮やかな尾はブランドものであり、
好事家に見せたなら値段などつかないこと、そして自らの属性「火」にぴったりの素敵な使い魔であること。

ルイズはいちいち「ふーん」とか「あっそ」とか「よかったわね」などと相槌を打っていたが
話題が自分達の仇名に及んだところでた。
「私は『微熱』のキュルケですもの。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなのですわ。
『ゼロ』のあなたと違ってね?」
そう言って得意げに胸を張る。ルイズも負けじと張り返すが、体格差を際立たせるだけの結果に終わった。
キュルケは余裕の笑みを浮かべ、フレイムを連れて去っていった。

取り残されたかのように佇む二人。
ああもう、なんであのバカ女がサラマンダーで、わたしが平民なのよ。ルイズは拳を握り締める。そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか

、男が問いかける。
「さっきの――」「なによ」
「あの女も貴族か」「そうよ。この学院の生徒はみんなそう」
そうか。そう呟いたきり黙り込む男の顔をルイズは覗きこむ。何を考えているのか見当もつかない。自分の使い魔だというのに。
「ああ、そうだ」 男は何かを思い出したように顔をあげる。
「ゼロって、何がだ?」
ルイズを見下ろし、そう問いかける。悪意はなく、純粋な疑問だったが、
「知らなくていいことよ」
にべもなく切り捨てられる。
そうか、ふん。男は呟く。金もゼロ、コネもゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ。
それは自らの境遇を端的に表した言葉だったが、今朝からの出来事で気分を悪くしていた主人にはそうは聞こえなかったらしく、
ゴツッと音がして、先ほどから握りっぱなしだった拳が、男の顎に当たる。
無言の気まずい空気のまま、二人は食堂へ向かう。足音だけが石畳に響く。


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