ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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……才人が、少女との超高回転アクロバッティブキスに直面し、そこから意識を取り戻したころ。
窓の外は、夜になっていた。
ぱちり、と燭台の火が燃えている音を聞く。
手に当たるのは、干草だった。床に無造作に置かれた草の寝床に寝転がったまま、才人はぼんやりと、部屋の天井を眺めていた。
「……よう。起きたのか坊主」
不意に、隣から男の声がしたから、視線を向ける。
そこに……昼間見た、変人が座っていた。
「あ、あんたは……? あれ? あんた、日本語喋れるんじゃないか!」
「いや、俺にはオメーが俺の国の言葉を喋ってるようにしか聞こえねえがな」
そっけなく、簡潔に男は返す。
「なあ、あんた。一体、ここは何処なんだ?」
才人は自分と同じ境遇らしいこの男に問う。
「さーな」
才人には目もくれず、男はあさってを見ながら、実に期待はずれな返答をする。
「まあ、一つだけわかったことがある」

「……何だよ、それ」
「ここは、おとぎの国だってことさ」
そう言って、男は胸を指差す。
つられて、才人も自分の胸に手を当てた。
じゃり、と冷たい感触と、硬い音がする。
見ると――壁から続く鎖が、彼の首にしっかりついている首輪へと、繋がっていた。
「え――、えっ?! な、なんだよこれぇ!?」
「見りゃわかんだろ。鎖だ」
「そんな……! どうしてこんなことされなきゃならないんだよ! 俺が何したってんだ!?」
現状を整理できず、思考が軽く混乱した才人は、男に詰め寄る。
「落ち着けよ……。それでもおめえさん、まだいいほうだぞ。オレなんかな、ほれ」
そう言って、彼は正面を見せる。
首だけじゃない。――両腕と、両足。その全てに鎖が繋がれている。
「ま、鎖だけだからな……ぶっちぎって脱出すりゃいいんだが……、アレを、とられちまったからな……“ワザ”が、使えねえ」
「わざ、って、なんだよ?」
こんな牢屋みたいなところから、すぐ逃げ出せるという“わざ”を、持つ男。
才人は、もしかしてこいつ泥棒? と思った。
「違げぇよ」
「なにも言ってないぞ!」
「オメーの顔でわかんだよ」
なんだよそれ、と、言って、才人はそっぽを向く。
男は――、それを視線で追うこともせず、ぼんやりと、昼間のことを回想していた。

「……ス。……ミス・ルイズ! 大丈夫ですか? しっかりなさい!」
生徒達からコルベール先生、と呼ばれた人物が、ルイズ、と呼ばれた少女を介抱する。
「……う、う~ん。……はっ!? わ、私、一体何を!?」
強烈な衝突事故をおこしたわりには、少女はがばっと体を起こす。
「せ、先生! あの、儀式は! 儀式はどうなりましたか?!」
「……落ち着きなさい、ミス・ルイズ。大丈夫、儀式は成功しましたよ。彼の左手を見なさい」
そう言われて、ルイズは少年の左手を見る。そこには確かに――、使い魔のルーンが刻まれていた。
「儀式は、成功。……ううん、でも、やっぱりこれじゃあなぁ……」
がっくりと肩を落として項垂れる少女に、周りは依然として嘲笑を以て祝福する。
「さあ――。ミス・ルイズ。儀式は半分、成功しました。あとはもう半分行えば、全て完了します」
先生と呼ばれた男が、指を挿す。
――その先は、オレに向けられていた。
少女は最初、はっとした様子だったが、すぐに仇に出会ったかのような顔になると、ずんずんとオレに近づいてくる。
「ちょっとあんた! さっきはよくも舐めた真似してくれたわね! 使い魔の分際で主人に逆らうなんて――躾がなってないわ!」
ビシィ! とささくれだった棒を俺に向け、少女は捲くし立てる。
「だぁれが使い魔だっておチビちゃん。大体オメーは年上に対する言葉がなってねぇーよなぁー」
ニョホホホ、とオレはわざと、挑発にも似た言葉を吐く。
……ピシッ。
少女が顔を引き攣らせ、その瞼はピクピクと痙攣する。

「口の悪さは生まれついてのものかしら? まあ後から矯正してあげるから、不問にしといてあげる。ところであんた」
「あ?」
「名前は?」
「オメーは名乗んねえのか?」
「質問に質問で返したらどうなるかぐらいわかるでしょ! いいからさっさと教えなさいよ! あとすぐに契約するから立って見下すの止めなさい! 届かないでしょ!」
「だが断るっつーんだよぉー、ニョッホホホホホホ」
「こぉのお、つべこべ言わずにさっさと契約しなさーーーーい!」
ヒステリックに飛び掛ったルイズを、ひょいとかわして、オレは走り出す。
地理が全くわからないから、どこに逃げたらよいかもわからないが。
だが――、目的がある。
これが使い切れなかった結果だとしても。ここで立ち止まるわけにはいかない。
――必ず、戻ってみせる。
そのためには――、使い魔なんていう訳のわからん拘束を受けるわけには、いかないってわけだ。
「オラアァァァァァァァッ!!」
“鉄球”を使う。
回転した鉄球を近くにあった木にぶつける! 木は回転によって「く」の字のようにしなって曲がっていく!
その木の先端に、オレは足を乗せた。瞬間! 鉄球はオレの手元に戻り! 木は元に戻ろうとし! 反動によって人間の跳躍では辿り着けない距離を跳ぶ!!
建物の外壁を飛び越え、壁の向こうに行く。
その足が地に着いたとき、遠くから大声を上げながら、少女が怒り心頭で追ってきたが。
逃げ切ってやると、決意して踵を返す。
これが“オレのいた世界”なら、確実に逃げ切っていたと、思うんだが。
ここは――おとぎの国。
考えが甘すぎたことを、オレはすぐに――悟ることになる。


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