ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

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「さすが“ゼロのルイズ”だ! 真逆平民を! 二人も召還するなんて!」
けたたましい笑い声と揶揄の喧騒の、その中心で。
ルイズ、と呼ばれた少女はきつく唇を噛み締め、掌の中にあるささくれだった杖の成れの果てをぐっと握り、嘲りに耐えていた。
――こんな。こんな、はずじゃ。
俯いたその目には、薄く涙を溜めている。だが、誰にも、それは見せない。
……特に、後ろで人一倍、彼女をからかっているキュルケには。
「……コホン。それでは、ミス・ルイズ」
契約の儀式を、完成させなさい。
そう、彼女の先生は言う。
「せ、先生! ミスター・コルベール! 私に、もう一度チャンスを――」
「何を言っているのです。ミス・ルイズ。これは神聖な儀式。一生に一度行うべき重要なものなのです。やり直しなど、許されるものではありません」
とうとうと正論を解かれ、しぶしぶだが彼女は、我が侭を取り下げた。
「さあルイズ。ちゃっちゃとしちゃいなさいな」
「うるさいっ!」
面白い見世物だと囃し立てるキュルケに、怒鳴りながら、ルイズは、自らの使い魔となる、二人の男の前に――立てなかった。
二人の男は、なにやら話しこんでいる。
いや、少年が男に、一方的に話しかけている。
大げさな、身振り手振りを交えて。

少年が目を覚ましたとき。
周りはさっきまで自分がいた風景とは大きくかけ離れていた。
自分を囲んでいる人間達も、流行のファッションなどとは大きくずれていた服装だったし。
そして――、目の前で怖い顔をして仁王立ちしている少女と、目を合わせてはいけないと、本能的に横を向く。
――そこに、自分とは違う男が座っていた。
年齢は自分より上。長髪の金髪で、唇の色が実に奇妙だ。
カウボーイハットを改造すれば、こんな形になるだろうかと思う、これまた奇抜な帽子と服装で。
それになりより、腰にぶら下げた、実に特色のある――球体が目についた。
――変人だ。
そう、少年は思った。
関わるべきじゃない。
そう思い、また別の方向を見ようとしたとき。
男が、なにやら喋った。
それは、いまの少年には、神の神託にも聞こえた。
地獄に蜘蛛の糸が降りてきたカンダタの気分を、心で理解した。
言葉が一つも理解できない異国のど真ん中で、自分が理解できる言葉を話してくれる人がいたのだから。
まあ……。英語、だったのだが。
「あー。……うん。だから――そう、俺は才人。マイネームイズサイト・ヒラガ。ドゥーユーアンダスタン?」
腕を振り回し、大きく動かして、なにやら表現しようとしている少年の前で。
「……あー。悪りぃ。何言ってんのか全然わかんねぇ」
男は、胡坐をかいたまま、見上げた少年の奇行を頬を掻きながら眺めていた。
二人の言葉はルイズにも、周りの生徒にも、彼らの先生にも、理解できない。
だが才人と自らを名乗った少年は、日本語と――、それより表現力が劣る英語を交えながら、なんとかコミュニケーションを図ろうとしていた。
そして目の前の男は。
英語は若干理解できるも、文法が滅茶苦茶で、何を言っているのか全く理解できなかった。
そんな状態が数分も続いていたのだが。
「……あ、あんた達……主人をないがしろにするのも、いいかげんにしなさいよぉ――――っ!!」
自分達の横にいた少女が、突然大声で叫ぶ。
その声に反応し、二人は少女を見た。

唸り声をあげながら威嚇する声は、正に軍用犬のそれ。迂闊に動いたら、噛まれそうだな。と男は思ったのだが。
少年は、そんな少女を意に介さず、男と話を続けようと、また身振り手振りを始めた。
「……だ、だ、……黙れって言ってるじゃないの――――――!!!」
咄嗟にルイズは、後ろにいたキュルケの杖をふんだくると、沈黙の魔法を唱える。
その杖が怒りとともに振るわれ、二人を指し示すと。
……再び、爆発が巻き起こった。
黒煙が舞い上がる爆心地で、仰向けに寝転んで気絶している男達。服のいたるところが破れ、けほけほと、軽く咳き込んでいる少女。
「……ふんっ。やっと大人しくなったじゃないの」
ルイズはそう言うと、まず手始めに、長身のほうを契約しようと近づいた。
膝を折り屈みこみ、仰向けにのびている男の顔に手を添えて、その顔に、自らの顔を近づける。
そして、唇と、唇を重ねること――、それが、契約の儀式。
まさにあと少し、指が数本の距離というところまで近づいて。――ルイズの、動きが止まった。
「あ、あれ? 何で――?」
「寝込みを襲うとは随分大胆だな、お譲ちゃん」
「!? あ、あんた喋れんの!?」
さっきまで理解できない言葉を喋っていた男が、自分達の言葉で話しかけてきた。
ついでに、ニョホ、とおかしな笑い声までたてている。
そして、どんなに力を込めても、前に動いてくれない、彼女の体。その胸元で。
男の腰にぶら下がっていた球体――、鉄の、球が。しゅるるるっと高速で回転していた。
その動きに合わさるように、ルイズの体が捻じれる。首が捻じれる。
「ちょ、ちょ、ちょっと……」
すでに彼女の首は男とは正反対の方向を見ていた。
「あいにく、俺はガキとキスする趣味は無え。そんなにしたきゃ――。あっちでやんな」
彼女を拘束していた鉄球が、彼女の胸元から、離れると、同時に。
「うきゃーーーーーーーーー!!!!」
ルイズの体が、思いっきり吹っ飛んだ。
その、先に。
「……って~。なんなんだよ……ったく……」
「ぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!」
ごいん、と鈍い音。
ルイズと才人は、お互いに顔面を強打しながら、契約の儀式を交わしていた。


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