ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

奇妙なルイズ-14

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匿名ユーザー

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「…それで、その『ゼロのルイズ』が平民を助けたと言うのか」
「ええ、そうよ」
城下町の小さな劇場に、サイレントの魔法で包まれた二人組がいた。
一人は仮面を被った男、もう一人はミス・ロングビルである。
ロングビルが男に話したのは、ルイズに関することだった。

昨日、モット伯の別荘に平民が連れて行かれたのを知った『ゼロのルイズ』は、単身でモット伯の別荘に乗り込んだ。
それを知ったロングビル、タバサ、キュルケの三人は、タバサの使い魔シルフィードに乗り、モット伯の別荘へと急いだ。
途中、馬で逃げようとしたモット伯を発見し、ロングビルが保護。
別荘に向かったルイズはシエスタを背負って屋敷から出てきたが、キュルケとタバサを見るなり気を失った、現在シエスタが看病している。
モット伯を魔法学院で保護しようとしたが、そこにマンティコア隊が現れ、モット伯のバックを没収し、モット伯の身柄は拘束されてしまった。
翌日オールド・オスマンから話を聞くと、モット伯は以前から汚職の件で疑われていたのだと言う。
モット伯が持ち出した書類の中からその証拠が発見され、最低でも身分剥奪は免れないとか。

「…腑に落ちん、『ゼロのルイズ』と呼ばれるメイジが、モット伯に仕えていたメイジと戦い、勝利したというのはな」
「実力を隠してたんじゃないかしら?…それにしても、ずいぶんあの娘のことが気になるのね」
ロングビル…いや、本物の『土くれのフーケ』は、宝物庫でこの男から受けた脅迫を忘れたかのように、男をからかいつつ話を進める。
男は、それがフーケの虚勢だと気づいているのだろうか、男はフーケに言い返した。
「気にしているのはお前の方だろう、平民を助けようとするメイジに、心を乱されているようだな」
「………」
フーケは、何も言い返せなかった。


さて、場面は移り、ここはトリスティン魔法学院の女子寮。
ルイズが目を覚ますと、すでに日は高かく昇り、午後の授業が始まる頃の時間だった。
驚いたルイズはベッドから飛び起き、ベッドから降りようとすると、なぜかベッドの脇に置かれている小さな机に足を引っかけ、盛大に転んでしまった。
どべちーん、と音を立てて、おでこから床に落下したルイズ。
「ルイズ様!」
それを見て驚いたのはメイドのシエスタ。
なぜかルイズの部屋にいたシエスタは、ルイズを助け起こすと、こんな所に机を置いた私が悪いんですと謝り始めた。
そんな事はどうでも良いから、なんでシエスタがここに居るの?と問うルイズ。
謝り続けるシエスタ。
何がなんだか分からずシエスタを慰めるルイズ。
授業が終わり、夕食前にキュルケとタバサがルイズの様子を見に来るまで慰め合戦は続いた。

「それにしてもあんた、凄いじゃない、タバサが感心してたわよ」
「……」
キュルケの言葉に無言で頷くタバサ。
だが、当のルイズは何の話なのか分からず、頭にクエスチョンマークを浮かべた。
何の話なのか質問しようとした時、シエスタがルイズに頭を下げた。
「あの…ルイズ様、助けて頂いて、本当にありがとうございました」
「助けて?…って、あ、そっか、シエスタ!あの変態に何かされてない?大丈夫?」
ルイズはシエスタの一言で、モット伯の別荘で起こったことを思い出した。
「呆れた!ルイズ、あんた今まで自分が何をしたのか忘れてたの?」
キュルケが両手を左右に開き、ジェスチャアを交えつつ、心底呆れたように言う。
そしてタバサはルイズの若年性痴呆症を疑っていた。


ルイズには地下牢でオークに殴られてからの記憶がはっきりしていない。
タバサが言うには、ミス・ロングビルはオールド・オスマン不在の間、学院に異常がないか監視するように言われていた。
夜間外出したルイズを見たロングビルが、マルトーに話を聞き、キュルケとタバサの二人に頼んでルイズを追いかけたそうだ。
破壊された別荘のテラスにルイズとシエスタを発見し、すぐさまシルフィードで助け出したが、ルイズは気を失っていた…という事らしい。

窓から別荘の廊下を見たタバサは、風を使うメイジとルイズが戦ったのではないかと分析した。
キュルケは、ルイズは前兆のない『爆発』を起こせると知っているので、タバサの考えに異論を挟まなかった。
ほかの生徒たちはルイズが何をしたのかまでは知らされていないが、おそらくルイズがほかのメイジと戦えば惨敗すると思っているだろう。
何よりも驚いたのは、オークに立ち向かうルイズの話だ。
杖のないメイジがオークに立ち向かうのは自殺行為と言える、しかし、シエスタを守ろうと自ら危険な役を引き受けたという。
キュルケにとって、ルイズを含むヴァリエール家は宿敵だが、ルイズに対しては友情に近い感覚が芽生えている、すでに彼女は『ヴァリエール』ではなく『ルイズ』と呼んでいるのだから。
もっとも、本人はそれを否定するだろう、素直になれない友人に、少しだけ苦笑いするタバサだった。
「…いけない」
突然、タバサが立ち上がった。
タバサの表情は変わらなかったが、いつになく緊迫した雰囲気が漂っている。
その様子に驚いた三人は、タバサから目が離せなかったが、遠くから響く夕食終了の鐘の音を聞いて、慌てて食堂へと移動した。
「あちゃー、片づけられちゃったわね」
そう言いながらテーブルを見渡すキュルケ。
タバサは誰かが食べ残した食事を見て、自分の好物が無惨にも残されているのに気づき、少し腹が立った。
ルイズも空腹感はあったが、ちょっと疲れているので、いつものコッテリとした夕食を思いだし、食べなくても別に良かったかなと考えた。


そんな三人にシエスタは、おそるおそる話しかける。
「あの、私、料理長に掛け合ってみます」
「いいわよ、遅れたのが悪いんだし、規則は守らなきゃね」
ルイズはシエスタを庇うように言う、そうでもなければシエスタは自分のせいだと思いこんでしまうからだ。
「あら、いいじゃない、たまにはぬるいスープじゃなくて作りたてを食べたいわよ」
「ハシバミ草大盛り」
キュルケとタバサの遠慮のない言葉に苦笑いするルイズだったが、シエスタは嬉しそうに微笑んでいた。
シエスタが交渉する間もなく、ルイズが来たと聞いた料理長によって、三人は厨房へと招かれた。
料理人たちの食事である『まかない』を作っている最中だったが、その香りにキュルケとタバサは鼻をひくつかせた。
「美味しそう」 グー…
タバサが小さく呟くと、タバサのお腹がグーと鳴った。
「何よ、タバサったら食いしんぼ…」 グー…
続いてキュルケのお腹も鳴る。
「二人ともお腹すいてるんじゃない」 グーー
そしてルイズのお腹がひときわ盛大に鳴り響いた。
「あんたが一番」「食いしん坊」
ルイズは、キュルケとタバサに言い返すことも出来ず、顔を真っ赤にした。
「ほっほっほ、お前たちもつまみ食いに来たか?」
厨房の奥から出てきた意外な人物は、三人を見ると嬉しそうに声をかけた。
オールド・オスマンである。
オスマンは三人を厨房の奥のテーブルへと招くと、そこには厨房で働くメイドや料理人達がいた。
オスマンはテーブルの端に座ると、キュルケ、タバサ、シエスタ、ルイズの席を々席に着くように促す。
貴族嫌いのマルトーが仕切る、普段の厨房の様子からは考えられないほど、ルイズ達は好意的に迎えられた。
「ええと、ヴァリエール公爵嬢様、シエスタを助けてくれて、本当に、ありがとうござい…ます」
「ほっほっほ、マルトー、お前が敬語を使ったら雨が降るわい」
オスマンが笑うと、マルトーは頭を振って、少し恥ずかしそうにした。


「ミス・ヴァリエール、魔法学院で学ぶ生徒達は、国家の宝であるとは何度も申しておるな。ここに居る料理人達やメイド達も、魔法学院にとっての宝であることに代わりはない。貴族の横暴によって損なうことなど、決してあってはならん」
料理人やメイド達、そしてルイズ達もオスマンの話を神妙に聞いている。
「魔法学院の長として、ワシからも礼を言わせてもらうぞ、ミス・ヴァリエール。『身分に応じた責任を負う』それがメイジを貴族たらしめる理由じゃ。今回の件は国家預かりになっておるが、ワシは勇気ある行動を尊敬するぞ」
ルイズはオスマンの言葉に驚いた。
ほかの料理人、メイド達までルイズにお礼を言い始めたので、更に驚いた。
今までに感じたことのない、むず痒い気持ちに困惑してしまう。
子供の頃から魔法が使えず、メイジとして失格とまで言われてきた。
しかし今はどうだ、『貴族』として尊敬を受けているのだ。
「さあ、お友達の二人も食べていってくれ、腕によりをかけたんだ!そうだ、おいシエスタ、34年もののワインがあったな、あれを三人に出してくれ」
マルトーが威勢の良い声で料理を作り、そして運ぶ。
次々にテーブルの上を彩っていく料理の数々に、キュルケは素直に感心した。
「何よ、これがまかない料理って奴なの?…美味しいじゃない、あんたたち厨房でこんな美味しいもの食べてるなんてずるいわよ」
タバサも無言で食べ続ける、心なしかいつもよりペースが速いぐらいだ。


「ところでマルトー、せっかくじゃから、ワシの分もワインを…」
「ちょっと、学院長、またミス・ロングビルに怒られますぜ」
「彼女は城下町に用があって出かけておる、酒は別れによし再会によしと言うじゃろう、ここにいるヴァリエールがおらねば、シエスタと再会できなかったかもしれんのじゃぞ?野暮なことを言わずワインを出しなさい」
「そこまで言うなら、アッシも飲ませてもらいますぜ!」
「ベネ!」(良し!)

妙にノリの良い学院長の一言で、全員に振る舞われる酒。
ルイズは、自分が記憶を失っている間に何が起こっていたのか、これから先どうなってしまうのか、姫様から頼まれた用事を前にしてこんな事をして大丈夫だったのか…
等々、いろいろな事が頭を駆けめぐった。

だけど、今はとにかくこの時間を楽しもうとして、ワインをあおった。
ワインは確かに美味しいものだったが、この楽しい雰囲気と、マルトー特製の料理は、酒の肴にするには勿体ないと感じた。

そして飲み過ぎた。

翌日、シエスタは恥ずかしそうに、四人分の布団と下着を洗っていたとかいないとか。

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