ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

『燃えよドラゴンズ・ドリーム その1』

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『燃えよドラゴンズ・ドリーム その1』


どれだけ学院内を探しても見つからないわけだ。
深い緑の中で動く桃色を発見し、空から近寄る。
朝の心地よい風を感じることを忘れ、そして朝食も忘れ、ルイズは草原で本日の予習をしているらしい。
キュルケもシャルロットも色々と忙しいことだろうから、今日は差し入れも無しだ。
「美容と健康のためニャ朝飯食わナきゃダメだゼ……小便も飲めばナオ良しダ」

唇を飛ばされた後遺症は見当たらず、寝不足気味に見えるところを除けばルイズは元気だ。
ドラゴンズ・ドリームはようやく一息ついた。
「こんだけ練習しトきゃ心配ネーな」
皆が失敗したと思い込んでいたが、前回の召喚魔法は成功していた。
ということは今回も成功するはず。
さらにこれだけ予習を重ねば成功しないわけがない。
「ルイズぅー、次もスタンド呼んでクレよな。スタンド使いでもイイケドよォー」
スタンドないしスタンド使いであれば、ドラゴンズ・ドリームを認識することができる。
存在さえ認めてもらえば、正式な使い魔になる方法も見つかる。
知恵物のメイジがこれだけ揃っているのだから、きっと見つかる。

「それはイインだけどよォー、マサカケンゾージジイ召喚シたりシネーだろウな」
ジジイはジジイで困るが、奸悪だったり暴力的な使い魔が召喚されればもっと困る。
ドラゴンズ・ドリームだけでなくルイズも困る。
「ソーいう時は先輩トシテキッチリしめてヤラナきゃあナ」
気や体が弱く、他の使い魔や底意地の悪いメイジからいじめられるようでも困る。
いちいちフォローしてやらなければならないからルイズも困る。
「ソーいう時は先輩トシテ助け舟のヒトツも出してやるゼ」
ルイズに飯を抜かれた時は、シエスタを紹介してやろう。
ルイズの洗濯物を任された時は、洗濯に関して絶対の方角を教えてやろう。

ドラゴンズ・ドリームはまだ見ぬ後輩に思いを馳せていたが、
ルイズにそこまでの余裕は無かった。
どんな形でもいい。とりあえず失敗でなければそれでいい。そう考えているようだ。
プレッシャーとコンプレックスに突き動かされ、
飯を抜き、睡眠時間を削り、脱いだ服をそのままにして、
本を読み、下見をして、本番で唱えるべく呪文を繰り返す。
それはまさに鬼気迫るという形容がぴたりくる有様で、
情熱に動かされというよりは、暗い熱情にうかされていた。

それでもドラゴンズ・ドリームは心配していない。
それらは全て自信の無さからきている。
皆が当たり前にできることを自分一人だけできない。自信も無くなる。
それでも負けず、挫けず、前向きに魔法の習得を目指している。ルイズは立派だ。
召喚に成功し、すでにドラゴンズ・ドリームを召喚していたことを知れば、
自分がゼロでは無かったことを知り、悠々と二学年に進学することができる。
他人の二倍の召喚数だ。これはむしろ自慢できることと言っていいのではないだろうか。
コンプレックスは吹き飛び、パーティーで踊る余裕も生まれ、楽しい学生生活を謳歌するだろう。
ルイズが楽しければドラゴンズ・ドリームも楽しい。
「なァーッルイズ。ドンナ野郎がクンノかな。イイヤツだといいなァー」

数時間後。
生徒達が学院前の草原に集まった。
朝の乱闘に巻き込まれた者も少なくはないはずだが、彼らには一切の怪我が無い。
糸やプランクトンよりは魔法で治療する方が早いのか。
ただし、ギーシュ、モンモランシー、キュルケ、シャルロットの四人が抜けていた。
ギーシュとキュルケは事情聴取、シャルロットとモンモランシーはその付き添いということでいない。
報告を受けた教師の表情と報告者の語調から判断するに、そう深刻な処分はなさそうだ。
少しほっとする。

「オ、イヨイヨか」
授業の開始合図を受けて召喚の儀式が始まった。
前回の授業で使い魔を手に入れた者が高みの見物を決め込む中、
使い魔を持たない生徒達が緊張の面持ちで挑戦する。
生徒達は次々に召喚を成功させていく。
「ヘビ、お化けみたいナノ、豚ッポイの、毛玉? ナンダありゃ石像カ?」
契約に手間取る生徒もいたが、禿げ上がった教師の手助けもあり、失敗するものはいなかった。
「爬虫類、恐竜ミテーなの、虫、色の薄いヤツ、本ッ当にナーンでもアリだな」
意図的に最後に回されたのか、それとも偶然この順番になったのか。
「ヘッヘッへ、本命の出番ダ」
ルイズが進み出、一部の生徒がくすくすと笑い始めた。
「スゲーの出してビビらせてヤレヨ」
笑った方を睨んでからルイズが呪文を唱え始めた。
杖を振るい、前へ向け、向けた先で小規模な爆発が起こり草を薙ぎ払った。
「オオーッ、スゲーッ、一発成功ーッ!」

教師が眉根を寄せた。くすくす笑いは止まらない。
ルイズはさらなる詠唱を開始する。
「アレ? 成功したんジャネーの?」
再び爆発が起きた。笑い声が大きくなる。ルイズは三度詠唱を始めた。
「ナンダ? 成功じゃネーのか?」
詠唱。爆発。詠唱。爆発。詠唱。爆発。
失敗することによって爆発が生じているというわけか。たしかに何も召喚はされていない。
焦りの色が濃くなるが、練習の甲斐あってかルイズの詠唱は変わらず正確だ。また爆発。

「フン。マダマダ想定の内だっツーの! なールイズ?
 プランクトンの弾丸だって隕石だって魔法だって数撃チャ当たるンだヨ数撃チャ!」
ルイズは笑われながらも諦めない。詠唱、爆発、そして漏れる失笑。
昨日、ドラゴンズ・ドリームがここで見た光景を思い出す。
あの時は客観的な目で見て、宗教儀式か何かと勘違いしていた。
今は客観的ではなく、主観的な目で見ている。

詠唱、爆発、嘲笑。
教師がたしなめたが、笑いは小さくなってくれない。
「なァ、アンタラ貴族なんだろ? エライんダロ? だったら笑わないでやってクレよ」
詠唱、爆発。飽きがきたのか、笑いは少し小さくなった。だが無くなりはしない。
「なァー、笑うなヨー。ルイズの気が散ったらどうスンダ」
詠唱手順を間違えたのか、今度の爆発は今までになく近かった。
爆風のあおりを受け、ルイズが思わず尻餅をつく。
ルイズの失敗に飽きかけていたギャラリーも、この醜態には声をあげて笑った。
「ルイズも一生懸命なんダ。笑うナッテ」
ドラゴンズ・ドリームの懇願はもちろん、教師の注意も彼らの耳には入らない。
ルイズのスカートについた泥を指差して笑う。
「笑うなヨ」
詠唱、爆発。詠唱、爆発。詠唱、爆発。
爆発ではねた泥がルイズの頬を汚す。
一掬いの泥さえもギャラリーを喜ばせる材料にしかならない。
「笑うナ……」
誰よりも近くで応援していたドラゴンズ・ドリームは気がついた。
ルイズが頬の泥を拭き取り、目からこぼれ出ようとしていた液体も拭い取った。
誰にも気づかれないよう、こっそりと、注意深く拭い取った。
「笑うンじゃあネェ……」
ゼロ、ゼロと掛け声がかかった。早く帰らせろと揶揄する声もあがる。
ルイズが詠唱し、爆発を起こす。笑う生徒達。
「ルイズを……」
笑う生徒達。笑う生徒達。
指指し笑う生徒達。
「ルイズを笑うナッつッテンだろうがッ!」


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