++第六話 当然の理由++
花京院が連れて来られたのは、食堂の裏にある厨房だった。
大きな鍋やオーブンがいくつも並び、一面に敷き詰められた皿には豪華な料理の数々が並んでいる。
入り口にたたずむ花京院の前をコックやメイドたちが忙しそうに通り過ぎていく。
シエスタは花京院に待つように言うと、一旦厨房の奥に引っ込んだ。
そして、シチューの入った皿を持って戻ってきた。
「余りモノで作ったシチューですけど……」
「ありがたい話だが……いいのかい?」
「ええ。気にしないで下さい」
この世界に来てから初めて優しさに触れ、花京院は思わず目頭が熱くなった。
シチューの入った皿を眺める。湯気が立ち上るシチューの香りはそれだけで食欲をそそられた。
添えられたスプーンで一口すくって口に運ぶ。
「……おいしい。こんなにおいしいシチューは初めてだ」
「気に入ってもらってよかったです。お代わりもありますから」
花京院は再びシチューを口に運ぶ。
朝食のときは毒に注意したりしていたが、このシチューはそんなことができないほどおいしかった。
夢中でシチューを食べる花京院をシエスタはうれしそうに眺めていた。
「ご飯、もらえなかったんですか?」
「そうなんだ。別に何をしたわけでもないんだが」
「本人が気にしてることでも言ったんじゃないですか」
「気にしてること……?」
その言葉に引っかかるものがあった。
それが何かはわからなかったので、少しだけ記憶をさかのぼってみる。
『ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!』
『いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!』
授業中、ルイズはそう罵倒されていた。
そして、自分が彼女に言った言葉は……
『君はどんな魔法が使えるんだ?』
『他に使える魔法がないってわけじゃあないだろう』
こんな感じだったはずだ。その後、食堂に着いた途端にルイズが怒り出したのだ。
花京院はそこまで思い出して、シエスタに聞いてみた。
「メイジに得意属性があるのは本当かい?」
「ええ。それによって二つ名が決まるんです」
二つ名……ルイズの場合は『ゼロのルイズ』と呼ばれていた。
てっきり土属性が極端に苦手で、その成功の確率がゼロだと思っていたが、それは違うのではないだろうか。
ゼロというのは土属性の魔法に限らず、あらゆる属性の魔法が失敗するという意味ではないだろうか。
そんな考えが浮かんだ。
「……じゃあ、苦手な属性の魔法だったら爆発したりする?」
「爆発って、普通そんなことありませんよ。得意じゃないと効果があまり出なかったりするだけで、一応使えるはずです」
「……」
その答えで、花京院は理解した。
ルイズが怒っていた理由。それは当然のことだった。
彼女はほとんど魔法が使えないのだ。火も水も風も土も。
おそらく、使えるのは花京院を召喚した魔法と、あの爆発だけだろう。
……それなのに、僕は魔法のことばかり質問していた。
他に使える魔法、そんなものあるわけがない。
そんなものがあるなら彼女は『ゼロ』と呼ばれていないはずだ。
そんな彼女が一番気にしていること……それは魔法のことだろう。
メイジとして誇るべき魔法。だが、彼女は使えない。
魔法に関して詮索されるのは、彼女にとって耐えがたい侮辱だったに違いない。
しかも、自分より格下である使い魔に。
それを怒るのは当然のことだ。
僕は……酷いことを言ってしまった。
花京院はシチューをすくう手を止めた。そして、かなり落ち込んだ。
突然食事の手を止めた花京院に、シエスタは自分が余計なことを言ったと思ったらしい。
「あの、大丈夫ですか? 私、余計なこと言っちゃいました?」
「いや、余計な事を言ったのは僕だ。気にしないでくれ」
「そ、そうですか……」
自己嫌悪からか、美味しいはずのシチューがほとんど喉を通らない。
それでもなんとか皿の中を空にして、花京院は立ち上がった。
「ありがとう。おいしかったよ」
「それはよかった。お腹が空いたら、いつでも来てくださいな。私たちが食べているものでよかったら、お出ししますから」
笑顔を浮かべ、シエスタは仕事に戻ろうと背を向ける。
その背中に花京院は問い掛けた。
「ところで、何か手伝うことはあるかい?」
「手伝うこと?」
顔だけこちらに向けて、シエスタが聞き返す。
「ああ。せっかく美味しいシチューをご馳走になったから何か手伝いたいんだ」
「いえ、そんなことは……」
「いいから。何か手伝うことは?」
シエスタは花京院の頑固さに、少し呆れるように微笑んだ。
辺りを軽く見回し、見つけたトレイを花京院に渡した。
「なら、デザートを運ぶのを手伝ってくださいな」
「わかった」
花京院は大きく頷いた。
To be continued→
花京院が連れて来られたのは、食堂の裏にある厨房だった。
大きな鍋やオーブンがいくつも並び、一面に敷き詰められた皿には豪華な料理の数々が並んでいる。
入り口にたたずむ花京院の前をコックやメイドたちが忙しそうに通り過ぎていく。
シエスタは花京院に待つように言うと、一旦厨房の奥に引っ込んだ。
そして、シチューの入った皿を持って戻ってきた。
「余りモノで作ったシチューですけど……」
「ありがたい話だが……いいのかい?」
「ええ。気にしないで下さい」
この世界に来てから初めて優しさに触れ、花京院は思わず目頭が熱くなった。
シチューの入った皿を眺める。湯気が立ち上るシチューの香りはそれだけで食欲をそそられた。
添えられたスプーンで一口すくって口に運ぶ。
「……おいしい。こんなにおいしいシチューは初めてだ」
「気に入ってもらってよかったです。お代わりもありますから」
花京院は再びシチューを口に運ぶ。
朝食のときは毒に注意したりしていたが、このシチューはそんなことができないほどおいしかった。
夢中でシチューを食べる花京院をシエスタはうれしそうに眺めていた。
「ご飯、もらえなかったんですか?」
「そうなんだ。別に何をしたわけでもないんだが」
「本人が気にしてることでも言ったんじゃないですか」
「気にしてること……?」
その言葉に引っかかるものがあった。
それが何かはわからなかったので、少しだけ記憶をさかのぼってみる。
『ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!』
『いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないかよ!』
授業中、ルイズはそう罵倒されていた。
そして、自分が彼女に言った言葉は……
『君はどんな魔法が使えるんだ?』
『他に使える魔法がないってわけじゃあないだろう』
こんな感じだったはずだ。その後、食堂に着いた途端にルイズが怒り出したのだ。
花京院はそこまで思い出して、シエスタに聞いてみた。
「メイジに得意属性があるのは本当かい?」
「ええ。それによって二つ名が決まるんです」
二つ名……ルイズの場合は『ゼロのルイズ』と呼ばれていた。
てっきり土属性が極端に苦手で、その成功の確率がゼロだと思っていたが、それは違うのではないだろうか。
ゼロというのは土属性の魔法に限らず、あらゆる属性の魔法が失敗するという意味ではないだろうか。
そんな考えが浮かんだ。
「……じゃあ、苦手な属性の魔法だったら爆発したりする?」
「爆発って、普通そんなことありませんよ。得意じゃないと効果があまり出なかったりするだけで、一応使えるはずです」
「……」
その答えで、花京院は理解した。
ルイズが怒っていた理由。それは当然のことだった。
彼女はほとんど魔法が使えないのだ。火も水も風も土も。
おそらく、使えるのは花京院を召喚した魔法と、あの爆発だけだろう。
……それなのに、僕は魔法のことばかり質問していた。
他に使える魔法、そんなものあるわけがない。
そんなものがあるなら彼女は『ゼロ』と呼ばれていないはずだ。
そんな彼女が一番気にしていること……それは魔法のことだろう。
メイジとして誇るべき魔法。だが、彼女は使えない。
魔法に関して詮索されるのは、彼女にとって耐えがたい侮辱だったに違いない。
しかも、自分より格下である使い魔に。
それを怒るのは当然のことだ。
僕は……酷いことを言ってしまった。
花京院はシチューをすくう手を止めた。そして、かなり落ち込んだ。
突然食事の手を止めた花京院に、シエスタは自分が余計なことを言ったと思ったらしい。
「あの、大丈夫ですか? 私、余計なこと言っちゃいました?」
「いや、余計な事を言ったのは僕だ。気にしないでくれ」
「そ、そうですか……」
自己嫌悪からか、美味しいはずのシチューがほとんど喉を通らない。
それでもなんとか皿の中を空にして、花京院は立ち上がった。
「ありがとう。おいしかったよ」
「それはよかった。お腹が空いたら、いつでも来てくださいな。私たちが食べているものでよかったら、お出ししますから」
笑顔を浮かべ、シエスタは仕事に戻ろうと背を向ける。
その背中に花京院は問い掛けた。
「ところで、何か手伝うことはあるかい?」
「手伝うこと?」
顔だけこちらに向けて、シエスタが聞き返す。
「ああ。せっかく美味しいシチューをご馳走になったから何か手伝いたいんだ」
「いえ、そんなことは……」
「いいから。何か手伝うことは?」
シエスタは花京院の頑固さに、少し呆れるように微笑んだ。
辺りを軽く見回し、見つけたトレイを花京院に渡した。
「なら、デザートを運ぶのを手伝ってくださいな」
「わかった」
花京院は大きく頷いた。
To be continued→