ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第八話『男の世界』

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『伝説』が『真実』なのか? それを知る術は彼にはない。
だが彼は『可能性』を発見した。膨大な知識の遺産の中から。
彼はすぐに報告に向かう。行き先は学院長室。

「オールド・オスマン、その…少々問題が発生しまして…んッ! 聞いてくれます?」
「もにょ…言ってみなさい、ミス・ロングビル」
「じ、実は…う、ヴェストリの広場にて…決闘騒ぎが起こっていまして……」
「決闘? やれやれ、暇を持て余した貴族ほどタチの悪いものはおらんのう。ペロ。
 して、そのバカは誰じゃ?」
「…はい、一人はぎ、ギーシュ・ド・グラモンんぁあ…!」
「あのグラモンのバカ息子か。大方理由は知れとる。どうせ女がらみじゃろうて。
 それで、もう一人の相手は?」
バダム!
学院長室の扉が勢いよく開け放たれ、一人の男が入ってきた。
「部屋に入る時はノックぐらいしたまえジャベール君!」
「失礼しました。少々興奮していたもので。それとわたしは」
バダム!
学院長室の扉が勢いよく開け放たれ、一人の男が入ってきた。
「……あ? あーっと、なんじゃ、その、ノックぐらいしたまえよ、ジャベール君」
「あ……ハイ…。失礼しました」
ジャベールという男はしばし呆然としていたが、すぐに気を取り直した。
「オールド・オスマン、ミス・ヴァリエールの使い魔について、お耳に入れておきたいことが」
ジャベールの真剣な面持ちを見て、オスマンは秘書に退室を促す。
「心得ております、オールド・オスマン。それと、先ほどの『もう一人』ですが…
 その、例の使い魔の事です。教師たちが『眠りの鐘』使用許可を求めておりますが」
「む、わかった。そのことについては、追って沙汰する」
パタン、と控えめな音を立ててドアは閉じた。

第八話『男の世界』

「それで…ジャベール君、本当に『アレ』が『ソレ』なのだね?」
「はい、おそらく…。少なくとも、ルーンの形は一致しております」
「ふ…む、よし、わかった。そしてじゃ、ちょうどいいことにそいつが今決闘しとる。
 こりゃあ覗かん手はない喃」
『遠見の鏡』――この盗撮アイテムで、広場を映し出す。
それを見たオスマンとジャベールは、少々拍子抜けした。
「なんじゃぁあ、もう終わっとるじゃないか」
映し出された映像は、倒れ伏すギーシュと、すでにその場を去りつつあるリンゴォ。
結果は、一目瞭然であった。
「ふむ、しかしこの状況…どうやら君の見当通りの様じゃな。
 ところでジャベール君、これ食べるかね?」
「はぁ、いただきます…もにゅ…ところで、さっきから気になってたんですが…
 わたしの名前は――うわ何コレマズッ!」
二人が目を離している内に、映像に変化が起こっていた。

目の前で起こった光景が信じきれず、貴族たちは呆然とその場にたたずんでいた。
キュルケなどは狼狽するあまり隣で同じ光景を見ていたはずのタバサにありのままを語っている。
タバサはもう帰りたかったが目の前の友人を落ち着かせようとその場に留まる事にした。
ルイズはギーシュとリンゴォを首を振って交互に見ていたが、やがてリンゴォのほうに駆け寄った。
シエスタはただただ目を見開いている。その口元に笑みが見えるのは驚愕ゆえか――
リンゴォはすでに、いや最初からギーシュに興味は無く、駆け寄るルイズを見ることも無かった。
ギーシュは痛みと混乱、恐怖と絶望の淵でもがいている。
モンモランシーは――
ギーシュがやり過ぎる前にこの馬鹿げたみっともない決闘を止めようとしていたモンモランシーは――

少しづつ理性にかかった靄が晴れ、ギーシュはどうやら自分が致命傷ではない、
という事に気付き始めた。
(よかった…死ななくて済むんだ!)
死の恐怖への涙は生の安堵への涙に変わっていた。
(よかった! もう! あんな化け物と! 戦わなくて――)
涙で滲む視界の隅に、一際はっきりと映る人影をギーシュは確認した。

――ここで起こったふたつの偶然は、想像を絶する痛みと恐怖が、『杖を落とす』ことを体から
忘れさせていた事と――『降参』という最善の選択肢が、たった今、脳から消え失せた事。

ふとポケットの中をまさぐってみると、指先に小さな瓶の感触があった。

ゆっくりとその感触を確かめてみる。

(なんでこんな所にあるんだ?)
ポケットの中の『それ』は、先程食堂に置いてきてしまってそれきりのはず――

ギーシュの脳裏に浮かび上がった光景は、二日前、召喚前夜の二つの月。

『別に疑ってるわけじゃあないわよ。けど、嫌な気にさせたのなら謝るわ。
 そのお詫びと言っては何だけど……』

(この…小瓶は――なぜ忘れていたんだ、そうだコレは『彼女』の――)

(ああ、ぼくは大変な事をしてしまった!!)

  すでに少年の涙は止まっていた。
  目には力がみなぎりその皮膚には赤みがさした。
  彼には『光』が見えていた。
  瞳の中に何の負い目もない純然たる『闘志』が燃え上がっていた。

立ち上がらなくては。ギーシュはそう思った。
だが悲しいかな、立ち上がる事が出来ない。
どんなに全身に力をこめても、これ以上体が上がらないのだ。

何かを感じたのか、リンゴォが振り向く。
「まだ立つのか…。お前の行為などもう何事でもない」

その声を聞いて、ギーシュは気付いた。
自分はすでに立っているのだ。
(ははは…、マヌケだなぁ……立てないはずだ)

リンゴォがゆっくりとこちらに向かってくる。
違う。歩いているのは自分だ。

霞んでいた視界がハッキリと見えるようになり、全てのものが鮮やかに写り、
やがてそれらは光を放ち、全て光に呑み込まれていった。
何もかもが光の中に消え去り、そこには二人の男が立っていた。

ここで初めてギーシュは明確に自分の意思で魔法を使う。
一体のワルキューレ。それを『盾』にする様に、同時に、支えとする様に。
一歩ずつ、一歩ずつ、リンゴォに近づいていく。
リンゴォは動かない。
「既に言った筈だ」
「時を『6秒』戻せると……くり返し何遍だろうとな……!!」
「最初からお前が何をしようとオレにとってはお前を殺す価値などどこにもない」
「さっさと失せろ……そして勝手に貴族でも何でもやってるがいい……」
リンゴォが一言発するごとに、ギーシュが距離を縮めていく。
「…なんだか……随分と見下してくれているようだが…気のせいかな?」
リンゴォがワルキューレの射程距離に入る。
ここでギーシュは、ワルキューレの影から姿を出した。

「…どうした? なぜ隠れない?」
当然の疑問を口にするリンゴォ。
「…ハァ…ハァ…わからなかったんだ……狙うべき『位置』がね…」
「こうして…狙われる立場になってみてわかった……」
「肉体が理解した…勝利への道筋を……!」
両者の肉体が小刻みに震えだす。
「時を6秒戻す…君はそう言ったが………」
「いいか…『次』はもう無い!」
「その右腕の『それ』が…スイッチなのだろうが――」
ギーシュがリンゴォの腕時計を指差す。
同時に一枚の花びらを取り出す。

「たった今創った…この『青銅』の花びら……」
「次の攻撃を『予告』しよう! この『花びら』を…君の『右腕』に撃ち込む!」
「それは極薄の薔薇の刃となって、君の腕を切り飛ばすだろうッ!」
リンゴォは無言でそれを見つめる。
「間髪入れずに『ワルキューレ』が君の『心臓』を正確に貫く…この剣でな」
ワルキューレが剣を構える。
「当然君の銃も、その『スイッチ』も! 拾う事は出来ない…確実にな……」
「…避けてみるかい? いや、外しはしない……この距離だ」
リンゴォは何も言わない。
ギーシュの腹からは血が止めどなく溢れ、このままでは5分ともたず失血死するであろう。
唐突に、リンゴォが口を開いた。
「言いたい事はそれだけか?」
「それだけだ」
短い遣り取り。再びの沈黙。
二人の体の震えが臨界点に達するその直前――

同時に、動いた。

ギーシュが花びらを発射、リンゴォが拳銃を抜き放つ――時間差にして0秒。
リンゴォの左手が再び光り輝く。リンゴォが『加速』する。
ワルキューレが最後の突進を仕掛ける。
花びらの刃がリンゴォに飛んでいく。

しかしルーンによってスピードアップしたリンゴォはそれを――ギリギリで回避。
右腕を花びらが掠め、血が流れる。
ワルキューレはまだ届かない。
しかし、それはギーシュの計算の範囲内である。
リンゴォは『避ける』だろう。
だが、『避け』たそのわずかな動きが、リンゴォの狙いをわずかにずらす!
『時』を戻される前に心臓を貫けるはずだ!
たとえ即死しなくても、ワルキューレはお前の心臓をぐちゃぐちゃにかき乱す!
それでも『時』が戻せると言うのなら! やってみるがいい!

リンゴォは、奇妙な感覚に陥っていた。
周囲の光景が、驚くほどゆっくりと動いているのだ。
自分の右腕に目をやってみる。
高速で動いているはずの花びらがゆっくりと、まだ自分の腕から離れていないのだ。

ここでギーシュが予想だにしなかったのは――
『ガンダールヴのルーン』――

リンゴォは『正確に』ギーシュの喉元へと狙いを定め――
引き金を、引いた。

一瞬して、ゆっくりとギーシュの喉に弾丸の穴が開くのをリンゴォは見た。

致命傷は与えたが、ギーシュは最後の意識でワルキューレを動かす。
しかし、今のリンゴォにとってその動きはあまりに遅く――弱々しく――

唐突に、リンゴォを包んでいた感覚が途切れた。
その理由が何か、リンゴォは痛みの感覚が神経を伝わるより先に理解した。
(――『剣』?)
一本の剣が、リンゴォの腕を後ろから切り落としていた。
(――どこから?)
考えるより先に、ワルキューレの剣が心臓を貫いていた。

ギーシュは笑った。確かに笑った。
(…『ドット』…だけどね……)
(『錬金』だけは誰にも負けないんだ……)

ギーシュが飛ばした花びらは――『二枚』
一枚は最初から青銅に変え、もう一枚はその下に『重ねて』発射した。
そして、発射と同時に、『錬金』の魔法を『もう一枚』にかけたのだ。

(間に合って…よかっ…た)
(練習…したもんなぁ……)

――いい人生だった

二人の男は、同時に倒れた。

ギーシュとリンゴォが向き合っている。
ギーシュには、いやリンゴォにも、なにが起こったのか理解できなかった。

「…『戻した』…のか…? だが一体、どうやって?」
あの腕にしているのは、『スイッチ』でなかったというのか?
自分の、読みが外れたのか……。

「…どうやらそのようだが……オレではない」

そう言ってリンゴォが睨み付けたのは、ルイズ。
「貴様…ヴァリエール……何のつもりだ………!」
静かな怒りを見せる男に少女が答える。
「…『決闘』の、『決着』はついたわ……!」
ギーシュが割り込む。
「ちょっと待ってくれ、話が見えないが……」
「ルイズが腕を『拾って』、『戻し』た」
さらにタバサが割り込む。
「あのままじゃ二人とも死んでたじゃない!」
リンゴォにはそんな言葉はなんら意味を持たない。
「貴様ごときが…そんなので聖なる決闘に踏み入れてきやがって……!」
「汚らわしいぞッ!」
あまりにショッキングな罵倒に、ルイズは凍りついた。
(……『汚らわしい』? …わたしが? …わたしが、よね……)

「それで…どうするんだい? ぼくは…まだやれるぞ……」
ギーシュがあらためて問いかける。
リンゴォは吹き上がる怒りを抑えながらギーシュに向き直る。
「いや…その必要は無い」
「この『決闘』を汚したのは我が主…非はこちらにある」
リンゴォは自分の『左手』を見つめる。
「それにこの『決闘』、どうやら『公正』ではなかった…」
「小僧…いや『ギーシュ・ド・グラモン』……この勝負は――」

ギーシュはその後に続く言葉を聞いていない。
その時には気絶していたからだ。
だが、気絶しても彼は地面に倒れる事はなかった。
崩れ落ちるギーシュを寸前で支えたのは『香水』のモンモランシー。

ギーシュの意識は完全に闇に落ちていた。
だが、その闇に響く声を、ギーシュは確かに聞いた。
あの平民の、あの、男の声を。

『まだたったの…一歩ではあるが……お前は踏み出した』

『ようこそ』

『男の世界へ』


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