ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

『キュルケ怒りの鉄拳 その3』

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『キュルケ怒りの鉄拳 その3』


男子生徒の一人がキュルケに目を止めた。
一組の眼が、ぐったりとした猫背のキュルケをしばし見つめる。
普段のキュルケからは考えられない弛緩した姿勢のためか、
ボリュームのある赤毛の隙間から褐色の首筋が垣間見えた。
キュルケを、彼女の首筋を、じっと見つめる男子生徒の表情が変化していく。
困惑からいぶかりへ、いぶかりから驚愕へ、驚愕から抑えきれないクスクス笑いへ。
隣の生徒をつつき、キュルケを指差す。
その生徒から別の生徒へ、また違う生徒へと笑いが伝播していき、
やがて笑われている本人が気づかずにはいられないほど大きくなった。

理由もなく笑われて腹を立てない人間はいない。
おかしな夢のせいで機嫌の悪いキュルケならなおのことだ。
怒りを込めた調子で何がおかしいのかと問うキュルケに対し、
朝から首筋にキスマークとはおかしくないわけがない、と返してきた。
ハッとぼんのくぼ辺りを押さえるキュルケ。
覚えがあるらしい様子がさらなる笑いを呼び込んだ。
シャルロットは我関せずとサラダを咀嚼している。

さらにギーシュが追い討ちをかけた。
自称キスマーク鑑定家のギーシュによると、
あのキスマーク跡から類推される相手の性別は、なんと女性。
ミス・ツェルプストーの趣味はどこまでも大らかだと肩をすくめる。
ギーシュのおどけた仕草が周囲のにやにや笑いを大爆笑に変えた。
「アー……?」
笑い笑われる中、ドラゴンズ・ドリームは何かを思い出しかけた。
キュルケのアンラッキーアイテムが関わっているような気がしてならない。

キュルケが椅子を引き、大爆笑の中、静かに立ち上がった。
その顔を見たものが一人、また一人と口をつぐみ、潮が引くように笑いが消える。
言い訳じみた言葉を口の中で呟きながら、視線を外し、席に戻っていく。
顔を伏せて笑っていたせいで未だに気がついていない一人の男子生徒――ギーシュ――を除き。
「アー……」
ドラゴンズ・ドリームには、何がどうしてどうなるのかが読めてきた。

周囲に遅れて数十秒。
ギーシュもようやく気がついた。
不審げに周囲を見回し、その過程でキュルケの顔が視界に入り、ギーシュは固まった。
他の人間と同じように、何とか誤魔化し席へ戻ろうとしたが、
緊張と恐怖が足をもつれさせ、たたらを踏んだ。
何も無ければキュルケも睨むだけで許しただろうに、ギーシュは事を起こしてしまう。
「アー……」
初めて見てから一日も経ってはいなかったが、
ドラゴンズ・ドリームにもギーシュの人となりがはっきりと分かった。
そしてこの後何が起こるのかも。

転びはしなかったものの、よろけたギーシュはシャルロットへと倒れこんだ。
シャルロットが体格に見合わぬ力で支え、双方倒れることこそなかったが、
不幸にもギーシュの肘がシャルロットの鼻を直撃した。
一瞬の間をおき、シャルロットの鼻から一滴の鼻血が垂れ落ちる。
ギーシュは慌てて謝罪し、ハンカチを取り出し差し出そうとした。が、できなかった。
キュルケがキレた。
「アー。アー。アー」

ノーモーションからのソバットが炸裂した。
鼻血を撒き散らし、ギーシュの体がテーブルの上を滑る。
その上にあった豪勢な料理の数々を左右に吹き飛ばし、
ある者はソースで服を汚し、ある者は顔面に熱いスープが跳ねた。
かっ飛んだ料理は他学年の机にも闖入した。
ギーシュの反吐がスープに混ざった一年生から抗議の声が上がり、
鶏の胸肉を頭の上に乗せた三年生が憤怒の形相で立ち上がる。
そんな騒ぎに構うことなく、キュルケが走った。
さらなる打擲を加えるべく、長テーブルの上を駆けてギーシュを目指す。
食器と料理の類はギーシュがあらかた片付けたため、大変に走りやすい。
「アー、コウナルわナ」

ただでさえ混乱の極地にあったギーシュだが、
これによって混乱から恐慌へと転がり落ちた。
テーブルの上で立ち上がろうとしたが、足がふらつき立ち上がれない。
最悪な状況で、目の前には怒れるキュルケ。
攻撃をガードすべきか。
女性限定で七枚舌と恐れられた弁舌を振るい説得するか。
とりあえずテーブルの下に転げ落ちて攻撃をやり過ごすか。
逆転のクロスカウンターで反撃するか。

攻撃に合わせ、何らかのアクションをとろうとしていたようだが、
キュルケが脚を上げ、彼女の太ももがあらわになり、さらに下着が覗き、
時間にしてコンマ数秒心が捕らわれ、彼のやろうとしていたことは水泡に帰した。
ギーシュが水平に飛んだ。
その表情はなぜか幸せそうだった。
「アー……アー……」

そこかしこで連鎖的に乱闘が発生している。
ケンゾージジイ顔負けの飛び蹴りがテーブルを蹴り飛ばした。
壁の折れ釘に引っかかり、行くも退くもできずモンモランシーがもがいている。
這って逃げようとしたマリコルヌが襟を掴まれ引きずり込まれた。
教師を呼ぼうと入り口へ走り寄ったシエスタの後頭部に革靴が命中した。
キュルケがギーシュに馬乗りになり、強烈なパウンドを叩き込んでいる。
シャルロットは鼻血が流れるに任せてサラダを食べていた。
ドラゴンズ・ドリームはこれによく似た光景を見たことがあった。
「アー、ファイトクラブだねコレ。隕石落ちてコネーだろうナ」

騒ぎは大きくなるばかりで静まる気配を見せない。
ギーシュはかつてギーシュだった何かに変貌しようとしている。
ドラゴンズ・ドリームは心に決めた。
もし認識してもらえるようになったとしたら、真っ先にギーシュの吉兆を探してやろう。
「アー……とりあえずルイズ探索の旅デモ続けるカ」


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