ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第六章 土くれと鉄 ~あるいは進むべき二つの道~-3

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対峙するリゾットとロングビル。
「なるほど……。状況はわたくしに圧倒的不利のようですね」
不意に、ロングビルが口を開いた。
「貴方も元は裏社会の人間でしょう。雰囲気で分かります。同業種のよしみで、『破壊の杖』を差し上げる代わり、見逃していただけませんか?」
「それは出来ない……。ルイズが受けた任務は『破壊の杖奪還』、『土くれのフーケ捕獲』だ。個人的には盗まれる方がマヌケだとは思うが……それと任務は別問題だ」
「貴方ほどの人があんな小娘に従っているなんて意外ですね……。噂では彼女は落ちこぼれのようですが」
「……命を助けられた恩がある……。『恩には恩を、仇には仇を』……、それが俺のやり方だ」
「…義理堅いのですね…」
「それに……ルイズは落ちこぼれかもしれないが、努力はしてる。あとは考え方次第だ」
「そうですか…。分かりました。貴方を説得することはあきらめましょう。ですが……わたくしは絶対に捕まるわけにはいきません」
そう言うと、ロングビルは魔法を唱えようともせず、窓へと走り出した!
明らかに修練を積んだ、予想以上に素早い動きだったが、リゾットは冷静にナイフを振るう。
しかし、その刃は止められた。ロングビル自身の左腕によって!
「!!」
ナイフがロングビルの左腕を切り落とす。しかしその隙にロングビルは鎧戸を体当たりで破り、血の尾を引きながら外へと転がり出た。
「しまった!」
リゾットはロングビルの覚悟を見誤った自分を悔やんだ。急ぎ、窓からフーケを追う。
しかし、外に出たリゾットが見たのは目の前で生成されていく巨大な土の巨人と、
その肩に立ち、苦痛に荒い息をつきながら止血するロングビル…すなわち、土くれのフーケだった。
「腕一本、犠牲になったけど…私の勝ちよ」
演技をする必要がなくなったのか、多少蓮っ葉な口調でフーケは言い放った。

外に居たルイズたちは、小屋の向こうで巨大なゴーレムが立ち上がっていく様子を見ていた。
「あれが……フーケのゴーレム」
予想以上の巨大さに、ルイズは思わず呆然とつぶやく。その肩の人影に気づいてタバサが指を差した。
「ミス・ロングビル」
「あら、本当…。でも待って…。と、いうことは……まさか!」
「ミス・ロングビルが…」
「「「土くれのフーケ」!?」」
タバサが待機させていたシルフィードを呼び出す。
「乗って」
自らも風竜にまたがり、二人に促す。三人を乗せると、風竜はゴーレムに向かって羽ばたいた。

すさまじい力だった。
ゴーレムの圧倒的質量と重量を利用した打撃は、攻撃自体は大振りなものの、
巨大さと見た目に反する速度ゆえに回避が困難で、直前で金属に変化するため、仮に受けてもかなりの衝撃を覚悟しなければならない。
リゾットは時に転がり、時に飛びのき、足を止めない事で何とかゴーレムの攻撃を回避し続けていた。
だが、その度に攻撃の余波となって飛び散る石に身体を打たれ、少しずつダメージを蓄積させていく。
また拳が振り下ろされる。リゾットはそれを跳躍して回避すると、着地と同時にゴーレムの腕にデルフリンガーを振り下ろした。
鈍い音がして、ゴーレムの腕が切り落とされる。
「よっし! 相棒、その調子でどんどん行け!」
「……いや、無理なようだな…。さすがトライアングル…というところか。ギーシュのワルキューレとはだいぶ違うな」
「私の腕のようにはいかないわよ」
ゴーレムは切り落とされた腕を地面に擦り付けると、切り落とされた部分があっという間に再生した。

(となると本体であるフーケを狙うしかないが…)
流石に30メイル(メートル)もあるゴーレムの肩に立つフーケを直接斬ることはできない。
「どうする、相棒!? このままじゃ、いずれやられるぜ!」
「……確かに…相性が悪い。一人では倒せないか…。メイジの相手はメイジが適当だな」
その時、ルイズたちを乗せた風竜が到着した。
「ダーリン、待たせたわね!」
キュルケ、タバサがそれぞれ呪文を唱える。炎がゴーレムを包み、それでも倒れないとなると巨大な竜巻が舞い上がり、ゴーレムに衝突する。
「これなら……ゴーレムはともかく、メイジは耐えられないでしょう!」
舞い上がった土煙の中でキュルケが勝利を宣言する。
「駄目」
タバサがつぶやいた直後、土煙の中からゴーレムの掌が、突き出される。風の動きから一瞬早くそれを察知したタバサがかろうじて風竜を上空に逃した。
「そんな! どうして…?」
土煙が収まり、ゴーレムが姿を現す。ゴーレムの肩にはちょうど人一人がすっぽり収まるくらいの鉄の瘤が出来ていた。瘤が土に変わり、剥がれ落ちると、中からフーケが姿をあらわす。
「土は堅牢にして自在……。貴方たちが私に魔法を届かせることは絶対にないわね」
フーケが冷たく言い放つ。その足元が小さく爆発した。
「な、何!?」
ルイズが杖を突き出している。ルイズの失敗魔法の最大の利点。それは何かを射出するわけではなく、いきなり爆発するというところにあった。
ルイズは立て続けに呪文を唱える。だが、それらはフーケの周囲を爆発させるだけで、決してフーケには命中しない。命中精度が非常に悪いのだ。
風竜の上からでは決して当たらないのを見切ったフーケはまずは地上のリゾットから攻撃することに決めた。
リゾットに目を移す。リゾットは『破壊の杖』をゴーレムに向けていた。

リゾットは初めて扱う『破壊の杖』をまるで慣れ親しんだ武器のように扱い、正確にゴーレムに狙いをつけた。
使い方は分かっている。これも使い魔の特性なのか、先ほど小屋でこれを手にしたとき、その使い方や性能が瞬時に理解できた。
ゴーレムを倒すための威力は充分、フーケを巻き添えでふっ飛ばしてしまう危険性があったが、生け捕りのため、最小限の余波になる場所に狙いをつける。
「食らえ…っ!」
リゾットは安全装置をはずすと、破壊の杖…すなわち「M72A2ロケットランチャー」のトリガーを押した。
しゅっぽっと栓抜きのような音がして、白煙を引きながら羽をつけた弾がゴーレムに吸い込まれる。
狙いたがわずゴーレムの身体にめり込んだ弾頭は、信管を作動させ爆発する……はずだった。
「お、おいおい、相棒! 何もおきねーぞ? これであのゴーレムを吹っ飛ばせるんじゃなかったのか!?」
「不発……か」
リゾットは呟いた。人の作るものである。稀には不良品は紛れ込む。その稀な不良品が彼がこの異世界で出会った兵器に搭載されていたことは、まさに不運というしかない偶然であろう。
同時にリゾットは悟った。これでフーケに勝利する可能性はほとんどなくなった。
フーケは自分のゴーレムにめり込んだ異物をしばらく不思議そうに眺めていたが、何も起きないと分かると再びリゾットに攻撃を仕掛けた。
舌打ちすると、リゾットは再びデルフリンガーを構えた。

「リゾット!」
ゴーレムが再びリゾットに向かうのを見て、ルイズは風竜の上から飛び降りようとした。だが、タバサがそれを抱きかかえて止める。
「リゾットを助けて!」
タバサは首を振る。
「近寄れない」
近寄ればゴーレムに撃墜されてしまう。

「でも!」
ルイズが抗議するが、タバサは無表情にそれに反論した。
「タイミングが必要」
ルイズは余りに平静なタバサに苛つき、なおも言い返そうとしたが、そこで肩をたたかれた。
「やめなさいよ、ヴァリエール。タバサだってリゾットを見殺しにしようとしてるわけじゃないわ」
キュルケは普段浮かべている人を小馬鹿にしたような笑みを消し、真剣な表情で言った。
「だって……」
改めてタバサを見る。そこでルイズはタバサの杖を持つ手に痛いほど力が篭っていることに気がつき、言葉が出なくなった。
下ではリゾットとゴーレムの戦いが続いている。
そのまましばらく見ていると、リゾットがゴーレムの腕を切り落とした。
「今」
タバサがシルフィードに指示し、急降下する。ゴーレムは切り落とされた腕を再生しつつ、残った腕で風竜を叩き落そうと振り回したが、急旋回してそれをかわす。
「乗って!」
「下だ、タバサ!!」
タバサが叫ぶのとリゾットが警告を発するのは同時だった。
降り立とうとしたシルフィードに地面が盛り上がり、シルフィードを捕獲しようと迫る。
「きゅい!?」
リゾットの言葉でそれに気づいたシルフィードは間一髪、急上昇して回避する。同時にシルフィードの背中に何かが落ちてきた。『破壊の杖』だった。
「『破壊の杖』を持って学院まで戻れ! その杖は今は使えない!」
風竜の上から顔を出した三人に、リゾットは最善策を告げた。『フーケの捕獲』が不可能な以上、もう一つの任務である『破壊の杖奪還』を優先したのだ。

「馬鹿なことをいわないで! 貴族は逃げたりしないわ!」
ルイズがそれに対していち早く反発する。だが、それに対してリゾットはあの有無を言わせぬ迫力を込めた言葉で返した。
「言ったはずだ……。自分の『責任』を果たせ、と……。今、フーケに勝つことはできない……。なら、今はその『破壊の杖』を持ち帰ることが『責任』を果たすことだ…」
「そんな!」
「俺なら大丈夫だ……。行け、タバサ! 今はこいつに勝てない! 『破壊の杖』を取り戻し、学院の連中にフーケの正体を知らせるんだ!」
タバサとリゾットの視線が一瞬、ぶつかる。タバサはリゾットの遺志を読み取った。
「……無事で」
そう言い残し、タバサは風竜を反転させて飛び去った。ルイズが何かわめいていたが、キュルケが抑えているようだ。
「逃がすわけないでしょう?」
フーケが呟くと、ゴーレムが拳を振り回すと、拳が切り離され、巨大な岩石となって風竜に向かって飛ぶ。
しかし、その岩の拳は風竜をはずれ、むなしく宙を裂いた。
拳が発射される直前、リゾットがゴーレムの片足を斬りつけ、バランスが崩れたのだ。
「………死にたいようね」
「……さあな…」
リゾットはデルフリンガーを構え直した。フーケはゴーレムの再生を完了した。
「相棒、来るぞ!」
三度戦いが始まった。

リゾットはゴーレムの平手打ちや拳をぎりぎりで回避していく。
舞い散る破片がリゾットに衝突し、リゾットの体力を削り取る。そのうち一つが額に当たり、リゾットの頬を血が伝った。
「うるさいノミね。そろそろ死になさい」
フーケがゴーレムの拳を打ち下ろす。
「ここだ…」
リゾットは今までの戦いでタイミングを掴んでいた。かわすと同時に拳に飛び乗り、腕伝いにフーケ目掛けて走る。
「近寄るんじゃねー! 私は上! お前は下だ!」
ゴーレムが腕を振り回す。弾き飛ばされたリゾットは空中で一回転し、体勢を立て直した。このとき、リゾットはフーケに限りなく近づいている。
その隙を逃さず、リゾットはフーケにナイフを投擲する!
「ふん…」
しかし、ナイフはあっさりとフーケの杖に叩き落された。
「無駄な足掻きね……。私が自分が倒されなければいい。だから防御に専念してるの。奇襲は通じないわ」
そういうフーケも左腕を失ったためか、顔色が悪い。
だが止血も済み、ただゴーレムの上に立っているだけのフーケと攻撃を回避するために常に動き回るリゾット、どちらが早く倒れるかは明白だった。

(これまでか……)
絶望的な状況にも関わらず、リゾットは不思議と平静だった。
恐怖も、逆境を跳ね返そうとする闘志もどこかに置き忘れてきたかのように、冷静に現状を受け止めていた。
(恩も返せたしな……。彼女たちはもう離れた頃だろう)
勝てないならばこれ以上の抵抗は無意味だ。
そう思うと足も自然と重くなり、ついに止まってしまった。
「お、おい、相棒!? なんで止まるんだよ!? 走れよ!」
デルフリンガーが焦った声を出し、フーケは勝利を確信した笑みを浮かべた。
「覚悟を決めたようね」
ゴーレムの手を横薙ぎに繰り出してくる。
迫りくる土の塊をみながら、リゾットは動かなかった。
体力が切れたわけではない。まだまだ身体は走ることができる。
だが、心が走ることをあきらめていた。
彼は既に心のどこかで走ることをあきらめていたのだ。
仲間を残らず失ったときに。あるいはボスに敗北したときに。
今まではいろいろなことが次々と起きたため、その諦念は心の底に沈んでいたが、
どうしようもない状況に追い込まれた今、それは浮かび上がり、リゾットを支配していた。
ゴーレムの掌が鋼鉄に変わる。
そして、ゴーレムの手が通り過ぎ、衝撃がリゾットを襲った。
身体が宙を舞う。リゾットは仲間たちの声を聞いた気がした。


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