ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

奇妙なルイズ-13

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匿名ユーザー

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ミス・ロングビルは手鏡を見つめていた。
手鏡に映るのは自分の姿ではなく、トリスティン魔法学院の廊下、それも女子寮の廊下だ。
一通り見終わると、今度はルイズの部屋が映し出される。
理由は分からないがルイズの部屋には誰もいない。
ロングビルは手鏡を懐にしまうと、サイレントの魔法で足音と扉の音を消しながら、女子寮に向けて歩いていった。

ロングビルは、ルイズの部屋の扉に魔法が仕掛けられていないかを慎重に確認し、ドアを開けようとした。
だが、背後から扉の開く音が聞こえ、慌て手を引っ込めた。
「…ミス・ロングビル?な、何でこんな時間に」
開かれたのはキュルケの部屋、顔を出したのは、ネグリジェの上にマントを羽織ったキュルケだった。
幽霊騒ぎ以来、ルイズとタバサの二人を連れてトイレに行く習慣がついたキュルケは、予想外の人物が廊下にいたため、焦りを感じていた。
『微熱』どころか『情熱』とも呼ばれるキュルケは、生徒たちの嫉妬と羨望のまなざしを受けることを喜びに感じている。
しかし、もし目の前にいるロングビルに、『自分は一人でトイレに行けない女』などとバレてしまえば、キュルケのイメージを転落させる弱みを握られたことになる。
キュルケはかつて無い程に、頭を悩ませた。

しかし、ミス・ロングビルもまた、不味いところを見られたと言わんばかりに狼狽えていた。
オールド・オスマンの秘書であるロングビルが、魔法の手鏡でルイズの部屋をのぞき見したり、夜中に忍び込むなどという行為は、明らかに職権の乱用だった。
そもそも国内外から貴族の子供を集めた学院では、授業こそ非常に高度であり、しかも厳しいが、生徒の私生活にふれることはある種のタブーだ。
全寮制の教育機関ではあるが、何らかの規則に違反した者がいない限り、教師も学生寮にはあまり入らない。

それについてオールド・オスマンは『生徒の自主性を尊重する』という教育方針だと説明することが多い。
実際は、自堕落な生徒や、問題を起こす生徒を早々にあぶり出す『罠』であり、生徒の親が学校の規則を権力でねじ曲げようとする前に退学させる『罠』なのだ。

キュルケは『トイレに一人でいけない女』という弱みを見せずにどうやって誤魔化すかを考え、ロングビルに『生徒のプライバシー侵害』という弱みをどうやって誤魔化そうかと考えていた。

十分後、見つめあう二人を発見したタバサが
『ルイズは夜中一人でトイレに行くことが出来ない』
と説明することで、キュルケは難を逃れることになる。


「処分しておけ」
「はい」
地下牢から出ると、モット伯はルイズを捕まえたメイジに命令した。
処分しろ、ということは、モット伯はあの二人への興味を失ったのだろう。
グレーのマントを身にまとったメイジは、命令を頭の中で反芻しつつ、静かにため息をついた。

「静かだな」
地下牢に降りたメイジが、素直な感想を呟く。
モット伯の希望した通り、オークに嬲り殺されたのだろうか、それとも二人とも気絶したのだろうか。それを確認するため牢屋の明かりを灯す。

ルイズの入っていた牢屋の奥、鉄格子の向こう側で、オークが宙に浮いているのだ。
メキッ、メキッ、と、オークの首が見えない何かに締め付けられるように細くなっていく。
オークは鳴くこともできずに口から泡を吹き、白目をむいていた。

「オラァッ!」
ルイズの声と共に、オークの体が蛙のように飛び跳ね、天井にぶつかった。
メイジには多少混乱はあったが、数々の経験から、攻撃呪文で手当たり次第を攻撃するしかないと判断した。
ウインド・カッターの魔法で、鉄格子の隙間から風の刃をぶち込み、牢屋の中にいる者をすべて切り刻もうとした。
しかし、杖を持った右手に激痛が走り、杖を落としてしまった。
「っ!な…」
右手を見ると、手の甲に突き刺さった牢屋の鍵が、手のひらまで貫通している。
よそ見をする間もなく、ベキベキと音を立てて鉄格子が開かれる。
開くと言っても扉ではなく、鉄格子の隙間が力づくで開かれているのだ、メイジは悲鳴を上げそうになったが、慌てて杖を拾い階段を駆け上がった。

牢屋から、長い髪の毛を心底邪魔そうにかき上げつつ、ルイズが姿を表した。
ルイズは隣の牢屋を見ると、牢屋に向けて手を向ける。
何かを引っ張るように手を振ると、それに併せて鉄格子が根本から引きちぎられていった。
ルイズは鉄格子の隙間から牢屋に入ると、気絶しているシエスタを担ぎ上げようとしたが、体力のないルイズではシエスタを担ぎ上げることはできない。
「…やれやれ」
ルイズが小さく呟くと、シエスタの体は宙に浮き、ルイズの背中に乗せられた。


バタン!と音を立てて開かれた扉は、モット伯私室の扉、そこにはモット伯と、服を脱ごうとしている10歳ぐらいの少女がいた。
「な、何だね!」
「すぐにお逃げ下さい!」
モット伯は男の無礼をとがめようとしたが、男が右手から血を流しているのを見て、考えを変えた。
グレーのマントを羽織るこのメイジは、モット伯に長年仕えている。
特に汚れ仕事は任せることも多く、信頼も厚い。
その男が負傷し、血相を変えて飛び込んできたのだ、彼の態度がかつて無い緊急事態であることを告げていた。

モット伯はベッドの脇に置かれたバッグを掴むと、杖を振って壁の絵画を回転させた。
すると額の下の壁がゴゴゴと音を立て、隠し扉が開く。
狭い入り口に頭をぶつける程慌てながら、モット伯は隠し通路の中へと入っていった。

服を脱ごうとしていた使用人の少女は、何がなんだか分からず狼狽えていた。
メイジは使用人に「君も逃げなさい」と告げて、モット伯の部屋の扉を閉めた。

廊下の奥から危険な気配が近づいてくる。
牢屋に通じる階段から、恐るべき『気配』が近づいてくる。
風のトライアングルであるメイジは、地下牢への通路を塞ぐため、エアハンマーで通路の周囲を破壊する。
壁や天井から落ちる石材が、地下牢へと続く階段に降り注ぎ、階段を埋めてしまう。
少しは時間が稼げるかと思いこんだメイジの目の前で、轟音と共に石で出来た床が吹き飛んだ。
爆発後のような煙が立ちこめる通路の中、メイジは、煙の向こうにいる人影に気づき、冷や汗を流した。


煙の奥から見える人影は、少女のもの。
しかし風が伝えてくる情報は『オークとは違う種類の亜人』だった。
大きさは2メイル(m)、強靱な筋肉に包まれ、長い頭髪を無造作に流している。
それだけなら人間と同じだが、風を通して伝わる『迫力』は、およそ人間のものとは思えなかった。
だからメイジは『亜人』と判断したのだ。
地下牢でオークを持ち上げて天井にぶつけた存在も、床を砕いて地下から出てきたのも、その『亜人』が行ったのだろう。
だとしたら『亜人』は、あの少女の使い魔なのか?

とにかく、今は魔法で時間を稼ぐしかない、そう考えたメイジの目の前に、人間よりも二回りは大きい煉瓦の固まりが飛んできた。
とっさに詠唱中のエアハンマーを自分に当て、体を吹き飛ばす。
全身に強い衝撃が走るが、煉瓦の固まりが衝突するよりはずっとマシだ。

メイジは足をふらつかせながら着地すると、廊下の窓に向けてマジックアローを放ち、窓を砕く。
続けてウインドブレイクの魔法を放ち、ガラス片を土煙の向こうにいるルイズに向けて飛ばした。

ルイズは、突風と共に襲い来るガラス片を見て、巨大なタンカーの中でも似たような事があったなと思い出した。
「スタープラチナ!」
ルイズの声と共に、筋肉の鎧に包まれた青白い肌の戦士『スタープラチナ』が現れる。
グレーのマントを身につけたメイジには、陽炎のように空間が揺らめいた程度にしか見えなかったが、風がその存在感を伝えた。
「オラァッ!」
ルイズの声に反応するかのように、スタープラチナは恐るべき速度でルイズの周囲に連続して拳を放つ。
シュバババババババババババ、と風を切る音が聞こえ、次の瞬間には宙を舞うガラス片がすべてスタープラチナの手に握られていた。

メイジの混乱はピークに達した、自分の魔法が全く通じない。
ふと、軍にいた当時、演習試合でマンティコア隊隊長と対決し、手も足も出なかった。
メイジは、完全に萎縮していた。

森の奥にある館から、爆音が聞こえ来るのが分かる。
タバサの使い魔シルフィードの背で、タバサ、キュルケ、ロングビルの三人は焦りを感じていた。

トイレの話題はルイズに押しつける事が出来たが、ロングビルがルイズの部屋を開けようとしていた事実は変わらない。
だが、ロングビルは事前に、ルイズがマルトーと何か話をしていたのを見ていたのだ。
ロングビルの持つ手鏡は『遠見の手鏡』というマジックアイテムだった。
オスマン氏から渡されたもので、不在の間に異常事態が起こった時にこれで調査しなさいと言われていたのだ。
とにかく、ルイズがどこに行ったのかを問いつめるために三人は料理長のマルトーの元へと赴いたのだ。
ちなみに、タバサとキュルケは何食わぬ顔でトイレに立ち寄った。
マルトーを問いつめ、ルイズが何処に行ったのかを聞いた三人は、予想以上の事態に驚いた。

「それで、ミス・ヴァリエールはモット伯の別荘に行くと、確かに言ったのね」
「は、はい、確かにその貴族の別荘へ行くと言ってました」
ロングビルは驚きを隠せなかった、典型的な貴族であるルイズが、メイドを助けに行ったなどと、にわかには信じられない。
キュルケとタバサは、ルイズが空を飛んだと聞いて、別の意味で驚いていた。

とにかく、ルイズの後を追わなければならない。
もしルイズがモット伯に喧嘩を売っていれば大問題になり…自分の給料も危ういのだから。

ルイズは、シエスタを背負ったまま、メイジと対峙していた。

距離は約五歩。

メイジは呪文を詠唱し、自分の周辺に強力なつむじ風を起こした。
ガラス片、石、廊下の絨毯、壁に掛けらた調度品、それらが渦を巻いている。
メイジは敗北を覚悟していたが、せめて時間稼ぎだけはすると決意していた。

不意に、ルイズが一歩足を進める。
それを合図にして、渦を巻く風が一直線にルイズへと襲いかかった。

「オラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラ」

宙を舞う調度品や石が弾ける。

「オラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラァーーーーッ!」

すべての障害物をたたき落とした後、最後の障害物であるメイジを殴り飛ばし、メイジは近くの部屋の扉を破壊しながら吹っ飛んでいった。

「ゲブゥッ!?」

メイジは血まみれになった肺から、血を吐きだした。
ルイズはメイジに近づくと、手のひらより少し大きいぐらいの絵を見せた。
殴り飛ばしたメイジの懐から落ちたものだ。


「…! ぞ、ぞれはっ」
よほど大事なものなのか、絵を見たメイジは目を見開き、手を伸ばす。
「か、かえし、て、くれ」
「答えな…この絵の女は何だ、それと…おめー程のメイジが、なぜ主人に忠義を尽くす…?」
ルイズは絵を見せたまま質問する。
「…それは、娘、だ」
「人買いの真似をして、自分の娘の写真を返せってか?やれやれ…ずいぶん虫のいい話だ」
「も、モット伯は、昔は、本当に、身寄りの、無い、子供を、助けていたんだ…」
ゴホゴホと血を吐きつつ、メイジは話を続けた。
「俺は、実力で、軍に、抜擢、されたんだ…。だが、娘の病気を、治したくて、魔法薬を横流して、金を手に入れた…、
もちろんバレたよ…俺は、処刑確実だったから、逃げたんだ……傭兵になった俺のせいで娘を、人質に取られたんだ……娘は、人買いに買われ、モット伯の所へ売り込まれた…、
一人前のメイドになって、アルビオンの王族に、仕えることになった、娘を見て、うれしかった……だから。俺は恩返しをしようと思ったんだ、でも、モット伯は…ごホッ」
「おめーは、変わっていくモット伯を止められなかったって訳か…」
「そ、そうだ、だから…その絵が、残って…いると、娘に迷惑を…かける、だから、それを…焼き捨てて…くれ…」
ルイズは、近くに落ちていた杖と、絵を渡して、こう行った。

「ケジメは自分でつけな」
メイジは写真を懐に仕舞うと、ファイヤボールの魔法を唱えて火球を作り出す。
そして…微笑みながら、火球を自分に落とした。

燃えさかる火炎の中、メイジは満足したかのように、微笑みを浮かべていた。

「オメーは人買いの片棒を担いだ、それは決して許されねぇ」

ルイズは帽子を深く被り直そうとして、帽子のつばを探した。

「だが…娘は別だろうな」

手が宙をきり、帽子を被っていないことに気づいた。
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