ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第五話 メロンとメイド

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++第五話 メロンとメイド++

 ルイズがめちゃくちゃにした教室の片付けが終わったのは、昼休みの前だった。
 魔法を使わず、というか使えずに片付けるので、作業はなかなかはかどらない。おまけに、働くのはほとんどが花京院で、ルイズはいくつかの机を拭いただけだ。
 不満ではないといえば嘘になるが、花京院はだんだんとルイズの性格を把握していた。
 だから教室を掃除すると決まったときに、諦めている。

 着替えるために部屋に戻り、それから二人は食堂に向かった。
 授業が終わってから一言も喋らないルイズを横目に、花京院は考えていた。

 魔法の成功の可能性、ゼロ。だから、ゼロのルイズ。
 実際に、ルイズは魔法に失敗して机を爆発させていたから信憑性はある。
 しかし、魔法が全く使えないわけでもないだろう。
 もしもそうだったら彼女は貴族を名乗れないだろうし、爆発も起きない。
 だとしたら、彼女はどれぐらい魔法を使えるのだろうか。
 これから先、使い魔としてやっていくためには情報が必要だ。

「ルイズ。一つ質問があるんだが、君はどんな魔法が使えるんだ?」
「……」
「僕を召喚できたから召喚の魔法は使えているようだし、爆発の魔法も使えていた。他に使える魔法はあるのかい?」
「…………」

 ルイズはさっきからずっと黙り込んでいる。
 魔法に失敗して落ち込んでいるんだろう、花京院はそう思った。

「土属性の魔法は苦手そうだったからな。なんとなく風か水って感じがするが?」
「……」
「少しは答えてくれ。他に使える魔法がないってわけじゃあないだろう」


 花京院が何を聞いても、ルイズは何も答えなかった。
 いつものルイズなら何か文句を言ったり、暴力に訴えたりしそうなものだ。
 無言を貫き続けるルイズは無気味だったが、気にしなかった。
 だから、花京院は気付かなかった。
 ルイズの右手が白くなるほど固く握られていることに。


 食堂につくと、花京院はルイズのために椅子を引いた。
 ルイズは相変わらず無言のままで椅子に座る。
 ここまでは今朝の食堂と変わらぬ光景だ。
 でも、少しだけ違った。

「僕の朝食は?」

 床に置いてあるはずの朝食が無かった。

「……そんな物があると思うの? あんたに?」

 ルイズは震える声でそう言った。
 その声に花京院は聞き覚えがあった。

 中学生の頃、先生に呼び出された時のことだ。
 話の内容は花京院の生活態度について。もっと明るくしなさい。もっと友達に合わせなさい。いい加減、うんざりだった。
 話を聞き流している花京院に業を煮やしたらしく、次第に教師は大声になってきた。
 あまりにもうるさいので、「静かにしてください」と花京院が言った直後、教師は殴りかかってきた。
 スタンドを使うまでもなく、花京院は当て身で教師を気絶させた。

 ルイズの声はその教師の声と似ている。
 最後に殴りかかってきたとき、教師が発した声と同じ震え方だ。
 それから分かること。すなわち、怒り。
 しかし、花京院にはなぜルイズが怒っているのかわからない。

「君は何を怒っているんだ? 僕が何かしたのか?」
「うるさい。そもそも、ここは使い魔が入っていい所じゃないのよ。早く出てって! 出てってよ!」

 ルイズはがむしゃらにそう繰り返した。
 突然の暴挙に花京院は戸惑った。そして、理不尽だと憤った。

 ……怒るなら理由を言えばいい。納得できるなら謝るし、必要なら土下座でも何でもしよう。
 でも、理由を言わなければどうしようもない。謝ることも、文句を言うこともできない。
 それは卑怯だ。

 頭に文句が次々に浮かび上がってくる。それは正論で、道理としてはこちらの方が正しい。
 だが、花京院の冷静な部分は言っていた。彼女とここで関係を切るのはまずい。まだ帰る方法も見つけていないのだから、と。
 花京院は文句の数々をぐっと飲み込んで、一言だけ言った。

「それで君は満足なのか」

 ルイズは雷に打たれたように一瞬はっとした表情になった。
 そして、何か言おうと口を開くが、そこから出る言葉は無い。
 花京院はルイズに背を向けると、そのまま食堂を去っていった。

 食堂を出て、しばらく歩いたところで、ぐぅとお腹が鳴った。
 お腹に手をあて、花京院は顔をしかめる。

「少し足りなかったかな……」

 昼食が無かったのに加え、朝食の少なさも影響していた。
 いくら華奢な身体をしているとは言え、健康な高校男児の朝食が固くてまずいパンとスープだけでは足りるはずがない。
 かといって、花京院に食事の当てはない。
 花京院が困り果てていると、誰かの声が聞こえた。

「どうなさいました?」

 声のした方を向くと、そこには一人の少女がいた。
 大きな銀のトレイを持ち、カチューシャで黒髪をまとめた素朴な感じの少女だ。メイドの格好をしていて、心配そうな顔で花京院を見つめている。

「なんでもないよ……」

 平然とした顔で、花京院は手を振った。
 少女は花京院の顔を覗き込み、

「あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」
「知ってるのかい?」
「ええ。なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって、噂になってますわ」

 少女はにっこりと笑う。
 その素朴な笑みに花京院は少し見とれてしまった。

「ひょっとして君も魔法使い?」
「いえ、私は違います。あなたと同じ平民です。貴族の方々のお世話をするために、ここでご奉公させていただいてるんです」

 平民じゃなくスタンド使いだったが、説明してもわからないだろう。
 花京院は自己紹介していないことを思い出した。

「そうか……。僕は花京院典明。よろしく」
「カキョーインさん? 変わったお名前ですね。私はシエスタっていいます」

 シエスタが片手を差し出してきたので、花京院もそれを握り返した。
 その時、運悪く花京院のお腹が鳴った。

「お腹が空いてるんですね」
「実はそうなんだ……」

 シエスタは思案顔で、少しの間沈黙した。

「あの、今お時間はありますか?」
「ああ。特に用事はないが」
「……じゃあ、ちょっとついてきてください」

 シエスタは歩き出した。
 その行動の意図がわからず、花京院は躊躇したが付いていくことにした。


To be continued→

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