ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第六話「トリステインのばら」

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第六話「トリステインのばら」

一体なぜ『決闘』などという事態が起こったのか?
その過程は説明しておかなければならない。

キュルケが立ち去った後のリンゴォ・ロードアゲインであるが、教室の掃除も終え、
この後どうすべきかを思案していた。
あの『主人』のところに戻るのも面倒だ。かといって、他に行く場所もない。
ふと、腹が減っている事に気付く。
飯でも食うか、そう思うのだが、昼食は抜きだと言われている。
別にそんな言いつけなどリンゴォには意味を持たなかったが、どの道ルイズがいなくては
食堂で飯を食べるなど出来ないであろう。
(森で野ウサギでも獲って喰うか…)
が、手ぶらと言うのも少々不便だ。ナイフの一本でも借りておこう。
そうしてリンゴォは、アルヴィーズの食堂へと向かうこととなる。

「あら? リンゴォさんじゃありませんか?」
先に声をかけてきたのはシエスタ。
先に相手を見つけたのはリンゴォであるが、そのまま無視しようとしていた。
「どうかなさったんですか?」
「…ナイフを一本ほど借りたい」
「ナイフ…? 構いませんが、一体何に使うのです?」
「…少し食事にな」
そこでシエスタがはっとする。今朝食堂でルイズが怒鳴っていた事を思い出したのだ。
「あ、あの、リンゴォさん、もし賄い食でよろしければここで食べていきませんか?」
「いや、遠慮させてもらう。俺は金を持ってないしな」
正直な話、リンゴォはルイズ以上にこのメイドが嫌いだった。
勿論金のないのは本当の話だったが、それ以上にさっさと会話を終えたかったのだ。
「お金なんて結構ですよ。困った時はお互い様ですから」
先に述べたように、リンゴォはシエスタが嫌いだったが、彼はそれを表面に出すような人間ではない。
同時に、自分にとって意味の無いことについてあれこれ拘る様な人間でもなかった。
「なら、お言葉に甘えさせてもらおう。だが、借りを作りっぱなしという訳にもいくまい。
 なにかやれる事があるなら手伝うぞ?」
「でしたら、食事の後にでもデザートを配――」
シエスタはリンゴォをあらためて見つめる。
目の前の男は、レディのパンティを鷲掴みにしてうろつける漢である。
デリカシーの欠片も無いことは、容易に想像がつく。
「――るのはわたしがやりますから、薪割りを手伝ってもらえると助かります」

リンゴォは厨房の隅のほうで食事を取ることになった。
これはリンゴォにとってもありがたい事である。
ルイズがいないとはいえ、貴族まみれのこの食堂では食事を取る気にもなれない。
出された賄い食を見たリンゴォの脳裏に、再び朝の疑問が沸いてきた。
賄いと言うからには、当然ここで働くものはそれを食べるのだろう。
無駄な食材を出さないためには当然の事だ。
そうすると、今朝の貧相な食事はどこから調達したのだ?
わざわざルイズが自分で仕入れたのなら、それはそれで大したものだ。
そんなことを考えながら、ふと食堂の中が騒がしい事に気付く。
少しだけ覗いてみると、シエスタがなにやら怒鳴られている。
怒鳴っているのは、金髪の少年。
何か粗相でもしたのだろう。
食事中だったので無視した。そうでなくても無視するが。

食事も済み、さっさと薪割りでもしようと厨房から出る。
見ると、さっきの少年がまだネチネチとメイドに文句をたれている。
暇をもてあました貴族ほどタチの悪い生物は無い。
それでもどうにか気を収めたらしく、少年は席に戻っていく。
その途中、少年のポケットから小さな壜が転がり落ちる。
それはコロコロと転がって、リンゴォの靴にコツン、と当たり動きを止めた。
本来ならば無視するところではあるが、どういう風の吹き回しか、リンゴォはそれを拾ってやった。
「おい、落ちたぞ」
そう言って、小瓶を少年の脇においてやる。リンゴォが取った行動はそれだけである。
「何を言ってるんだ? これは僕のじゃあ――」
「おいまさか、これはモンモランシーの香水じゃあないか?」
少年の言葉は、仲間たちの声によって遮られた。
「前に見たことがある、この色は確かにモンモランシーの香水だ!」
「この『香水』が君のポケットから落ちたという事は、だ……」
「つまり君は今モンモランシーと付き合っている…。そういうことだな?」
「モンモン! モンモン!」
「違う、待ちたまえ、いいかい? 彼女の名誉のために――」
そんな喧騒になど興味がなかったリンゴォは既に歩き出していたが、
強烈な殺気の塊を感じて瞬時に振り向いた。

「ギーシュ様……? やはりミス・モンモランシーと?」
穏やかな口調ではあるが、問い詰める少女の眼輪筋は痙攣している。
ギーシュ・ド・グラモン――それが少年の名である。二つ名を『青銅』――
彼は先の授業で、不幸にも無傷であった。
「いや、違う、誤解だ、誤解なんだケティ……。これは――」
ドグシャアッ!
「さようなら」
うずくまって痙攣するギーシュを尻目に、ケティという少女は去ってしまった。
そこへ近づいてくるド派手巻き髪、彼女が『香水』モンモランシーである。
彼女を目にした途端、ギーシュは雷に打たれたかのように立ち上がった。
痛みに耐える漢の姿に仲間たちは拍手を送るが、ギーシュにはそれどころではない。
「モ…モンモランシー……その、これはだね…………」
「ギーシュ…大丈夫? ………カワイそう、あなた…とてもおびえた目をしているわ…………」
周りの連中はモンモランシーの態度に拍子抜けするが、ギーシュの息はさらに上がっていく。
「ハアハアハアハア(ば…バレた…見つかってしまった……)」
「だがオス犬がッ! そのチンタマ噛み砕いてやるわッ! ……ギーシュ、愛していたのに」

「シエスタ、薪割りはどこでやればいい?」
「え? ああ、はい、しかし……」
リンゴォが質問するが、目の前の光景をシカトするなどシエスタには無理な話だった。
メメタァ
ドグチアッ

ああかわいそうなギーシュ!
あの時爆発に巻き込まれていればこんなことにはならなかったかもしれないのに!
モンモランシーが去った後には、何かよくわからない金髪のボロクズが残っていた。
無論リンゴォには関係のない話である。
うろたえまくるシエスタから薪割りの場所を聞き届けると、さっさとその場を離れようとした。
が、そのリンゴォに後ろから声がかけられた。
「待ちたまえ君! そこのヒゲの平民、君に言っているのだよ!」
「ギ、ギーシュ、お前大丈夫なのか!?」
リンゴォが振り向くと、先ほどのボロクズが立ち上がっていた。
「君が軽率に、香水の壜なんか拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。
 どうしてくれるんだね?」
見栄である。見栄がモルヒネのようにギーシュの痛覚を麻痺させているのだ。
そしてリンゴォはその見栄のための生贄だった。
周りの貴族たちはその生贄の行動を見ていたが、やがてそれが口を開いた。

「…『どうしてくれる』と訊かれたから答えるが……答えは『どうもしない』…。
 レディの名誉が傷つこうが俺の知ったことではないし…関係ない世界の話だからな」
想定外の返答に、一瞬ギーシュだけでなく周りの貴族たちも凍りついた。
用は済んだ、とばかりに立ち去るリンゴォを呼び止めるギーシュの声。
「待ちたまえ……待ちたまえと言っているんだよ君…!」
「……まだ何かあるのか?」
「平民の君が、貴族の名誉など『知った事ではない』と……?」
正直、周りの貴族たちは、因縁を吹っかけるギーシュを、無責任だし、理不尽だなと感じた。
だが、その理不尽に平民がどう反応するかというのも彼らの楽しみだった。
平民がペコペコ頭を下げるのを見るのも気分がよかったし、
平民が口答えしたならしたで、余計にギーシュの滑稽さが際立って見ものになる。
しかし、リンゴォの返答は、若くとも名誉を重んじる貴族の反感を買うのに十分だった。

そんな空気を感じ取り、ギーシュはさらに強気に吹っかける。
「君はどうやら、貴族に対する礼という物が欠けているようだな…」
――『やってしまえ』――
世間を味方に付けて増長したギーシュが、もう一押ししようとする。

「みっともないわねぇ。二股がばれたからって、平民に因縁吹っかけてるの?
 自分ってものを客観視した事ある? 『名誉さん』が飛んでっちゃうわよ?」
リンゴォに助け舟を出してやるのは『微熱』のキュルケ。隣のタバサは我関せず。
その言葉で、場の空気が元に戻る。
『そうだ! みっともないぞ!』『二股かけるなんてサイテー』
『因縁吹っかけるのはヤクザの仕事だぞ!』『このタマナシヘナチン!』
世間の風に乗ったギーシュは、呆気なく墜落した。
「……よくもこんな恥を…………!」
退路を立たれた人間は、わけのわからない行動をとり始める。
「礼儀というものを教えてやる! 『決闘』だッ!」
「断る」
「よく言った! ヴェストリの…え?」

またも想定外の返答。
「暇ではあるがお前みたいのとかかずりあってる意味は無いんでな」
「どういう意味だッ! 言ってみろ平民!」
呆然としていたが『お前みたいの』という言葉に何とか反応する。
「もしここで今から決闘になるとしたなら………だ…
 君はオレに勝てない」
あまりに想定外すぎる斜め上の衝撃発言に食堂が静まり返る。

「悪い事は言わない…君は下がれ」
「もう少しだけ話をしてやろうか……?
 君は自分から攻撃を仕掛けているように見えるが…
 その実、その行動は『見えない何か』から自分の心を守るための防御反応の結果に過ぎない。
 敵が誰かさえ自分で決める事が出来てはいない。
 だから下がれ。それが理由だ」
「受身の『対応者』にオレは興味はない」
ここでついにギーシュがブチ切れる。キュルケはため息をついた。タバサは興味がない。
「もう我慢ならん! 『決闘』だッ!!!!」
「話を聞いていなかったのか? だが、どうしてもというのならいいだろう…仕事の後でな」
「ヴェストリの広場にて待つッ!」

友人たちの肩を借りながらギーシュが食堂を出て行く。
残されたリンゴォも、さっさと薪割りを済ませてしまおうと歩き出す。
ガタガタと震えながらシエスタがこちらを見つめる。
「あなた、こ、殺されちゃう……! 貴族を本気で怒らせたら………!」
そう言って逃げ出してしまった。仕事はどうしたのだ?
まあ、殺されるというのなら『それはそれ』だ。何が変わるわけでもない。

薪割りをしている最中に、ルイズがやってきた。タバサとキュルケも一緒だ。
「アンタ、聞いたわよ! 何勝手に決闘なんて約束してんの!」
その他、色々な文句を浴びせかけるがリンゴォは聞いてはいなかった。
「ね、タバサ、アンタどう思う? 暇つぶしのショーぐらいにはなると思うけど」
「彼では……勝てない」
「そりゃそーよねー。いくら相手がギーシュだからって、平民とメイジじゃ、ねぇ」
薪割りを終えたリンゴォが質問する。
「ヴェストリの広場というのはどこだ?」
「…ついてきて」
キュルケたちがリンゴォを案内する。ルイズはといえば後ろのほうで「勝手にやってなさい!」
と怒鳴っているが、心配なのだろう、結局ついてくる。それを見つめるタバサ。


  「正しい道」とはなんだろうと思う。
  愛とか正義を願う気持ちを持つあまり、間違った道に迷い込んだらどうしようと思う。
  それが正しいのか誤った道なのか、どうやって「2つ」を見分ければ良いのか?
  誰か教えてくれるというのか? 愛する気持ちゆえに愛する人を傷つけてしまったら、
  どうやってそこを抜け出せば良いのか? ケティもモンモランシーも、ギーシュに係わる
  ものは全員、その状況下にある。「決闘」しか方法はないのか?


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