ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-5

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匿名ユーザー

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食事はきっちり全員分作られてある。ギアッチョが貴族の分を食べたため――
ルイズの分の食事はなくなってしまった。するとどうなるか?ルイズは使い魔の責任を取って、本来ギアッチョが食べるはずだった実に貧相な朝食を食べる
羽目になってしまったのだ。生まれて初めてのことである。

「それもこれも・・・全部あのクサレ眼鏡のせいよッ!!」
食堂に来たとき以上の怒りを撒き散らしながら、ルイズは教室に向かった。
さりげなく罵倒のランクも上がっている。
「ていうかあいつちゃんと掃除してるんでしょうね・・・もし教室にいなかったら飯抜きだわ!」
ブツブツ文句を垂れながら教室の戸を開く。

はたしてそこにギアッチョはいた。ぼんやりと宙を見つめて座っている。
「ちょっ・・・どこに座ってんのよあんた!降りなさい!」
「学生ならよォー 誰でも座るだろォ?怒ることじゃあねーだろ」
「座らないわよ!ここは平民の学校なんかとは違うんだからね!」
「やれやれ」ギアッチョはそう呟くと教卓から飛び降りた。
「文句ばっかじゃあ人はついてこねーぜお嬢様よォ~」
「ここまで酷い仕打ちにあって文句を言わない奴がどこにいんのよッ!!」
正論である。しかしギアッチョは動じない。
「リゾットの野郎は文句一つ言わなかったぜ 『お前はそういう奴だからな・・・』
とか何とか言ってよォオォ」
「あんたそれどう考えても諦められてるじゃない!」
等と無駄な問答がしばし続き―
「ハッ!肝心なことを忘れてたわ!あんたちゃんと掃除したんでしょうね!」
ようやく本題に気付いたルイズが辺りを見回すと・・・


意外ッ!それは完璧ッ!!
「うッ・・・美しい程に磨かれているわッ!!あんた一体どんな魔法を使ったの!?」
「何も・・・別に元々掃除は嫌いじゃあねー」
ルイズはそこで理解する。こいつはキレさえしなければマトモな奴なのだと。
「・・・ん?」
キレさえしなければ。
「・・・ギアッチョあんた 念のために訊くけど・・・ 私の部屋も綺麗に片付いたんでしょうね?」

「・・・・・・」

―ルイズは頭痛と共に確信する。
「・・・壊したのね」
「・・・まぁ そういう説もあるな・・・」
「・・・あーそう・・・」
ルイズはもはや怒る気力もなくなっていた。隣でギアッチョが「椅子の形が気に入らねェんだよ椅子の形がよォォォーーー」等と呟いているので恐らく壊れたのはそれだろう。
全くこいつを召喚してしまってからというもの本気でロクな事がない。「私は今世界で一番不幸な貴族だわ・・・」とルイズは一人ごちた。


始業の鐘が鳴り、教師が入ってくる。シュヴルーズと名乗ったその教師は、開口一番
「おやおや、面白い使い魔を召喚したものですね ミス・ヴァリエール」
とのたまった。本人に悪気はないのだろうが、ルイズにその言葉はかなり
堪えた。「こいつと一日一緒に過ごしてからもう一度言ってみなさいよ!」と言いたかったが、勿論教師にそんなことが言えるわけもない。
しかしそんなルイズの胸中も忖度せず、一人の生徒がルイズをからかい始める。
「ゼロのルイズ!召喚出来ないからって、その辺歩いてた平民を連れて
来るなよ!」
周りでドッと笑いが起きる。
「うるさいかぜっぴきのマリコルヌ!私はきちんと召喚したもの!こいつが
来ちゃっただけよ!」
「嘘つくな!『サモン・サーヴァント』が出来なかったんだろう?それと俺は風邪なんかひいてない!」
二人はギャーギャーと言い争いを始めた。罵り合いは次第にエスカレートし、やる気かと言わんばかりに二人がガタンと席を立ったところでシュヴルーズは
杖を振った。彼女の魔法によって糸が切れたように着席した二人を交互に見て、ミセス・シュヴルーズは仲裁にかかる。
「お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。わかりましたか?」


マリコルヌはニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。
「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」
マリコルヌは自分で言って大笑いする。が、そのバカ笑いは突然ピタリと止んだ。
「はガッ!?ぼ、僕の口にィィ こ 氷がァァァ!!」
マリコルヌの口は、いつの間にか氷でガッチリと覆われていた。
ルイズはハッとして床に座らせていた己の使い魔――ギアッチョを見る。
「氷を床から伝わせて奴の口を封じた・・・ ゼロだか何だかしらねーが 恩人がバカにされてんのを見んのはいい気分じゃあねーからよォォ~~」
「・・・ギアッチョ・・・あんた・・・」
この学院に来て以来、ルイズは誰かが自分をかばってくれたことなど一度もなかった。
昨日自分を助けてくれたキュルケだって、普段は数百年来の怨敵の間柄である。
―むしろ彼女がどうして体を張ってまで自分を助けようとしてくれたのか、ルイズにはまずそれが分からなかったが―つまりギアッチョは、ルイズにとってここで初めての味方だったのだ。
ルイズは一瞬だが、今までギアッチョに受けた仕打ちなどすっかり忘れて、この男を召喚出来たことを始祖ブリミルに感謝した。

ミセス・シュヴルーズは授業を開始した。マリコルヌの口はしばらくふさがれていたが、息が苦しいのかウーウー唸るのが煩わしくなってきたのでそのうちギアッチョに解除された。
そのギアッチョは真面目に授業を聞いている。やっぱり
平常でさえあればマトモな男なのだろう。意外と勤勉なのかもしれない、とルイズは思った。
「そういえば何度か妙な雑学を披露してたわね・・・」
まぁ問題は披露の度にブチキレる事なのだが。そんなことを考えていると、「ミス・ヴァリエール!」
突然先生に名前を呼ばれた。
「は、はいっ!」
「使い魔が気になるのは分かりますが、そちらばかり見ていて授業を疎かにしてはいけませんよ」
「ち、ちがっ・・・」
「口ごたえをしない!ではあなたにこれをやってもらいましょう ここにある石を、望む金属に変えてごらんなさい」
「え?わ、私がですか?」
シュヴルーズがルイズを指名した途端、生徒達から一斉にブーイングが起こる。
「まってくださいミセス・シュヴルーズ!」「ルイズに魔法を使わせるなんて自殺行為
です!!」「・・・イカレているのか?この状況で・・・」等々、まるでルイズが魔法を使うと死人が出るかのような狼狽ぶりである。
ルイズは正直やりたくなかった。
彼女の魔法が成功したことなどサモン・サーヴァントを除けば殆ど皆無なのだ。
しかし――彼女はちらりとギアッチョを見る。
――使い魔の前で主が逃げ腰になるわけにはいかないわ!
ルイズは「覚悟」を決めた。クラスメイト達にとってはこの上なく迷惑な「覚悟」だったが。

「やります!」
と言うがはやいか、ルイズは教卓に向かって歩き出していた。石の前に立ち、
杖をかざし、呪文を唱え始める。ギアッチョは興味深げに見守っていたが、
それにしても周囲の声が尋常ではない。「その魔法を出させるなァーーー!!」
だの「う…うろたえるんじゃあないッ! ドイツ軍人はうろたえないッ!」だの、
あまりにも怯えた声が聞えてくるものだから流石のギアッチョも何だか
分からないなりに用心の構えをとることにした。

―私は出来る、やれば出来る子よ!そうよ、サモン・サーヴァントだって
成功したんだから!
そしてルイズは呪文を発動させる!

カッ!!

一瞬の光の後、

ドッグォオオオォオン!!!

運命は覆らなかった。石を中心に広がった爆風は石や机の破片を撒き散らし、逃げ遅れた生徒は殆ど例外なくその餌食になった。間近にいた
ミセス・シュヴルーズは、ちょっとお見せできない顔で地面に倒れている。
とっとと机に潜り込んで難を逃れていたキュルケは、はたと思い当たってギアッチョの姿を探した。

ギアッチョは―座っていた場所を1mmも動いてはいなかった。少し驚いたような顔はしていたが・・・彼の体には一箇所たりとも傷はなかった。
そして更に奇妙なことに、ギアッチョの体から大体半径50cm程度の範囲に飛来したと思われる破片は、全て宙に浮いて止まっていた。
――バカな・・・この一瞬で爆風と破片全てを「止めて」しまったというの!?
一人眼を見張るキュルケをよそに、ギアッチョは呼吸と共にスタンドを解除し、宙に浮いていた破片はそれと同時に一斉に地面に落下した。
――なんて「パワー」なの・・・ この男 ギアッチョ・・・やはり危険だわ!
キュルケは出来うる限りの範囲でこの男を警戒することを心に決めた。


「あーもうッ!全然終わらないじゃない!!」
ルイズは箒を片手に喚いていた。
「そりゃあそーだろォォォ 教室の半分をフッ飛ばしゃあよォォ」
2人は今掃除中である。ルイズは始終ぶつぶつと文句を言っているが、教師の不注意ということで十数人を医務室送りにした事を問われなかったのだから、むしろここは喜ぶべきなのである。
「ったく・・・どうしてこの私がこんなことを・・・」
「てめーがブッ壊したからだろ」
この学院では、選択も掃除も全てメイドが行っている。勿論ルイズの実家でもそうだったので、彼女に掃除の経験など全くなかった。
「あんたのおかげであんな惨めな場面を衆目に曝されるハメになるし、
その上あんたの代わりに使い魔のご飯は食べるハメになるし、おまけに魔法も失敗してこんな平民の仕事をやらされるハメになるし・・・全部あんたのせいよこのバカ使い魔!!」
「後半2つは関係ねーだろ」
「うるさい!ていうかあんたも手伝いなさいよッ!さっきからそこに座ったまんまで何にもしないじゃない!」
ルイズはギロリと半分壊れた教卓の上のギアッチョを睨む。
「ここを爆破したのは俺じゃあねーぜ」
「主の不始末は使い魔の不始末よッ!」
さっきの「覚悟」のことなど、少女はすっかり忘れ去っていた。
自分で言って恥ずかしくねーのかこいつは、と思ったギアッチョだったが、これ以上ギャーギャー騒がれると氷漬けにして窓からブン投げたくなるので仕方なく掃除を手伝うことにした。
「あんたはここからそっちまでお願い それと一つ言っておくけど、絶対にキレて物を壊したりしないでよ!」
「ここからそっちってほぼ4分の3じゃねーか、ええ?おい まあそれでもお前がそこを掃除し終えるよりは早く片付くだろーがよォォ」
こうして互いが互いをいつまでも罵り合いながら、教室の掃除は進んでいった。




午前の授業の終わりを告げる鐘が鳴る。それとほぼ同時に、2人の掃除は終了した。
「はぁー・・・やっと終わったわ・・・ 掃除なんてもう二度とやらないんだからね!」
誰に向かって宣言しているのだろうか。
「やりたくねーならちゃんと魔法を勉強するこったな」

ビキッ!

ギアッチョの何気ない一言は―ルイズの逆鱗に触れてしまった。
「・・・てるわよ・・・」
「ああ?」
「してるわよッ!!」
ルイズは幼い頃から魔法も使えないメイジとしてバカにされてきた。自分を見下している奴らを見返すために、彼女は常の他人の何倍も努力をしている
のだった。それを、知らないとはいえ自分の使い魔にバカにされたのだ。
ルイズが怒るのももっともである。
「ええそうよ、私は一度も実技を成功させたことのない『ゼロ』のルイズよ!!
だから何!?勉強なんて腐るほどしてきたわよ!!練習だって毎日毎日死ぬほどやってきたわ!!腕から血が出るまでし続けたこともあったわよ!!
サモン・サーヴァントが成功した時私がどれほど喜んだか分かる!?
それをッ・・・!!どうして何も知らないあんたに言われなくちゃならないのよッ!!」
激昂して喋るルイズの眼には涙が浮かんでいた。彼女はそれを乱暴にぬぐいとると、バン!!と激しく扉を開けて駆け出していった。
「・・・・・・チッ」
誰に向けてのものだったのか、ギアッチョは舌打ちをしながら走り去って行く彼女の後姿を眺めていた。


ギアッチョは食堂に来ていた。怒っていても根が真面目なルイズの事だ、今朝のような事態にさせないためにも食事には来るだろうと考えたのだ。
食堂を見回してみると、やはりルイズはそこにいた。まだ怒りが冷めていない のがここからでも分かる。キュルケなどがいつになく真剣に怒るルイズを
いぶかしんで話しかけていたが、ルイズは「うるさい!」の一点張りで取り合おうとしない。
「チッ!」
先ほどよりも大きく舌打ちして、ギアッチョはルイズの元へ向かった。

「まだ怒ってんのかよ ルイズよォォ」
「・・・うるさい」
ルイズはギアッチョとまともに顔をあわせようともしない。
―・・・やれやれ
ギアッチョは心の中で嘆息すると、ルイズに向き直った。
「・・・さっきは悪かったぜ お前が勉強してるかも知らずによォォあんなこと言っちまうのは・・・『礼節』に欠ける行為だった
反省してるぜルイズ」
ルイズは耳を疑った。こいつがこんなに早く謝ってくるなんて夢にも思わなかったのだ。こいつは自分が思っているよりよほど礼儀の
分かる男だったらしい。ルイズは少しばつの悪そうな顔をしながらそこでようやくギアッチョに顔をあわせた。


「・・・わ、分かればいいのよ ・・・・・・どうして魔法が成功しないのか分からないけど 私はいつも死に物狂いで努力してるんだから―もう二度とさっきみたいなこと言わないで」
「・・・ああ 分かったぜルイズ」
それを聞いてルイズは少し表情を崩し、そしてそれを合図にしたかのように祈りの唱和が始まった。

「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ 今朝もささやかな糧を我らに与えたもうたことを感謝いたします」

貴族達の祈りが終わると同時に、あちこちでフォークとナイフの音が鳴り始めた。
「ところでよォォ オレの椅子が見当たらねーんだが」
「使い魔は床よ」
やれやれ・・・ギアッチョはもう一つ嘆息すると、もう一つルイズに尋ねた。
「で・・・オレの飯はどれだ?」
ルイズはちょいちょいと下を指差す。そこには見るからに硬そうなパンが小さく二切れ、そして意識して見なければ見逃してしまいそうな
ほど小さな肉のカケラが2つ3つ浮かんだスープが置いてあった。
「・・・なるほどな・・・ こいつが使い魔用のメニューってわけか」
「そういうことよ 使い魔が食堂の中で食事をすること自体が
特例なんだから 始祖と女王陛下に感謝を捧げてありがたくいただきなさい」
とのご主人様の優しいお言葉に、

ブッチィィィィ―――――z______ンッ!!

今度はギアッチョの怒りが爆発した。

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