ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔波紋疾走-7

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匿名ユーザー

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ヴェストリ広場は「風」と「火」の塔の間にある広場だったが、周囲を野次馬が取り囲んでいるあたりは
広場というよりもまるで野良試合のリングのようだった。
生徒達よりも優に頭一つは背の高いジョナサンは野次馬を掻き分けるようにして広場の中に歩み入る。
「ん?ワイン片手とは随分と余裕じゃないか、平民」
ギーシュは既に広場の奥に陣取っていた。
「それとも酔いで恐怖を少しでも誤魔化そうという魂胆かな?」
取り巻きがどっと笑う。
(思い出す…あの日、ディオと勝負した試合を…)
ジョナサンの脳裏に、少年時代に経験したほろ苦い敗北の記憶がよぎる。
「まあいい。諸君、決闘だ!」
ギーシュの声に野次馬が一斉に沸き立つ。
(だが全てがあの時とは違う。場所は異世界、相手は魔法使い、)
「改めて名乗らせていただこう。僕は『青銅』のギーシュ・グラモン!」
(そして僕には皆から受け継いだ精神があるッ!)
「ジョナサン・ジョースター」



クゥゥゥゥゥ…コオォォォ…

広場に響く耳慣れぬ音に野次馬の歓声が不安そうなざわめきに変わる。
だが音の正体がジョナサンの呼吸音であると分かると、
「何のつもりだい?フーフー吹くならファンファーレでも吹いて貰いたいものだね」
ギーシュは手にしたバラの造花を構え、
「メイジと平民では力の差がありすぎる。君には一つアドバンテージをくれてやる。
 このバラ、つまりメイジの命たるこの杖が僕の手から離れれば負けを認めてやろう」
短く口訣を結んでから軽く振る。
絹の花弁が一枚宙に飛び、音も無く地に落ちると、瞬く間に花弁は女性を模した青銅の甲冑へと姿を変える。
「ああそうだ、言い忘れていたな。僕はメイジだ。メイジらしく魔法でお相手するよ」
指揮棒のように造花を構え、
「青銅のゴーレム『ワルキューレ』が君の相手だ…文句はあるまいね?」
ジョナサンを指すと、甲冑は無造作に、しかし自然な動きでジョナサンへと歩み寄る。
しかしジョナサンはその動きを見ていない!構えてもいない!
その目はグラスに注いだワインに向けられていたッ!



グラスに注いだワイン、その水面には幾重にも波紋が浮かんでは消える。
(あの甲冑の『波紋』だけが探知できない…使い魔…いや、生物ではないのか?)
波紋探知機。
自分の発する波紋を使い生物の位置と種類を特定する、波紋法を利用した対生物専用のレーダー
(むろんジョナサンはこのような単語を知らないが)であるが、波紋の「慣らし」で使ってみた結果に
ジョナサンは目を奪われていた。
「おいおい、余所見していると危ないぞ?僕のワルキューレは手加減できないからね!」
得意気なギーシュの声にジョナサンが視線を上げると、既に目の前に迫った青銅の甲冑-ワルキューレは
鋲を打った青銅の拳を固め、素早く右フック。
「おおおッ!?」
ジョナサンは開いた左手をワルキューレの下腕に素早く当て、拳の軌道を逸らす。
次いでワルキューレは拳を逸らされた反動を生かして左フック。ジョナサンはこれに右膝を当てて受け止め、
「コォォォォーッ!」
呼吸で生まれる波紋を集め、
「ふるえるぞハート!」
束ね、
「燃え尽きるほどヒート!」
拳を受け止めた膝の一点から放出ッ!
「鋼を伝わる波紋!銀色波紋疾走(メタルシルバーオーバードライブ)ッ!」



…したが、ジョナサンの波紋は丁度避雷針が雷を地面に逃がすかのように、
ワルキューレの青銅の腕を、胴体を、足をすり抜け、あっさりと散らされてしまう。
「うまくかわして一矢報いた、ってつもりかい?」
ギーシュは得意気な笑みを浮かべ、
「何をしたかは知らないが、その程度では僕のワルキューレに傷一つ付けられないよ!」
オーケストラの指揮者気取りで造花を振り、ワルキューレに再度攻撃を命じる。
(波紋が生物の体へ流れた感触が無い…)
ジョナサンは右へ左へと闇雲に振り回されるワルキューレの拳から横飛びに離れ、
(やはり使い魔、いや生物ではない…ならばッ!)
ワインを口に含み、
(ツェペリさん…あなたの技をお借りします)
波紋の呼吸ッ!
「波紋カッター!」
歯の隙間から噴き出したワインは極薄の回転ノコと化し、鋭い風切り音と共にワルキューレの青銅の身体へと
食い込み、まるで熱したナイフでバターを切るように切り込んでいく!


「あれ…魔法…なのか?」
「属性は何だ?水か?」
「まさか!あんな術聞いたこともありませんわ」
「それよりも一瞬光らなかった、あいつ?」
野次馬が口々に言い合う中、ジョナサンの放った波紋カッターがワルキューレの右腕を断ち落とすと、
「何で、何で、平民なのに、魔法が…」
やっとの事で人垣の前に陣取ったルイズと、
「な、な、何をした平民ッ!武器も無しに、僕のワルキューレをッ!」
御自慢のワルキューレを易々と傷物にされたギーシュは動揺をあらわにした。
しかし!
「…浅い!」
胴体へ食い込んだ所でカッターを形作る圧力が急速に失われ、無害なワインの雫へと戻り、飛び散った。
(やはり波紋の集中が甘いのか…)
「お、おのれェェェ!」
ギーシュはバラの造花で宙を薙ぎ、同時に6体、今度は様々な武器を手にしたワルキューレを練成、
都合7体のワルキューレで素早く円陣を組んでジョナサンを取り囲む。
「どうやら僕を本気にさせたようだな…全力で相手してやるッ!」



激昂するギーシュに対しジョナサンは平静さを崩す様子は無い。
(戦いの思考その1…敵の立場で考える)
呼吸を乱さず、波紋を練りつつ、左右を見回す。
(同士討ちの可能性があるのに僕を取り囲んだ…冷静さを欠いた判断だ)
突きつけられた武器を見定める。馬上槍が2、両手剣が2、片手剣が2、拳が1。
(冷静さを欠いているなら、当然全員を円陣の中央にいる僕に突っ込ませるはず)
「どうだ!君の魔法でもこれだけの数を同時に相手にできるかッ!」
総攻撃の命令を下すべくギーシュは造花を顔の横に、あたかも手にしているのが細剣で、
これでジョナサンの澄ました顔をえぐってやらんと言わんばかりに、構える。
「ギーシュ!まさか本当に殺す気ッ?!」
ルイズの怒声は既に悲鳴に近い。
(波紋カッターでは威力不足だった…だがこれならッ!)
波紋エネルギーを再度高めると、
(な、何だ?)
ジョナサンは左手の甲に熱と光が生じたのを感じ、
(左手…?)
その原因を調べようとわずかに視線を逸らせたその時、
「食らえぇッ!」
ギーシュは造花を突き出し、ワルキューレは命令のままに得物をジョナサンへと突き立てるッ!



最初は誰一人として何が起きたのか理解できなかった。
同士討ちにこそならなかったが、ワルキューレの武器の切っ先は互いに絡みあい、
その先にはザルのように穴だらけにされたジョナサンが…いなかった。
「上だァァッ!」
野次馬の一人が天を指す。
ジョナサンは一瞬の間に宙へ逃れていた!その高度およそ5メルテ!
そして手にしたグラスは空っぽッ!
「パウッ!」
再度ジョナサンの口から超高圧のワインが撃ち出される!
しかも今度は一点に絞り連続して射出ッ!波紋カッターならぬ波紋ジェット!
波紋ジェットの先端は波紋カッターのように圧力が失せずにワルキューレの青銅の胴体を貫通!
そこでジョナサンが素早く首を振るとジェットも縦横無尽に振り回され、武器が絡み合って
身動きの取れないワルキューレを次々に切り刻み、広場の石畳をえぐり飛ばすッ!
(ディオ…今度は君に礼を言わないとな…)
崩れ落ちるワルキューレの残骸を背に、
(これは君が僕を倒した技なんだから)
ジョナサンは音も無く降り立った。
左手の紋章はゆっくり輝きを失い、また元の黒い線条へと戻った。



目の前の出来事を理解する数瞬の後、得意絶頂の極みにあったギーシュはようやく
自分が絶望のドン底に叩き落された事を悟った。
「うっ…うわあああぁッ!来るなッ!来るなあぁッ!」
ごく平静に歩み寄るジョナサンに対し、ギーシュは更に造花を振り上げ、
「く…?」
全身に奇妙な痺れを感じる。
「コ…ケ…」
動けない。声が出ない。呼吸もままならない。
(ま、まさかこいつ、僕に『麻痺』の魔法をッ…)
辛うじて動く目だけを動かして何が起きたかを確認すると、造花の先はジョナサンの手にした
空のグラスに突っ込まれていた。
ジョナサンの体はどことなく金色の光を発しているように見え、同じ光がグラスを伝い、造花を伝い、
ギーシュの全身をも包んでいる。
(こいつッ!もしかして!動けない僕をメッタ打ちにッ!)
ギーシュは人生初めて「全身の血の気が引く」感覚とはどのような物かを知った。
(こ、降参するッ!僕の負け…)
「ケ…ヒ…」
(駄目だァァァ!こ、声が出ないィィィ!そ、それどころか…息がッ!呼吸が…できないッ!)
脂汗がどっと流れ出す。


(こいつッ…もしかして…このまま…僕を…)
ジョナサンがゆっくりとグラスを引くと、バラの造花もギーシュの指から引き抜かれる。
造花が指から離れると金色の光が薄れ、直後に体の自由が戻ったギーシュが膝から崩れ落ちた。
激しく空気を貪るギーシュの目の前に造花入りのグラスが差し出され、
「杖を手放したな。君の負けだ」
ジョナサンの勝利宣言と共に野次馬が一斉にどよめいた。

「なぜ…あのまま…窒息するのを…待たなかった…?」
まだ息が荒いながらも立ち上がるギーシュ。
「いや…動けない僕をどうにでもできたはずだ…
 なのに…あれだけの魔力がありながら…なぜ僕を攻撃しないんだ?」
「確かに僕は決闘の申し出を受けたが、それはシエスタの誇りを守るためで、できれば君を傷つけたくはなかった。
 あのワルキューレだって攻撃していいものかどうか、最初は迷ったぐらいだ。」
ちらりとワルキューレの残骸に目をやる。



「それに、あの技…あの時に初めて試したものだから、どれほどの威力があるか分からなかった。
 間違って君やミス・ヴァリエール、それに他の皆を巻き込む訳には行かないから、
 上空から攻撃してみたら正解だったよ…あの有様だ」
ワルキューレがいた地面は波紋ジェットの余波で深い溝が幾重にも刻まれ、石畳はおろかその下の土壌までが
ぱっくりと口を開けていた。
「あと勝負とはいえ、君のワルキューレを7体も壊してしまった。許してほしい」
「ふっ…はっはっは!」
突然天を仰いで笑い出すギーシュ。
「おいおい、あのワルキューレは僕が『錬金』で作ったゴーレムだよ!魔力さえあれば幾らでも作れるさ!」
笑い終え、2メルテ近いジョナサンを見上げるギーシュの顔には元の自信が戻っていた。
「とはいえ正直魔力は今ので底を尽いたし、さっき僕が言ったアドバンテージに従えば僕の負けだ。
 ルールは遵守する。さもなくば決闘そのものを侮辱することになる…
 違うか平民、いや、ジョナサン・ジョースター?」
「その通りだ」



グラスからバラの造花を抜き取るギーシュ。今度はビリッと来なかったのでほっとした様子を見せる。
「だがそれでは僕の気が済まない。せめて勝者の望みを一つ聞かせては貰えないか?
 さあ、ジョナサン・ジョースター、君の望みを言ってくれ。これは僕自身の誇りの問題だ」
「シエスタと、あの二人の女生徒に謝って欲しい」
ぽかん、と呆けた顔に変わるギーシュに反し、
「あと、友人は僕をジョジョと呼んでいる」
ジョナサンの顔はごく真剣なままだった。

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