ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

奇妙なルイズ-11

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匿名ユーザー

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「これ、嫌いなんだけどな」
少し残念そうな言葉を漏らす女性は、我らがヴァリエール嬢。
朝食にしては豪華な料理が並んでいるが、今日のメニューは少し物足りないようだ。
ここ、トリスティン魔法学院は食事のマナーにも厳しい、が、貴族の食事は社交も兼ねることが多いため、大声で雑談しなければ特に注意されることもない。
今までは誰とも会話せず食事を進めていたが、最近ではキュルケやタバサ、モンモランシーと会話することも多い。
キュルケを見ると、既に食べ終わっている。
朝から食欲旺盛なキュルケを見て、食べた肉が腹でなく胸に行くのは何故だろうと考え、世の不公平を感じた。
しかし、キュルケと行動を共にすることの多いタバサは、ルイズよりも小柄で、胸もぺったんこ。
胸ではかろうじて勝っているルイズだが、彼女はキュルケと同程度かそれ以上の魔法の使い手だ、どっちにしろ魔法では勝てない。

食事があらかた終われば、デザートが配られる。デザートを配りに来るのは厨房付きのメイドシエスタと他数名の役目。
シエスタは平民だが、ルイズにとっては気の許せる友達でもある。
しかし、胸の大きさは明らかにルイズよりも大きく、これに関しては憎い相手であった。「ヴァリエール、ちゃんと食べないと背どころか胸も小さいままよ?フフン」
キュルケにとっては軽い冗談だったが、その言葉を聞いたルイズとタバサは意を決して苦手な料理に手を出すのだった。

しばらくしてメイド達はデザートを配り始めた。
いつものようにシエスタがルイズの右隣に立ち、ケーキの乗った皿を慣れた手つきでテーブルの上に置く…はずだったが、今回は珍しく別のメイドがデザートを置いた。
いつもいつも同じ列ばかりを担当できないのだろう、と思ったが、あたりを見渡すとシエスタの姿だけが無い。
厨房内の仕事でもしているのだろう、と思いながら、ルイズはデザートに手をのばした。
まもなく食事の終わりを告げる鐘が鳴り、生徒たちは食堂から出て行ったが、ルイズは考え事をしているのか、席に座ったままだった。
「ヴァリエール、何してるのよ。まだ食べ足りないの?」
モンモランシーの言葉に促され、ルイズは腑に落ちないものを感じつつも、席を立ち食堂を出て行った。

そんなルイズを、料理長のマルトーが、何か思い詰めたような表情で見ていた。

午前中の授業が終わり昼食の時間。
朝に続き、昼にもシエスタが顔を見せないの
この学院で過ごしている生徒達の大半は、貴族だけあって人の顔をよく覚えている。
しかし、平民のメイドが一人いなくなったからといって、気にすることはない。

『ゼロのルイズ』とあだ名されるほど魔法が苦手な彼女は、そのコンプレックスから負けん気が強く、貴族の権力を傘にして威張り散らすこともあった。
シエスタを助けてから…いや、正確には奇妙な夢を見るようになってからだが、ルイズは『素の自分を見せることが出来る友達』の大切さを自覚し、シエスタをはじめとする平民に目を向けるようになったのだ。

昼食も終わり、午後の授業が始まる。そして午後の授業を終え、夕食の時間が来た。
タバサの指摘を受けて、ようやくルイズは異変に気づく。
食前のお祈りを唱和した時、タバサはルイズの隣で一言「給仕口」と告げたのだ。
ルイズが給仕口を見ると、マルトーと目があった。
それに気づいたのか、マルトーはそそくさと厨房へと隠れてしまった。

その日の夜、明かり一つない食堂のテーブルクロスがもぞもぞと動き、ルイズが顔を出した。
ルイズは鍵を開ける魔法を使えない。爆発を起こさず厨房に忍び込むため、食堂にじっと隠れていたのだ。
給仕口から厨房に行くと、そこには小さなランプが灯されており、その下でマルトーがじっと誰かを待っているようだった。
シエスタなら今のマルトーに、まるで覇気がないと気づいただろう。

「…何か用?」
「 ! …あ、貴族様でしたか。こんな夜更けに、厨房に何か」
「何言ってるのよ。じーっと見られてたら何かあると思うじゃない。今日はシエスタも顔を見せないし。私に用があるんでしょ」
「………」
しばらくの沈黙の後、マルトーは話し始めた。
「昨日学院を視察に来られた、貴族のお方なんですがね…。その貴族様が、シエスタをたいそう気に入ったらしいんでさ。」
ルイズは思わず唾を飲み込んだ。いやな予感がするせいか、少し眠気の混じっていた頭が急速に覚醒していくのが分かった。
「今朝、シエスタは連れて行かれました。『昨日はこの平民が貴族に無礼を働いた』とか言われましてね。頭が真っ白になりましたよ。昨日はさんざん褒めて、今日になったら反逆者扱い。何だってんだ!」
マルトーの拳が、ドン!と、厨房のテーブルを響かせた。
「貴族様ってのは何なんですかい!?シエスタが何をしたって言うんですか!俺は、俺は女衒じゃない!」
マルトーはテーブルの上に置かれた小さな袋を壁に投げつけた。ガシャン、という音ともに散らばったのか、10枚ほどの金貨だった。
「貴族様、ヴァリエール様!何とか出来ねえんですか!シエスタは、連れて行かれた時、ルイズ様には言わないでくれと言ったんでさ。ですがね、泣きながらそんなことを言われたら、黙ってられるわけが無いじゃありませんか!」

ルイズは、怒りと悲しみの混ざったマルトーの声に、不思議な感覚を覚えた。

怒りが一巡して、恐ろしいほど体が冷めていく気がする。

昨日視察に来た貴族は、魔法学院その他の、国の重要機関を監査する立場の貴族だ。
本当の事かどうか分からないが、平民の少女だけを集め、ハーレムを作っているという噂を聞いたことがある。
しかし、思い返してみれば、自分の姉も母も、その貴族を毛嫌いしていた。
おそらく事実なのだろう。
考えてみれば、今日はオールド・オスマンが王宮に呼ばれ、学院にいない。
その隙をねらってシエスタが連れて行かれた。

「…オールド・オスマンがお帰りになられたら、すぐにその話を伝えて」
そう告げると、ルイズは使用人通路の鍵を開けさせて、一目散にシエスタを連れ去った貴族の別荘へと走っていった。

マルトーは、シエスタの言う『おともだち』のルイズを今ひとつ信用しきれていない。
だが、ルイズ以外にこんな話が出来る相手もいなかったのだ。

ルイズは地面を『蹴り』瞬く前に空高く、そして遠くへと跳躍していった。
その姿を見たマルトーは『ゼロ』と呼ばれるメイジでも、空を飛ぶことは出来るのかと、素直に感心していた。


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