ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔波紋疾走-5

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匿名ユーザー

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教室は石造りのいわゆる階段教室だったが、部屋に入るサイズの物だけとは言え、使い魔となった
様々な生物が最後部に並んでいる所だけはジョナサンの「教室」の概念からかけ離れていた。
一部の使い魔はイギリスで見慣れた種類の動物なので猫だ烏だと見分けが付いたが、古代ギリシアの伝説やおとぎ話に出てくるような妖怪変化の類になると名前はおろか動物なのかどうかも外見だけでは分からなくなってくる。
ルイズは生徒用の席と立ち並ぶ使い魔、そしてジョナサンを何度か見比べてから、
「椅子に座ってなさい。あんた図体が大きいから立ってると他の使い魔の邪魔よ」
と自分の席の左隣を指差す。
「仰せのままに」
ジョナサンは大きな体を長椅子の端に押し込む。
ルイズがちらりと顔色を伺うが何を考えているかは掴めない。
その後数人の生徒が入ってきた後で、教師と思しき年かさの女性が入ってきた。
教師は「赤土」のシュヴルーズと名乗り、教室に並ぶ生徒達の顔をざっと見回す。
「皆さんが無事に『春の使い魔召喚』を済ませたのを見て、私も誇りに思います。
 中には珍しい使い魔を召喚した方もいるようですが」
教室中の視線がルイズとジョナサンに集まる。
「おや?ヴァリエールの使い魔は平民じゃあないか!確かにこいつは珍品だ!」
「さすが『ゼロ』!オレたちにできない事を平然とやってのけるッ、そこにシビれる!あこがれるゥ!」
劇がかった口調で数人の生徒がはやし立て、「ルイルイルイズはダメルイズ…」の合唱に入ったところでシュヴルーズの杖が振られると、
「使い魔は術者の術の表れ。そして召喚した使い魔はメイジにとって己の半身に等しい存在なのです。
 使い魔を侮辱する事はメイジを、そしてメイジの操る魔法を侮辱する事に他なりません。猛省なさい」
途端に歌声が止む。
ジョナサンが肩越しに後ろを伺うと、生徒の何人かがせっせと口中から粘土を掻き出していた。



「では授業を始めます。皆さんは私とこれから一年間『土』属性の魔法について…」
毎年ごとに繰り返す口上をそらんじながら、シュヴルーズはほぼ満足だった。
教師が生徒にナメられないコツ、それは教室の中では誰がボスなのか、最初にその事をアホガキどものクサレ脳ミソにはっきりと刻み込むこと。
そのために効果的な手段が授業の障害となる問題児の実力排除。
今年はミス・ヴァリエールをダシにして即座に問題児をあぶり出せたので楽でいい。
決め台詞も噛まずにバッチリ決まった。
ただ今年のクラスにおける最大の不安要素もまた、ミス・ヴァリエールだった。
学業成績は優秀、素行にも問題点は無し、そのくせ実技成績のみ最下位をキープし続けている、学園創設以来の規格外。
教室全体に目を配るフリをしながら、シュヴルーズは常にミス・ヴァリエールを見張る。
彼女に魔法を使わせる口実を探すために。

授業中もルイズの心中は穏やかではなかった。
ミス・シュヴルーズがバカどもを黙らせた手腕は鮮やかだったが、結局使い魔をダシに自分が侮辱されたことには変わりはない。
(そもそもこいつが来なければ…)
苦々しく左に座るジョナサンを見ると、ミス・シュヴルーズの講義に神妙に聞き入っており、更に石を練成し、青銅へと変えた時には相当驚いた様子だ。
(そうそう、少しはメイジに対し敬意を払って欲しいわね)



チャンスが来た。
咳払いを一つ。声を張り上げる。
「ミス・ヴァリエール!授業中によそ見をしているという事は、授業の内容を既に理解しているのですね?」
「あ!はいっ!」
ミス・ヴァリエールは慌てて立ち上がり(いい反応だ)、
「では前に出て、実際にこの石を『錬金』で金属に変えてみてください。青銅でなくとも結構ですよ」
「…もう、あんたのせいよ!」
道を譲る使い魔の平民に言い捨てて、緊張した面持ちで教壇に上がる。
教室からはクスクスと笑い声が聞こえる…かと思ったが不安そうな囁きしか聞こえない。
既に身構えている生徒もいる。
「あの…ミス・ヴァリエールに魔法を使わせるのはやめた方が…」
水を差すのはミス…ツェルプストーか。
どう言い返そうか思案していると、
「やります。やらせてください」
ミス・ヴァリエール自身から申し出がある。
(意欲はあるのね…結構。ではお手並みを拝見)
「ではお願いしますよ」
シュヴルーズは笑みを浮かべる。



駆け出しの「ドット」メイジでも道端の石を卑金属に変える程度なら造作も無い。
(…はずなのよルイズ、集中するのよ…)
頭の中で組み立てた術式を三度見直し、
(青銅でなくてもいいから、鉛でも錫でも亜鉛でもいいから、せめて何か金属に変わりなさい…)
口訣で魔力に術式を刻み、杖を介して石に注ぎ込む。
純粋元素に還元された石が一瞬輝き、
「うわあぁぁぁッ!『ゼロ』が唱えたああぁぁッ!」
教室中の生徒達が慌てふためいて机の影に隠れるのと同時に、
「ちょっとみなさ…」
事情を理解できていないシュヴルーズの目の前で、爆発した。
爆発で生まれた衝撃波は石が乗っていた机の半分をズタズタに引き千切り、シュヴルーズを黒板まで吹き飛ばし、ルイズに尻餅をつかせる。
砕けた木片は教室のあちこちに飛び散り、窓ガラスを割り、黒板にひびを入れ、制御が失われた使い魔達に当たり大騒ぎを引き起こす。
何が起こるか予想済みの生徒達は全員が石造りの机のお陰で難を避け、そんな中で唯一隠れ損ねたジョナサンは反射的に手を前に伸ばし指を広げ、
「おりゃっ!」
眼前に飛んできた木片を挟み取る。
爆煙と埃が収まった時、魔法を掛けられた石は跡形もなく消えていた。
「…失敗しちゃったみたいね」
スカートの裾を整えつつ言うルイズの声は実に白々しかった。


担当教員のシュヴルーズがのびてしまったため結局授業は中止、元凶のルイズには罰として教室の掃除が命じられた。
「…但し魔法は一切使わないよう頼むよ」
駆けつけた教師は重々しく付け加え、気絶したシュルヴルーズを医務室へと運び出す。
「ありがとよ!『ゼロ』のお陰で楽できたぜ!」
「せいぜい掃除がんばりな、魔・法・な・し、でな」
小馬鹿にする声を勤めて無視。いちいち気にしていたのではこちらが参ってしまう。
「ほら!使い魔なんだからあんたが掃除しときなさいよ!」
ルイズの怒声に立ち上がるジョナサン。
「これは君が受けた罰だ。僕は君を手伝うつもりだが、だからといって授業を中断し教室を使えなくした君が掃除をしなければ、先生が君に罰を下した意味が無くなる」
「う…わ、分かってるわよそんなの!じゃあ手伝いなさい!」
慌ててルイズは教室の隣にある掃除用具入れに向かうが、足を止めて振り向く。
「あとご主人様に逆らったから昼食抜き!」



二人は暫くの間黙々と手を動かしていたが、そのうちルイズがぽつりと口を開く。
「分かったでしょ?何で『ゼロ』って呼ばれているか」
その声には今までのような覇気は無い。
「どんな魔法を使おうとしても失敗するの。いっつも爆発してばかり。
 成功率ゼロ。魔法のセンスゼロ。だから私の二つ名も『ゼロ』のルイズ」
ジョナサンは木片を拾う手を止め、
「…君は魔法が『失敗』したから『爆発』した、と考えているんだろうけれど…」
顔を上げ、ルイズの瞳を真っ向から見据える。
「果たして本当にそうかな?」
「な、何でそんな事言えるのよ?」
「授業の内容を思い出していたんだ」
顔を伏せ、また木片拾いに戻りながら話し続ける。
「人間に個性があるように、メイジの操る魔法にもそれぞれ個性がある。
 その個性は大まかには地水火風の四元素、どの操作を最も得意とするか、という形で現れる。
 『使い魔は術者の特性の表れ』と言ったのも、召喚する際に得意とする元素の要素を何らかの形で持ち合わせた生き物を自然と呼び寄せているからだろう」
「あ、あんた…いつの間に…」
机の上を拭くルイズの手が止まる。



「魔法が失敗した時に普通はどうなるのかは知らないが、少なくとも常に『失敗すれば爆発』という乱暴な結果になるとは思えない。
石の『錬金』に失敗すれば石は石のまま、という方がより自然だ」
立ち上がり、拾った木片をゴミ箱へと持っていく。
「そして僕を使い魔として召喚し、契約を成功させた事からも、僕の見る限り君は魔法を使えるし制御もできていると思う」
「な、何言ってんのよ!あんたみたいな平民を召喚したんだから失敗じゃないの!」
「違う。もし君の言う事が正しいなら、召喚の時も、契約の時も、何かが爆発しているはずだ。
 …例えばこの僕自身とか」
両手一杯の木片をゴミ箱に投げ入れる。
「だ、だって、それは練成術と召喚術とでは、原理が…」
語尾を濁らせるルイズ。
「君はこう言った。『魔法を使おうとするといつも爆発する』と」
手に付いた土埃をはたき、もう一度ルイズを見据える。
「だったら逆に考えるんだ。君の魔法は『どんな物でも爆破する』んだ、と考えるんだ」
馬鹿にされた、とルイズはまたまなじりを上げる。
「そっ…そんな魔法聞いた事ないわよ!」
「さあ、その辺は僕も知らない。何しろ昨日召喚されたばっかりだし、魔法についての知識も、せいぜい聞きかじった程度だからね」
腰を反らして伸びを一つ。
「さて、早く掃除を終わらせようか。ご主人様に罰を受けて昼食抜きの僕はともかく、
 君まで昼食抜きなんて嫌だろう?」

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