ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔波紋疾走-6

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匿名ユーザー

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まだ暖かい雑穀混じりのパンを噛み締めながら、ジョナサンは自分がどれほど空腹だったかをようやく思い出した。
手元のスプーンを手に取り、湯気の立つシチューを口に運ぶと、旨みと暖かさがすっからかんの胃袋に染み渡るようだった。
そのまま無言でパンとシチューを交互に口に運ぶが、向かい合わせに座っていたメイド-シエスタの視線に気付き、顔を赤らめてゆっくりと食べるように努める。

ルイズは(大半の作業をジョナサンに押し付けて)どうにか昼食までに掃除を終えることができた。
その後朝食の時同様にホール入口で所在無げに立っていたジョナサンを呼び止め、賄い食を食べるよう薦めたのがシエスタだった。
最初は施しを受けるようで気が引けていたジョナサンだったが、
「ヴァリエール様付きの使い魔でしたら生徒付きの小間使いのようなもの、使用人も一緒ですわ」
と諭されて、こうして厨房の片隅で久方振りの暖かい食事にありつくこととなった。

「もっと召し上がりますか?」
皿がすっかり空になった所でシエスタが声を掛けるが、
「いや、もう結構。本当にありがとう」
スプーンを置き、礼を言って席を立つ。
「何かお礼をしないといけないな…」
「でしたら、これからデザートをお配りするのを手伝っていただけますか?」
「喜んで」



焼き菓子が載った大きな銀のトレイをジョナサンが運び、シエスタが手にしたはさみで配膳する。
シエスタがはさみを出す度に背をかがめるジョナサンの姿は傍目にはどことなく不器用な有様だが、仲間内での会話に興じる生徒達は見向きもしないので笑われる心配だけは無かった。
(…配膳する側から物を見るっていうのも新鮮だな)
中でも金髪を巻き毛にした生徒は大きな声で何やら自慢話を繰り広げていたが、話に熱が入りすぎているのか、ポケットから小瓶が転げ落ちたのにも気付いた様子は無い。
慌ててシエスタが拾い上げ、
「失礼致します。グラモン様、こちらの瓶を落とされましたか?」
食卓に小瓶を置くが、
「いや…これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」
巻き毛の生徒は一顧だにしない。
一方それを見た生徒達は一気に沸き立つ。
「これはモンモランシーの香水だぞ!」
「ギーシュ、やっぱりモンモランシーと付き合ってるって噂は本当だったんだな!」
「おいおい、この香水瓶が僕の物とは…」



がたん、と椅子が倒れる音。
「ギーシュ様…やはり、ミス・モンモランシーと…」
嗚咽を漏らしつつ女生徒が走り去り、更に別の女生徒が足音高く歩み寄ると、
「あ、いや、ケティとはラ・ロシェールの森に遠乗りに出ただけの仲で、それ以上は…」
巻き毛の生徒-彼女がモンモランシーだろう-がギーシュの頬に平手を一発、ついでに傍らのワインを顔に引っ掛け、
「うそつき!」
鋭く言い捨て、また足音高く歩み去る。
「二股だったのかよギーシュ!」
「俺この前ギーシュから聞いたぜ、バレなきゃあ二股じゃあねぇ、ってなあ!」
げらげらと笑い合う生徒達とは反対に、ギーシュの表情は見るうちに険しくなっていく。
「君が気を遣わないから、二人のレディの名誉が傷ついたんだ。どうしてくれるんだね?」
「もっ…申し訳ございませんっ!」
シエスタは深く頭を下げるが、
「ふん!最も平民如きにそんな機転を期待する方が間違いだったかな!」
ギーシュの勢いは止まらない。
「…この無礼は罰に値するね…」
「お許し下さい!お許しを!」
膝をつき、必死に許しを請うシエスタ。しかしギーシュはもちろん周囲の生徒達も、
「背中に鞭かなあ」
「いやあ、尻にパドルも捨て難いよ」
許すか否かよりもいかに罰を与えるかに興味をそそられている様子だった。


「やめるんだ」
ジョナサンの声に生徒達が振り向き、
「それ以上彼女を侮辱するのは僕が許さない」
「何を言っているんだい?…平民風情がメイジに口出しするもんじゃあない」
ギーシュは椅子から立ち上がる。
「君は君自身が落とした瓶のせいで自らの不義を知られたんだ。自業自得という他ない。
 しかしッ!そのために関係無いシエスタに罪を着せ、しかも鬱憤晴らしのためだけに罰を与えるなどと!
 紳士のすべき事ではない、恥を知るべきだッ!
 今すぐシエスタに今の非礼を詫びればよし、さもなくばシエスタの名誉のため…」
「…君が相手になるのかい?」
にぃ、とギーシュの口端が吊り上がる。
「そんな、ジョースターさん!」
顔を上げるシエスタ。
「いいだろう!ヴェストリの広場で待っている!その菓子を配り終えたら来るがいいッ!」
マントを翻し、取り巻きを引き連れ、大勢の野次馬と共に、ホールを後にする。

「ちょっと!あんた何考えてるのよ?!」
長いテーブルを回り込んできたルイズが食って掛かる。
「メイジに平民が喧嘩売って勝てると思ってるの?今からでも遅くないから謝ってきなさい!」
「さしづめ平民が貴族を侮辱したら死刑、貴族は平民を殺してもお咎めなし、って所かな?」
「そうじゃなくて!」
ルイズの瞳がジョナサンを見据える。ジョナサンがルイズにそうしたように。
「メイジは魔法が使える。平民は魔法が使えない。そしてメイジは躊躇せずに魔法を使うわ。例え相手が平民でもね」
「ずいぶんと無法な話だな」
「それがメイジが貴族たる所以なのよ。だからあんたは勝てない。謝ってきなさい。これは命令よ」
「…その命令も聞けないよ、ミス・ヴァリエール。勝てないとしても負けられないんだ」
トレイをすっかり人気の失せた食卓に置き、
「なぜなら僕は僕自身と、君達の言う『平民』の誇りのために決闘の申し入れを受けたんだ。
 それに彼が魔法を使うというのなら、僕は僕にできる手段でそれに対抗するまでだ」


食卓の上に残ったグラスと手付かずのワインを手に取る。
「済まないがこのワインを貰えないか?」
「あ、はい、でもこれ、栓がまだ…」
「それは心配要らない」
ジョナサンの体が光った、とシエスタが思った次の瞬間、ジョナサンの指がガラス瓶の厚い底に深々と突き刺さっていた。
「自分で開けられるよ」
するりと引き抜かれた指には怪我一つ無い。更に指を引き抜いた後も瓶底の穴からワインが流れ出る様子はなく、
ジョナサンがグラスを底にあてがってから初めて流れ始め、ちょうどグラスを満たした所でぴったりと流れが止まる。
「凄い…これ、魔法ですか?」
「いや、この世界で言う魔法とは違う…と思うけどね」
呆気に取られるシエスタに引っくり返したワイン瓶を渡し、
「何よ?今あんた、何やったのよ?」
同じく呆気に取られるルイズへと振り返る。
「ヴェストリ広場ってどこだろう?」

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