ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第五話『生きててよかったねマリコルヌ、の世界』

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爆発音が響き終わり、呻き声や啜り泣きが取って代わる様になると、
リンゴォは再び教室に入った。
「念のために部屋から出たが…まさか『再び』爆破を起こすとはな……」
そこらに転がっている生徒たちを踏みつけないようにルイズの――見当たらないが――
教壇の方に近づいていく。
昇りかけの魂があったので肉体へ押し戻してやると、どうやら息を吹き返したようだ。
「ゲホゴホッ! ペッペッ!」
ルイズを見つける。爆心地に居ただろうに、なんともしぶとい。
「大丈夫か?」
周りの人間と比べれば大丈夫だろうが、一応聞いてみる。
「大丈夫なわけないじゃないの! 全身ボロボロよ…」
「いったい何をした?」
「何って…ちょっと錬成に失敗しただけよ!」
「ちょっとか?」
「ちょっとよ!」
ある程度離れて座っていた連中はかろうじて軽傷、幸運なものは無傷ですんだが、
爆心地に近い者たちは…推して知るべし、といった感じだ。
いや、比較的前のほうに座っていたキュルケとタバサに怪我らしい怪我は無かった。
「けど…変ね…。今まではこんなデカイ爆炎なんて出なかったのに……」
むしろ脅威なのは炎よりも爆風である。錬成されるはずだった石が粉々に砕け、
その破片が超高速の風に乗って吹き付ける。死者が出なかっただけ幸運だ。危うく出かけたが。

ルイズに申し付けられたのは、教室の後片付け。魔法を使わずに、である。
彼女には意味の無い制限であるが、他の制限を考えている暇は教師たちには無かった。
後ろの方の生徒はだいたい軽傷で、午後からの授業に支障を来たすほどではなかったし、
怪我の酷かった生徒も再起不能というほどではなかった。
しかし、しばらくの間は医務室のメイジたちが総動員される事だろう。不眠不休で。
「それにしても、みんなが思ったより頑丈でよかったわ」
あの爆発で誰も死ななかった事にルイズは心から安堵する。
「魔法というのは、失敗するとあんな事になるのか?」
「いつもはあんな大爆発じゃないのよ、もうちょっとだけ小さいわ」
先ほどからの発言から察するに、ルイズは常習犯、という奴らしい。
そんなことを考えながら、リンゴォは床を掃いていた。

「…ところで、お前は掃除をしないのか?」
さっきからルイズは椅子に座ったままリンゴォの掃除を眺め、そして時々愚痴をこぼしている。
「どーしてわたしが掃除なんかしなきゃなんないのよ。主人の罪は使い魔の罪って言ってね。
 そーゆーわけだからアンタがやりなさい」
「それならそれで構わないが……俺と一緒にここに居る意味は無いだろう…。
 さっさと部屋に帰るなり何なりしたらどうだ……」
「…! な、何よ! ご御主人様が使い魔の仕事ぶりを見てやってるって言うのに!
 使い魔の癖に! そーまで言うなら、一人でいつまでもやってるがいいわ!
 その代わり、サボったりしたら夕食も抜きよ! サボらなくても抜くけど!」
そう捨て台詞を吐くと、ルイズは出て行ってしまった。

それからしばらくの間リンゴォは一人で部屋の掃除をしていた。
あらかた掃除も終わったところで、ふと何者かの気配に気付く。
「あら…? あなた一人?」
授業前に出会った煽情的な女……名をなんと言ったか……。
「確か…タバサの隣に居た、キュルケとかいったか?」
「え? ええ、そうだけど……ルイズは居ないの?」
自分より先にタバサの名前が出た事がキュルケは引っかかったが、そこは流しておく。
「さぁな…。自分の部屋にでも帰ってるんじゃないのか?」
「へぇ…アレだけの爆発を起こしといて、随分のん気なものねぇ、ねぇ?」
「お前は平気なようだが……?」
「フフ…、『ゼロのルイズ』の爆発ごときに遅れをとる『微熱』のキュルケではなくてよ?」
実際はいち早く危険を察知したタバサに机の下に押し込まれただけである。
「その『ゼロ』とは何なのだ?」
「さっきの授業で分からなかったかしら? 魔法の成功率ゼロ!
 逆に言えば失敗率100%、ワオ! すごいわね~」

ルイズの奴をからかいに来たのだが、このオッサンを相手にするのも悪くない。
そう思ったキュルケは、リンゴォにモーションをかけてみる。
「うふふ、にしてもアナタ、なかなかいい男じゃあないの。そのおヒゲもチャーミングだしね」
目の前の童貞君は『気になんかしてないぞ』って感じだが、そこもまたカワイイと言えなくもない。
「ルイズにはもったいないダンディね。あの子に飽きたらわたしの所にいらっしゃいな」
「魔法というのは失敗すると爆発するのか?」
「え? さあ、そういえばなんでなのかしらね。けど、爆発は成功とは言わないでしょう?」
キュルケはいたって平静に答えたがその心中では――
(この童貞が~~ッ、シカトぶっこいてくれやがって! リンゴォとやら、やりおるぜッ!)
どうやら一筋縄でイク男ではなさそうだ、そう思いキュルケは一旦引く事にした。
「あら、そろそろ昼食の時間だわ。それじゃあね」
そしてまたリンゴォは一人教室に残される事となる。

ルイズは、鏡を見ながら考える。
わたしの使い魔は、リンゴォはよくやってくれている。
昨日呼び出したばかりだが、ルイズにはそれがなんとなくわかる。
命令には文句も言わず従ってくれるし、これからだって、背くことは無いだろう。
だが、決定的なことが一つ。
彼は、自分を見下している。眼中にない、とさえ言っていい。
その態度に対し、どんなにキツイ罰をくれてやっても、何も変わる事は無いだろう。
そしてアレは、自分に何一つ興味を示さぬまま、淡々と命令に従っていくであろう。
これからずっと。一生。永遠に。
――気が、滅入る。
姉たちなら、一体どうするだろう?
いや、そもそも姉たちなら平民なんか呼びはしない。
魔法が使えない、ヴァリエール家の、貴族の、落ちこぼれ。
それでいて、傲慢。自分でだって、わかっている。わかっているのだ。
鏡の反射する光が、今の惨めぶった自分の哀れさを全て露呈する。
なんのために生まれて、なにをして生きるのか?
答えられないなんて、そんなのはイヤだ――

「ねぇ、あなた誰?」
唐突に、鏡に問いかける。無論返答はない。
ルイズは落ち込んだ時、時々こんな風に鏡に映る姿に問いかける。
恥ずかしくって家族にも言った事はないが。
鏡が何なのかを知らないほど自分はバカでもないし、これはマジックアイテムでもない。
それでもいつか、答えをくれる様な気がしたのだ。
何度も同じ質問を繰り返す。
強気に振舞ってはいたが、使い魔の視線は虚勢の壁をものとはしない。
やがて鏡に質問するのも飽きてくる。
ひどく夢遊病のような顔をしてる自分の溜息が部屋を支配する。

随分とひどく落ち込んでいるように見えるが、
その心境は母親にベッドの下の本を整理されている事に気付いた時を想像して貰えばよい。
あるいは看守にマスターベーションを見られた時か。
……落ち込むどころか、自殺一歩手前である。
しかし、貴族とはポジティブシンキングの生き物である。
こんな事でへこたれては、生きていけない。
魔法だってゼロだからこそ、必死で努力してきた。
使い魔など物の数ではない。調教の楽しみが増えるというものだ。
人生とは成長の価値だ。
失敗のない人生とは、失敗した人生だ。
もっとも、今のルイズはそこまでの境地に辿り着ける貴族ではない。
せいぜいルイズが考えた事といえば、
(ま、アイツのおかげでこうしてさっさと着替えられたと言えなくもないけど……。
 …ハッ! まさかアイツ、その為にわざとあんな事……。な、何よ、つまりアレ?
 『ツンデレ』って奴? つつ使い魔の癖にツンデレなんて生意気ね! 御主人様を差し置いて!
 け、けどまあ、その努力に免じて、夕食抜きは勘弁してやってもいいかもね!)

無論、リンゴォの発言はただルイズが鬱陶しかったからのものである。
ポジティブシンキングというのは行き過ぎると、タチの悪い現実逃避にしかならない。
馬鹿が羨ましいと言われるのは、つまりはこうゆう由縁からである。

憂鬱さも巡り巡って『ま、別にいっかなー』などと考えていた時――
「ルイズー? 居るの? ルイズ?」
「(ルイズ…? ああ、そうだった)何よキュルケ、一体何の用?」
ドアを開ける。キュルケと、タバサも一緒だ。
「何の用、じゃないわよ。アンタの使い魔の話よ」
せっかく人が気分を切り替えようとしているところに、なんてことを言うのだこの女は。
「リンゴォがギーシュと決闘するのよ!」
「ハァ!?」
一瞬で気分が切り替わった。


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