ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

『ギーシュ危機一髪 その2』

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『ギーシュ危機一髪 その2』


「オイ、スゲーぞ、ソコにドロボーいたぞ。ドロボーッ!」
無視。
「マジですぐソコにいたンだって。コレ通報すべきなんじゃネェーの」
無視。
「ロケットランチャー持ッてドロボー退治行こうゼ。ランチャーどこよ?」
無視。
「ドロボーホットイテいいのかよォー。
 金も光り物も服もディスクもピザもヤバいモンもゼェーンブ盗られチマウぜ」
一貫して、無視。ルイズはこちらに背を向けたまま黙して動かない。

太陽が地平線に達するまで精力的に動き回ったが、
得るところは失意と疲労感しか無く、
結局はすごすごと振り出しの部屋へ帰ってくることになった。
わざわざ振り出しに戻ることはなかったかもしれないが、
別れて後のルイズが少々気になった。

部屋の大きさは十二畳ほど、南側の窓からは薄く夕焼けが差し込み、
西側には大きな寝台、その上には少女が腰掛けていた。
寝台、ルイズ、その他家具、部屋のもの全てが高級品だったが、
風水的にはもう少し配置を工夫できるような気もする。

「ルイズルイズルイズルイズルイズルイ聞いてくれッつーノ。
 ダーレもオレの声聞いてくンねーンヨ」
半日間散々繰り返してきたことだが、やはりリアクションは無い。
が、ルイズがスタンド使いであれば応答があったかと問われれば、それも無かったようではある。
ルイズは集中していた。
本を片手に何事かを暗誦している。
何か面白いことでも書いてあるのかと覗いてみたが、
未知の言語がずらっと並んでいるだけだった。読めない。つまらない。

ルイズからの返答は無かったが、扉が乱暴なノックとともに開き、
返事を待たずに二人の女性が部屋の中へ踏み込んできた。
一人は褐色肌の肉感的な女性、もう一人は眼鏡をかけた女の子。
ひょっとして自分の声を聞きつけたのではないかと近寄るが、
やはりドラゴンズ・ドリームは無視された。つまらない。

褐色肌の女性はルイズの前に立ち、立て板に水で話し始めた。
意味の分からない単語を飛ばして聞いても意図は知れた。
実に分かりやすい態度でルイズを挑発している。
時にジェスチャーを交え、時に口調を扇情的に、時に皮肉、時に嫌味、
「ゼロ」「使い魔無しで留年」「退学かも」「背水」「あたしの勝ち」
大きな胸を誇示するようにして屈辱を与えるための言葉を紡ぐ。

だがルイズは気にせず、というか気づかず、黙読を続けていた。
執拗に挑発を続けていた褐色肌の女性だが、
飽きたのか、それとも無視され腹を立てたのか。
不満げに鼻を鳴らし、ルイズに一瞥をくれて部屋を出て行く。
その一瞥からは、表向きの軽侮と苛立ちで覆い隠そうとしていた安堵が垣間見えた。
黙ったままでいた眼鏡の女の子は、
手に提げたバスケットケースをそっとルイズの隣に置き、
褐色肌の女性の後について後ろ手に扉を閉めた。

「ナァーるほど。わざわざバカにしにきた……と見せかけて。
 実のところは気合入れにヤッテキタってワケね。
 どうやらその必要もナカッタミテェだけどよォー」
ルイズの性格を考慮してのことか、それとも単なる照れ隠しなのか。
「ルイズゥー、ダチに心配かけてンじゃネェーゾ」
昼間の様子を見る限りでは、ルイズは皆から侮られているようだった。
彼女の内に秘めたコンプレックスは、
今日出会ったばかりのドラゴンズ・ドリームにさえ見て取れた。
そのまま内にこもり続けて爆発するばかりかと思っていたが、
ルイズは安易な破滅型というわけでもなさそうだ。

彼女は見た目より――あくまでも見た目よりは――強かだった。
かなり強引とはいえ、コンプレックスをバネにする方法を知っていた。
こっそりと心配してくれている人達もいた。
何かの拍子で噴出すことはあるだろうが、爆発することは無さそうだ。
「無イヨナ?」
ルイズは答えず黙々と本を読み続けている。
「……アルかもナー」

ルイズがふっと顔をあげた。
ドラゴンズ・ドリームの声が届いたわけではない。
時刻が夜に差し掛かり、夕陽も完全に隠れた。
窓の外を見ると、他の部屋にもポツポツと明かりが灯っている。
二つあるとはいえ、月明かりのみでの読書は難しい。
首を右に曲げ、左に曲げ、眉間を揉みほぐし、伸びをした。
ベッドから立ち上がろうとしたところで、
ルイズの指先にバスケットケースが触れる。
「気づくのオセーって」
怪訝な表情を浮かべ、恐る恐る突つき、恐々蓋を開ける。
中にはパン、ワインの瓶、鳥の足、といった軽食が詰まっていた。
腹の虫が小さく唸る。戸惑いながらもパンを千切り、口に運ぶ。
肉に手を出し、ワインを開けた。次第に大胆さを増していく。
「誰が置いたかも分かンネーモン食うなヨ」
上品なりに勢いよくたいらげていく。
中に好物でもあったのか、口元に小さな笑みを浮かべた。

「ウヒッ」
縦に一回転し、横に半回転、斜めにもう一回転した。
クルクルと回りながら壁をすり抜け、
ドラゴンズ・ドリームは部屋を出る。
「ウヒヒヒッ」
ごくささやかなものではあったが、
出会って以来初めてルイズの笑顔を見た。
力の緩められた頬と桜色の唇、こころもち垂れた柳眉を思い出し、
星空の下、踊るように飛びながらドラゴンズ・ドリームは三度笑った。
「ウヒヒヒヒヒヒヒ……アノ笑顔は『吉』だゼェ~」


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