ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

『ギーシュ危機一髪 その1』

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『ギーシュ危機一髪 その1』


風水。
カードや占星術のような占いとして有名だが、実のところはまるで違う。
風水とは哲学であり、高度に体系化された生の指針である。
風水の達人は、自然界から発生する様々なエネルギーの方角を知ることにより、
人生の決定の際「進むべき道」が分かるという。
土地、家、その中の部屋や扉、家具、小物といった全ての要素が
「健康」「財産」「家族の幸福」その他あらゆる重大事に関わってくる。
戦乱の時代では、城の風水を見てどの方角から攻撃すれば敵を陥落させられるか分かったという。
その逆に城の弱点方向に神社などを建て、
凶のエネルギーを静めれば、城はより強固な守りとなる。

そして!
この方角理論は人体にも存在し……暗殺風水というものが存在する!
風水で攻め込む方角さえ知ることが出来れば、
警戒の有無に左右されず標的に近づくことが可能になり、容易に暗殺を実行できる。
自分は常に吉を進み、相手の凶へと打撃を加える。
神のみに覗くことが許されたはずの因果律を利用して戦う恐るべき闘法!
が、今のドラゴンズ・ドリームにはあまり関係のないことだ。

誰かを暗殺したいわけではない。ドラゴンズ・ドリームには義理も怨恨も無い。
彼は永久の中立を謳い、風水は皆が知るべきものという拘りを持つ。
本来守るべきはずの本体に害があろうが無かろうが、知ったことではない。
凶の方角、ラッキーアイテムからラッキーカラーまで、
役に立つと思われるあらゆる事柄を平等に話して回る。

さらに、彼自身に物理的な干渉能力が一切無いため、
そもそも戦闘行為自体行うことができない。
精神エネルギーであるスタンドの例に漏れず、物体は彼を通り抜ける。
そしてこれはスタンドの中でも例外中の例外的なことなのだが、
同じ精神エネルギーであるスタンドをもってしても彼を傷つけることはできない。
これにより彼は永久の中立を守り、
人々が幸福を守るために活動することが可能となる。はずなのだが……。

「オーイ、聞こえネーのか、あんたラよォーッ」
聞こえていなかった。
「オイオイ、そっちに行くんじゃアねェヨ。凶だぜソッチャ」
見えてもいなかった。
広い学園内の方々を飛び回り、ひたすら存在を主張してまわったが、
彼のドラ声に気がついたものは誰もいない。

「アッチョー!」
無意味に尖った牙を見せつけ、襲い掛かるフリをするが、無視される。
「アンちゃんカッコいいネーッ」
学園内にいるのは人間だけではなかった。
見たこともない生き物、生き物でさえない異形が、大人しく人間に付き従っていた。
多足のトカゲ、宙に浮かぶ目玉、片端から声をかけるが気にもとめられない。

「そこのネエサンよォー、オレの声聞こえンだローッ」
ある意味では同族と言えなくもない生物にも声をかけたが、やはり他とご同様。
どちらかといえば「珍妙」「珍奇」お世辞でもせいぜい「かわいい」「愉快」
これらの形容がしっくりとくるドラゴンズ・ドリームとは、
天と地ほども違いのある、いかにも風格ある容貌のドラゴンだったが、
まさか見た目の隔たりで声が届かないわけではあるまい。

この学園にはスタンド使いが存在しない。
ドラゴンズ・ドリームがかつて住み暮らしていた水族館は、
石を投げればスタンド使いに当たる場所だった。
それはそれでどうかと思ったが、少なくともここよりはマシだ。

ここには彼の声を聞いてくれるものがいない。
彼の風水を役に立ててくれるものがいない。
ふざけすぎた彼をたしなめてくれるものがいない。
手に入れたことのない自由は彼を戸惑わせ、
感じたことのない孤独は彼を疲弊させた。
無駄と無為を繰り返し、募るは空しさばかりなり。
気のせいか眩暈まで感じるようだ。スタンドに眩暈。お笑い種だ。
ジジイにでも聞かれれば嘲笑われること請け合いだ。

駄目だ。このままではあまりにも駄目だ。何より発展性を欠いている。
やり方と考え方を変えなければならない。
このまま恣意的な動きに終始していては何一つ解決しないだろう。
協力者は必要だが、焦って探さず、一つ一つ積み重ねていけばいい。
今やるべきは風水の確認だ。
ルイズにとっての「凶」を的中させることはできたが、
果たしてあれはきちんと能力が働いた結果のことなのか。

半日の行脚にも多少の意味はあった。
ドラゴンズ・ドリームは確信をもってこう言える。
ここはあからさまな異世界だ。
アメリカでないのはもちろん、おそらく地球でさえない。
杖を振るうだけで空を飛び、炎を出し、本のページをめくる。
口にのぼる固有名詞は意味不明のものばかり。
文明のレベルは低く、テレビもラジオも電話も飲尿療法も無い。

お約束の異なる世界で風水は役に立つのか?
「マ、いいヤナ。とりあえず使ってミヨってネ」
こちらに向かって歩いてくる女に目をつけた。
なかなかの美女だ。狙いを絞り、エネルギーを感じ取る。
緑がかった色の髪、眼鏡、年の頃二十代、おそらく教師。
いや秘書。違う。バイト? 見せ掛け。泥棒? 泥棒か。泥棒が本職だ。
よくもまぁ何食わぬ顔をして平気でいられるものだ。
この学校は、刑務所以下のチェック機能しか無いらしい。
「イイねイイね、調子イイね。ドンドン透けてくるゼェー」
名はマチル……違う、フーケ。土くれのフーケ。
「フンフンフン。カンッペキだネ」

幸運の方角、不幸の方角も遺漏無く見て取れた。
ドラゴンズ・ドリームの力に陰りはない。
ラッキーパーソンはルイズ。
アンラッキーパーソンはルイズの使い魔。
ラッキーアイテムは義手。
アンラッキーアイテムはM72ロケットランチャー。
「……ア?」
アンラッキーアイテムはM72ロケットランチャー。
「……ナンデ?」
その問いに答えられる者はこの場にいない。
「ドッから持ってクンだ?」
アンラッキーアイテムはM72ロケットランチャー。
「アアー……っと」
アンラッキーアイテムはM72ロケットランチャー。
「ケンゾージジイ、今頃ナニやってンだろうナァ……」

ドラゴンズ・ドリームは、遠い目で窓から外を見た。
空は暮色に染まりかけ、上天には二つの月が鎮座していた。
少し泣きたくなった。


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