ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

咆哮! 貴族の誇りと黄金の精神 その②

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
咆哮! 貴族の誇りと黄金の精神 その②

破壊の杖を振り上げた瞬間、ルイズはふたつの背中を思い出した。
ズタボロの姿でよろめきながら、しかと前を向いていた背中。
黒い奇妙なコートをなびかせながら、巨大な『死』を叩き割った背中。
共通するのは、背負ったものを守ろうとする強い意志の光。

――私は――あんな風に――なりたいと――思った――。

破壊の杖を振る。なりたいと思った私になるために。
ギーシュが私を守ったように。
承太郎が私を守ったように。

――私が――承太郎を――守る――!!

破壊の杖を振り切る。
ゴーレムの背中目掛けて。
破壊の杖は――沈黙を保っていた。
「……えっ?」
何も起こらない。困惑しつつ、ルイズは再び破壊の杖を振る。
何度も、何度も。けれど、何も起こらない。
「ほんとに魔法の杖なの!? 何で……何で何も出ないのよ!」
込められた魔法を発動させるためには何か条件が必要なのだろうか。
だが条件があったとしても、それを知るすべは無い。
ルイズはわめきながら破壊の杖を振るしかなかった。
「このっ、このぉー!」
それに気づいたゴーレムが振り向き、破壊の杖を取り返そうとしてか手を伸ばす。
「馬鹿ッ! ルイズ逃げなさい!」
キュルケが上空から叫んで、ルイズは迫る手のひらに気づいた。
一歩後ろに下がろうとわずかに足を浮かし、息を呑んで留める。



「……私は、逃げないんだから!」
次の一振りにこそ破壊の杖は応えてくれる。そう信じて破壊の杖を振り降ろした。
耳をつんざく轟音が起こる。ルイズはハッと音の方向を見た。
杖じゃあない、破壊の杖の魔法じゃあない。
破壊音は承太郎が突っ込んだ廃屋の壁が崩れ落ちていた。
バンッ! その向こうにはゴーレムを指差す承太郎の姿。
「オラオラオラーッ!」
舞い散る埃を突き破って壁を作っていた木材がゴーレムに向かって飛来する。
所詮廃屋の木材だったため脆くなっており、ゴーレムに突き刺さる事はなかった。
しかしゴーレムの注意を引く事は可能だった。
「どこを向いてやがる……てめーの相手はこの空条承太郎だ」
白い埃の舞う中で言う承太郎の背後に、ルイズは長い髪をなびかせる人影を見た気がした。
しかし承太郎が廃屋から出てくると、やはりそこにいたのは承太郎一人。
今のは見間違いや目の錯覚なのだろうか。
承太郎の『腕』を思い出し――ルイズは何かに気づきかけた。

『腕』……承太郎の能力、凄まじいパワーの『腕』を操る……。
そういえばあのゴーレムを飛び越すような跳躍力も持っていた。
……まさか『腕』だけじゃなく『脚』もあるのだろうか?
『腕』と『脚』……そして先程見えた巨躯の人影。

ゴーレムは承太郎がまだ戦闘可能と判断し、拳を再び鉄へと変えて振り下ろす。
構わず突っ走って拳の内側に逃げ込んだ承太郎は、背後の地面がめり込むほどの拳が大地を揺らした瞬間、『腕』でゴーレムの鉄の部分を殴りその反動で飛び、靴で地面を擦ってルイズの眼前で立ち止まりつつ胸倉を掴み上げた。


「邪魔だ、てめーは引っ込んでろ」
鼻と鼻がくっつきそうなほど顔を近づけて凄む承太郎だが、ルイズはキッと睨み返す。
「ギーシュは立ち向かったわ! 私にだってプライドがある。
 ここで逃げたら私はずっと『ゼロのルイズ』のまま……!」
「言いたい奴には言わせておけ! てめーの努力は俺が認めてやる。
 いつか魔法が使えるようになった時に見返してやれ。だが今は足手まといだッ!」
ルイズの声が震える。瞳が潤み、頬をしずくが伝った。
「私は貴族よ。魔法が使える者を、貴族と呼ぶんじゃないわ」
ルイズは杖を握りしめた。
「敵に後ろを見せない者を貴族と呼ぶのよ! 私を守ろうとしたあの時のギーシュのように!」
気丈であった。この土壇場にあって、ルイズの精神は気高く美しかった。

巨大な敵と戦うという行為自体への恐怖に潰れそうな心を、ルイズの誇り高く輝く黄金の精神が支えている。

「……やれやれ。どうやら貴族を名乗る『資格』だけは持っているようだな」
「放してジョータロー。私も戦う」
承太郎に解放されたルイズは再び破壊の杖を振り上げるが、承太郎が杖を掴んで止める。
「やめろ。こいつは魔法の杖なんかじゃない。お前には使え……」
説明しようとした瞬間、承太郎の左手のルーンが輝いた。
そして頭に直接『情報』が入り込んでくる。
破壊の杖がどういう『武器』なのかだいたいは解っていた。
だが、その『武器』の正式名称や正確な構造、正しい使い方は知らなかった。
その知らないはずの『情報』が承太郎の脳裏に刻み込まれていく。
「これは……!?」
「ジョータロー! 危ない!」
ルイズが叫んで承太郎は振り返った。
ゴーレムの足が自分達を踏み潰そうとしている。


承太郎は――ルイズと言い合いをしながらも、ゴーレムの動きに注意を向けていた。
何か動きを見せれば即座に退避できるはずだった。
だが破壊の杖に関する情報が頭に送り込まれるという予想外の出来事が、空条承太郎に致命的な隙を作ってしまった。

二人を踏み潰そうとする足は鉄に錬金されている。
いくら承太郎でも、もう避けられる距離じゃない。
だから承太郎は、ルイズを思いっ切り突き飛ばした。

「キャアッ!」
悲鳴を上げて数メイル転がりつつも、破壊の杖を手放すまいと抱きしめるルイズ。
ズシンと大きな音が大地を揺らし、森の木々が揺れた。
「ハァーッ、ハァーッ……じょ、ジョータローは……?」
よろよろと立ち上がりながら、ルイズは承太郎の姿を探した。
どこにも、どこにも見当たらない。
「どこ……ジョータロー……?」
そして何となく、そこにいると理解して、鉄に錬金されたゴーレムの足を見た。

上空から承太郎達の戦いを見ていたキュルケはショックを受けていた。
確かに見た。ルイズを突き飛ばした承太郎が、ゴーレムの足に踏み潰される様を。
「ま、まさか……ジョータローがやられちゃうなんて……」
「……鉄に錬金された足に踏み潰されたら、生存は絶望的」
淡々とした口調でタバサは言ったが、指が白くなるほど杖を握りしめていた。

そして――森の中から承太郎の最期を見届けたフーケは勝利の笑みを浮かべていた。
さらに異世界から発信された謎の電波を受信して口走る。

「勝った! スターダストファミリアー完!」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー