ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

奇妙なルイズ-7

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匿名ユーザー

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ドスン、と響く巨大な足音。
ルイズは巨大な土のゴーレムを目の当たりにし、少しばかり後悔していた。

使い魔品評会で恥をかくはずだったルイズは、ルイズの出番が来る前に現れた巨大なゴーレムのおかげで、その難を逃れていた。

巨大なゴーレムを見て、ここ最近噂になっている「土くれのフーケ」の話を思い出した。
土くれのフーケは通称だが、その名の通り土の系統のメイジだと言われている。
時には巨大なゴーレムを操り、時には強固な宝物庫の壁を土に錬金して穴を開けてしまう。
ゴーレムを目の前にしたルイズは、フーケの能力がかなり高く、トライアングルかそれ以上の実力を持つと噂されるのがよく理解できた。

使い魔が居ないのを誤魔化すため、フーケの前に一番乗りしたつもりだったが、既にゴーレムと闘っている男がいた。
二股の…もとい、青銅のギーシュである。
ギーシュはドット、つまり初級のメイジであり、土くれのフーケ相手に勝ち目はない。
それなのにギーシュは闘っている、と言うよりも逃げ回っていると表現すべきだろうか。
ゴーレムから逃げるように右往左往しているギーシュの姿に疑問を感じたが、すぐに疑問は氷解した。
誰かが倒れている。特徴的な色のカエルがその傍らにいるので、カエルを使い魔にした水系統のメイジ、モンモランシーだろう。

ルイズは後悔しつつも、呪文を詠唱した。

ズドン! と、空気を震わせてゴーレムの右腕が爆発する。
「土くれのフーケ!あんたの相手はこっちよ!」
ルイズが叫ぶ。それに気付いたギーシュは驚き「ヴァリエール!?」と叫んだ。
「とっととモンモランシーを助けなさい!」
ルイズが叫ぶと、ギーシュは慌ててモンモランシーに駆け寄り、その体を拘束している鉛の手かせを土に錬金して開放する。
ルイズがゴーレムを引きつけている間にモンモランシーを抱き上げて、その場を離れようとしたが、ギーシュの耳にルイズの叫びが響いた。
「逃げて!」
え?と疑問に思う間もなく、ギーシュに影が差す。
ゴーレムは自分の体をちぎるようにして投げ、ギーシュの真上に投げたのだ。
ギーシュが上を向くと、直径2メイル(m)はありそうな鉛色の固まりが、自分に向けて落ちてくるのが見えた。

ルイズには見えていた。
ゴーレムの一部が鉛に錬金され、ギーシュとモンモランシーを押し潰すそうとしている。
まるでスローモーションのように落下が見えた。
魔法を唱えて爆発を起こすのは間に合わない。
駆け足で10歩の距離では突き飛ばすこともできない。
絶望的な状況の中、ルイズは自分でも気付かぬうちに、ある言葉を叫んでいた。


 「ス タ ー プ ラ チ ナ !」


次の瞬間、爆発音とは違う鈍い音が響き、大きな鉛の固まりはくの字に変形して宙を舞いつつ地面に落下した。

ルイズは、何かが鉛の固まりを吹き飛ばした事に驚いていた。
土くれのフーケも驚いていた事だろう。
呪文の詠唱も無く、杖を振りかざしてもいない。
そこにいた一同は何が起こったか分からなかった。
一番訳の分からないのはルイズだ。

今のは自分がやったのか?
それとも誰かが助けてくれたのか?
そもそも、今のは魔法なのか?

今起こった出来事が何なのか分からず、頭の中が混乱する。

「ヴァリエール!」
ハッ、とルイズの思考が戻る。
土くれのフーケと闘っているのを思い出し、ルイズは慌ててゴーレムに向き直る。
振り向いたルイズが見たものは、鉛の鈍い輝きだった。

まるで小石を蹴飛ばすかのように宙を舞うルイズ。
そのまま宝物庫の壁にぶち当たり、ルイズの爆発魔法よりも大きな音が響いた。

ギーシュは目を見開いた。体が震えるのを止められなかった、恐怖からではなく、それは純粋な驚きからだった。
あの決闘の日から、ギーシュはルイズに一目置いていた。それには少なからず畏敬の念が混じっている。
ルイズをメイジとして認めたつもりはない。しかし、彼女は間違いなく『貴族』だと思った。
ルイズに負けたとき、ルイズの迫力に体が震えた。そして、悔しさよりも情けなさが勝っていた。
その貴族たるルイズが!
自分と!モンモランシーを助けようと!
果敢に巨大なゴーレムに立ち向かったのだ!

ギーシュはゴーレムの肩に乗るフーケを睨んだ。フーケもまた、ギーシュを見てニヤリと笑った。
今までのようなくだらない自尊心からではない。ギーシュは、フーケに対して確実な殺意を向けたのだ。

そんなギーシュにはお構いなしに、ゴーレムは巨大な手を上げる。
ギーシュは死を覚悟している。しかしモンモランシーだけでも逃がした。
でなければ、ルイズに会わせる顔がない。
『自分はどうすればいい!?』
生まれて初めて感じる、悔しさだったかもしれない。

だが、次の瞬間、もう一体の巨大なゴーレムが、土くれのフーケごとゴーレムを殴り飛ばした。
もう一体のゴーレムは土くれのフーケが操るゴーレムより一回り大きく、その上形も均整が取れていた。
フーケよりも実力のあるメイジの作り出したものだと、即座に理解出来た。
あまりの衝撃に受け身も取れず地面に落ちたフーケ。ゴーレムはあえなく崩れ去り、フーケは意識を失ったのが分かる。

それと同時に、もう一体のゴーレムも崩れ去り、跡には土の山だけが残った。

一歩出遅れたタバサは、空中からその様子を見ていた。
「ヴァリエールを!彼女を助けてくれ!」
ギーシュがタバサに向かって叫ぶ。タバサは頷くより早くルイズの元に駆けつけ、レビテーションの魔法でルイズの体を浮かせ、治癒魔法を得意とする教師の下へと急いだ。

モンモランシーを担いだままだったギーシュは、力なく膝をつくと、モンモランシーを地面におろした。
モンモランシーには外傷はない。気絶しているだけだ。
フーケに目を向けると、遅れてきた衛兵が土くれのフーケを捕縛している。
喜ばしいはずなのに、ルイズのことを考えると、ギーシュは決して喜ぶことが出来なかった。

「あんた無茶するわねえ」
「ゼロ、ゼロって馬鹿にされるよりいいわよ」
その日の夜、ルイズ、タバサ、キュルケの三人は治療室で談笑していた。
ルイズは派手に蹴り飛ばされたが、奇跡的にほぼ無傷。
ただ、背中を強く打ち付けたせいか、呼吸が酷く乱れていたが、寝ているうちに落ち着いたようだ。
「本当に驚いたわよ。あんたどんな丈夫な体してんの? 宝物庫の壁はスクエアメイジが固定化の魔法をかけてるって言うじゃない。その壁がへこむ程の勢いでぶつかったのよ。それで『打撲』で済んじゃうなんて、どんな体してんのよ!」
「あたしに言われたって分かるわけないでしょ!」
「ここ、病室」
キュルケとルイズがヒートアップする度、タバサがツッコミを入れて落ち着かせる、そんなやりとりが続いていた。

「失礼、ミス・ヴァリエールはこちらかな?」
キュルケとタバサが部屋に戻ろうとした時、ギーシュが治療室を訪ねた。
「ミス・ヴァリエール…この度は」
「礼なんて別に良いわよ。怪我もたいしたこと無かったし」
ギーシュにはルイズの言葉が信じられなかったが、現に本人が元気そうにしている以上、あまり多く追求することも出来ずにいた。
「その、とにかく、一言だけでも礼を言わせて貰うよ。この恩は忘れない」
いつものギーシュからは想像出来ないほど神妙な言葉に、キュルケは呟いた。
「ルイズに惚れたの?」
「ち、違う!僕はモンモランシー一筋さ!これは愛情ではなくて、そう、尊敬とかそんな感じのアレだよ!」
「怪しい」
タバサですら疑っている。どうやらギーシュの信用はかなり薄いらしい。
「え…ええと…」
困惑するギーシュが余程滑稽だったのか、その後しばらく笑い声は止まなかった。

その頃、学院長のオールド・オスマンは、宝物庫の壁を見に来ていた。
周囲には衛兵と、教師のコルベールがおり、興味深そうに壁の凹みを見ている。
「どう思うかね、ミスタ・コルベール」
「私には何とも言えません、ただ…」
「ただ?」
「ミス・ヴァリエールは、既に使い魔の召喚に成功しているのかもしれません」
壁に残った痕跡は、小柄な少女の者ではなく、身長2メイルはあろうかという筋骨隆々とした男の背中の跡だった。

オールド・オスマンは、今日はもう休ませて貰う、とコルベール先生に告げ、その場を離れた。




宝物庫の壁の修理。
今回逮捕された土くれのフーケ。

おそらく”本物の土くれのフーケ”が作り出したゴーレムの痕跡と、そこに残された予告状。
『次は破壊の杖を頂きます』

「今年は問題ごとばかりですねえ」
コルベール先生は、ため息をついた。


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