ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

序章:ただしスケコマシ

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 ……静かだ。終わったんだな…。
……じいさん、見てたか…?あんたのように…あいつらの力になれたかな…
……あとはあいつと先生が、どうにかしてくれるさ。…なあ、親父……
………そういや俺で家系が終わるんだな……いや、ひょっとしたら……んなわけねぇか…
…………すまねぇ、じいさん…もう……あいつ、らの………ちか…ら、には…………

――使い魔の魂 ~誇り高き一族~――

<序章:ただしスケコマシ>

 よく晴れた空。トリステイン魔法学院第一演習場。
……なにコレ?少女は自ら召喚した、ソレに唖然としていた。
……なんだソレ?教師は落ちこぼれの生徒が召喚したらしい、ソレを見てあきれていた。
……なんじゃそら?生徒たちは爆発の煙が引き、爆発の中心にいたソレに空いた口が塞がらなかった。

 春。生命が芽吹く季節。
季節のある世界ならほぼ同じように考えることができる。ここハルケギニア大陸の中央、トリステインもご多分に漏れず新しい節目を迎えていた。
トリステイン魔法学院では、修学二年目を迎える生徒たちに今後の進路をきめる重要な儀式、召喚の儀を執り行っていた。それは己の属性を決定し、これからメイジとして成長していく彼らの未来を決定する使い魔を召喚する儀式である。
しかし儀式自体はそれほど難しいものではないので試験、というより通過儀礼のようなもので成功確率は極めて高い、のだが。
人間予想だにしない斜め上の事態が起こるともう呆れるしかない。

「先生っ?!やりなお」「許可しません」
目の前に起こった現実を逃避し救いの手を求める少女の叫びは、まるで何度も繰り返してきたように即座に教師が切り捨てる。
 使い魔とは、召喚した主を助け、守る存在。
その姿は竜であったり土竜であったり火蜥蜴であったりといわゆる獣が多いのだが、――成る程、表現は間違っていない。
少女は召喚したソレを見る。力なく座り、まるで糸の切れた操り人形のように四肢を弛緩させている。
「先せ」「許可しない」
更に素早い反応で切り捨てられがっくりと肩を落とした少女。
彼女が召喚した獣、それはトリステイン魔法学院の歴史上前例のない――人間だった。

 やがて白けていた空気が誰かの噴出しを起点に、堰を切ったような大笑いへと変わっていく。
その嘲笑の嵐に始めは怒り、羞恥に涙を浮かべた少女は、意を決したようにしっかりと歩み、ゆっくりとほほにアザのある男に顔を近づける。
――だが彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは知らなかった。知る由もなかった。
自らが召喚した男、シーザー・A・ツェペリが、誇り高き波紋使いが――スケコマシであることを!!

 はっきりしない意識の中、シーザーは誰かが顔を覗き込んでいると感じた。
ぼんやりとした視界には桃色のかかった長髪、かすかに匂う甘い香り。女性である、シーザーは感じた。
その女は髪をかきあげるように腕をはらい、顔を近づけたので
――――何度もいうようだが、彼はまだ意識がはっきりとしていない。だからこそ反射的に、日頃から行ってきた行為を、ごく自然に行った。

 ――ズギュゥゥン!!
そんな鋼鉄板に弾丸を撃ち込んだような音と共に、ルイズの意識はぶっ飛んだ。
意を決し唇を近づけようとしたそのとき、ぼんやりとしていた平民が素早く首に手を回し、逆に唇を押し付けてきたのだ。
不意を喰らったルイズが意識を取り戻す一秒、その間に平民は唇を器用にこじ開け舌を差し込む。
180度回転した意識が更にぶっ飛んで反射的に離れようとした瞬間、
「んむぅぅ?!」
唐突に舌の先から喉の奥まで矢で貫いたような痺れが発生し、全身が弛緩した。
押しのけようとする腕は肘から肩まで力が入らず、背中から持ち上げようと抵抗しても首がわずかに上がるのみでかえって唇を押し付けてしまう。
もがけばもがくほど体は熱を持ち肺から搾り出される熱い吐息は
そのまま口蓋にとどまり頭を湯だたせる。
(なに…これぇ…口のなかが…とけるぅ…)
ぼんやりとしていく意識の中、口を犯し続ける舌はぴちゃぴちゃと音を立て続け耳を伝い頭の芯まで響く。
唯一自由である鼻からは濃厚な男性の香りが入り込み、絡み合う舌を伝う唾液が媚毒となり頭の奥まで溶かしていく。

 普段から女性と接しているシーザーは、幾ら彼がマメで女性の扱いに心得があってもガールフレンドからいらぬ嫉妬を買うことも多々あった。
しかしそれが刃傷沙汰に発展したことはなく女性の間で悪い噂として広く流布されても女性たちが離れていったことはなかった。
何故か?
――賢明な方ならば気づいたであろう。波紋である!
 嫉妬の渦を簡単に吹き飛ばす濃厚なキスと共に送り込まれる波紋!
一時的に痺れる波紋で防御を開かされ体の自由が奪われ!催眠効果を持った波紋と、百戦錬磨の男が知りえるキスの極意、五感のうち視覚を除いた四感を組み合わせて生じる圧倒的な甘美世界はまさに歯車的性感の小宇宙!!

 異性として意識した男性とキスはおろか手を繋ぐことすら未体験である少女には、
その狭間から脱出する術はなく、その光景を遠くから眺めている男子生徒は呆然、
ルイズと同様未経験な少女たちは顔を伏せたり目を手で隠し隙間からそっと覗いたり、
更に耳年増であったり若干進んでいる少女たちは唾を嚥下しじっと見つめ、
経験豊富な少女は熱を帯びた視線と共に舌をなめずり、心底どうでもいいと思っている少女が一名に何かやってんぞオイという視線を浴びせる使い魔たちと呆気にとられるハゲ一人。
 妙な雰囲気が周囲を支配していた。

 そんなこんなでエライことになっている雰囲気を打ち破ったのはほかでもないシーザーだ。

「ぅむ?」
口を少女の唇でふさぎ、腰に手を回しかけたその時ようやく意識が覚醒して、唇を離され脱力する少女を支えて座らせる。
目の前には見たこともない風景。自分を取り囲むローブを羽織った連中がこちらを見つめている。状況を把握しようとして立ち上がり――、
「う、ぐぅおぉぉっ!?」
急に左手に感じる焼きごてを押し付けられたような熱さに思わず声を荒げ膝をつく。
その叫びをきっかけにしたように集団がざわめき始めた。
「きょ、今日はここまで!各自教室に戻りなさい!!」
ようやく正気を取り戻した教師らしき人物がばつが悪そうに声を荒げ人が散って、空に飛んでいった。

「飛んだ…?何だアレは…?」
余りにも常識はずれな光景に呆気にとられ、状況に追いついて分析しだした思考が再び吹っ飛んで頭を抱えようとしたとき、視界の隅にぺたっと座り込む少女が見えた。
どこか夢心地で目が潤み、頬を紅潮させている様子を見て、いつもの癖が出たのかと得心した。
「どれシニョリーナ。波紋の魔術を解いてあげよう」
フレンチ・キッスではなく軽いキスを波紋と共に口づけると、
ビクリと体を震わせた少女の瞳に光が戻ってきた。
 そして改めて少女を観察する。桃色がかかったブロンドにくりくりとした眼、
まだあどけない顔立ちにはどことなく将来を期待させる端正な表情にきめ細やかな肌。
動物で言えば、猫のような少女。

 が、まあそれだけだ。
もとよりシーザーは女性であれば拒まないし、どんな女性にも偏見はもたないが、
シーザーの憧れであり理想の女性は己の師のように凛としてどこか憂いを帯びた大人の女性なのでどうでもいいのだが、
「どうしたんだいシリョリーナ?まだ夢からさめないのかな」
女性には優しくするということが魂のレベルで刷り込まれ、なおかつ少女が理想の女性に育つかもしれないという仄かな打算があり、今現在の状況で利用できるものはこの少女だけという計算を弾き飛ばしたシーザーは少女にやさしく微笑みつつ顔を覗き込――

『オラァ!!』ドグシャァ!!

 今も続く左手の痛みも吹っ飛ぶ、鋭いボディブローがシーザーの鳩尾に食い込む。
幸い少女の腕が短く深く刺さることはなかったが、その程度の幸運はPを足してもこれから起こる惨劇に立ち向かう勇気にはなり得なかった。
「ぅぐぅあ!!……っは、こ、この、何をするだァー…ぁ?!」
若干混乱気味のシーザーが叫び、崩れ落ちながらも少女を見上げ――、言葉を失った。
打ち込んだ勢いを利用し立ち上がった少女の顔は影で隠れ、全身を震わせている。
少女の背後に立ち上る”もや”がやけに筋肉質な男を模っているのは見間違いだろう、多分。
「こぉぉんの糞使い魔ーーーっ!!よよよくも、よくもあたあたあたしの唇を!二度も!二度も奪って
くれたわねーーっ!!」

うずくまるシーザーに追打ちをかけるローキックがドグシャァ!と叩き込まれ、倒れるシーザー。
「よくもよくもよくもよくも、このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの高貴な唇をっ!あたしの、あたしの初めてをっ!あんなところで!皆の前で!!舌まで入れてっ!!」
さらに追打ち。吸血鬼並みの鋭い蹴りが打ち込まれると共に徐々にシーザーのうめきが小さくなっていく。シーザーの女性を扱う術を持ってしても、ここまでひどい癇癪もちは予想しておらず
吸血鬼相手でも怯まない勇気ある一族の末裔は、ただ耐えざるを得なかった。
「このクソ、クソ、クソ使い魔!どう、思い知りなさいっ!思い知れっ!!」

 シーザーはキスをしかけたのは君だという突っ込みと共に薄れ行く意識の中、こう呟いた。
「……マンマ、ミィ…ヤ(何てこった)…」
目の前には、まばゆい光と共に父親とそれに似た祖父らしき人物が迎えにきていた。

To Be Coutinued…⇒

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