ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第二話『甘ったれた世界』

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第二話『甘ったれた世界』

男の朝は早い。
まだ夜も明けきらぬうちに、リンゴォは目を覚ました。
朝に起こせと言われたが、まだ起こすような時間でもあるまい。
ルイズはまだ爆睡している。よく言えば平和そうに、悪く言ってしまうと、マヌケに。
リンゴォは素直に、マヌケだな、と思った。
昨夜渡された服を引っ掴むと、リンゴォは部屋を出た。
洗濯をするのなら早いほうが良いし、その為にはこの部屋ではどうにもならない。
どこで洗濯できるのかは知らないが、その辺をうろつけば見つかるだろう。
ついでに自分の服も洗濯しようと考えて、自分には代えの服が無い事に気がついた。
まあ、どうでもいいことだ。

それらしい場所は、すぐに見つかった。
うまい具合に洗濯板も桶もある。見つけたのはそれだけではなかった。
まだ薄暗い中、一人の少女がシーツか何かを洗っていた。
およそ貴族のやる仕事ではないから、使用人か何かだろう。
かまわず近づいていくと、向こうもこちらの姿を認めたらしく、動きを止めた。
見たこともない男(どう見ても貴族ではない)が薄暗い中こんな所をうろついている。
彼女は不審の色を顕わにしたが、思い当たる節があったのか、声をかけてきた。
「お…おはようございます。あの、もしかして、ひょっとすると
 貴方はミス・ヴァリエールの使い魔で平民の…えぇと……」
「…他にそういうのがいるのかは知らないが…確かに、オレの雇い主はそのヴァリエールだ。
 名は…リンゴォ・ロードアゲイン」
「リンゴォさんですか! わたし、ここで住み込みで働かせてもらっている、
 シエスタといいます。あ、わたしは貴方と同じく、平民です」
何が『同じく』なのか、最後の一言に意味はあるのか、そう考えたが、
リンゴォにはどうでもよかった。

「ああ、すまないが、ここで洗濯してもいいか?」
「洗濯? 構いませんけど…あの、その服は……」
少しづつ日が差し始め、リンゴォの手に持っている服がはっきりと確認できるようになる。
どう見ても、男のものではない。というか、女物のパンティがはっきり見える。
「これか? さっき言った、俺の雇い主のものだ。なんでも、これが俺の仕事らしい」
「ええ…それはなんとなく理解できますけど……」
けど、の後少しだけシエスタは黙っていたが――
「…『それ』、そのまま持って来たんですか……」
おそらく誰にも出会う事はなかったろうが、女性の下着をもって歩き回る男の姿は――
「あ、あの! 洗濯板はそこにあるのをご自由に使ってください!
 それから、何かわからない事がありましたら、何でも訊いて下さい!」
シエスタは、何も言わない事にした。

それから少しの間、二人はその場で洗濯をしていた。
気を遣っているのかシエスタが色々と話しかけてくる。
リンゴォはそれを適当に受け流す。
「あの…そういえばさっき、ミス・ヴァリエールのことを『雇い主』だと
 仰っていましたが……。いくら人間とはいえ、やはり使い魔なのですから、
 自分の主人をそんな風に呼ぶべきではないと思います。それに……」
「平民が貴族の方を呼び捨てにするというのも……」
リンゴォは黙ったままパンティを洗っている。
その沈黙にシエスタは耐えられなかったらしい。
「…あの……もし、ご気分を害してしまったのならすみません」
「いや…別にオレにはどうでもいい事だ」

二人は、ほぼ同時に洗濯を終わらせた。
「あの、なんでしたら、その洗濯物もわたしが干しておきましょうか?」
「ああ…そうしてくれるとありがたい」
自分の洗濯物とリンゴォの洗濯物をまとめると、彼女はそうだ、とつぶやいた。
「洗濯物が多い日は大変でしょうから、よければ今度からこれを使って下さい」
と、リンゴォに持っていた袋を手渡した。
「あぁ、すまない」
「いえ…平民同士、困った時はお互い様です。では、わたしはこれで」
シエスタは洗濯物を抱えてどこかへと行ってしまった。

リンゴォは先ほど、ありがたい、と口にしたが、別に心底そう思ったわけではない。
誰もがそうするように、ただの社交辞令だ。
リンゴォが本当に感謝の意を示すのは、彼が認めた男だけだ。
ルイズの部屋へ帰る道すがら、リンゴォは一人思う。
この世界は、貴族も平民も、あんな奴らばかりなのだろうか?
ここでは貴族も平民も、この『学院』とやらに飼われている。
その事を理解している分シエスタはルイズよりマシと言えたが、
その事を理解している分だけシエスタは卑屈だった。
それが余計にリンゴォを不快にさせた。
リンゴォがこの世界でまともに出会った人間は、ルイズとシエスタの二人だけだったが、
それだけで彼がこの世界を判断するには十分な材料だった。
(だが、それもどうでもいいことだ……)
こんな世界でも、牙を砥いでいる人間はいる筈だ。
こんな世界だからこそ、その牙はより強く光り輝く。

彼の興味は、其処にしかなかった。


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