ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

奇妙なルイズ-6

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匿名ユーザー

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「使い魔品評会が開かれます!」
食堂に集まった生徒達は、コルベール先生による使い魔品評会の知らせを聞いて大いに驚いた。
使い魔の品評会は、簡単に言えば使い魔自慢だが、今回はアンリエッタ姫殿下が使い魔の品評を行うという。

アンリエッタ姫殿下はその清楚さと、幼さを見せない凛とした姿に人気があり、国民の憧れの的と言っても過言ではない。
他国からの留学生であるキュルケ、タバサはその逆で、姫には興味がないと言った感じだ。

わいわいと騒ぐ生徒達の中で、ルイズは、本日何度目か解らないため息をついた。
「皆さん静かに!
…先ほども言いましたが、品評会は明後日、今日と明日しか猶予はありません。
しかし、トリスティン魔法学院の生徒達は皆、普段から使い魔の能力を熟知し、
パートナーとして最大限の力を活かせるものだと信じております!
尚、今日と明日はオールド・オスマン氏のはからいにより、
授業はすべて中止となります」

授業が中止と聞いて、生徒達は喜び、やった!などと声を上げるものも多かった。
そんな中で、ルイズから向かって右端の方に座っている教師二人が、ボソボソと何かを呟いているのが見えた。

『二学年に、使い魔の居ない人が確か…』
『ヴァリエール侯爵の娘ですよ』
『ああ、そうでしたね』
『欠席は認められないとなれば、魔法学院にとっても恥ではありませんか』


無礼な教師二人の声は、とてもルイズまでは届かない。それどころか最前列に座っている生徒にも聞こえていないだろう。
しかし唇の動きがハッキリと見え、その言葉が頭に流れ込んでくる。
(何よあいつら、聞こえてないと思って好き勝手言って…)
ルイズは悔しさに身を震わすばかりで、言葉が見えてしまうことに疑問を感じる暇もなかった。

やがて生徒達は、使い魔にどんな芸をさせようかと思案しながら食堂を出て行く。
後には思い詰めたような顔をしたルイズと、メイドのシエスタが残っており、
メイドは深刻な表情のルイズに声をかけて良いものか迷ったが、意を決して話しかけた。
「あ、あのっ」
「え? あ、この間の…えっと」
「シエスタ、です。この間は私のせいで、貴族様に、その、ご迷惑を」
緊張しているのか、言葉がたどたどしい。ルイズは笑いかけるように言った。
「あれはもう私の問題よ。貴方はメイドとしてちゃんと仕事をしただけじゃない」
「でも…」
「いいの、迷惑だなんて思ってないわよ。それに…」

”恐怖で人を縛り付けるのはよくない。”と言おうと思ったが、言えなかった。
ルイズの姉エレオノールは威厳と実力を示し、人を従わせるタイプだった。ルイズはその姉が苦手で苦手で仕方がない。
しかし、苦手なエレオノール姉の姿こそ、貴族の理想だと思っていた。

もう一人の姉カトレアは、その穏やかな人柄と、どんな相手にも分け隔て無く接する優しさを持ち、人を従えるのではなく、人が慕ってくるタイプだった。
使い魔召喚に失敗したあの日から見続けている奇妙な夢。
それが、エレオノール姉への憧れを打ち消し、カトレア姉への憧れを強くしていく。
しかし、時には恐怖で人を従わせるエレオノールの振る舞いも貴族のあるべき姿だと思っているのだ。

ルイズは、頭の中の混乱を上手く言葉にすることが出来ない、と感じたのか、余計なことは言わないでおくことにした。

「何でもないわ。それよりも貴方、私のこと貴族様って呼ぶの止めてよ。ルイズでいいわよ」
「は、はい、ルイズ様」
ルイズは少し考えた後。
「様もいらないわよ」
とだけ言って笑いかけ、席を立った。

シエスタは立ち去ろうとするルイズに深々とお辞儀をしてから、
食器の片づけをしようとして、ルイズの席の食器を手に持った。

その時、足下に落ちていた誰かの香水入れを踏みつけ、バランスを崩した。
「!」
この学院で使われる食器は、貴族から見ればそれほどの価値はない。
しかし平民のシエスタにとっては大変なものだ。
もし趣味の悪い貴族に仕えるメイドならば、粗相をしたと言って殺されても不思議ではない。
手の中から滑り落ちる食器の感覚に、この世の終わりのような思いをしたシエスタ。
彼女の耳に食器の割れる音が届くかと思われたが…

なぜか食器はテーブルの上に置かれていた。

「ちょっと、どうしたのよ。気をつけなさい…って、それモンモランシーの香水入れじゃない。こんな所にあったら危ないじゃないの」
そういってルイズは香水入れを拾い上げた。
そして、何が起こったか解らず呆然としているシエスタは、少しの思考の後『ルイズ様が魔法で何とかしてくれた』という結論に達し、ルイズに対する尊敬はますます高まっていくのだった。


そして、魔術学院の学生達が待ちに待った、使い魔品評会、その前日の夜。

ルイズはベッドの中で丸まっていた。
どうしよう、どうしよう、と、終わりのない自問自答を繰り返す。
サモン・サーヴァントは一回も成功していない。
このままでは使い魔品評会で恥をかいてしまう。

使い魔を呼び出すサモン・サーヴァントは、成功確率が高い魔法と言われている。
使い魔と主従の契約を交わすコントラクト・サーヴァントの方が難しいこともある。

どんな魔法を使っても爆発、つまりは失敗。
もしかしたら、自分は魔法の才能が無いどころか、メイジですらないのかもしれない。

数え切れないほど失敗を繰り返したルイズの手には火傷の痕が残り、頬にはかすり傷もついていた。
「退学…かな…」
最悪の結果を考えて、ルイズは自分が弱気になっていることに気付いた。
使い魔品評会には、使い魔がいなければ何も出来ない。
ギーシュとの決闘の時、私は魔法を使って勝ったはずだと何度も自分に言い聞かせた。
落ち込むばかりじゃいけない、まだ少しだけ時間がある。
ルイズは寝間着の上にマントを羽織り、杖を持って、最後のチャンスに賭けようと外に出た。


中庭は二つの月に照らされて明るく、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
その中央に誰かが立っている。誰だろう?と思い近づいてみると、シエスタが二つの月を見上げていた。

「何やってるのよ、こんな時間に」
「!…ご、ごめんなさ…ルイズ様?」
「様はいいわよ、もう…幽霊でも出たかと思って驚いたじゃない」
「すみません…ちょっと、祖父のことを思い出していたんです」
「お爺さんの?」
「はい。私の髪の色は、ここでは珍しい色です」
そういえば黒い髪なんてあまり居ないわね、と心の中で呟く。
「祖父の生まれた土地では、黒い髪の毛の人しかいなかったそうです」
ルイズは自分の祖父の姿を思い出しながら、シエスタの話を聞いていた。
「…祖父は、遠く東の果てから来たと言っていました。村の人たちは誰も信じません。
でも、祖父はいつも月を見上げては、故郷の月は一つだった…って言っていたんです」
「月が一つ?そんなのどこに行けば見られるのよ」
不意に、ルイズの思考を別の記憶が流れ込む。

私は砂漠の中に立っていた。
昼間の熱気とはうってかわって、極端に寒くなる砂漠の夜。
仲間達と共に月を見上げ、ひとときの休息を味わう。

「村の人は誰も信じません。でも、私には祖父の言葉が嘘だとは思えなかったんです」
「信じるわよ」
「えっ?」
「そんな世界も、どこかにあるかもしれないじゃない」
その時のシエスタの表情は、今までに見たことのない、明るい笑顔だった。

「私も、月が一つの世界に、一度行ってみたいわ」
そう言ってルイズは月を見上げ、記憶をたぐり寄せる。

高速で巡る月。
加速する世界。
娘に降り注ごうとするナイフの雨。
ナイフを弾き、次の瞬間、切り裂かれる自分の体。
「あうっ!」
「え、る、ルイズさん!どうかしたんですか!?」
膝の力が抜け、倒れそうになるルイズを、シエスタが支えた。
「だいじょうぶ、だいじょう、ぶ、ホントに、大丈夫だから…気にしないで」
「でも、お顔が真っ青です。それに、こんなに震えて」
「月明かりのせいよ」
「違います。すぐに治癒の先生の元へお連れしますから」
「大丈夫。本当に大丈夫よ。ちょっと足が震えただけなんだから、部屋で休めばすぐ治るわよ…」
シエスタは口で答えるよりも早くルイズの体を支え、ルイズの部屋へと歩き出した。
夜中なので足音を立てぬよう、静かに歩く。
女子寮に入るのは初めてだったが、ルイズの案内で部屋の前まで来ると、フードを被った不審な人物が、ルイズの部屋の前で立ち往生しているのが見えた。

「ルイズ!ルイズ・フランソワーズ、どうしたの?そんな、辛そうにして…」
フードを被った人物は女性らしい細い声で、ルイズに声を掛けた。
シエスタはフードを被った人物が誰だか分からなかったが、ルイズの体を支えようとしたので、ルイズの友人だろうと判断した。
フードを被った女性はルイズの部屋を開け、シエスタはルイズをベッドに座らせる。
その間にフードを被った女性は扉を閉めて、罠を関知する魔法で安全を確かめ、サイレントの魔法で部屋の音を外に漏らさぬようにした。
「ルイズ…ああ、どうしたことでしょう。顔を真っ青にして…」
そう言いながらフードを外し、アンリエッタ姫殿下ルイズを抱きしめた。
「ああ、ルイズ! 懐かしいルイズ!」
「…ひ、姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へお越しになられるなんて……」
「そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい。あなたとわたくしはお友達じゃないの!」
そう言って二人は、ルイズの体の調子を気にしつつも、過去の思い出話に花を咲かせた。



幼い頃、ルイズはアンリエッタ姫の遊び相手をしていた。利欲と陰謀の渦巻く王家と貴族の間で、アンリエッタ姫が唯一心を許せる友達がルイズなのだ。

「あら。ごめんなさい、貴方のことをすっかり忘れていたわ。私の友達を助けてくださったのに…」
さっきから一人放置されていたシエスタは、突然自分に声を掛けられて、それこそ輪切りにされてホルマリン漬けにされる程驚いた。
「あ、あの、ご、ご無礼を、いたしました…」
先ほどのルイズよりもひどく震えながら、アンリエッタ姫の前に土下座するシエスタ。
その態度から、アンリエッタはシエスタが平民だと見抜き、そして寂しそうな表情をした。
「貴方は平民なのですね。そんなに怖がらないで。私の友達を助けてくださったのですから、貴方に感謝することはあれど、罰することはありませんよ」
アンリエッタがそこまで言っても、シエスタは土下座したまま震えている。きっとパニックに陥っているのだろう。
ルイズは無言でシエスタを抱き起こす。シエスタの目にはハッキリと怯えが見えていた。
「…これは、私の至らなさが原因なのです」
ぼつりと、アンリエッタが呟き、そして話が始まった。
アンリエッタが諸侯を視察している時の話だ、道中、外を見ると、アンリエッタを歓迎する貴族と平民達が見える。
皆の喜ぶ顔はアンリエッタにとっても喜びだった。
しかし、その一方で、躾と称して平民を殺す貴族もいる。過剰な拷問を趣味にしたり、平民が貴族に逆らえないのをいいことに、平民の少女でハーレムを作る貴族もいる。
アンリエッタは、それがとても汚らしいものに見えた。

しかしそれを正せるほどの権威は、今の自分には無い。そんなことをすれば貴族達からの反感を買い、クーデターが起こってもおかしくはない。
ルイズという身分違いの友達を得ることで、アンリエッタは自分の本心を見せられる友達のありがたさを知り、身分の差を疎ましく感じるようになった。
それと同時に、自分は籠の中の鳥なのだ。貴族の暴虐を黙認し、その見返りとして貴族に守られなければ、何も出来ない弱者なのだと感じていた。

「それは姫様だけの責任ではありませんわ!貴族全員の…」
「わかっています。ですが、王家の者として、貴族が恐怖の象徴として扱われることに責任を感じているのです」
話を聞いていたシエスタも、少し落ち着いたのか、悲しそうな表情で姫を見た。
それは同情からくるものであり、無礼ではあったが、アンリエッタは数少ない理解者が増えた気がして、その視線に喜びを感じていた。
「あ、あのっ、難しいことはよく分かりませんけど…わたし、アンリエッタ姫様が、今の話で、好きになりました。ですから…あ、あの」
この時代、貴族に、しかも王族に話しかけるという行為すら咎められることがある。勇気を振り絞ったシエスタの言葉を聞き、アンリエッタとルイズは心底嬉しそうに笑った。

しばらく三人で談笑した後、アンリエッタは、
「それでは、明日を楽しみにしています、ルイズ、体をいたわって下さいね」
と言って、シエスタと共に部屋を出て行った。

結局、使い魔の召喚には成功していない、明日恥をかくのはもう避けられない。
けれども別の充実感があった、アンリエッタ姫にまた一人友達が増えたことだ。
一人だけでになり、寂しくなった部屋で、ふと窓の外を見た、
もし、使い魔がいたら、私はどんな名前を付けただろう。
そう考えたルイズの目に、銀よりも強い輝き、白金色の光をまとった流れ星が流れた。
『星 の 白 金』
「スタープラチナ」
ルイズは、小声で呟いた。


翌日朝、使い魔品評会が始まる直前まで、女子達の間では新たに出現した幽霊の話で持ちきりだった。

『月夜に中庭に立つ幽霊』
『廊下で足を引きずって歩く幽霊』
『フードを被った女性の幽霊』

ルイズは冷や汗をかき。

キュルケは呆れ。

タバサの洗濯物は今日も一枚多かった。

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