ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第五章 二振りの剣

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第五章 二振りの剣

「リゾット、買い物に行くわよ」
キュルケとの一件があった翌日、雑用を終えてこれまで覚えた単語を復習していたリゾットに、狩りに向かう承太郎並みの唐突さでルイズが宣言した。
そう、宣言である。誘いではない。拒否は許されない一方的な通告である。
普通なら突然すぎて金縛りにあうところだが、リゾットはもう慣れている。
「何を買うんだ………?」
「剣よ。あんた、召喚される前は戦うような立場だったんでしょ?
 ギーシュと決闘した時の動きとか、素人って感じじゃなかったもの」
戦うどころか殺すのが専門だったのだが、あながち間違っていないので頷く。
ルイズは自分の見解が当たって嬉しいのか、薄い胸を張る。
「だから、ご主人様が使い魔に身を守る武器を買ってあげるのよ。
 キュルケなんかに好かれたんじゃ、命が幾つあっても足りないし。降りかかる火の粉は自分で払いなさい」
その火の粉は雇い主からも飛んでくるのだが、とりあえずリゾットは考えた。
(つまり雇い主から装備の配給か)
恩を返さなければいけない身で、これ以上の報酬を受けるのかはどうかと思ったが、その分、役に立てば問題ない。そうリゾットは結論した。
「……どうしたの? 要るの? 要らないの?」
「いや……ありがたく受け取ろう。街はここから馬に乗っていくんだったな…」
「そうよ。何で知ってるの?」
「人づてに聞いた」

「ふ~ん……。ま、いいわ。じゃあ、行くわよ」
この辺りの地形や地理は訓練がてらに確認し、周辺の情報はシエスタに聞いてある。
リゾットに問題があるとすれば、乗ったことのない馬に三時間も乗れるかどうか、だった。

ルイズとリゾットが馬に乗ってトリステイン城下町に向かった数十分後、キュルケは学院のある生徒の部屋に転がり込んだ。
部屋の主の読んでいた本を取り上げ、『サイレンス』の魔法を解除してもらってから勢い込んで言う。
「タバサ。今から出かけるわよ! 早く支度してちょうだい!」
数十分前のルイズのような唐突さである。この二人、実は似てるのかもしれない。
「虚無の曜日」
タバサと呼ばれた青い髪の少女は短く理由を告げ、拒絶の意を表明する。
彼女にとって虚無の曜日は読書に費やす日なのだ。親友であってもそう簡単に邪魔されたくない。
「わかってる。あなたにとって虚無の曜日がどんな日なのだか、あたしは痛いほどよく知ってるわよ。でも、今はね、そんなこと言ってられないの。恋なのよ! 恋!」
キュルケ曰く、『恋は唐突』。
タバサは常々、唐突なのは恋ではなくキュルケではないかと思っているのだが、親友は感情で動く人間であることを知っているので、後の説明を聞くことにする。
説明を要約するとこうだ。
キュルケが恋した相手がルイズと一緒に街に出かけた。どこに行くのか突き止めたいが、相手は馬なので、タバサの風竜でないと追いつけない。
そこまで聞いて、やっとタバサは頷いた。
「ありがとう! じゃ、追いかけてくれるのね!」
もう一度タバサが頷く。正直面倒だが、親友が自分だけしかできないことを頼ってくれるなら受けるしかない。
寮搭からウィンドドラゴンの幼生が飛び上がった。背中に主人とその親友を乗せて。

一方、ルイズ、リゾットの二人はトリステイン城下町の大通り、ブルドンネ街にいた。
「道が狭いな……」
リゾットは5mほどしか幅のない道を見てつぶやいた。
「狭いって、これでも大通りなんだけど…。それはそうと…なんでそんな変な歩き方なの?」
よく見るとリゾットはわずかに跳ねるようにして歩いている。ルイズはピンと来た。
「ひょっとして腰でも痛いとか?」
「ああ……少し、な…」
リゾットが頷くと、ルイズは思わず吹き出した。
「あんた、苦手なことなんてあったのね」
「誰にでも……最初はある…ってことだ。洗濯も最初はできなかったしな……」
「まあ、それはそうよね。じゃ、迷子にならないようについてきなさい」
ルイズが歩き出す。妙に機嫌がよさそうだ。まあ、雇い主の機嫌がいいのは何よりだ、と気を持ち直してリゾットが続く。
通りは声を張り上げる商人や道端の露店、そしてその客で活気に満ちていた。
「ところで、財布は大丈夫でしょうね? 魔法を使われたら一発なんだから、スリには気をつけてよね」
「…貴族のスリもいるのか………?」
「メイジの全てが貴族ってわけじゃないわ。色々事情があって貴族から放逐されたメイジが傭兵や犯罪者になるのよ」
そう言うルイズ自身はどういう扱いなのか、少しリゾットは気になった。
我侭振りを見るに、溺愛されて育ったという可能性もあるが、貴族の三女で魔法が使えないとくれば、あまりいい扱いはされていそうにない。
こんなマンモーニな主人でも一緒に行動すれば多少は情が移る。プロシュートがペッシに熱心だったのが分かる気がした。

ルイズについて裏路地に入っていく。
世界は変わっても路地裏の汚さは共通のようで、ゴミや汚物が道端に転がっていた。
リゾットにとってはお馴染みの環境だ。
四辻に出ると、ルイズはきょろきょろと辺りを見回した。
「ピエモンの秘薬屋の近くだからこの辺りのはずなんだけど……」
「あれだろう」
リゾットが一枚の銅の看板を指差す。図書室での勉強のおかげで店の標識くらいは見分けが付くようになっていた。
ルイズとリゾットは石段を登って羽扉を開き、店内へ入っていった。
薄暗い店だった。壁や棚にところ狭しと武具が並べられ、店内を歩き回るのも苦労する。
店の奥から出てきた主人は値踏みするようにリゾットとルイズを見つめる。
「剣を買いに来た」
リゾットの言葉とルイズの紐タイ留めの五芒星で貴族の客と分かると急に相好を崩した。
「お客様でしたか。こりゃ失礼しました。貴族の方が剣を使うとは思わなかったもので」
「使うのは私じゃないわ。使い魔よ」
「ははぁ、なるほど、こりゃ忘れていました。最近は使い魔も剣を振るようで」
商売気を発揮してお愛想を言った後、リゾットをじろじろと見た。
「こちらの方ですか。お使いになるのは」
「そうよ。私は剣のことなんか分からないから、適当に選んでちょうだい」
しばらく引っ込むと、店主は立派な大剣を持ってきた。
「店一番の業物で、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿の傑作で。魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさあ」
確かに見事な剣である。ところどころ宝石がちりばめられ、刀身の光といい、柄拵えといい、見るからに切れそうな、頑丈な大剣だった。
「おいくら?」

「エキュー金貨で二千。新金貨なら三千ってところでさ」
「高すぎるわ。立派な家と、森付きの庭が買えるじゃないの」
二人が話している間、リゾットはしばらくそれを手にとって眺め、刀身を数回、軽く指で叩いた後、呟いた。
「……これで鉄まで斬れる? 嘘をつくな…。これでは鉄はおろか、岩も斬れない」
『メタリカ』の使い手であるリゾットは刃物の性能は大体分かる。
自分の手にある剣が鈍らだということはすぐに分かった。
魔法によって切れるものに仕上がっている可能性はあったが、店主の表情にははっきりと嘘が読み取れたため、その可能性もないと判断したのだ。
「お、お客さん、勘弁してくださいよ。うちの品物にケチをつけなさるんですか?」
図星を指された店主は内心慌てつつ、取り繕う。
「別に誇張したことを咎めているわけじゃない。……商売に誇張は付き物だ。だが……、余り落差のある誇張をするってことは、見抜かれたときの『覚悟』もしてるってことだよな?」
「いい加減にしやがれ! そんなにそれが鈍らだって言うんなら証明してもらおうかっ!」
途端にリゾットは剣を一閃。大剣は壁にかけてあったハルバードの刃に当り、あっさりと折れた。ハルバードの刃は欠けてもいない。
「げぇっ!?」
「証明したぞ……。さあ、客を騙そうとした責任…取ってもらおうか!」
「こいつ…私を騙そうとしたの!?」
リゾットの後ろから地獄の底から響くような声がした。振り向くと、ルイズがふつふつと屈辱をたぎらせている。
「待て……。怒るな、ルイズ……。騙される方が悪いんだ」
「ダメよ! 平民が貴族を騙そうとするなんて、打ち首ものよ!」
世間知らずのルイズが交渉に弱いことは大体予想がついている。さらに、ギーシュとの決闘の傷を治した『治癒』の魔法の秘薬がとても高いということはシエスタやギーシュから聞き及んでいた。
今、ルイズの手持ちはあまりないはずだ。だからリゾットは交渉の主導権を握って安く買おうと少々強引に出たのだが、ルイズの方が過剰に反応するのは予想外だった。
「落ち着け。………店主だって故意に騙そうとしたんじゃないかも知れない。……見た目だけなら切れそうだからな」
「そ、そうでさぁ。うちはまっとうな商売で。不良品があったことは謝りますが、貴族の方を騙そうなんてとてもとても」

リゾットが助け舟を出すと、店主も乗ってくる。もちろん嘘なのだが、ここで通報騒ぎなどになったらそれこそ面倒くさい。店主の方は命がかかっているので必死だ。
ルイズはう~う~唸っている。まだ納得いかないらしい。そこでリゾットは機転を効かせた。
「……とはいえ、店主。不良品を掴ませそうになったんだ。お詫びって言うわけじゃないが、値段はまけるということでどうだ?」
「え、ええ! そうしましょう! ですからこの一件は内密に。評判に関わりますので」
「ああ……。それでいいな、ルイズ?」
「…………まあ、別にいいけど……」
不貞腐れたようにルイズが言うのを聞いて、店主はやっと安心したようだ。
「では、今度はこちらで選ぶが……ルイズ、使う剣は俺に選ばせてもらうぞ」
「そうね……。リゾットに任せるのが安心そうだし、いいわよ」
リゾットが奥へ入っていくと、少しでも機嫌を取ろうというのか、店主がルイズに話しかけ始めた。
「いやー、しかし昨今は貴族の方々の間でも下僕に剣を持たせるのが流行りらしくって、景気がいいんですよ」
「貴族の間で、下僕に剣を持たせるのが流行ってる?」
「はい。なんでも最近、土くれのフーケとか言うメイジの盗賊が貴族様方のお屋敷に盗みにはいるらしくって」
「ふ~ん、そうなの………」
「そこ行くとお二方は腕が立ちそうですから、フーケなど恐れることもありませんなぁ!」
一方、リゾットはその会話を横で聞きながら、陳列してある武器を一つ一つ見ていくが、一振りの剣に目が吸い寄せられるように目が止まった。
高価そうな、鞘の形状からすると日本刀のように反りの入った剣だった。
その剣は鞘の上からでもわかる、何ともいえない『凄み』を放っている。その凄みがリゾットを引き付けたのだ。
リゾットはその剣に手を伸ばした。
「おい、そこの男!」
突然低い、男の声がかかった。振り返るが、誰もいない。乱雑に剣が積み上げられているだけだ。
「ここだよ、ここ。お前の目の前だよ!」

声の主は一本の剣だった。どういう仕組みかなのか、剣が喋っている。
「……お前か?」
「おぅ、そのとおりよ。剣を探してんのか? さっきのやりとり、見て、おでれーたぜ! なかなか腕に覚えがあるみたいじゃねえか。なら俺を買いな」
「剣が売り込みか……? 初めて見たぞ」
「いいじゃあねえか。俺は、お前を見込んで言ってるんだぜ?」
「お前が積極的に人に使われるような名剣には見えないが……興味はあるな…」
「てめ、失礼なこというんじゃねえよ! 人間は外見じゃねえ、中身よ! 中身!」
「お前は人間じゃない……剣だ」
一人と一振りの会話を聞きつけたのか、店主の怒声がとんだ。
「やい、デル公! お客様に失礼なこというんじゃねえ!」
「うっせーな! 俺は今、こいつに売込み中なんだから黙ってろ! さあ、いいからこのデルフリンガー様を買え。損はさせねーからよ」
「インテリジェンスソードなんて止めなさいよ、第一その剣、錆だって浮いてるじゃない」
ルイズも気づいて止めに入る。
確かに剣にはところどころ錆が浮いている。だが、錆を除けばそれなりの逸品のようだった。
「これでいい」
「え~~~~? そんなのにするの? もっと綺麗で喋らないのにしなさいよ」
「……なら、あれはいくらする?」
リゾットは先ほどの反りの入った剣を指し示して店主に利いた。
「あれですか? 作者は不明ですが、さる遺跡から見つかったやたら斬れる名剣でしてね。安値で売るってわけにゃ行きませんや。
 先ほどの迷惑料を込めましてもエキュー金貨では1500、新金貨なら2200ってところです。ちなみにデル公なら厄介払い込みで新金貨50枚で結構でさ」
値段を聞いてルイズはギクリとした。そんなお金はない。
だが、使い魔の前で「お金がない」なんていうと、リゾットは失望するのではないか。

さっきのはともかく、これは本人が欲しがっているものなのだ。
お金がないなんて言ったらナメられはしないか。貴族が平民にナメられるわけにはいかない。
そんな思考がぐるぐると頭を回ったが、次のリゾットの言葉でそれは杞憂に終わった。
「なら、このデルフリンガーでいい。ついでにナイフを一本もらおうか。剣だけだと取り回しが悪い」
「へっへっへっ、よろしくな、相棒。そういや、相棒の名前はなんてんだ?」
「リゾット・ネエロだ」
「『使い手』に恵まれるなんてついてる。よろしく頼むぜ、リゾット」
結局、ルイズとリゾットはデルフリンガーとナイフ一本を購入して帰っていった。

さて、そんな二人を見つめる二つの影があった。シルフィードで二人を追跡してきたキュルケとタバサである。
キュルケは、悔しさの余りガリガリと爪を噛んでいる。今にも血が出そうだ。そのうち時をぶっ飛ばす能力に目覚めるかも知れない。
「ゼロのルイズったら……、剣なんか買って気を引こうとしちゃって……。あたしが狙ってるって分かったら、早速プレゼント攻撃? なんなのよ~~ッ!」
実際、キュルケの昨晩の行動が剣を買うのに影響したのだからあながち間違いではない。
キュルケは武器屋の戸をくぐると、得意の色気を使って店主からルイズの買った剣と、リゾットが気にした剣を聞き出し、値段を大幅に減額させてその剣を買い取った。
哀れ、店主は本日一日で首を吊りかねない大損を扱いたのだった。
ちなみにこの間、タバサはずっと本を読んでいる。
いつものことなので気にも留めなかったが…キュルケが買ってきた剣を見た時だけ、微妙に顔が曇った。
なんだか嫌な感じがしたのだ。そう、先日遭遇した「あの剣」のような……。
「貸して」
「いいけど……貴方、興味あるの?」
頷くと、意外そうなキュルケからその剣を借り受け、わずかに抜いてみる。
刃物に興味のないタバサすらぞくぞくするような美しい刀身だったが、それ以外は特段変わったところはない。

念のため、探知の魔法を唱えてみる。しかし魔法の反応はない。
そこまで確認して、タバサはキュルケに剣を返した。
「どうしたの?」
キュルケの問いに、タバサは首を振った。
「変なタバサ」
クスクスとキュルケが笑う。

二人は知らない。
この剣がリゾットのいた世界から流れ着いたものであることを。
戦いに敗れ、絶望の余り長年にわたって眠りについていたことを。
リゾットの接近によりゆっくりと眠りから眼を覚ましつつあることを。

剣の名はアヌビス、冥府の神のカードを暗示するスタンド使い。
そして、今、ようやく完全に目覚めたアヌビスは考える。
(さっきの男……スタンド使いかどうかは分からなかったが、何か特別な力を感じた……。
 あの男と戦って覚えれば、俺はさらに強い存在になれるに違いない!)
『スタンド使いはスタンド使いに引かれ合う』
この言葉を証明するかのように、リゾットとアヌビスはその距離を縮めつつあった……。


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