ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

捜索! 土くれのフーケを追え! その②

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捜索! 土くれのフーケを追え! その②

ルイズ、キュルケ、そしてタバサにまで視線を向けられミス・ロングビルは困惑する。
「ど、どうかいたしましたか?」
「いえ、ちょっと二人の話が気になって……」
ルイズが言い、続いてキュルケも言う。
「でもジョータローの言う通りよね。何か不自然だわ。
 今まで誰も正体を掴めなかったフーケに、こんなにも近づいているなんて」
「しかも農民はフーケの性別まで確認している……そうだな?」
承太郎がさらにミス・ロングビルに問いかける。
「さ、さあ、どうでしょう」
「フーケは『男』だという情報だったな……。
 つまり……凄腕の盗賊であるフーケの顔が見えるほど農民は近づいた。
 フーケは黒いフードをかぶっていたから、最低でも横から顔を見たはずだ。
 まさか無用心にもフードを外して歩いていた訳でもない限りな……」
「さすがジョータロー、鋭いのね。素敵だわ!」
キュルケが頬を染めて褒め称え、続いて疑問を口にする。
「でも話を聞いているとその農民まで怪しく思えるわね。
 もしかしたら……ここは囮か、罠か……フーケはいないかもしれない」
「だが調べねー事には情報は得られねえ。あの廃屋の中を確認する必要がある」
「でも罠かもしれないんだから、調べる事すら危険よね。どうする?」
「ところでロングビル。確認するが、元貴族って事は当然メイジだな?
 自分の系統とランクを教えなッ」
キュルケはやたらミス・ロングビルに話しかける承太郎にちょっとジェラシーを焼いた。
承太郎とキュルケに睨まれたせいなのか、ミス・ロングビルは困惑気味だ。


「わ、わたくしは――土系統のライン。ですが相手がフーケでは役に立てそうにありません」
「私は火のトライアングルよ! ジョータローの期待以上に戦って上げられるわ」
対抗するようにキュルケが言ったが、承太郎はキュルケには目もくれなかった。
カッチ~ン、ときたもんだ。
「ジョータロー! とにかくあの廃屋が罠だろうと何だろうと、
 今の私達はあそこに行かなきゃ何の情報も得られないし進展も無いわ!」
「……いいだろう、廃屋を調べる。だが俺は魔法には詳しくない、メイジの協力が必要だ」
「任せて! 土くれのフーケがどんな罠を仕掛けていようと、この微熱のキュルケが――」
「一緒に来てもらうぜ、ロングビル」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
問答無用の力強さが承太郎の言葉にあった。
断る事は許可しない、させないと態度で示している。
だがキュルケもミス・ロングビルも納得しない。
「ジョータロー! 私が行くって言っているわ!」
「わたくしもミス・ツェルプストーに任せた方がいいと思います。
 学院の教師達はトライアングルなのに対し、わたくしはラインランクのメイジ。
 所詮わたくしは秘書であって教師ではありませんし、魔法の知識も実戦経験も不足しています。
 わたくしが魔法学院にいられるのはオールド・オスマンの寛大な精神があってこそ。
 本来なら魔法学院に勤務できるほどのメイジではないのです。
 わたくしよりシュヴァリエの称号を持つミス・タバサや、
 志願するだけの自信があるミス・ツェルプストーの方が適任ですわ」
ミス・ロングビルの言い分は理にかなっているようにルイズには思えた。
キュルケかタバサの方がよっぽど適任だろう。
自分は――残念だが、知識はあっても実力は無い。
悔しいが適材適所で考えればタバサかキュルケが適任だ。


「ジョータロー。今回はミス・ロングビルの言ってる事が正しいと思うわ」
「いや……土には土。例えラインだろうと、土の魔法に一番理解があるのはこいつだ。
 ここまで案内をしといて、後は怖いから任せますなんて都合のいい話はねーぜ。
 安心しろ。危険が無いようならすぐてめー等も呼ぶ……いいなッ」
そう言って承太郎はミス・ロングビルの手首を掴んで歩き出した。
「ちょっと! 待ちなさいよ!」
キュルケが後を追おうとした瞬間、彼女の手を小さな手が握って止める。
振り返れば、タバサ。
「彼の言う事に従った方がいい」
「どうして!? ミス・ロングビルより、私の方が……」
「彼は物事を正しく判断できる人」
タバサは承太郎と口を利いた事など一度も無い。
学院での生活然り、ここまでの道のり然りだ。
そのタバサが承太郎の行動を信頼しているらしい……不思議だが。
友人のタバサがそうなのだから、私も信じなくてどうするとキュルケは思った。
「……そうね、解ったわ。タバサがそう言うなら」
「…………」
無口同士何か通じるものでもあったのかしら? などとキュルケはのん気に思った。

廃屋――その周辺まで来て、承太郎とロングビルは注意深く中の様子を観察する。
……………………誰もいない、らしい。
窓から覗いても人影は無く、息を潜めても話し声や物音は聞こえない。
確認を終えた承太郎とロングビルは、罠に注意しつつ戸を開いた。
静かだった。聞こえるのは木々のざわめきと、ボロっちい戸のキィキィという悲鳴だけ。
安全を確認した承太郎は、合図をしてルイズ達三人を呼んだ。


「どうやら罠の類はないらしい」
入口のドアを開けっぱなしにして、承太郎は壁に持たれかかった。
そんな承太郎の横を通ってルイズ達三人が入っていく。
「でもそうすると、ここはいったい何なのかしら?」
「農民を使って偽の情報を掴ませ、追っ手に無駄足させてる時間稼ぎとか」
「…………」
タバサは無言。室内を見回し何かないか探しているようだった。
敵や罠の気配も無い。ちょっと拍子抜けした一行は気を緩めていた。
だがさすがは年長者というか、ミス・ロングビルが提案する。
「どうやらこの廃屋は安全なようですし、ちょっとその辺を偵察してきます」
「そう? 気をつけてね、フーケに会ったら戦わず逃げるのよ」
厄介払いとばかりにキュルケは手を振った。しかし。
「待ちな」
またしても承太郎が止める。
「……あんたはメイジといってもラインだ、
 最低でもトライアングルらしいフーケに遭遇したら手の打ちようがねえ。
 単独行動はせず、常に固まっているべきだ」
「だ、大丈夫ですよ。相手は農民が近くにいても気づかないような盗賊ですから」
自嘲気味にミス・ロングビルは言ったが、承太郎は表情を険しくする。
「俺が疑っているのはそこだ。フーケと農民がグルだったら……どうする?
 グルだから当然、農民がフーケに見つからなかったなんて情報は当てにならない。
 あんたが見つかったら、果たしてフーケは見逃してくれるかな……?」
「うっ……そ、そうですね。でも、やっぱり気になるんです。
 わたくし一人でご不満だというなら、ミス・タバサと一緒に偵察へ……」
「まるでこの場から少しでも早く立ち去りたいみてーに見えるぜ。
 それに……あんたの護衛なら俺でも十分だと思うが、なぜタバサを選んだ?」
「み、ミス・ツェルプストーはわたくしに、その、反感を持っているようですし。
 ミス・ヴァリエールは……その、解りますよね? だから必然的にミス・タバサを」


「俺が同行すると……何か不都合でもあるのか?」
「だ、だってあなたはミス・ヴァリエールの使い魔ですし……。
 でしたら彼女を守るのがあなたの役目でしょう?
 それとももしかして……わたくしを口説いていらっしゃるのかしら?」
そこでミス・ロングビルは、不適な笑みを浮かべた。
まるで男を誘惑するような、しかしキュルケの微熱による誘惑と違い、
男を利用する事を目的としているような下心が見え隠れするような笑みだった。
「…………」
「…………」
しばし黙り合って見つめ合う二人。
一応互いの腹を探ろうとしているのだが、承太郎の表情からは何も読み取れない。
一方ミス・ロングビルはしばらくすると居心地悪そうに視線を向けた。
「ちょっと二人とも、サボってないでちゃんと外の見張りしなさいよ」
ルイズが文句を言うと、ミス・ロングビルは頭を下げて謝罪した。
と、ちょうとそのタイミングの出来事。
「あら、タバサ。それなぁに?」
「破壊の杖」
胸に抱えなければならない大きな黒い箱を開いて、タバサは中身を見せた。
あまりにも呆気なく見つかったため、ルイズは驚いてそっちを見た。
承太郎も『破壊の杖』という単語に一瞬だけ視線を向けたが、
すぐ『戻すはずだった視線』は破壊の杖に釘付けにされた。
それは緑色の円柱。材質は金属類に見える。
高校生の承太郎は破壊の杖の正式名称や使い方は知らなかったが、
それが何を目的とした物なのかくらいはすぐ理解できた。
「馬鹿なッ……! なぜ、こんな物が『ここ』に?」
さすがの承太郎も驚きを隠せず、一歩、タバサに近づいた。
次の瞬間、背後で悲鳴が上がる。
「キャアアアッ!!」
振り返ってみれば、今まさにフーケのゴーレムが土から誕生しようとしている最中だった。


「ミス・ロングビル! 危ない!」
ルイズが叫ぶ。胸のあたりまで出来上がったゴーレムの右腕がミス・ロングビルに伸びる。
承太郎は咄嗟にロングビルに右手を伸ばしたが、
破壊の杖を持つタバサに『一歩』近づいた事が『一手』遅らせてしまった。
承太郎の指が空を切る。
ミス・ロングビルはゴーレムに鷲掴みにされてしまった。
彼女は杖を持っており、抵抗しようとしたのか、杖を振った。
だが次の瞬間、ゴーレムの右腕がゴミを捨てるようにミス・ロングビルを投げ飛ばした。
彼女の身体は木々を飛び越えて森の中に落下し、見えなくなってしまう。
「ミス・ロングビル!」
ルイズが叫んだ。
「やっぱり罠だったの!?」
キュルケは慌てふためいた。
「…………」
タバサは破壊の杖の入った箱を脇に抱えつつ、承太郎の隣まで走り杖を構えた。
「やれやれ……どうやら、こいつをブチのめさなきゃーならねえようだな」
承太郎は学帽のつばをつまんで角度を直した。
学帽のつばの下には、静かなる闘志に燃える薄いグリーンの瞳があり、
すでに足まで完成しつつある三十メイルの巨大ゴーレムを見据えていた。
静かなる闘志に燃えて。

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