ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

星を見た使い魔-2

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めたとさ。一人は泥を見た。一人は星を見た。
 そして、空条徐倫が見たものは―――。

 少なくとも、眠りに着く前に見上げた夜空に見えたものは、在り得ない筈の『二つの月』だった。

 空条承太郎の血統、徐倫。行き着いた先は『異世界』である。



 目を覚ますと、まず床の硬い感触が右半身を圧迫して僅かな痛みが走った。
 お世辞にも寝心地が良いとは言えない不快な感触で徐倫は目を覚まし、同時に寝る前の状況で夢でも幻覚でもないと自覚し、憂鬱な気分になる。
 目を開けて、まず視界に入ったものが昨日ルイズの放り投げた下着である事を確認して、更に飛びたくなるほど欝になった。
 生きている事は素晴らしい! 自分がバラバラになって死ぬような体験をした後なのだから、その気持ちは尚更だ。
 しかし、人はただ生きるだけで満足出来る存在ではないのだった。

「『使い魔』か……『奴隷』と変わらないわね。囚人よりは、まあマシかもしれないけど……」

 バリバリと頭を掻きながら、徐倫は昨夜ルイズと交わした幾つかの会話を思い出していた。

 この世界は『ハルケギニア』
 あの日は『魔法使い(メイジ)を目指す学生達が使い魔を召喚する内容の授業だったので』ルイズも召喚し『それを失敗した』―――。
 以上が、徐倫がまず尋ねた『何処?』『何故?』『どうやって?』という基本的な質問に対するルイズの答えである。
 ここはハルケギニアという魔法中心のファンタジーやメルヘンの世界なのだ。
 突きつけられた現実は、実に空想的で胡散臭いものだったが、徐倫は呆れこそすれ、意外にも認める事はすんなりと出来たのだった。
 元々、不慮の事故で刑務所送りになった薄幸の一般人である徐倫にとって、理解の及ばない状況というのは慣れ親しんだものだ。
 スタンドを始め、今回の魔法に至るまで、『不可思議』という点においてどれも大して差はない。
 例えば、初めて徐倫がスタンド能力に目覚めた時、『この力は魔法というんだ』と言われたなら、きっとそれで納得していただろう。
 言葉一つ、認識一つの違いなのだ。
 元から生まれ持ち、数々の異常の中で培った徐倫の適応力は大きかった。

 徐倫が異世界人である事を、ルイズは形ばかり認めたが、心底では信じていないのは丸分かりだった。
 それよりも重要な事は、ルイズ曰く『元の世界に戻る方法は無い』という事である。

 ここが異世界であると理解した瞬間に浮かんだ『戻る』という選択肢。それはもはや、徐倫の中で目的として固まっている。
 仲間も親も失い、残ったのは恐るべき敵と狂った時間しか待っていないあの世界に、しかし徐倫は帰る事を望んでいた。
 戻れば死は明らかだ。あるいはもう全て手遅れになっているかもしれない。
 それでも、戻らずにはいられなかった。
 何もかも失ったあの世界で、それでも残してきた物は幾つもあるのだ。

 かくして、徐倫はやるべき事を見出した。
 『元の世界に戻る方法を探す』 他人の否定は関係ない。無理や無茶は、過去何度も繰り返してきた事だ。どうって事は無い。
 そんな密やかながら確固たる目的を、もちろんルイズには話さず、徐倫は結果的に一先ずこの世界で暮らしていく為に、ルイズの使い魔となる事を認めたのだった。
 そして『使い魔』とは―――実質『召使い』や『奴隷』も同然だった。

「朝よ、お嬢様」

 徐倫はとりあえず、すやすやと心地良さそうに眠るルイズを起こす事にした。
 しかし、声を掛けただけでは反応すらしない。ムッときた。
 朝一番に目覚まし時計代わりをさせられる事に不満がないわけでもないが、それよりも硬い床で寝転がるしかない自分を差し置いて、柔らかいベッドで眠るルイズとの格差にムカついた。刑務所にもベッドぐらいはあったというのに。
 徐倫はルイズの毛布を剥ぎ取ると、どさくさに紛れて額を叩いた。

「痛い! な、なによ! なにごと!?」
「おはよう、お嬢様」
「はえ? ……あ、あんた誰よ!」
「寝惚けてんの? それとも頭脳がマヌケ? 徐倫よ」
「……ああ、使い魔ね。そうね、昨日、召喚したんだっけ」

 ルイズは納得したように頷いたが、やはり寝惚けているらしかった。
 昨日の会話の端々でも、徐倫の口の利き方に一々文句をつけていたヒステリーっぽい反応が、さっきのマヌケ発言に対して起こっていない。
 『黙っていれば可愛い』という評価を、地でいく少女だと徐倫は思った。
 自分の意思を無視してこの世界に呼び出したくせに、それが当然であるように振舞う態度のデカさが昨日から気に入らないと思っていたが、なかなかどうして、欠伸を噛み殺す姿は平和で微笑ましい。
 一人娘の徐倫は、ルイズを世話のかかる妹のようだとちょっとだけ感じた。

「服」
「はいよ」

 命令口調のルイズにも、やれやれと従ってやる。ここは、寛大になってやろう。
 下着も受け取って、それを身につけたルイズが再びだるそうに呟く。

「服」
「さっき渡したでしょ?」
「着せて」
「…………は?」

 ルイズの王様発言を、徐倫は一瞬疑った。

「……何だって?」
「着せて」

 律儀にもルイズは正確に繰り返した。
 オーケイ。ナメんな。
 怒鳴りながら目の前の甘ったれた小娘を殴り飛ばしたい衝動を、徐倫は素晴らしい忍耐力で堪えた。
 あの悪夢のような刑務所での生活は、確実に人を変える。『駄目になる』か『成長する』か、だ。
 徐倫はまさしく後者だった。沸点の低い今時の若者だった徐倫は、少しだけ大人になっていた。

「……手、上げて」
「んー」

 結局、徐倫はルイズの着替えを、まさに召使いのように手伝った。
 ルイズがいつか小便の手伝いまでするよう言い出さないか、割りと本気で心配しながら。


「おはよう、ルイズ」

 褐色の肌、長身、雰囲気、バストサイズ―――ルイズと徐倫が部屋から出てすぐに出会ったのは、そんな風にルイズとあらゆる意味で正反対の少女だった。
 ルイズは顔を顰めると、嫌そうに挨拶を返した。

「おはよう、キュルケ」
「あなたの使い魔ってそれ?」
「そうよ」
「あっはっは! ほんとに人間なのね! すごいじゃない!」

 愉快そうに笑うキュルケが自分をバカにしているのだと徐倫には察する事が出来たが、特に腹は立たなかった。
 侮辱や侮蔑は刑務所で最も多く向けられた感情だ。
 何より、人間がどうのと言われても、それが本当に侮辱なのかイマイチ判断しにくい。事実、自分は人間なのだから。
 それよりも徐倫は、純粋にこのキュルケという、初めて会うタイプの少女に関心を抱いていた。
 過剰な色気を纏う女は、娼婦くずれの犯罪者も多い刑務所でもよく見かけたが、キュルケにはそんな奴らには無い高貴さがあった。
 これがルイズの強調する『貴族』というものか、と納得する。確かに、そこいらの女とは磨かれたモノが違う。
 一見して犬猿の仲であると理解できるルイズとキュルケは何やら言い合っていたが、ふとキュルケの方が徐倫の視線に気付いた。

「お名前を聞かせてもらえるかしら? 使い魔さん」
「徐倫よ」
「ジョリーン、ね。……平民だけど『なかなか』ね。本当にルイズが召喚したのかしら?」

 値踏みするような視線を徐倫に向けながら、キュルケが面白そうに笑う。その言葉に、ルイズは改めて自らの使い魔を見た。
 190センチを超える長身の父・承太郎とアメリカ人の母の血を引く徐倫は、女性にしてはかなり長身の部類に入る。
 身長のせいか、キュルケほどバストは強調されないが、下品ではない程度に付いた筋肉で体は引き締まって見える。足はスラリと長い。
 キュルケとはまた違った意味で色気があり、またある意味同じ種類の美女だった。
 いろんな意味で小柄な自分との対比を思い浮かべ、自然とルイズの顔はしかめっ面へと変わっていった。

「うるさいわね、あんたには関係ないでしょ」

 自然、更に不機嫌になったルイズは吐き捨てるようにキュルケを突き放した。

「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って、一発で呪文成功よ」
「あっそ」

 ルイズの反応は素っ気無かったが、徐倫はわずかに目を見開いた。
 キュルケの傍らにのっそりと現れた『使い魔』とやらは、巨大トカゲとしか表現出来ない、少なくとも徐倫の知識には存在しない生物だったからだ。
 尻尾の先が常時燃えている生物など在り得る筈が無い。

「……それが、あなたの『使い魔』なの?」
「そうよ、火トカゲよー。見て? この尻尾。 ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? ブランドものよー」
「へえ」

 専門的な用語の混ざるキュルケの説明に、徐倫は適当な相槌を返しておいた。
 未知との遭遇を果たした徐倫に、驚きはあれど恐怖や警戒は湧かなかった。確かに見た事も無い生物ではあったが、彼女がこれまで遭遇してきたスタンドなどにはもっと醜悪な見た目や性質を持つ者もいた。
 それに比べれば、ここまで分かりやすくファンタジーなデザインを持つ生物は、充分目に優しい部類に入る。
 ただ、目の前の火トカゲとやらには新鮮な驚きを感じ、それらが当たり前に闊歩するこの世界の常識に少しだけ呆れた。
 サラマンダーの凄さがイマイチ分からない徐倫を尻目に、ルイズはその価値が分かるのか、悔しそうにキュルケの言葉を聞いている。

「じゃあ、お先に失礼」

 やがて使い魔自慢に満足したのか、キュルケは炎のような赤髪をかき上げ、颯爽と去っていった。その仕草にも、やはり平民の女には無い気品がある。
 徐倫は面白そうに笑った。
 自分の仲間は変人ばかりだったが、全ての出会いは新鮮で、思い返せば掛け替えのないものだった。この異世界で、そういう出会いがまたあるのかもしれない。

「くやしー! 何よっ、火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって……! 何、笑ってるのよ!?」
「なかなか面白そうな友達持ってるじゃない?」
「あんなのが友達なわけないでしょ! 言っとくけど、あんたもアイツと関わっちゃ駄目よ!」
「そう? ご主人様を上手くあしらう方法の参考になりそうなんですけどォ~」
「あんた、本当に反抗的ね……餌抜くわよ!?」
「あたしを犬扱いするなッ! お前、本当に崖から飛ばすぞッ!!」

 相変わらずコイツは生意気だ。殴りたい。ムカつく。
 徐倫はルイズと言い争いながら、内心で思った。
 一方で、ルイズは徐倫と言い合いながら同じ事を考えていた。


 優雅に歩いていくキュルケとそれに付き従うサラマンダーの姿が理想的な主従の関係であるのなら、その少し後に口喧しく言い争いをしながら肩を並べて押し合い圧し合い歩くルイズと徐倫の姿はなんとも珍妙なデコボココンビに見える。

 二人の相性は一見最悪であり、しかしまた奇妙なところでひどく息が合っているようにも見えるのだった。




To Be Continued →

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー