ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの世界-2

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匿名ユーザー

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「ちょっと! さっさと起きなさいよ!」
怒鳴ってはみたものの、男が目を覚ます気配はない。
(勘弁してよ…。私が運ぶの? こいつを? 歩いて?)
げんなりする。平民が貴族の前でいつまでも寝ているなんて。
そういえば、コルベールはコイツのルーンを珍しいと評していたが……
(『平民』って時点で珍しいどころの騒ぎじゃないわよッ、ボゲがッ!)
「とに、かく」
ルイズは歩き始めた。『男』の足を引き摺りながら。
ふと、コイツの『名前』が気になった。使い魔には名前を付けなくては、と思っていたが、
平民とはいえ、人間相手に勝手に名前を付けるというのも気がすすまない。
「まったく、この『ドクロヒゲ』……初っ端から、ご主人様に…フゥ」
「迷惑かけるとは、イイ度胸してんじゃーねーの……! ハァ」
「疲れているならワザワザしゃべらなくてもいいだろう」
「そりゃ…そうだけど……」
「いったいお前は何者だ? なぜこんな事をしている?」
「私は…ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール…よ。
 なぜって…アンタが気絶してるからじゃあないの……」
「ならばもう足を離したらどうだ」
「……………………」

(なによコイツ、起きてたんじゃないのさ!)

「ア、アアンタ、いつから起きてたのよッ!」
「ついさっきからだ、そしていい加減足を離せ」
「言われなくても離すわよッ! そして使い魔が命令してんじゃあねーわよッ!」
「使…い魔? なんのことだそれは?」
(使い魔! そんな事もわからないのコイツはッ!)
『使い魔とは何なのか』を男に説明しながら、あらためて自分が召喚したのが
『平民』なのだということをルイズは痛感した。
その後も男はここはどこかだとか色々聞いてきたがルイズは律儀に答えてやった。
挙句の果てには『元の世界に戻る方法はあるのか』なんてわけのわからない事を聞いてきたが
それは無視した。
一つわかった事は、コイツには常識が無い事。平民の上に、常識もない。頭が痛い。
「それで……アンタの名前はなんなのよ?」
男は立ち上がるとペコリと一礼をした。
(なによ急にかしこまっちゃって…)
「遅れましたが自己紹介させていただく………
 名は………『リンゴォ・ロードアゲイン』」

「それで…アンタはオレの『雇い主』……そうとって構わないんだな?」
ルイズ達が部屋に辿り着いてリンゴォの放った最初のセリフがこれだ。
「だから…雇うだとかそういったレベルの世界じゃないのよ『使い魔』ってのは!」
半ば呆れた様な口調でルイズは言う。
(結局あの後コイツが名乗ってから部屋につくまで、こっちがさんざ
 話しかけてもシカトぶっこいといて、開口一番の発言がこれ!?)
ルイズは苛立っていた。
呼び出した使い魔には『忠誠心』というものがまるで感じられない。
(なんで私だけ『平民』なのよッ)
いっそ何も出てこないほうがなんぼかマシだったかも知れない。
せめて、忠誠心というものがあれば……。
だが、今更考えてもしょうがない、そう思い直した。
「まあ、とにかく…その辺の話は明日するとして……。
 今日は、疲れたから寝るわ……」
そう言いながら服を脱ぎ始める。
「あ、そうだ。アンタも洗濯くらいはできるわよね。という訳で……」
リンゴォに脱いだものを投げつける。
「それ、洗濯しといて。明日ッから早速よ!」
「オレがか?」
「ほかに誰がいんのよ、アンタしかいないでしょ。
 何も出来ない使い魔なんだから、せめてそのくらいはしなさいよね」
ルイズの裸を見ながらリンゴォは思った。まるでガキだな、と。
胸ではない、精神が、である。
そしてふと窓を見たリンゴォは、月が二つ有ることに気付く。
(どうやら、本当にここは異世界らしいな)
しかしその事を別段問題だとは考えなかった。
前居た所に戻りたいとは思わなかったし、そもそも自分は敗北した死体なのだ。
危惧する事と言えばルイズから感じる甘ったれたにおい。
自分が決闘を挑む事の出来る男が果たしてこの世界にいるだろうか?
リンゴォだって年がら年中決闘しているわけではないが、それにしたって
相手が一人もいないのは困る。

目の前で服を着替えるルイズを見てリンゴォはあらためて思う。
(曲がりなりにも)年頃の娘が、使い魔だかなんだか知らないが、今日出会ったばかりの
見ず知らずの男の前で肌を晒している。誘っているなどという気配は微塵もない。
完全に、安全を保証された上での行為だ。そう思った。
本当はそんな保証など無いかも知れないが、少なくともこの少女はそう『思い込んで』いる。
自分で保障したものではない。誰かから与えられた安全だ。それを、『当たり前』だと。
当たり前の世界など、前触れも無く崩れ去ると言うのに。
現にリンゴォの世界は前触れも無く変化した。わけのわからないファンタジーに。
そんなルイズを見るだけでも、ここがどれだけ『甘ったれた世界』なのか知れるというものだ。
リンゴォは貴族に縁が無かった。
リンゴォの生まれた世界にも貴族はいたが、リンゴォの生きた世界にそんな者はいなかった。
だから彼はルイズの放つ甘ったれた悪臭に強い不快を感じていた。

ネグリジェに着替えると、ルイズは布団にもぐりこんだ。
「ふぁ…」
間の抜けたあくびをすると、ルイズは毛布を投げてよこした。
「アンタはそこの床ね……じゃ、朝になったら起こすのよ…」
明かりを消すと、あっさりと寝息をたて始めた。
リンゴォもそれに倣ってさっさと寝ることにする。
視界には月明かりの差し込む窓。
(オレの墓標に名前は要らぬ。死すならば闘いの荒野で……)
(そう思っていたのだが……)

望みは、叶わなかった。

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