ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔波紋疾走-2

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
監督教官のコルベールはほぼ満足していた。
新2年生のほぼ全員が使い魔の召喚と契約を無事済ませていたからだ。
(なまじ高等な幻獣を召喚されたら契約するだけで一苦労ですからねぇ)
生徒達が自分の力量と特性を見極め、それに見合う使い魔を召喚し、メイジとしての自分自身のあり方を見定める。
これが2年生最初の授業にして伝統の儀式「春の使い魔召喚」の目的だった。
とはいえ、
(まあ、やっぱりというか、予想に反してというか…)
今年度最大の問題児のみ、まだ使い魔との契約を済ませていない、という点だけは不満足だった。
その問題児、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが問題児たる所以は、通常のように
素行不良や成績不振、または対人関係といった人間的な部分には無い。
魔力はあれど術を一切使えないという、メイジとしての存在意義そのものを危うくするほどの欠点を、
彼女が持ち合わせていた事、ただそれだけ。
コルベールの予想通りだったのは、ルイズの召喚魔法が常識外れの結果に終わった事。
コルベールの予想と異なっていたのは、ルイズが一発で使い魔の召喚に成功した事。
そしてコルベールの予想を遥かに超えていたのは、召喚した使い魔が人間だった事。

「ミスタ・コルベール!もう一回だけ召喚させて下さいっ!」
嘆願、と言うよりもわめき散らすルイズを前にして、
(さてどうしたものか)
極力表情を表に出さないように、コルベールは悩む。
召喚した使い魔が気に入らないという理由でのやり直しなぞ、到底認められるものではない。
それは使い魔召喚という儀式とその目的を、ひいてはトリステイン魔法学園の伝統を、乱す事に他ならないからだ。
一方、自分が知る限り、人間を使い魔として召喚、使役したメイジなぞ聞いた試しもない。
コルベールはより無難な回答を出すことに決めた。
「それは駄目だ。召喚に成功したのなら、それが君の使い魔となるべき者なんだ。例えそれが…」
改めてルイズが召喚した人間を観察する。
がっしりとした筋肉質の若い男。立ち上がると身長は2メルテもありそうだ。
どこか気品のある、それでいて垢抜けない仕草は辺境出の貴族のようにも見える。
杖は持っていない。衣装も見慣れぬ物だ。身分を示すような装飾品も見当たらない。
「…平民だったとしても例外ではない。これがこの儀式のルールであり伝統だと説明したはずだがね」
目に見えて落胆するルイズ。他の生徒達は口々にはやし立てる。
「さあ、契約を済ませ、儀式を完遂するんだ、ミス・ヴァリエール」
召喚した平民のもとへ渋々と戻り、その場に座らせてから、杖を振り、口訣を結ぶ。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」
唇を合わせようとルイズが顔を近づけると、平民の男が突然立ち上がる。
「な、何をするだァーッ!ゆるさんッ!」

「ちょっと!じっとしてなさいよ!」
「何てふしだらなんだ君はッ!こんな人目のある所で、見ず知らずの男である僕にッ!」
「あんたは私の使い魔なんだから言うこと聞きなさいよ!」
「僕は紳士だ!愛してもいない女性から誘惑されるなど願い下げだッ!」
「いいから座りなさい!あたしが届かないじゃないの!」
「君の言うことを聞くつもりはないッ!」
まるで会話が噛み合っていない。
(ああ…もうどうしたもんだか)
コルベールは頭を抱える。授業時間はとっくに終わっているのに、これ以上面倒を増やして貰いたくはなかった。

「結構いい男じゃないの、ねぇタバサ?」
赤髪の女生徒キュルケの問いかけに、
「…」
青髪の女生徒タバサは特に答えを返さない。
早々に自分の使い魔と契約を結んだ二人はルイズと使い魔のちぐはぐな口喧嘩の推移を見守っていたが、
「それにしてもいつまでやってんだか」
まるで話が進まないのでいい加減飽きてきた。
「さっさと押し倒してキスしちゃえばいいのにねぇ」
「相手が大きすぎる」
「あなたなら『風の槌』でブッ倒しちゃうんじゃない?」
「手助け禁止」
「あ」
男の眼前で小さな爆発が生じる。
怯んだ男が膝を屈した所でルイズはその頭を両手で掴み寄せ、強引にキス。
「うわお、情熱的ぃ」
にやにやと嫌な笑みを浮かべるキュルケ。

ジョナサンは目の前で拳銃を発射されたような衝撃と爆音にもうろうとしていた。
(な、何を…?)
視覚と聴覚が白く塗り潰された中で、頭を掴まれ、唇に何かが触れる。
「はっ、離すんだッ…」
掴まれた頭をふりほどき、どうにか立ち上がろうともがくが、
「うおおおおおお!」
左手に生じた焼け付くような痛みにうめき声を上げ、またその場に膝まづく。

「終わりました、ミスタ・コルベール」
ルイズは複雑な心境で一礼した。
失敗魔法の爆発で使い魔の平民-ジョナサンに目くらましを浴びせ、その隙に契約を成功させたのは
我ながら胸がスカッとする機転だった。
が、そもそもその魔法が失敗だったこと、そして何よりも自分の使い魔がどこの馬の骨とも知らない平民であることは
はなはだ不服でならなかった。
更に悪いことに、コルベールはジョナサンの左手に刻まれた使い魔のルーンを一目見るなり、
「ふむ…珍しいルーンだな」
とだけ呟き、後はまったく関心を払わなかった。
(せめて魔法の系統ぐらい教えてくれても良かったのに)
「ほら『ゼロ』!早く来ないと次の授業が始まっちまうぜ?」
「頑張って走りなさいな!グラウンドは広くてよ!」
「飛行」の魔法で易々と校舎に戻るコルベールと級友達を苦い思いで見送ってから、その光景にぽかんと口をあけて
見とれているジョナサンに
「ほらっ!あたし達も校舎に戻るわよ!」
と声を掛ける。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー