ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第四章 平穏の終焉

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第四章 平穏の終焉

リゾットとギーシュの決闘から一週間が経った。
狭い学院の中である。何の武器も持たない平民がメイジに勝利した話は
あっという間に広まり、リゾットは一躍有名人になった。
有名になるということは良かれ悪しかれ注目がされるということで、職業柄、
目立たないように生活していたリゾットにとってはあまり有難くないことだった。
とはいえ、人が生きているということは誰かとつながりを持つという事であり、
リゾットもまたその評価に伴い、いくつか新たな人間関係を形成、もしくは既存の人間関係を変化させていた。

まず、ルイズがいる。
基本的には彼はルイズの従者として雇われているので、一番接触する機会が多い。
朝になれば水を汲んできて起こして顔を洗ってやり、着替えを手伝う。昼は部屋の掃除をしてやり、洗濯する。
とにかく手のかかる雇い主である。
だが、ルイズを世話していると、リゾットが十四才の時に死んだ従兄弟の子を思い出す。
彼女もルイズほどではないが、やはり手のかかる子だった。
妹のようだった彼女の世話を焼いていると思えば、ルイズの横暴もそんなに腹は立たなくなっていた。
ルイズもその辺りを感じているのか、「あんた、最近聞き分けいいわね」と機嫌がいい。

仕事の中では、雑用、掃除はともかく、洗濯についてはかなり苦心した。何しろ貴族様の服である。
無駄に高価で痛みやすい生地が多い上、ルイズの趣味なのか、やたらフリルがついていたりする。
これらのせいで洗いにくいことといったらこの上ないのだ。
(これならギーシュとの決闘の方が楽なくらいだ…)
というのがリゾットの正直な感想だった。
事実、当初のリゾットは何枚か衣類を破き、その度に食事を抜かれた。

その苦手な洗濯の方面において、リゾットはずいぶんシエスタに世話になっている。
シエスタはギーシュと決闘した日の夜、一人で逃げたことを侘びに来て以来、何くれとなくリゾットの面倒を見たがる。
朝、夜明け前に起きて淡々とこなす訓練の後に差し入れしてくれたり、洗濯の仕方を懇切丁寧に教えてくれたりするのだ。
最初はそれらを断っていたが、あまりに熱心なので、とうとうリゾットが折れることとなった。
そこまでする理由を尋ねてみたが、「貴方は私に可能性を見せてくれた、憧れなんです!」などと瞳を輝かせて言われた。
リゾットは洞察力に優れ、人の演技や嘘を見抜ける分、底意のない純粋な善意に接すると対処に困る。
これが少しでもリゾットを利用しようという意図が読み取れたら蹴りの一つでもくれて追い払うのだが。

シエスタ以外でも学院勤めの平民にとってリゾットは英雄扱いだった。
何しろ、絶対に勝てないとされている貴族に素手で打ち勝ったのだ。
特に厨房のコック長マルトーは『我らが剣』などとリゾットを呼び、下にもおかない扱いである。
朝の訓練のことをシエスタに聞いたときなどは「達人は努力をひけらかさないものだ」と大層感心していた。
リゾットとしてはどうにもこれらの扱いは居心地が悪い。自分は暗殺者なのだ。
とはいえ、シエスタをはじめとする厨房の人々には、洗濯の仕方の教授や食事を抜かれた時の食事の世話などを受けているため、感謝していた。
もちろんリゾットも世話になりっぱなしではない。皿洗いや薪割りなど、返せることで返す事にしていた。

あとはギーシュがいる。
決闘以来、ギーシュはリゾットに一目置くようになっていた。
ギャング式に言えば、決闘で倒したギーシュは舎弟扱いしてもいいところだが、
そこまでするのも面倒なので、リゾットも普通に付き合っている。
ちなみにあの時に振られた二人との関係はまだまだ修復できそうにないらしい。
それでもまるでめげずに女性に愛想を振り撒く辺り、意外に大物なのかもしれない。

他に特筆すべき人間関係といえば図書室で会う学院の生徒がいた。
なぜ図書室なのか? リゾットはこちらの世界に来たときから会話には不自由していない。
試しにイタリア語からシシリア語や英語に切り替えて喋っても、周囲には違和感なく通じている。
どうやら使い魔としての特性らしく、口語については自動的に翻訳されるらしい。
だが、文字の方はさっぱり読めなかった。文字が読めないということは情報収集量にかなりの差異が出る。
「成功するためには情報が鍵になる」とはベィビィフェイスの子を作る際のメローネの言だが、リゾットもその点には同感だった。
そこでリゾットは情報収集の前段階として、この図書室にハルケギニアの文字の勉強に来ているのである。図書室は平民は立ち入り禁止だったがご主人様たるルイズに頼み込んで、許可を取ってもらった。使い魔と主人は一心同体ということで、何とか許可をもらえたのだ。
図書室で読むのは子供向けの図鑑や絵本で、絵と名称を記した文字と自分の知識をすり合わせて単語の習得をするのである。
載っている絵からこの世界の技術レベルなども測れ、かなり有用な学習だった。
しかし、そもそもリゾットが知らないものが掲載されていることもある。
そういう単語に当たった場合、リゾットは向かいにいる人物に訊く。
「これは?」
向かいの席で本を読んでいた人物はちらりと視線を走らせると答える。

「バジリスク」
二人の間にある交流はただこれだけである。
傍から見ると、最初から挨拶もせず、視線も合わせず、無表情のままの二人がたまに単語の名称について問答をするという、理解に苦しむ光景だろう。

そもそもの始まりはリゾットが初めて図書室で文字を勉強しようと思った時にさかのぼる。
リゾットは本を探そうとして、背表紙にある文字すら読めないという重大な事実に気付いたのだ。
何故かその日に限ってカウンターに司書はいなかったため、誰かいないかと探していると読書スペースで生徒を見つけた。
「すまない。聞きたいことがあるんだが、いいか?」
話しかけてみる。ぱらりとページがめくられた。集中しているのか、まるで無反応である。
「おい…」
試しに肩を叩いてみた。今度はちらりとその手に眼をやった。聞いてはいるようだが、無視しているらしい。
「………仕方ない。ここで…待たせてもらう。聞く気になったら返事をしてくれ」
リゾットは彼女の向かい側に座り、静かに時を過ごすことにした。
偏屈な人間と向き合うのには根気が必要なのは暗殺チームリーダーとして身にしみている。
待つくらいなら自分で片端から探せばいいかもしれないが、図書室の大きさと蔵書量は異常なほどで、
ともすれば迷い込んだら出られない雰囲気を醸し出しているため、リゾットは待つことを選択した。
それに、リゾットにとって、待つのは苦痛ではない。
暗殺という仕事は場合によっては待つことも重要であり、
トイレとベッドしかない狭い部屋で一週間、暗殺のターゲットを待ち続けたこともあるくらいだ。
(待っていれば司書が戻ってくるかもしれないしな…)

そう考えて待つこと約二時間。
気が付くと、向かいの女生徒は今まで読んでいた本は読み終わったらしく、こちらに視線を向けていた。
どうやら用件を聞く気になったらしい。
「初心者の言語学習に役立ちそうな本の場所を知らないか? なるべくイラストがついている奴がいい」
それを聞くと無言で席を立ち、杖と本を持って歩き始める。リゾットも黙ってそれについていった。
ある場所で少女が杖を軽く振ると、本棚から一冊の薄い本が抜き出され、リゾットの手元まで飛んで来た。
「感謝する」
少女はリゾットの言葉に軽く頷くと、席に戻る。リゾットもまた席に戻って本を開いた。児童向け図鑑だった。
知らない単語があり、ダメ元で質問すると、数分くらいして返答が帰ってきた。
それからなんとなく流れで二人の関係が構築されるに至る。
リゾットは向かいに座る蒼髪の女生徒の名前すら知らない。
知っていることといえば本をいつも読んでいる事、自分の身の丈より長い杖を持っていることと、
ルイズと同じクラスにいることと、よく図書室にいることくらいである。
興味がないのもあったが、蒼髪の女生徒はある種のギャングの構成員も持つ、自己に関する質問を拒絶するような雰囲気があるのだ。
大抵、彼らの過去には他人には知られたくない種類の傷がある。
リゾットもそれについては触れない方が良いと分かっているため、素性に関しては詮索しなかった。

さて、そんな平穏な暮らしを送るリゾットは最近、キュルケの使い魔フレイムに監視されていた。
ルイズのお付で出る授業で魔法の応用性とその限界について聴講しているときや、厨房で食事をしているとき、
果ては図書室で勉強しているときなど、やたら視線を感じたため、さりげなく確認してみたところ、このサラマンダーの存在が発覚した。
(監視して…いるのか…?)
対象に気づかれるようではあまり上手な監視とはいえない。
また、監視だとしても、目的が皆目検討付かなかった。危険は感じないので気づかないふりをして放置する。
いや、むしろ危険だろうが危険でなかろうが、そこに関してはどうでもいいのだった。
リゾットは自分の保身に関する思考が弱くなっていることをまだ気づいていない。


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