ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

捜索! 土くれのフーケを追え! その①

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捜索! 土くれのフーケを追え! その①

『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』
それが宝物庫に残されたフーケの犯行声明文である。これにより学院中大騒ぎだ。
学院長室では、オールド・オスマンの前で教師達が責任のなすりつけ合いをしている。
だが責任は全員にあるとオールド・オスマンが納め、ようやくこの場に呼び出された四人の人間に出番が回ってきた。
「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」
「この『二人』です」
コルベールが答える。
その場にいるのはルイズとタバサ。それにキュルケと承太郎だった。
キュルケはタバサが呼ばれた、という事で勝手についてきて、承太郎もまた自分も事件に関わっているからと一応様子を見に来ていたのだった。
しかしどうやら『使い魔』で『平民』の承太郎は、目撃者の人数に入ってないらしい。
「他にもう一人、ギーシュという生徒がおりましたが、
 負傷のため現在病室におりまして、まだ目覚めておりません」
「容態はどうかね?」
「命に別状はありませんし、治癒も完璧です。遅くとも明日までには目覚めるでしょう」
「ほっ、それはよかった。さて……では君達、説明したまえ」
オールド・オスマンが問いかけると、キュルケの視線がルイズに向けられた。
一番最初に現場にいたのはルイズだからである。
ルイズはゴーレムが壁を殴って壊し、その間自分はゴーレムに襲われていた事を説明した。
その間にフーケは破壊の杖を盗み出し、ゴーレムに乗って逃走。
後はタバサが追跡したが、ゴーレムはただの土になって崩れ、フーケの姿は消えていた。
「ふむ……追おうにも、手がかりは無しという訳か。
 時に、ミス・ロングビルの姿が見えんが……いったいどうしたのかのう?」
とそこで狙ったかのようなタイミングで学院長室に入室するミス・ロングビル。
緑の髪をし、大人の雰囲気を持つ美女であった。


「遅れて申し訳ありません。土くれのフーケの調査をしていましたもので」
「仕事が早いの、ミス・ロングビル。で、結果は?」
「はい、フーケの居所が解りました」
周りの教師が素っ頓狂な声を上げて驚く中、オスマンは落ち着いた口調で問う。
「誰に聞いたんじゃね? ミス・ロングビル」
「はい。近在の農民に聞き込んだところ、
 近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの男を見たそうです。
 恐らく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」
ルイズが叫んだ。
「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いあり――」
「待ちなッ。その農民はフーケが男だと……顔や性別が確認できる距離まで近づけたのか?」
承太郎が口を挟むと、教師達の目が「黙れ」と言って睨みつけてきた。
ギランッ、と睨み返す承太郎。険悪な空気が一気に場を覆った。
しかしさすがはオスマン、そんな空気を無視して話を進める。
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩で半日。馬で四時間といったところでしょうか」
「すぐに王宮に報告しましょう!」
コルベールが叫ぶが、オスマンは首を横に振る。
「残念じゃが時間が無い。王宮に知らせとる間に、フーケは逃げてしまうじゃろう。
 そこで、この件は我々魔法学院の者で解決する!」
ミス・ロングビルが微笑んだ。そうこなくては、というように。
だが、見境無しなのか承太郎はミス・ロングビルまで睨みつけていた。
それに気づいたミス・ロングビルは口元を正す。
「では捜索隊を編成する。我と思う者は、杖を掲げよ」
オスマンが言った。誰も杖を掲げなかった。顔を見合わせるだけだった。
「おらんのか? おや? どうした!
 フーケを捕まえて、名を上げようと思う貴族はおらんのか!」
うつむいていたルイズが、オスマンの言葉を聞いて――杖を顔の前に掲げた。
ニヤリッ。承太郎が険悪な空気を消して微笑を浮かべる。

「ミス・ヴァリエール! あなたは生徒ではありませんか! ここは教師に任せて……」
ミセス・シュヴルーズが止めようとしたが、ルイズは牙を剥いて怒鳴り返した。
「誰も掲げてないじゃないですか! 私には、フーケを追う『理由』があるんです!」
真剣な目をしたルイズは凛々しく、美しかった。
そしてルイズの掲げる杖を見て、しぶしぶキュルケも杖を掲げる。
今度はコルベールが驚きの声を上げた。
「ツェルプストー! 君は生徒じゃないか!」
「ふん。ヴァリエールに負けられませんわ」
と、彼女の言葉を聞き終えたタバサが同じように杖を掲げた。
「タバサ。あんたはいいのよ。関係ないんだから」
友を案じてキュルケは声をかけたが、タバサは短く答えた。
「心配」
キュルケは感動した面持ちでタバサを見つめ、
承太郎はキュルケがそんな表情もできる女性なのかと評価を改めた。
「ありがとう……タバサ……」
キュルケとタバサが友情を深め合う中、教師達は猛反対を開始した。
だがオスマンが「では君が行くかね?」と問うと、皆体調不良などを訴えて断る。
オスマンは勇気ある志願者三人を見て微笑んだ。
「彼女達は、敵を見ている。
 その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いているが?」
教師達は驚いたようにタバサを見つめた。
「本当なの? タバサ」
キュルケも驚いた。
「シュヴァリエってのは何だ?」
承太郎が問うと、教師達は「口を開くな」とばかりに睨みつけてきた。
が、キュルケがすぐに答えて睨み合いが起こるのを妨害する。


「シュヴァリエは王室から与えられる爵位よ。
 最下級のものだけど、私達のような年齢で与えられるなんて驚きよ。
 しかもシュヴァリエは他の爵位と違って、純粋な業績に対して与えられる爵位。
 実力の称号よ。タバサ、あんたったら、何で今まで黙ってたのよ」
「騒がしくなるから」
タバサはまたしても短く答える。
すると、キュルケは納得とばかりに微笑んだ。
オスマンが話を続ける。
「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いているが?」
キュルケは得意げに髪をかき上げた。
さて次はルイズの番と、オスマンは視線を向けて、褒める場所を探した。
こほん、と咳払い。
「その……ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出した、
 ヴァリエール公爵家の息女で、うむ、その、なんだ、将来有望なメイジと聞いておる。
 しかもその使い魔は、平民でありながらあのグラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンと決闘して勝ったという噂だが」
明らかにルイズより承太郎を褒めている発現に、ルイズはちょっとムッときた。
だが事実だから仕方ない。
だから当然というか教師達の表情は、ルイズのところで険しくなった。
コルベールを除いて。彼は意気揚々と喋る。
「そうですぞ! なにせ、彼はガンダー……」
「ミスタ・コルベール!」
オスマンが怒鳴って黙らせ、コルベールは慌てて口に手を当てる。
次の瞬間オスマンとコルベールは射抜くような強烈な視線を感じた。
承太郎である。
やばい、どうしよう。何て言おうとしたか質問されたらまずい。
でもまあ平民って事になってるし無視すればいいかな。などと考える。

とりあえずとっとと話を終わらせようと、オスマンは高らかに言う。
「魔法学院は、諸君等の努力と貴族の義務に期待する。
 では馬車を用意しよう。魔法は目的地に着くまで温存したまえ。
 それからミス・ロングビル、彼女達を手伝ってくれ」
「はい。オールド・オスマン。元よりそのつもりですわ」

こうして四人はミス・ロングビルの用意した馬車に乗り情報の場所へ向かった。
馬車といっても屋根無しの荷車のような馬車だ。
襲われた時に逃げやすいように、という理由があるが。
御者はミス・ロングビルが買って出たが、手綱を握る彼女にキュルケが話しかける。
「ミス・ロングビル・手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」
「いいのです。わたくしは、貴族の名を無くした者ですから」
「え? だって、あなたはオールド・オスマンの秘書なのでしょ?」
「ええ、でも、オスマン氏は貴族や平民だという事にあまりこだわらないお方です」
「差しつかえなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」
キュルケがそう言うと、ルイズが噛みついてきた。
「よしなさいよ、昔の事を根掘り葉掘り訊くなんて」
「暇だからお喋りしようと思っただけじゃないの」
「聞かれたくない事を無理やり聞き出そうとするのは、トリステインじゃ恥ずべき事よ」
「ったく……あんたがカッコつけたおかげで、とばっちりよ。
 何が悲しくて泥棒退治なんか……」
「とばっちり? あんたが自分で志願したんじゃないの」
「あんた一人じゃ、ジョータローが危険じゃないの。ねえ、ゼロのルイズ」
「どうしてよ?」
「いざ、あの大きなゴーレムが現れたら、あんたはどうせ逃げ出して後ろから見てるだけ。
 ジョータローを戦わせて高みの見物。そうでしょう?」
「誰が逃げるもんですか。私の魔法で何とかしてみせるわ」
「魔法? 誰が? 笑わせないで!」


喧嘩を始めた二人を無視してタバサは相変わらず本を読んでいる。
一方承太郎はというと、そろそろイライラが限界だった。
「ギャアギャア騒ぐんなら他所でやれ! うっとおしいぞ!」
「はーい、ごめんなさいジョータロー」
あっさり引き下がると同時に、承太郎の腕に絡みつくキュルケ。
それを見てルイズが「私の使い魔に何してんのよ!」と怒鳴る。
それを聞いて承太郎が「誰がてめーの使い魔だって?」と睨む。
そんな感じで数時間、馬車は深い森に入っていった。
昼間だというのに薄暗く気味が悪い。
ここから先は徒歩で行こうとミス・ロングビルが提案し、皆特に異論はないので素直に従い森を進み、開けた場所に出る。
森の中の空き地とでもいうような場所に、元は木こり小屋らしき廃屋があった。
五人は小屋の中から見えないよう、森の茂みに身を隠したまま廃屋を観察する。
「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」
ミス・ロングビルが言うが、人が住んでいる気配はまったく無い。
果たしてどう行動すべきか、ルイズ達は相談を開始した。
そんな中、承太郎がミス・ロングビルに問いかける。
「すまねえが、ちょいと訊きたい事がある。
 あんたにフーケの情報を教えた農民についてだ。
 そいつはなぜ……こんな廃屋のある場所まで来たんだ?」
「さ、さあ……存じません。何か仕事でここまで来たのでしょう」
「果たして……そんな場所をフーケがアジトにすると思うか?」
「……いえ……。ですが一時しのぎの隠れ家程度になら、とは思います」
「それにしてもマヌケな盗賊だな。平民の農民に姿を見られて気づかないとは」
「め、メイジといえど後ろに目がついている訳ではありませんから……」
ミス・ロングビルがしどろもどろになって答える。
その様子を、承太郎は感情を読ませない目でじっと見ていた。
そしてミス・ロングビルが気がついてみれば、いつしかルイズ達は相談をやめ、
二人の会話に耳を傾けていた。不信感を持った目で。

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