ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ACTの使い魔-4

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匿名ユーザー

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康一達がマリコルヌに地獄を見せていた同時刻、
本塔の最上階にある学院長室で、ちょっとした騒ぎが起ころうとしていた。
トリステイン魔法学院の学院長を務めるオスマン氏が、白いひげと髪を揺らして、退屈そうにしていた。

「暇じゃのう……」

オスマンは、机に手をつきながら立ち上がり、理知的な顔立ちが凛々しい、ミス・ロングビルに近づいた。
椅子に座ったロングビルの後ろに立つと、重々しく目をつむった。

「こう平和な日々が続くとな、時間の過ごし方というものが……」
「オールド・オスマン」

オスマンが、年季の入ったしわをよせながら重々しく語ろうとするが、ロングビルによって遮られる。

「なんじゃ?」
「暇だからといって、わたくしのお尻を撫でるのはやめてください」

オスマンは口を半開きにして、耳をロングビルに向けながら聞く。

「え? ポッポ ポッポ ハト ポッポ?」
「都合が悪くなると、ボケた振りをするのもやめてください」

どこまでも冷静な声でロングビルが言った。
オスマンは深くため息をついた。そして真剣な顔をしながら語る。

「そういえば、昨日召喚されたという平民の少年はどうしてるんじゃろうな? 後で様子でも……」
「少なくとも、私のスカートの中にはいませんので、机の下にネズミを忍ばせるのはやめてください」

ロングビルの机の下から、小さなハツカネズミが現れた。
オスマンの足を上り、肩にちょこんと乗っかって、首をかしげる。

「気を許せる友達はお前だけじゃ。モートソグニル」

そう言って、ネズミの前にナッツを振る。

「ほしいか? カリカリの欲しいじゃろう? なら報告をするんじゃ」

ネズミは、ちゅうちゅうと鳴きながら、オスマンに耳打ちした。

「そうかそうか、白か。純白か。よーし、よしよしよしよしよしよしよしよしよしよし!
 よく観察してきたのう、モートソグニル! 褒美をやろう。いくつ欲しいんじゃ? 二個か?」

ネズミは、顔を横に振って、ちゅーうちゅうちゅうちゅう! と鳴いた。

「三個欲しいのか? カリカリのを三個……。いやしんぼじゃのう! よし、三個くれてやろう!」

ロングビルが眉をぴくぴくとさせながら、その光景を見ていた。

「オールド・オスマン」

オスマンは、ネズミに向かってナッツを放り投げながら聞く。

「なんじゃね?」
「今度やったら、王室に報告します」

その言葉を無視するかのように、オスマンはネズミと戯れていた。
ネズミが手を使わずに、全てのナッツを口でキャッチして、カリコリさせながらナッツを食べている。

「よォ~しよしよしよしよしよしよしよしよしよし! とってもいい子じゃぞ、モートソグニル!」

うれしそうにネズミを撫で回すオスマン。
その光景を見ていたロングビルは、オスマンの背後に無言の圧力をかける。

「下着を覗かれたぐらいでカッカしなさんな! そんな風に怒ると、余計にしわが増えるぞ。
 これ以上、婚期は逃したくないじゃろう。 ぁ~~~~、若返るのう~~~、何というスベスベの……」

オスマンが、ロングビルのお尻を堂々と撫で回し始めた。
ロングビルは立ち上がり、無言で上司の顔面を手の甲の部分で引っぱたいた。
バギィッ! 小気味良い音を立て、オスマンは地面に倒れる。
追撃といわんばかりに、ドガドガドガと、オスマンの体中に何度も蹴りを入れ続ける。

「ごめん。やめて。痛い。もうしない。ほんとに。許して!」
「このッ! このッ! このエロじじぃがッ! 思い知れッ!!」

普段の冷静なロングビルとは思えない台詞を言い放ちながら、尚もオスマンに蹴りを入れる。

「あだッ! うげッ! ごげッ! と、年寄りを、きみ。ちょま、まって。折れちゃう! はぐッ!」
「私の清らかな部分を! よくも汚れた指先で! いやらしく撫で回してくれたわねッ!」

ロングビルは完全にプッツンしているようで、目を尋常じゃないほど見開いている。
迂闊なことをしたと後悔しながら、意識が遠くへいきそうになるオスマン。
オスマンが失禁寸前になっていたその時、
ドアがガタン! 勢いよくあけられ、中堅教師のミスタ・コルベールが飛び込んできた。

「オールド・オスマン!!」
「……」

返事がない。
ロングビルは何事も無かったように机に座っているが、オスマンはピクピクと体を痙攣させていた。
いつものことなので、特に気にも留めずにコルベールは話を進める。

「たた、大変です! ここ、これを見てください!」

『炎蛇のコルベール』の二つ名を持つコルベールは、
白目をむいて気絶しているオスマンを燃やして、強制的に意識を覚醒させる。
そして、図書館にあった書物をオスマンに手渡した。

「これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか」

オスマンは何事も無かったかのように、書物をマジマジと見つめている。

「これが一体どうしたと言うんじゃ。
 こんな古臭い文献など漁ってる暇があったら、貴族から学費を徴収するうまい手を考えるんじゃよ。ミスタ……、なんだっけ?」

オスマンは首を傾げた。

「コルベールです! お忘れですか!」
「そうそう。そんな名前だったな。それで、この書物がどうかしたのかね? コルベット君」
「コル 『ベール』ですッ! わざとらしく間違えないで下さい!!」

だめだコイツ……、と思いながら頭を抱えるコルベール。

「とにかく、これを見て下さい!」

コルベールは、康一の手に現れたルーンのスケッチを手渡した。
それを見た瞬間、オスマンの表情が変わった。目が光って、厳しい色になった。

「ミス・ロングビル。席を外しなさい」

ミス・ロングビルは立ち上がり、部屋を出て行った。
彼女の退室を見届け、オスマンは口を開いた。

「詳しく説明するんじゃ、ミスタ・コルベール」

ルイズがめちゃくちゃにした教室の片付けが終わったは、昼休みの前だった。
罰として、魔法を使って修理することが禁じられたため、時間が掛かったのである。
といっても、片づけをしたのは殆ど康一で、ルイズは面倒くさそうな顔で机の煤を拭いただけだった。
新しい窓ガラスや重い机を運ばされた康一はくたくたになりながら、食堂へ向かうルイズの後ろを歩いてる。

「……」
「……」

二人とも無言であった。
ルイズは不機嫌そうにしており、康一は話す気力もないと言った感じで肩を落としてる。
だらだらと歩く康一に我慢できなくなったルイズが、康一に向かって怒鳴りつける。

「ちょっと! 私の使い魔らしく、もっとシャキっとなさい、シャキっと!」

康一は、何も答えずにノロノロと歩いている。

「人の話を聞いてんの? この犬!」

犬と言われた康一は、ムッとしながらも何とか堪え、ルイズの所までスタスタと歩いた。
ルイズの肩に手をポンと置き、散々コキ使われた恨みを籠めながら笑顔で返事をする。

「僕もシャキっとしたいんだけど、何せもう体力が 『ゼロ』 だからなぁ~」

康一は、『ゼロ』の部分だけ声を張った。
ルイズの眉毛がぴくぴくと動き、歯はギリギリと不協和音を奏でていた。

「いや、本当は僕も急ぎたいけど、体力が『ゼロ』だし、気力も『ゼロ』だからさぁ~!」
「ふーん、へぇ~、そーなの。 体力が無いなら仕方ないわね~」

ルイズは笑顔で、しかし、万力の力を込めるように、拳を握った。
それを見た康一は、ヤバイと思って、後ずさりしながら離れる。

「さ、さあ~てッ! 早いとこ食堂に行こ……」

ルイズの右ストレートが、康一の左頬にクリーンヒットする。
バギィッ! という音が、食堂へと続く廊下に響いた。
康一は、明日の食事も全て抜きとされてしまった。


殴られた左頬を押さえながら、康一はシエスタに案内された厨房へ向かっていた。
口の中は鉄の味で充満しており、虫歯になった時のように、ジンジンと痛みが走っている。

「あら、コーイチさん」

厨房の前に到着すると、シエスタが大きな銀のトレイで、何枚もの皿を運んでいる最中だった。
康一は、シエスタのところまで駆け寄り、一礼をした。

「どうも、シエスタさん。朝はお世話になりました。運ぶの手伝いますよ」

そう言って、シエスタの持っていたトレイを持ち上げる。
しかし、片づけで大幅に体力を失っていたこともあり、持ち上げた体勢のままプルプルと震えて動けなくなる。

「あ、あの……無理はなさらないほうが……」

シエスタが康一を心配そうに見つめる。

「だ、だ、だ、大丈夫……です。あ、いや……。やっぱまずいかも……」

シエスタは、康一の両手に重なるように手を置き、トレイを持ち上げるのを手伝う。

「す、すいません……」

シエスタの手に触れていることも相まって、康一は顔を真っ赤にして俯いた。

「一緒に運びましょう。二人で運べば、お互い楽に運べますから」

そう言って、可愛らしい笑顔でニコリと微笑むシエスタ。
康一は十分の一でもいいから、シエスタの優しさをルイズに分けてほしいと思った。


皿が乗っているトレイを、厨房のテーブルに乗せる。
トレイから皿を下ろしていると、料理を作っていたコックが皿を何枚か要求した。
康一が皿を持っていき、コックが料理を盛って、再び康一に手渡す。
シエスタが康一から料理を受け取り、何枚か大きな銀のトレイに乗せて食堂へと持っていった。
数分後、メイン料理の全てを運び終えたメイドたちは、デザートの時間になるまで昼食を取っていた。

「うーん、やっぱおいしいッ!」

康一も、シエスタを含むメイドたちと賄い料理を食べていた。
今日の賄いはシチューらしく、康一の腹を満たすには充分すぎる程の量が入っている。
シエスタは、その様子をクスクスと笑いながら見ている。

「……? どうしたの?」
「コーイチさんって、本当においしそうに食べてくれますね」
「そりゃあ、本当においしいんですから、自然とそうなりますよぉ~!」

そう言って、満面の笑みでシチューを頬張る康一。
ルイズに殴られた傷なんて、気にならないくらいであった。

「この後、デザートを運ぶんですよね? 僕も手伝いますよ」
「そんな、そこまでしてもらうわけには……」

既に厨房の仕事を手伝って貰っており、これ以上手伝ってもらっては申し訳ない、とシエスタは思った。

「いえ、朝もご馳走になりましたから、是非やらせて下さい!」
「……わかりました。なら、手伝って下さいな」

康一の素直な瞳を見て、断っては逆に失礼だと思ったシエスタは、デザート運びを手伝ってもらうことにした。
大きく頷き、康一は再びシチューを食べ始めた。


大きな銀のトレイに、デザートのケーキが並んでいる。
康一がトレイを持ち、シエスタがはさみでケーキをつまみ、一つずつ貴族たちに配っていく。

「なあ、ギーシュ! お前、今は誰と付き合ってるんだよ!」

声のした方を見ると、金色の巻き髪にフリルのついたシャツを着た、キザなメイジがいた。
薔薇をシャツのポケットに挿している。どうやら友人らしき人物と話をしているようだった。

「誰が恋人なんだ? ギーシュ!」
「つきあう? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」

あの人、自分を薔薇に例えるなんて、よっぽど自分の容姿に自信があるんだなぁ~。
などと思いながら次の席までトレイを運ぶ。
特に興味もなかった康一は、すぐに視線を元に戻した。
次の席にケーキを配ろうと康一が移動した時、シエスタが何かに気づき、はさみをトレイに置いた。

「すみません、ちょっと待ってていただけますか?」
「あ、はい」

そう言って、シエスタはさっきのキザな男の元に駆け寄った。
知り合いかな、と思いながら康一が見ていると、何やら少しモメているようだった。
シエスタは困った顔をして、オロオロとしていた。
何かあったのかと思い、トレイをテーブルに乗せて康一がシエスタに声をかける。

「どうしたんですか?」
「あ、それが……」

その時、一人の女性がキザ男に向かってコツコツと歩いてきた。

「ギーシュさま……。 やはりミス・モンモランシーと……」
「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは……」

ギーシュと呼ばれた男がそう言いかけた時、パァンッ! という音が、食堂に響いた。
ケティと呼ばれた女性が、ギーシュの頬を思いっきり引っ叩いていた。

「その香水が貴方のポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」

ギーシュは頬をさすった。
康一が何事かと思っていると、康一を押しのけて、また一人の女がギーシュの前に現われた。

「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ……」
「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね?」

モンモランシーは、テーブルに置かれたワインのビンを掴むと、中身をどぼどぼとギーシュの頭の上からかけ、

「うそつき!」

と怒鳴って去っていった。
しばし、なんともいえない沈黙が流れた。
ギーシュはハンカチを取り出すと、ゆっくりと顔を拭いた。
そして、首を振りながら芝居がかった仕草で言った。

「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」

康一は、この人二股かけてたのか、まあ自業自得かな。などと思っていた。
あんまり惨めな姿を見ていると可哀想だったので、康一はすぐにその場を去ろうとする。

「……メイド風情がやってくれたね。君が軽率に、香水のビンなんかを拾い上げたおかげで、
 二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだい?」

シエスタは、体を震わせながら、半泣きで土下座をする。
その光景を見た康一は、ピタリと足を止め、ギーシュの元へと引き返した。

「も、申し訳ございません!」
「謝って済む問題じゃない。キミには責任を取ってもらうとしよう。
 ここのメイドをやめて、今すぐトリステインから出て行ってくれたまえ」

そう言って、ギーシュはシエスタの元から去ろうとする。
それを聞いていた康一が怒りをあらわにしながら言った。

「ちょっと! 何もそこまでする必要はないじゃないですか!」
「ん? 君は確か……ゼロのルイズの使い魔だったか。 使い魔如きが、軽々しく僕に話しかけないでくれたまえ」

使い魔如きと言われカチンとするが、
それよりも頭に来たのは、ギーシュが自分の責任をシエスタに押し付けてることだった。

「話を聞いていると、悪いのは明らかにキミの方だ! 大体、二股をかけてるのが悪いんじゃあないか。自業自得だよ!」

ギーシュの友人たちが、どっと笑った。

「確かにその通りだ! ギーシュ、お前が悪い!」
「そうだ、お前が悪い!」

それを聞いていた、周りのギャラリーたちも、一斉にギーシュを攻め立てた。

「責任転嫁するなんて、かっこ悪いぞ!」
「この極悪人め!」
「キミが真の邪悪だ」

周りから好き放題言われるギーシュ。
プルプルと振るえ、顔を怒りの形相へと変えた。

「よくも……僕にこんな恥をかかせてくれたな……」

歯をギリギリとならし、康一をキッと睨みつけている。
康一も負けじと、ギーシュを真っ直ぐ見る。

「そうやって、なんでもかんでも人のせいにするのは止めた方がいいよ。
 全てキミが悪いじゃあないか。周りの皆だって、そう言ってるよ」

うんうん、と頷くギーシュの友人とギャラリー達。

「……どうやらキミは貴族に対する礼を知らないようだな。
 よかろう、ヴェストリの広場で待っている。ケーキを配り終えたら来たまえ」

くるりと体を翻し、ギーシュと、その友人たちが去って行った。

「コ、コーイチさん! 逃げて下さい! 殺されちゃいます!」
「シエスタさん」
「悪いのは私なんです! だから、行くのは絶対にやめて下さい!」
「シエスタさん、聞いて下さい」

康一は地面に座り込んでいたシエスタの手を取って、立たせた。
その姿は、体の小さな康一とは思えないほど、凛々しかった。
ドキリと胸をならし、シエスタは思わず視線をそらす。

「僕が逃げるってことはつまり、シエスタさんの名誉を汚すことになります。
 シエスタさんは何も悪くないんです。だから、自分が悪いなんて言うのはやめて下さい」

康一は、真っ直ぐにシエスタを見ながら言葉を続ける。

「それに、僕は彼に解らせてあげなければならないんだ。『お前が悪いんだ』ってね。
 大丈夫。僕は一度殺されそうになったことがあるからね。あんな奴、ちっとも怖くなんかないよ」

そう言って、康一はテーブルに置いたトレイを持った。

「さ、それより、早くケーキを配りましょう。皆さん、お待たせしてすみません」

康一達は、残りのケーキを貴族達に配っていった。


To Be Continued →

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